「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――ロックンロール・スーパースターだ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、軽音楽の大胆な魅力と、広範な創造性を学ぶ。ここでは楽器を置物にするような馬鹿げたことはやらん。これでも音楽かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く衝動、ゆらゆらと立ち昇る興奮、音の織りなす繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、閃きをメロディにし、衝動を表現し、アウェイなライブさえぶち上げる方法である。――ただし、モテるためにバンドマンを名乗るだけのウスノロどもより諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。いくら語ったところで最終的には練習量が実力を作る。こんな授業に出ている暇があったら少しでも多く基礎錬をするか、次にやる曲を聴きこみたい。
「ポッター! ソロパートに手癖のフレーズを加えると何になるか?」
オーディエンスから見て一番わかりやすい盛り上がりのシーンについ弾きがちな定番フレーズを加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンはいかにも楽器やってそうな兄たちやバンド音楽をよく聴くジニーと違い、この手の話はさっぱりだった。ハーマイオニーは伊達に1980年イギリスに生まれていないので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「素行がロックなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。超絶うまくて性格のいい新メンバーを探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーにはうまくて性格のいい新メンバーが一体何なのか見当もつかない。人間は音楽だけで生活が回るわけでもなく、何かしらの理由でバンドを辞めなくてはならない日だって来るかもしれない。そんな時、バンドは新たなメンバーを迎えるか、今のメンバーでやっていくか、解散するかで悩むことになるのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが他のバンドをディスって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前にオーディションに参加しようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。ダーズリーの家にいたころ、ダドリーとその取り巻きのバンドの助っ人をしたことならある。スネイプは音楽をやるならだれでもプロ志向だとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、ギターとベースの違いは何だね?」
この質問でとうとうOasis直撃世代のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。シェーマスがうるさいので目立たないが、ディーンの父親は息子と妻のために闇の勢力へ抗って死んだ本物のロックだ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。ソロパートは目立つため、手癖で弾けるフレーズで流してしまうこともある。その場で新しい進行に挑戦して爆死することもあるが、どんな音楽をやるかはプレイヤーの自由だ。新メンバーを探すとき、腕のいい候補はそれなりに見つかるが、性格のいいフリーのバンドマンはまず見つからないため、ある程度は覚悟しておくしかない。ギターとベースは初心者にとって区別がつかない楽器の筆頭で、多くの場合ギターは曲の響きとリズムを担当し、ベースはボトムとノリを担当する。ただし、音作りや演奏次第では役割が交代することもある。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音をかき消すように、地下牢の扉を蹴破ったスプラウトがポケットから植木鉢を引きずり出し、それを叩き割った。
「これが、私の、魂の叫びよ!」
マンドレイクの苗が泣き喚く声が地下牢で反響し、ネビルが気絶して倒れた。