ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「──というわけね」
「どういうわけなの……!?」
「ま、クランベリグループってのは元々モヤシ共の集まりよ。真っ向からポケモンバトルが強いのは、トップに立つ御曹司って決まってるの。強い者が弱い下々の者を守るって価値観ね」
「はぁ……」
「ところが、ラズの先代はバトルの才能がさっぱり無かったみたいで……アマツツバサを持たされなかったほどみたいね。
「じゃあ、アカデミアには入らなかったんですか?」
「そのままプログラマーとしての腕を極める為に海外に留学したらしいわ。一度会った事があるけど……まー……何でアレからラズが生まれたのかってくらい、謙虚で控えめな人だったわね」
幼い頃から一族の恥みたいに扱われたらああもなるだろうけど、とレモンは続けた。
グループのトップに立つ者も、大変なんだなあ、とイクサはしみじみ考える。
故に──久々にバトルに対して恐ろしい才能を持つラズは小さい頃から甘やかされて育ったらしい。
「だから、今のクランベリグループには……ラズを連れ戻せるヤツが居ないのよ。そもそもアイツ自体が相当強いのよ? 特記戦力……つまりはバジルやゼラと同格の奴等10人で囲んで殴らなきゃ落とせなかったの」
「ッ……」
(どれだけ硬いんだよ、アマツツバサ……そして、それを1人で落としたイデア博士は一体……!?)
これについては、単にアマツツバサが堅牢なだけではない。ラズの戦術と完璧に噛み合うからこそ、不沈の飛行船が完成するらしい。
少なくとも、安全圏から専用技”マグマシンガン”を連射するような運用ではスペックを最大に引き出せているとは言えない。
最大の強みは、墜落にすら耐えうる耐久性。低空から”マグマシンガン”を掃射し、相手の攻撃を悠然と耐え、怯んだ相手に自らの身体全部で突っ込んでトドメを刺すのが鉄板戦術なのである。
つまるところ、ツクバネはこのオーデータポケモンの運用法を根本から間違っていたと言わざるを得ないのである。
「とはいえ、クランベリグループのIT技術は敵の攻略に必須。ラズが戻らないと言ってるなら腕づくで戻すしかない。でも、腕づくで勝てる奴は早々居ない」
「そこで僕達、というわけですか……」
「心配しないの。アマツツバサが此方の手にある以上は大分マシになっているもの」
仮にも寮長相手ということを忘れなければ今の貴方でも戦えるわ、とレモンは告げる。
「尤も、彼の意思を無視して無理矢理連れ戻すのは聊か気が進まないわ。でも、こっちもクランベリに貸しを作りたいし──」
「──僕は、そう思わないですけど……」
「あら、珍しいわね?」
「……あの人、今まで散々好き勝手にしてきたんですよ? 傍から見れば明らかに様子が変わったレモンさんにバトルを何度も挑んで……」
「ッ……」
珍しくイクサの怒気が籠った言葉に、レモンはたじろぐ。
「そのくせ、問題が起こったら自分だけ雲隠れして……シャインさんは裏で色々やってたからまだ許せるけど……ラズさんは現状に向き合わずに逃げただけじゃないですか。裏切られたのは──可哀想ですけど……」
「本当に逃げたかどうかは分からないけどね。彼なりにやることがあったのかもしれない」
「だから、この目で確かめに行きます。このオシアスの一大事に……勝手に居なくなるなんて許せません」
彼は目を伏せた。
「……アマツツバサ、イデア博士のおかげで洗脳が解けたんです。でも、ずっと寂しそうに鳴いてて……」
「……ポケモンの為に怒れるのは、好きな所よ」
「それにっ! それに……あの人、傍から見れば明らかにバトルを避けてたレモンさんに何度もバトルを挑んで……そのくせ自分は逃げるなんて。正直……僕、あの人の事、あんまり好きじゃないです」
言葉にすればするほどに悪感情が湧き出てくるのか、イクサの言葉はペースアップしていく。
彼は普段、誰かに対して不満を口にすることも悪態を吐くこともあまり無い。無いのであるが──溜め込んでしまう。
故に、一度吐き出せば、こうして土砂のように漏れ出してしまう。
決定的だったのは、ラズが行方を晦ませて”逃げた”ように見えていることであることは確かなのであるが。
(……でも、これだけ不満を吐いて、自分がされたことには一言も触れないのよね、イクサ君……)
「許してあげて。彼なりに──激励のつもりだったのよ。ピカチュウが死んだのを隠してた私も悪い」
「……レモンさんは優しすぎます」
「貴方もよ」
レモンは、自分の為に憤慨してくれる可愛い騎士の額に──口づけした。
「メタルレジデンスは、ハッキリ言って、凶悪なトレーナーの溜まり場よ。そこにわざわざ出向いているって事は……あいつは、己を鍛えに行ったのかも」
「……単に逃げたわけじゃないってことですか?」
そうであろうことは、イクサも勘付いていた。ラズほどプライドが高い人間であれば猶更だ。
しかし──認めたくなかった。
そして何より、イクサも人の子だ。
レモンがラズの肩を持っているのが気に食わなかった。
そんな事は彼女も分かっている。故に──
「──そんな暇はないって事を分からせてやりなさい、イクサ君。力づくでも……今あいつが何をすべきか教えてやるのよ」
「ッ……!」
「それが一番、手っ取り早いでしょう? 私が行きたいのは山々だけど──急ごしらえの手持ちで勝てる相手じゃない。でも、今の貴方なら──勝てる」
「……勿論です」
──最も彼が燃える方法で発破をかける。
(普段散々貴方に心を乱されているもの。少しくらい許して頂戴ね)
(丸め込まれているのは分かってるけど……でも、レモンさんも必死だ。クランベリの協力が欲しいんだ)
だが、イクサも冷静だった。
己の置かれている立場を理解した上で、それ以上は反論しなかった。
そして今は居ない手持ちの一匹を想い、胸に手を当てた。
(僕も……イワツノヅチを、仲間を取り戻したいんだ)
故に──
(このモヤモヤは──ラズ先輩にぶつける)
──彼に情けも容赦も一切しない、と決意するのだった。
やるべき事は簡単だ。力づくでラズを連れ戻すことなのだから。
※※※
「ラズと戦う前に私相手で腕試し……というわけだね。フッ──転校生もお目が高い」
「……そんな所です。悔しいけどシャインさんも、レモンさんやラズさんと並ぶと聞いたので」
「それにしても君、意外と嫉妬深いところがあるねぇ……」
くすくす、と笑うシャインの意図に気付かず「?」を浮かべるイクサ。
既に二人はバトルコートで相対している。
イクサは既に戦闘モードに頭を切り替えており、細かい相手の言葉など拾う余裕はない。
何故ならば相手は、シャイン・マスカット──レモン、ラズに並ぶ三寮長の一角なのだから。
(それに──レモン君も見ている以上、負けられないんだろうな)
ベンチの方をちらりと見やるシャイン。
そこには、イクサのカルボウを抱きかかえながら観戦をしているレモン、そしてコナツの姿があった。
「カルボウ。しっかりと先輩たちの戦いを見ておくのよ」
「ボウボウ!」
「それにしても意外ね。貴女もイクサ君のバトルに興味があるの?」
「ええ。彼の強さの秘訣──是非、この目で確かめたく思いまして」
「……いつになく真剣ねえ」
「……強きを挫き、何にも屈しない強さ。その理由……しかと見せて頂きます」
コナツの表情はいつになく険しい。
オシアスのキャプテンとしてではなく──いち個人としてイクサの戦いに興味があるのだ。
”強さ”に飢えている今の彼女にとって、幾多もの修羅場を乗り越えてきた彼は、羨望の対象そのものであった。
(……レモンさんに見られているとかどうとか関係ない。今この時点の僕の実力を知るための戦いだ。……それはそれとして、勝ちに行くけど!)
「美しいバトルをしよう。……その意味を語る必要は今更無いだろう?」
本気で掛かって来い、と暗に言うシャイン。
イクサもボールを握り締める。
「──折角だ。こちらも手持ちをお披露目したいんでね。ルールは3対3シングルバトルで良いだろうか」
「宜しくお願いしますッ!!」
(むしろ、交代がある分、そっちの方がやりやすいッ!!)
宙をモンスターボールが飛び交い、弾けた。
中から飛び出した互いのポケモンが開幕からぶつかり合う。
「──頼むよ、タギングル!!」
「先発は君に任せよう、キュウコン!!」
現れたのは、七つの尾を持ち、純白の体毛を持つ狐のようなポケモン・キュウコンであった。
甲板に降り立つなり、周囲には雪がしんしんと降ってゆく。
(
【キュウコン(アローラのすがた) きつねポケモン タイプ:氷/フェアリー】
「冷たき銀盤こそ、このシャイン・マスカットの戦場だッ!!」
【特性:ゆきふらし】
その姿は、一般的に知られるものとは大きく異なる。
イクサの知る限りでは南国のアローラ地方の限られた地域にしか生息していないリージョンフォームだ。
更に、身体の周囲にはパキパキと何かが凍る音と共に薄い氷の鎧が纏われていく。
「あんな子見た事無いです……! 見るからに他所の地方の子ですよね? オーライズは出来るんでしょうかぁ? オーライズができるのは迷宮で捕まえた子か、そのタマゴから生まれたポケモンだけですよね?」
「アローラから輸入してきたキュウコンを、こっちの迷宮で捕まえたキュウコンと
「て、手間がかかってるんですね……」
「それくらいするわよ。こと、シャインくらいのトレーナーになるとね。スカッシュ・アカデミアでは、手持ちのポケモンはオーライズは出来て当然だもの。リージョンフォームだからオーライズ出来ないってバレるようじゃあド三流よ」
(
傍から話を聞いていたイクサは改めて気を引き締める。このシャインという男、やはり侮れない。
そこまでして、シャインがアローラキュウコンを手持ちに加えたかった理由など唯一つ。
美しいから──だけではなく、氷タイプを主軸としたパーティの起動役になる事をイクサはよく知っている。
1対1の決闘ではあまり使わないものの、流石にそこは寮長。3対3シングルの戦い方というものもしっかり心得ている。
(Sは109、そこから”オーロラベール”で両壁を展開。しかも必中吹雪で火力も十分……防御力は1.5倍、物理技では弱点を突いても一撃で落とせない!!)
アローラキュウコンが最も厄介な点は、自力で有利な天候を展開できる点だ。
”オーロラベール”は、雪が降っている時しか使えない代わりに物理技と特殊技を両方共半減する壁を展開する技。
更に氷タイプは雪が降っている時は氷を身に纏い、防御力が上昇する。
そして、雪が降っている時は”ふぶき”も必ず命中する。
その上、素早さの種族値も高いのでそれら全ての役割を確実に遂行する事が出来る。
(先ずは”オーロラベール”展開だけでも防がないと──!!)
両壁を張られれば、後続のポケモンが倒しにくくなってしまう。
シャインのエースが何かは今の所分からないが、両壁展開はイクサとしても防ぎたい。
「タギングル、”ちょうはつ”!!」
幸い、タギングルの方が素早さの種族値は高い。
ひょいひょい、とキュウコンを翻弄しながら挑発してみせる。
しかし──澄ました様子で九尾のポケモンは全く意に介する様子を見せない。
「ッ!? やっぱり──」
「デジーとの試合はしっかりと見ていた。だから──”オーロラベール”は確実に発動させてもらおう」
キュウコンは口に香草を含むと、それを噛み締める。
”メンタルハーブ”。
此処で”ちょうはつ”が無効化されたのはイクサにとっては非常に痛手となる。
「”オーロラベール”で美しく戦場を彩り給え!!」
キュウコンの周囲に、煌めく障壁が展開される。
幾らタギングルが殴りつけても、全くびくともしない程に強固だ。
「壁展開……阻止できなかった……!!」
(だけど”メンタルハーブ”なら好都合!! 雪は5ターンしか持続しない──!! その間”アンコール”で遅延すれば良い……いや、シャイン先輩程の人がこの先の展開を読んでいないとは思えない──タギングルのアンコールくらいは読めてるはず──)
一度自分の戦術を潰されたことで、次の相手の出方を即座に伺うイクサ。
その顔には先手を打たれたことに対する焦りはあれど、動揺の色は無い。
来てほしくはなかったものの、あくまでも想定の範囲だ。シャイン・マスカットに同じ戦術は通用しない。
「雪は直ぐに止んでしまう。儚いね。だから──直ぐに終わらせるとしよう。戻りたまえ!!」
周囲が冷気に包まれていく中、即座にシャインはキュウコンを引っ込める。
そして、次に彼が繰り出すのは──
「──さあ彩ろうか。セグレイブ、君のステージだ!!」
「コォォオオオアアアアアンッッッ!!」
【セグレイブ ひょうりゅうポケモン タイプ:氷/ドラゴン】
──全身から冷気を放出させる、怪獣の如き龍であった。
その背中からは重厚でありながら鋭利に研がれた巨剣がそそり立っている。
周囲に響く金属を打ち鳴らしたような音に、イクサもタギングルも思わず怯んでしまうのだった。
更に、雪が降っていることにより、その身体には氷の鎧が纏われていき、まるで甲冑の騎士の如き姿となるのだった。
「なっ、なっ──セグレイブ──!?」
「……久々に見たわね、シャインのセグレイブ……」
「普段は出さないのですか? あんなに強そうな子なのに」
「色々事情があるのよ。ただ一つ言えるのは──シャインのエースの一角。
レモンは遠い目。
イテツムクロはマスカットグループの顔。
そして、本体も文句なしに強力極まりないポケモンだ。
故に──外では常に、イテツムクロを使う事を求められてきた。
グループとしてのメンツの為。そしてオーデータポケモンを使うことが手を抜いていない事の証の為。
「でもね……シャインの場合は、アマツツバサと戦術が噛み合ってるラズとは逆なの」
「逆? どういうことでしょうか」
「……セグレイブはね、シャインの戦術と最も噛み合っているポケモンなのよ。雪、オーロラベールを展開して後続をサポートした後に降臨する文字通りのエースアタッカーとしてね」
以前相対した時の事を覚えているのか、レモンは苦々しそうな顔を浮かべた。
そして、イクサからしても、この冰龍が凄まじい力を持つ難敵であることは分かっていた。
(セグレイブ──特性で火傷にならない上に、炎技を受けたら攻撃が上がる……! 攻撃力が非常に高い上に耐久も素早さも並み以上ある恐ろしいポケモンだけど……!!)
その恐ろしさの最たるは、600族とイクサの世界で呼称されるポケモンの中でも最高を誇る攻撃力。
それを、頑強な耐久の種族値で振り回してくる、文字通りの暴力の化身である。
更に、今は”オーロラベール”で両壁が張られている上に、セグレイブの防御力は”雪”によってさらに頑強になっている。
物理技では弱点を突いたとしても落とすことが出来ない、とイクサは確信していた。
(マズい。マズいマズいマズい、
そのイクサの危惧を現実のものにするかのように──シャインは告げる。
銀盤の上に佇む暴君が織り成す、荒れ狂う吹雪の如き輪舞の始まりを。
「──さあ開宴だ。”りゅうのまい”で彩り給え、セグレイブ」