○○を教えるスネイプ先生   作:海野波香

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ライブ学を教えるスネイプ先生

「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――現場組だ」

 

 薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。

 

「このクラスでは、ライブ参戦の異様な熱狂と、暗黙の了解を学ぶ。ここでは迷惑客のような馬鹿げたことはやらん。これでも音楽かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く会場、ゆらゆらと立ち昇る一体感、ミュージシャンの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」

 

 褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。

 

「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、期待を永遠の原動力にし、フェス会場を徘徊し、自主的にさえゴミ拾いをする方法である。――ただし、ご用意できませんでしたとほざくチケット販売よりも諸君らがまだましであればの話だが」

 

 大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。いまは諸般の事情で様々なライブが中止を余儀なくされている。特に英国魔法界伝説の歌手であるセレスティナ・ワーベックのコンサート中止は多くのファンに打撃を与え、それによって不機嫌になったウィーズリーおばさんが息子たちの成績に厳しくなっているのをハリーはよく知っている。

 

「ポッター! ロック系のフェスにヒップホップのステージを加えると何になるか?」

 

 ライブと聞いて最も連想するであろう音楽ジャンルのフェスに近年大流行の音楽を加えると何になるって?

 ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンはチケットの抽選に落ちたので会場の前で「チケット譲ってください」と書かれた段ボールを掲げていた。ハーマイオニーは久しぶりの参戦なので空中に高々とタオルを回した。

 

「わかりません」

 

 スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。

 

「語りたがりなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。まだ知らない推せるバンドを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」

 

 ハーマイオニーが思いっきり高く、曲が聴ける状態で挙げられる限界まで高くタオルを回した。ハリーには新たな推しバンドが一体何なのか見当もつかない。好きなバンドの好きな曲を生で聴きたくて現場に行くハリーにとってはワンマンライブこそが一番心地よく、フェスにはまだ興味が向いていないのだ。

 

 マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。

 

「わかりません」

「クラスに来る前に過去のラインナップをザッピングしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」

 

 ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、レコードショップのチラシに夢を膨らませたことならある。スネイプは地方勢が誰でも現場入りするために遠征できるとでも思っているのだろうか。

 

 スネイプはハーマイオニーの手がタオル回しのしすぎでぷるぷる震えているのをまだ無視していた。

 

「ポッター、ライブとコンサートの違いは何だね?」

 

 この質問でとうとうテンションが最高潮に達したハーマイオニーは最前列から飛び上がり、地下牢の天井に届かんばかりにモッシュダイブした。

 

「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

 

 生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。ハリーの男子同級生で唯一浮いた話のなかった男だ。

 

 しかし、スネイプは不快そうだった。

 

「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。伝統的にロックミュージシャンを招いてきたフェスも近年ではヒップホップステージが組まれるようになり、旧来のファンの中には懸念を示すものもいる。しかし、そこで発生する融合と化学反応もまた音楽の魅力であり、我輩としては歓迎したい。フェスやライブハウスではしばしば『これからヒットすると目される新進気鋭のインディーズバンド』が登場するため、古参ファンぶる楽しさを知る者は積極的に覗くのがよい。ライブとコンサートはどちらも生演奏を楽しむものだが、どちらかといえばライブはロック寄り、コンサートは歌謡曲やクラシック寄りの印象がある。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」

 

 一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、ステージに照明が灯り、噴き出し花火が点火した。

 ステージ上に一人の男が立っている。勿忘草色のローブをたなびかせ、三角帽をふわりと投げて、ロックハートは白い歯を輝かせた。

 

「私だ」

 

 たまらずハーマイオニーが叫んだ。

 

「ああっ、彼のステージがあるのに、こんな授業に出なきゃいけないなんて!」

「だまらっしゃい!」

 

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