ワイ、コブラ部隊に入隊できたけど追い出された 作:ワイやて!?
空を飛ぶというのは、普通ならただの的に成り下がる行為だと考えていた。
人が個人で飛んだところで操れるのは手にした武器のみ、それに空中で浮くという事は相当不安定になりエイムも定まらないということ。
普通の銃器では狙いが定め辛く敵に当てづらいわけだ。
安定性があるヘリや追尾機能のあるミサイルを積んだ戦闘機ならともかく、人間が個人で飛ぶのはあまり効果がない。
よって、人は飛んでも特段戦力が変わるわけではない。
その筈だった。
「
「ふははははは!これはロケットエンジンに使われる燃料を使用している!そこらの火炎放射器とは訳が違うぞ!」
「疑問しかない…………!そもそも何故火炎放射での戦闘を!?」
ザ・ワイの記憶ではザ・フューリーは爆発物のスペシャリスト、この薄暗い地下壕では数多の爆弾を仕掛けてくると予測していたが、完全に当てが外れたというものである。
せっかく鹵獲した地雷探知機も不必要になってしまったことで投げ捨てる。
どこに仕舞ってあったのかと言わんばかりの代物だが、着太りするようなギリースーツの中に隠してあったのだ。
地雷探知機もお守り程度の代物であったが、最大の懸念であったザ・フューリーの転身によりただかさばるだけにしかならなくなったのだ。
この先にはグロズニィグラードの基地がある、その敷地内に爆発物を用いた罠を仕掛けるとは考えにくい。
よって、不要と考えた彼は少しでも動けるように捨てたのだ。
その後ろに業火の如く通常の何十倍もの威力を持つ火炎放射が放たれる。
じりじりとギリースーツ越しに伝わる熱に冷や汗を流しながらザ・ワイは駆ける。
「どうした?その程度か!」
挑発するザ・フューリーに数発の弾丸が飛んでいくが耐火服に阻まれる。
「防弾か、厄介な…………」
防弾でもあったそれはザ・フューリーに大したダメージは与えられていないと予測したが、やはり違和感がぬぐえない。
爆発物の専門家として、確かに液体燃料を使った火炎放射器は扱えるかもしれないが、それでもザ・フューリーといえば爆発であることはコブラ部隊の中で周知の事実であった。
「何故そうなったんだ…………」
駆け回るザ・ワイはどのような攻略をするか考える。
火炎放射器がある以上は正面に立つのは愚策だ。
では背後から?
火炎放射器のタンクが盾にされて通りづらいだろう。
ならば、やるべき手段は決まった。
「どこだ!隠れているだけでは私を殺すことはできんぞ!」
ザ・フューリーは見失ったザ・ワイを探すべくロケットブースターを吹かしながら通路と通路を渡るように飛ぶ。
僅かな動きも見逃さんと『
本気で尻尾を巻いて2度と面を見せないで欲しいとザ・フューリーは思っているが、彼の性格上、そんな事を考えるはずはないと悟っている。
だから、せめてもの情けで一息に焼き尽くしてくれる。それだけを考えて憤怒の炎をたぎらせる。
そして、彼は通路の角にザ・ワイのギリースーツが僅かにはみ出ていることに気づいた。
「見つけたぞ!」
ロケットブースターで想像を超えた速度で移動するザ・フューリーはギリースーツの下へと飛び、有無を言わせずギリースーツを焼き払う。
這いながら様子を見ていたのだろう、こうもあっけなく見つけられるとは。
ザ・ワイの象徴でもあるギリースーツが焼ける音と共に着地し、断末魔すら上げる間もなく燃えているであろう彼を見下ろす。
「……………………全く、この馬鹿者が」
思い返すは過去の記憶。
灼熱のブラックアウトで閉ざされたものだと思っていたが、案外悪くない記憶として印象に残っていたらしい。
『何故、爆発の専科を?』
『なるほど、いや、だが何故この仕組みで爆発を?少なくとも学んだものと全く違う』
『酒?何故俺に勧めて…………帰還できた記念、か。そうか…………』
『教えてくれ、俺は、何故あの時、あの子から目を離してしまった?俺は、何故、何故、何故!』
良い記憶だけではなかった。
奇妙な若い衛生兵がやって来たと思ったら多くの事を質問されたものだ。
当時は一つの戦場で運よくそこそこの武功を立てた程度にしか思っていなかったが、彼のことを知れば知るほどあらゆることを吸収していく若者と感じられた。
事実、一つを教えると発展した応用の手順を次々と導き出していき、専門家ほどとはいかずとも教える方が気持ちよくなるくらいスルスル学んでいく優等生だった。
疑問に素直で、言われたことに納得した瞬間に最適の行動でミッションをこなし、負傷者も常に応急処置から最低限動けるようになるまで短時間でみっちりと詰め込めるほどの腕前だった。
これは確かに何かあった際に役に立つ。歩く薬箱と呼ばれた名もなき衛生兵は頭角を現しながらコブラ部隊を師として、ザ・ボスの弟子として迎え入れられるだろうと考えられていた。
ザ・ボスの子供が行方不明になるまでは。
「もう、眠るといい、自らの心を憤怒で焼き続けているお前に必要なのは休息だったのだ」
どこか哀愁漂う雰囲気でザ・フューリーは呟いた。
「あの時の後悔はここで置いて行け。もう、誰もあの事は気にしてもない。お前と違い、個人のためではなく任務を遂行するのが我々なのだ」
甘すぎる性根が、この任務を受けられない最大の理由。
生きて帰れぬこの任務に、陰謀暴く英雄は必要ない。
「燃料を補給せねば。奴が…………」
ぬるり、と燃え盛るギリースーツとは反対側に位置する通路から影が飛び出る。
「なっ!?」
とっさに火炎放射器を構えようとするが、飛び出してきた影の方が動きが早くCQCであっという間に転ばされる。
転倒して起き上がる前に影は覆いかぶさるようにザ・フューリーへと何かを突き立てる。
ザ・フューリーが感じる感触からして、サバイバルナイフ、非常に丈夫な刃物で耐火服を切り裂いたのだ。
慣れた手つきでナイフを振り回し、完全に破けた隙間からナイフを突き刺す。
「ザ・ワイ…………!何故生きている!いや、まさかあれは囮に!?」
徐々に見えてきた顔、否、正確には目出し帽に奇妙なゴーグルと全貌は見えず、なんならフードまでかぶっているため余計にシルエットが分かりづらかったのだ。
それだけでなく、手の届く範囲にポーチが大量に取りつけてあり、それらの模様が全て暗い草のような迷彩が施されている。
「フューリー…………」
全部は説明しなかった。ザ・ワイが言うまでもなく象徴であったギリースーツを捨て耐火服を破り内部を突き刺すという方法は間違っていなかった。
「何故だ、
「何故このような身体に!フューリー、お前は何処でこのような身体に!?」
ナイフを突き立てた感触、皮膚、肉、臓器に達した感触が悪い意味で常人のそれではない。
衛生兵として多くの怪我人を見てきたザ・ワイであるが、この肉体は死の一歩手前で耐えているようなものとしか思えなかった。
こんな身体で戦えるものではない。
それでもザ・ワイと戦えたのは、ひとえに尋常ならざる気力を、憤怒を持っていたからだろう。
「何があったんだ…………俺の知らないところで任務が?」
「……………………全く、本当に世話が焼ける弟子だ」
憤怒の炎が何故、爆発から火炎へと転身したのか。
「この位置は肝臓か。もう、助からんな」
「何故、どうして、なんで…………」
「ボスの事は話せん…………だが、俺のことは少し話してやる」
これはザ・フューリーがザ・ワイへ贈る最期の
「ザ・ワイ、お前は地球を見たことはあるか?」
地球の重力に惹かれ続けてるザ・ワイにとって宇宙は大した魅力的ではない。
宇宙には謎はあるが、そこに挑む前に地上に存在する解ききれぬ疑問があるのにわざわざ上を見上げることが出来ない。
永遠に疑問へ向き合うために、上を向く必要はないのだ。