2017年8月 母・シンシンとシャンシャン50日齢(公財)東京動物園協会提供

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東京・上野動物園で飼育されている双子のジャイアントパンダの中国への返還が2026年1月末に迫っている。中国側との協定で繁殖研究を目的に貸与されているパンダ。取材を進めると、新たなつがいの来日を期待する人がいる一方で、パンダの存在意義を考える冷静な声も多く聞こえてきた。

■シャンシャンは「人気の質が違った」

2017年6月、上野動物園でジャイアントパンダの赤ちゃんが誕生した。生後5日、ピンク色だった体は、生後30日には白黒模様がはっきりとしてきた。そして、生まれてからおよそ3か月あまり、約32万件もの応募の中から決まった名前は「シャンシャン」。私はその愛らしい姿にすっかり魅了された。

シャンシャンが生まれたのと同じ年、私は中国・四川省に飛んだ。向かったのは成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地。そこには目を疑う光景が広がっていた。「パンダってこんなにいるんだ…」。上野動物園のパンダしか見たことのなかった私は、基地内で飼育される約100頭のパンダの数に驚いた。

1本の木に4頭もの子供のパンダがよじ登っているのを目撃した時には、その光景が信じられず、パンダを繰り返し数えてしまった。コロコロと転がっている子供のパンダを見つけるたびに、そのかわいさに悲鳴をあげて、カメラのシャッターを何度も押した。私のようにシャンシャンの誕生をきっかけにパンダの魅力にとりつかれた人は多いと思う。

上野動物園の前園長で日本パンダ保護協会の土居利光会長は、シャンシャンが生まれた時の“パンダフィーバー”を「それまでのパンダとは人気の質が違った」と振り返る。それまでは「上野にはパンダがいて当然という感じでみんなパンダを見ていた」。

しかし、シャンシャンの誕生でパンダに対する世間の見方に変化を感じたという。「あたかも自分の育てている感じのパンダに変わってきた」。アイドル的な存在となったシャンシャン。そして、2021年6月、上野動物園で初めてとなる双子のパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」が誕生し、再びパンダフィーバーが巻き起こった。

■いま日本には上野の双子パンダのみ

シャンシャン、シャオシャオ、レイレイの親であるリーリーとシンシンは2011年2月に上野動物園に来園した。前年に中国野生動物保護協会と東京都が結んだ「ジャイアントパンダ保護研究実施の協力協定書」によって、繁殖研究を目的に中国から貸し出されたパンダだ。

上野動物園で初めてとなる自然交配によって生まれたシャンシャンが無事に生育、さらに双子パンダの出産など、母であるシンシンは数々の功績をもたらした。中国側との協定は2頭から生まれた子供にも適用されるため、2023年、シャンシャンは所有権を持つ中国に返還され、さらに翌年の2024年にはリーリーとシンシンも中国へと飛び立った。

残った双子パンダは、2025年12月現在、日本国内で唯一飼育されるパンダとなっている。

■新たなつがいは来るのか?「政治状況次第」

2025年12月、双子パンダの中国への返還が発表された。中国側との協定において返還期限が2026年2月20日となっているためだ。最終観覧日は2026年1月25日で、1月中には中国へと出発する予定だ。

日中関係の悪化がいわれる中、気になるのは「新たなパンダのつがいが日本に来るのか」ということ。パンダを好きな私が東京都やその関係者を取材して感じたことは「みんな意外に冷めている」ということだった。

双子パンダの返還発表があった日の午前、東京都・小池知事の反応を取材しようと報道陣が都庁に集まり、登庁を待ち構えていたが小池知事は姿を現さなかった。

言葉を発したのはその日の夕方で、「都民の皆さま方はさまざまな思いがあるかとは思いますけれども温かく見送っていただきたいと思います」と小池知事の表情は柔らかかったが、どこか事務連絡のようだった。

今年10月、東京日中友好議員連盟協議会の都議会議員10人、区議会・市議会議員10人の合計20人が中国・成都にあるパンダ繁殖研究基地を視察した。

訪中団の一人で、都議会のある会派幹部に新たなパンダの貸し出しを要請するために訪中したのか問うと「要請はしていない」として、基地の視察は中国側が作成した行程表に組み込まれていたという。

新たなつがいの来日の可能性については「わからない。政治状況次第だ」と答えた。今後、中国側に要請する予定もないという。

別の会派の幹部は「パンダより国益。(パンダの貸与は)デメリットの方が大きい」と話し、さらに別の都議は「多くの都民はパンダを望んでいるが、中国との関係で変に譲る部分があってはいけない」と話した。

また、都の関係者は「(新たなパンダの来日は)ないと思う」と即答。都や関係者を取材する中で新たなパンダの貸与を望むような発言をする人はいなかった。

■かわいいだけではない。動物に思いはせて

日本パンダ保護協会の土居会長は「動物は国のものではない。本来、動物は彼らの環境で自分たちの力で生きていけるが、それを守るためには(人間が)色んな国と協力しなければならない」として、野生動物を守るために条約上は国同士の同意が必要だとした上で、「動物を政治の中で使うのは好きではない」と話す。

また、「中国にとってパンダはすごく大事なもの。他の国と一緒に(管理や繁殖研究を)やらないというのは、中国の自然保護の政策や政治を進めていく上でプラスにはならない」として、数年後には日本に再びパンダを貸し出すと予想している。

また、土居会長は「“かわいい”だけでなく、パンダをきっかけに動物や自然環境に関心を持ってほしい」といい、動物の暮らしや生態に思いをはせてほしいと強く訴えた。私に投げかけられた言葉だった。

■パンダ経費は非公開 今後の上野パンダの行方は

2010年7月に都が中国側と結んだ協定書には、リーリーとシンシンの2頭を10年間貸与するにあたり、「日本側は中国側に対し、毎年95万米ドルのジャイアントパンダ保護資金を提供」と記載されている。

ただ、この協定書はかつては公開されていたが、現在は非公開となっている。2021年に協定が延長されたのを最後にパンダに関する経費は明らかにされておらず、現在どれくらいの経費がかかっているかは不明だ。非公開とした理由について、都の担当者は「中国側と協議の結果、各国と同じ(非公開の)形にした」と説明。

また、所管である建設局長は11月の都議会で「費用は双方に守秘義務が課されている」として詳細は明らかにしなかった。東京都は中国側に対し、パンダの繁殖研究プロジェクトを継続していきたいとして新たなつがいの貸与の希望を伝えているというが、正式な回答はないという。

しかし、貸与にかかる経費は都民に明かされない。上野でまたパンダを見たいと願う一方で、再び貸与された場合の都の経費の透明性の確保に目を配り、そして日本でのパンダの存在意義について考えていきたい。