べらぼう第34回に登場した『画本虫撰(えほんむしえらみ)』(宿屋飯盛 撰・喜多川歌麿 画)は、彫りや摺り、仕立てにもこだわった豪華な絵本で、歌麿の優れた観察眼と写実力とが遺憾なく発揮されています。見開きに2種類の虫と植物を描き、その虫を題にした恋の狂歌2首を取り合わせました。巻末には続刊の予告と入集を募る広告も掲載されています。
上下2巻にわたるこの狂歌絵本の実際の内容を、狂歌の書き下し文付きで全ページご紹介します。
📺『画本虫撰』が登場する第34回はこちらから見られます《9/14(日) 午後8:44 まで》※別タブで開きます
『画本虫撰』(国文学研究資料館所蔵)
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/200014778(※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます
上巻
<宿屋飯盛による序文>
蜂
尻焼猿人(しりやけのさるんど)
こはごはにとる蜂のすのあなにえや うましをとめをみつのあぢはひ
毛虫
四方赤良(よものあから)
毛をふいてきずやもとめんさしつけて きみがあたりにはひかかりなば
馬追虫
唐衣橘洲(からごろもきっしゅう)
夜夜は馬おひむしのねにぞなく 君に心のはづなのばして
むかで
鹿都部真顔(しかつべのまがお)
ねがはくは君がつばきにとけどけと とけてねぶとの薬ともがな
けら
やなぎはらむかふ
あだしみはけらてふ虫やいもとせの ゑんのしたやにふかいりをして
はさみむし
桂眉住(かつらのまゆずみ)
みし人を思ひきるにもきれかぬる はさみむしてふ名こそ鈍けれ
蝶
稀年成(まれなとしなり)
夢の間は蝶とも化して吸てみむ 恋しき人の花のくちびる
蜻蛉(とんぼう)
一富士二鷹(いちふじにたか)
人ごころあきつむしともならばなれ はなちはやらじとりもちの竿
虻
紀定丸(きのさだまる)
耳のきはの虻とや人のいとふらん さしてうらみむはりももたねば
芋虫
條門橘丸(じょうもんのきつまる)
いも虫に似たりや似たりころころと わかれぢさむき舟の小蒲団
松虫
土師掻安(はじのかきやす)
蚊屋つりて人まつ虫はなくばかり なにおもしろきねどころじゃない
蛍
酒楽斎滝麿(しゅらくさいたきまろ)
佐保川の水も汲ます身は蛍 中よしのはのくされゑんとて
ばつた
意気躬黒成(いきみのくろなり)
おさへたるばつたと思ふ待夜半も ただつま戸のみぎちぎちとなく
蟷螂(とうろう)
浅草市人(あさくさのいちんど)
くつがへる心としらでかま首を あげて蟷螂のおのばかりまつ
ひぐらし
百鬼斎森角(ひゃっきさいもりかど)
人目よしちよつとこのまに抱ついて せはしなきねはひぐらしかそも
くも
つぶり光
ふんどしをしりよりさげてねやの巣へ よばひかかれるくものふるまひ
下巻
<鳥山石燕による序文>
(現代語訳)
心中に(対象物の)生命を取り込んでから、手に持つ筆によってフォルムを形成するのは画技の骨法であって、いま、門人歌麿が成し得たのは、まさにそれぞれの虫の中に備わる生命そのものを写すことであり、これこそ「心画」と呼ぶべき境地である。歌麿は、幼い時、物事の細部にこだわる子であったが、(それゆえか、)ひたすら戯れにトンボを繋いだり、こおろぎやバッタを手のひらに載せて遊ぶことに夢中になっていた。そこで私は、彼がむやみに殺生をすることを怖れて、何度もその行為を戒めたものであったが、今、彼が画技によって徳を真に輝かせる様は、玉虫の輝きも褪せて見え、優れた先人も恥じ入るほどである。車を怖れずそれに立ち向かう(勇気ある)蟷螂の(鋭い)鎌を借りて、蚯蚓が土に穴をあけるような微妙な手練を際立たせるべく、棒振り虫ではないが、そのふり(構成)よろしき図を手引きとして、初心の手慣れていない者も、蛍の光を頼りに勉励するように画道を明らめ、(複雑に絡んだ)蜘蛛の巣の糸口をほぐすように画道の端緒に付けとばかりに(真の画技を発揮し)、名家の狂歌合の構成を借り(絵本に仕立てあげるべく)、彫工藤⼀宗の彫刀によって版木を仕立てて出来上がるこの本に、歌麿の画道の始まりを説明せよと乞われるのにまかせて
天明七年未年の冬 鳥山石燕書す
赤蜻蛉(あかとんぼ)
朱楽管江(あけらかんこう)
しのぶより声こそたてね赤蜻蛉 をのがおもひに痩ひごけても
いなご
軒端杉丸(のきばのすぎまる)
露ばかり草のたもとをひきみれば いなごのいなと飛のくぞうき
虵(ヘビ)
千枝鼻元(ちえのはなもと)
かきおくる文もとくろをまき帋(がみ)に つもる思ひのたけはながむし
とかげ
問屋酒船(とんやのさかふね)
きらはるるうらみや色も青とかげ 葛葉ならねど這まどふらん
蓑虫(みのむし)
立花裏也(たちばなのうらなり)
暗の夜に西はどちやらわかねども しのぶあまりのかくれみのむし
兜虫
唐来三和(とうらいさんな)
恋しなば兜虫ともなりぬべし しのびの緒さへきれはてし身は
蝸牛(かたつむり)
高利苅主(こうりのかりぬし)
はれやらぬその空言にかたつぶり ぬるるほど 猶つや出しけん
轡虫(くつわむし)
貸本古喜(かしほんのふるき)
かしましき女に似たるくつわ虫 なれもちりりんりんきにやなく
きりぎりす
倉部行澄(くらべのゆきすみ)
さのみには鳴音なたてそきりぎりす ふか入壁も耳のある世に
蟬
三輪杉門(みわのすぎかど)
うき人の心は蟬に似たりけり 声ばかりしてすがたみせねば
蚓(みみず)
一筋道成(ひとすじのみちなり)
よる昼もわからでまよふ恋のやみ きみをみみずのねをのみぞなく
こうろぎ
此道くらき(このみちのくらき)
こうろぎのすねとや人の思ふらん うらむまもなくおれてみすれば
蛙(かえる)
宿屋飯盛(やどやのめしもり)
人づてにくどけど首をふるいけの かいるのつらへ水ぐきぞうき
こがねむし
小簾管伎(おすのすががき)
あはれともみよまくらがのこがねむし こがるるたまのはひよるの床
巻末には、続刊の予告と自詠の狂歌を載せたい人を募る広告も掲載。