「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――サンタ候補生だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、クリスマスの甘美な静寂と、雪色な幸福を学ぶ。ここでは性の6時間のような馬鹿げたことはやらん。これでも祭日かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く期待、ゆらゆらと立ち昇る商戦の気配、プレゼントの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、松ぼっくりをリースにし、サンタ帽を着用し、七面鳥のアヌスにさえ栓をする方法である。――ただし、我輩がこれまで出席してきた退屈な政治パーティーよりも諸君らのホームパーティーがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。もうクリスマスはとっくに終わって、今日から新年だというのに、なぜこの先生はサンタ帽を被っているのだろう。ここまで陰鬱な表情でサンタの格好をする大人を、ハリーは初めて見た。
「ポッター! 煙突にあわてんぼうのサンタクロースを加えると何になるか?」
誰もが知っているサンタクロースの通り道にみんな大好きコミカルおじいさんを加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンは「サンタクロースなんていない」と馬鹿げた主張を繰り返していた。ハーマイオニーは今年も本をお願いしたので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「夢見る少年なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。ツリーに飾る一番きらきらな星を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはツリーに飾る星が一体何なのか見当もつかない。最近は自然への影響を意識してプラスチック製のツリーで済ます家庭が増え、同梱されている少しチープな星がそこに鎮座しているのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にプレゼントのお願いをお手紙にしようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、自分だけのツリーを求めて森にさまよいこんだりはした。スネイプは親なき子がクリスマスを満足に楽しめるとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、家族で過ごすクリスマスと恋人と過ごすクリスマスの違いは何だね?」
この質問でとうとうクリぼっちを満喫したハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。シェーマスはクリスマスにリア充爆発しろとか言っちゃうタイプの男だ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。あわてんぼうのサンタクロースは魔法族の煙突がフルーパウダーによる飛行に使われるということを忘れがちなため、入り損ねることがある。それでもサンタクロースは何かしらの形でプレゼントを届けてくれるから安心して待つのだ。ツリーに飾る一番きらきらな星は一生探してよいし、いつか見つけたなら大事にして受け継ぐのがよい。クリスマスは家族と過ごすべき時間だが、家族同然か家族になる予定の恋人と共に過ごすのもまたよいだろう。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! そんな顔でクリスマスについて語られたって楽しくないです!」
「だまらっしゃい!」