无名
无名

「…うわ…、最っ…悪…っ!」


朝起きると、下半身と布団がぐっしょり濡れていた。

ここ2週間は失敗することも無かったのに…、完全に治ったと思っていたのは、どうやらぬか喜びだったらしい。


「あら、またやったの?」

「…あっ、お母さん…。」

「そのままだと風邪引いちゃうから、濡れたの脱いでシャワー浴びてらっしゃい。…後はお母さんがやっておくから…。」

「…はぁい…。」


母親は私のおねしょにはもうすっかり慣れていて、怒るどころか眉ひとつさえ動かさない。

小学2年生くらいまでは毎回叱られていたが…、高学年になって再発した私のおねしょは、どちらかと言うと"心配ごと"らしい。

私を不安にさせないために、「気にしなくていいわよ」と毎回のように言ってくれる…。


(…はぁぁ…、すっごいヤだなぁ…、こんな気の遣われ方…。)


私はシャワーを浴びながら、おねしょが再発した原因について考えてみる。

…しかし、子供の私には確かなことは何もわからなかった。

…ただ、2週間失敗が無かったということは…、やはり"アレ"は効いているに違いない…。


「…えっ?今日もまたやるの?」

「…う、うん…。…だってほら、2週間は効果があったわけだし…。」

「…あなたが良いなら、お母さんは協力するけど…、う〜ん…。」


…そんなに気にしなくてもいいのよ?

母親はそう言いながら、床に正座し、両腕を大きく広げて私を呼んだ。


「…ん?どうしたの?」

「…あぁ、いや…。」

「…ああ。お風呂上がりだから、まだ身体が濡れてるって?…大丈夫よぉ。お母さん、そんなの気にしないから…。」


…そういうことじゃ、無いんだよなぁ…。

やや考えがズレている母親に、私が一体何を"お願い"したのかと言えば…。


「…お母さんは、もうおしりペンペンなんてしなくても、いつかは治ると思うんだけどね…。」


"いつか"じゃ駄目なんだよぉ…。

私は母親の膝の上へ腹這いに寝転びながら、下に穿いているものを全て脱ぐ。

…おしりペンペンの刑。

小学2年生までは、おねしょをするたびに、こうして母親の膝の上へ無理やりに寝かされ、何度も何度もおしりをぶたれた。

その頃の母親は、今とは違い…、とても厳しくて、おしりが真っ赤っ赤になるまで決して許してくれなかった。

…ところが今は、こうして私の方から叩いてくれとお願いしている。




「…ねぇ、本当にやっていいの?」

「…ちょっと前まで、おしり叩かないで〜、って言っても全然聞いてくれなかったくせに…。」

「…だって、高学年の子におしりペンペンするなんて…。」

「…それでおねしょが無くなるなら全然いいんだってば。もういいから、早く叩いてよ…。」

「…わかったわよ…。」


母親はハァ…と溜め息をつくと、膝へ寝かせた私に"おしりペンペンの刑"を執行する。


…ピッシャァァァンッ!!


「…ひぐっ!?」

「…あ、ごめん…、少し強かった?」

「…そ、そういうのも、いらないから…、気にせず続けて…。」

「…はいはい。」


…バチィィィンッ!!…パァァァンッ!!…バチィィィッ!!


くぅぅ〜っ、効っくぅ〜っ…!?

おしりが灼けてしまいそうなほど、猛烈に痛い…。

母親は何だかんだ文句を言いながらも、"おしりペンペン"自体は手加減の欠片さえ感じられない、容赦ないお仕置きなのだった。


(…こ、こんなの喰らったら…、そりゃおねしょも無くなるよね…!?)


実際、この"おしりペンペンの刑"を受けると、私はしばらくの間おねしょをしなくなる。

昔から効果があったからこそ続けられてきたのだが…、まさか高学年にもなって、私の方からお願いするハメになるとは夢にも思っていなかった。


…バチィィィッ!!…パァァァンッ!!…パァァァンッ!!


「…ひぅっ!?…あっ!?…あぁっ…!?」


…しかし、本当の本当に痛すぎる…。

そうでなければ、効果が出ないとわかってはいるが…、痛みのあまりつい身をよじってしまう。


「こらっ、動かないの。」

「…だ、だってぇ…。」

「…あなたがおしりペンペンして欲しいって言ったんでしょ?…最後までちゃんとしなさい。危ないでしょう、他のとこ当たったらどうするの。」

「…っ。」


…"して欲しい"、ワケじゃ無いんだけどなぁ…。

母親の言葉が少し引っ掛かるが、ここで反論したところで、私の方から頼んだという事実は揺るがない。


「…ごっ、ごめんなさい…。」

「…はい。それじゃあ良い子でおしりペンペン受けるのよ?」


…バッチィィィィ〜ンッ!!


「…あ痛たぁっ!?」

「…こらっ!またぁ〜、言ってるそばから〜。」

「…だ、だってぇ〜…。さっきより、強くない…?」

「…もう高学年で、こんなおっきなおしりしてるんだから、我慢なさいっ!上級生のお姉ちゃんでしょうっ!?」


…年頃の娘に、おしりが大きいとか言わないでよ…。

しかしそれを言葉にするのも恥ずかしい私は、素直に「ごめんなさい」と謝るしかないのだった。


「…はぁ…。それじゃ、ほんの少しだけ弱めてあげるから…、動かないでよ?おしりペンペンで怪我なんてされたら、本末転倒なんだから…。」

「…わ、わかった…。」


そう言うと母親は、また手のひらを振りあげる。


…ピッシャァァァ〜ンッ!!


(…こっ…、これ…、本当に弱くしてるの〜っ!!?)


「…今度動いたら、ガッチリ動けないように押さえつけて、"真剣"にやるからね?」

「…ヒィッ!?…そっ、それだけは勘弁〜っ!!」

「…じゃあ、良い子で我慢出来る?」

「…はい…。」


母親が口にした"真剣に叩く"という言葉を、過去に数回だけ経験させられたことがある。

…言葉の通り、その腕でガッシリと抱え込まれて…、完全に身動きが取れない状態にされた後、これでもかというほどおしりを滅多打ちにされたのだ。

…あれはまさに…、この世の地獄だ。


「あなたが言いだしたことなんだから、ちゃんと自分の言葉に責任を持ちなさい。…わかった?」

「…はぁい…。」

「…じゃあ、本当に痛くて我慢出来なくなったら言ってね?それまでは加減して叩いてあげるから…。」


…バチィィィンッ!!


(…ひぅっ!?)


…パァァンッ!!…パァァァンッ!!…ピシャァァァンッ!!


(…か、加減して、これ…?…家のお母さん、本当に鬼みたいだよぉ…。)


今までの経験からして、母親の言葉に嘘はない。

これでも一応…、手心を加えているつもりなのだろう。

母親は高学年の私におしりペンペンすることに気乗りはしていないものの…、一度やるとなったら、最後まで徹底的にやる人だった。


…ピシャァァンッ!!…パァァン!!…バチィィッ!!


(…ひぃっ!?…痛いっ!!…痛すぎるよぉぉ〜っ!?)


私は声を出さず、必死に我慢しているが…、何発かに1回は、絶対に声が漏れてしまう。


…ピッシャァァァ〜ン!!!


「…あぁっ!?」

「…今の、危なかったわよ?それほど動いていないから、ギリギリセーフにしといてあげるけど…。」

「…だ、だってぇ…、今の、強すぎ…!?」

「…当たりどころによっては、そりゃあ痛いわよ。…でも、それも全部わかってて、おしりペンペンしてって言ったんでしょう?」

「…そ、そうだけど…。」




お仕置きしてって一度言ったからには、そんなことを言う権利はありませんよ。

そう言って母親は、落ちかけた私の下半身を強引に膝の上へ引き戻す。


「…次は、無いからね?」

「…はい…。」

「…だいぶ腫れてきてるし、痛いのもわかるけど…、おねしょを治したい、っていうあなたの気持ちを、お母さんは尊重します。」

「……。」


…私だって、本当はわかっている。

…子供を叩きたい母親なんていない。

小学2年生までだって、私のおしりを叩くお母さんは鬼のような顔をしていたけれど…、それが嘘の仮面であることくらい、娘の私にもちゃんとわかっていた。

おしりが真っ赤っ赤になるまでお仕置きする…というのも、私のために絶対にそうすると、予め心に決めていたのだろう。

口では厳しいことを言いながらも、時折見せる表情は本当に辛そうだった。


…バッチィィィ〜ンッ!!


「…っ!!……お母さん、ごめん…。」

「…何が?」

「…こんなこと、させて…。」


…ピッシャァァァ〜ンッ!!!


「…ひぃっ!!?」

「…そう思うなら、1日でも早くおねしょを卒業してね?」

「…うぅ…、わ、わかってるよぉ…。」


…パシィィィッ!!!


「…ひぃぃっ!!?」

「何が"わかってる"ですか。お母さんにこんなこと頼んでおいて…。」

「…だ…、だから謝ってるじゃん…。」


…バチィィィィンッ!!!


「…ううぅ〜っ!!?」

「…まぁ…、好きで失敗してるんじゃないっていうのは、お母さんもわかってるつもりよ?」

「…あ、当たり前じゃん…。」

「…でも、あなたの場合…、前科があるでしょ?」

「…ぜ、前科…?」

「…ほら、幼稚園の時の。」

「…あ…っ。」


それは私にとって、消し去りたいレベルの黒歴史。

夜、1人でトイレに起きるのがものすごく怖かった私は…、起きるのと、おしりペンペンを天秤にかけて…後者を選んだ。

どうせおしりペンペンされるならと、朝…、母親に自分でそのことを告白した私は、生まれて初めて"地獄"を見せられたのだった。


「…あ、あれはやりすぎだったよ…!?」

「…どっちがですか。お布団の中でわざとおしっこをする娘なんて、聞いたことがありませんよ。」

「…だって、ほんとに怖かったんだもん…。」

「…今だから言うけどね。あの時はお母さん…、1週間は続けてお仕置きをするつもりだったのよ?」


お父さんに止められたから、1日目で許してあげたけど。

恐ろしいことをさらりと言う母親に、私は心の底から恐怖した。

…いや、そんなことよりも…。


「…え…、お父さん…、知ってるの?…私のおねしょ…。」

「…言ってはないけど、あれだけしょっちゅう家でパンパンやってたらそりゃあ気付くでしょうよ。」

「…い、言い方っ!…まぁ、そうだろうけど…。」

「昔はあなた、すぐ泣いてたしねぇ?軽〜くやっただけでも…。」

「…軽い時なんて、あった…?」


…ピッシャァァァ〜ン!!!


「…はぅっ!!?」

「…それが、こ〜んなにおっきなおしりになるんだから…、子供の成長って早いわねぇ〜…。」

「…ま…、またおっきなおしりって言ったぁ〜…。」


今度は私も声に出して抗議するが…。


「…だって、大きいじゃないの。…少なくとも、おしりペンペンされるような子の大きさではないわよ?」

「…うぅ〜…っ。」


それを言われると、もう反論出来ない。

おねしょを治したい、という意図があってのお願いとはいえ…、そもそもおねしょをしているのが同年代では自分くらいなのだ。


「…まぁ、お母さんの大事な娘だものね。見捨てたりはしないから安心して?」

「…お、お母さん…。」

「一生おねしょが治らなかったら、一生お尻ペンペンしてあげるから。」

「…そ、それは嫌かも…。」

「…あら、寂しい…。」


…パァァァァァンッ!!!


「…痛ったぁっ!!?」

「…ふふっ、お母さんを悲しい気持ちにさせた罰よ?」


…バチィィィィィッ!!!…ピシャァァァァッ!!!…パシィィィィィッ…!!!


「…ちょっ!?…おねしょの時より強…っ、ああぁ〜っ!!?」


…家の母親はこんな風に…、私のおねしょを"深刻な悩み"にしないよう、いつも気を遣ってくれているのだ。

……って事でいいんだよね?お母さん…。