「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――飲み友だ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、お酒の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ。ここでは吐くまで飲むような馬鹿げたことはやらん。これでも飲みかと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く……なんだっけ……お酒の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、給料を飲み代にし、つまみを錬成し、月曜夜にさえ深酒をする方法である。――ただし、諸君らが成人済みで、アルコールパッチテストを済ませて飲酒に問題がない状態であればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。スリザリンの寮監であるスネイプがそこで遵法精神を発揮してくるとは思わなかったのだ。しかし、彼の言っていることは正しかった。飲めない者は飲むべきではないし、飲めない者に飲ませた馬鹿はアズカバン送りだ。
「ポッター! 好きなジュースにキンミヤ焼酎のシャリキンを加えると何になるか?」
人生で一番経口摂取する水分にアルコールシャーベットを加えると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ハリーと同じように「バタービールで十分だ」という顔をしていた。ハーマイオニーは酒豪なので空中に高々とジョッキを掲げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「飲みサー出身なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。当たりの居酒屋を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高くジョッキを掲げた。ハリーには当たりの居酒屋が一体何なのか見当もつかない。この間入った中華の店があまりにぼったくりで品揃えが悪かったため、しばらくは家飲みにしようと思っているところだ。
マルフォイとゴイルのコールに乗せられてクラッブが一升瓶を一気飲みするのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前に軽く一杯ひっかけてこようとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、酔ってとろけた目をまっすぐに見つめ続けた。スネイプは自分がまだ素面だとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、スコッチとバーボンの違いは何だね?」
この質問でとうとう飲み歩きが趣味のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりにジョッキを掲げた。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。ぶどうジュースを爆発させていたから、きっとワインも爆発させるのだろう。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。好きなジュースに凍らせたシャリキンを加えると、味はそのままでよく冷えたお酒になる。この味のお酒があれば最高なのになーという願望が叶う。当たりの居酒屋はコネと運で見つけるしかないが、少なくともキャッチのいる店はすべて外れだからそこで絞り込むのがよかろう。スコッチとバーボンはどちらもウィスキーの種類で、スコッチは奥深いが癖が強く、バーボンは素直で飲みやすい傾向にある。酔ってくるとあまり区別がつかなくなる。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な程度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! ハイボールとレモンサワーがあれば正直満足です!」
「だまらっしゃい!」