「ああ、左様。ハリー・ポッター。我らがお馴染みの――ユニークユニットだ」
薄暗がりのようにじっとりとした声がハリーの名を呼んだ。まるで愛した女と大嫌いな男の間に生まれた唯一の子どもで、その親が二人とも自分のせいで死んでおり、その事実を子どものほうは知らないのに一人で勝手に複雑な感情を抱いているかのようだった。
「このクラスでは、civilization6の微妙な技術ツリーと、曖昧な芸術を学ぶ。ここではチートMODのような馬鹿げたことはやらん。これでもシド星かと思う諸君が多いかもしれん。ふつふつと沸く不平、ゆらゆらと立ち昇る戦火、シド・マイヤーの繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
褒めているのか貶しているのかわからない。ハリーとロンはハーマイオニーにちらりと目をやった。ハーマイオニーはロックハートの作品を真に受けるほど本を信じているのだ。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、都市国家を属国にし、世界遺産を略奪し、火星にさえ植民をする方法である。――ただし、我輩がこれまで討伐してきた蛮族よりも諸君らがまだましであればの話だが」
大演説のあとはクラス中が一層静まり返った。civ6の序盤から中盤にかけて一番の障害となるのが蛮族だ。拠点を潰すまで無限に湧いてくるし、終盤まで放っておくと大変なことになる。木の杭で囲まれた集落から戦車に乗って侵攻してくる蛮族とは一体何なのか。
「ポッター! インドにウランを持たせると何になるか?」
史実では平和的活動によって世界に影響を与えたことで有名なガンジーを指導者とする文明に、発電から兵器までなんでもござれの終盤最有力資源を持たせると何になるって?
ハリーはロンにちらりと目をやったが、ロンは初期ラッシュを得意とするためウランを見たことがなかった。ハーマイオニーはプレイレポ執筆者なので空中に高々と手を挙げた。
「わかりません」
スネイプは口元でせせら笑った。唇をめくりあげたりはしなかった。
「スパ帝チルドレンなだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ訊こう。まだ見たことのない自然遺産を探してこいと言われたら、どこを探すかね?」
ハーマイオニーが思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで高く手を伸ばした。ハリーには自然遺産が一体何なのか見当もつかない。わざわざ遠くまで都市を出して確保するには微妙な性能のものが多いせいで、プレイしていても性能を覚えないのだ。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているのを、ハリーはなるべく見ないようにした。後に落ち着きのある仲間として成長するマルフォイにとっては黒歴史になる振る舞いだし、クラッブは死ぬ。
「わかりません」
「クラスに来る前に300時間ほど予習しておこうとは思わなかったわけだな、ポッター?」
ハリーは頑張って、冷たい目をまっすぐに見つめ続けた。civilizationシリーズは300時間プレイしてからが初心者とは言うものの、それだけの経験を積めば大体のゲームはうまくなって当たり前なのだ。スネイプは全てのゲーマーがcivしかやらない生き物だとでも思っているのだろうか。
スネイプはハーマイオニーの手がぷるぷる震えているのをまだ無視していた。
「ポッター、蛮族とモンゴルの違いは何だね?」
この質問でとうとう科学勝利至上主義者のハーマイオニーは椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。
「わかりません。ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
生徒が数人笑い声をあげた。ハリーとシェーマスの目が合い、シェーマスがウィンクした。シェーマスを神秘部に放り込めば爆発についての研究にひらめきが発生しそうだ。
しかし、スネイプは不快そうだった。
「座りなさい。……教えてやろう、ポッター。インドのガンジーは戦争相手の疲弊を2倍にする能力を持つため、戦況が泥沼化しているうちに開発が終わって核攻撃が始まることがある。キジルシに刃物、スキタイに馬、インドにウランだ。自然遺産は文明の初期立地の中間に生成されることが多く、しばしば都市国家が占有している。蛮族とモンゴルはよく似ているが、蛮族は戦っていない時もある。どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書きとらんのだ?」
一斉に羽根ペンと羊皮紙を取り出す音がした。その音に被せるように、スネイプが言った。
「ポッター、君の無礼な程度で、グリフィンドールは1点減点」
たまらずロンが叫んだ。
「でも先生! civ中毒者専門の社会復帰支援団体のお世話になる教師はどうかしてます!」
「だまらっしゃい!」