PrejectRCL ZET REQUIEM:NOVELIZED 02-ヴァルハラ 小説本文パート
PROJECT RCL ZET REQUIEM:NOVELIZED
第2章:ヴァルハラ
●文:Hi-GO!
●執筆補佐:めたるす/ゾンリー/らいおね
●挿絵:Hi-GO!/補欠/ててん/トナミカンジ
▼冊子版の通販▼
※冊子版限定で『キャラクターデザイン資料』や『用語解説』
『ゲストイラスト』等のコンテンツが付属します。
※前作の第1章はこちらになります。先にお読み頂く事を推奨いたします。
キャラクター紹介
▼シエル
▼ブロッサム・シエル
▼オメガ・シエル
▼アルエット
▼パッシィ
▼ペロケ
▼イロンデル
▼ロゼ
▼グレイシア
▼ウェクト
▼リバース・ナイツ
▼ゼットルーパー
▼ネージュ
▼ラファール
▼ダイン
▼グレイシス
!ご注意!
こちらは
【PROJECT RCL ZET REQUIEM:NOVELIZED 02-ヴァルハラ】
の小説本文パートのみの記事になります。
挿絵はグレースケールから挿冊子版共にフルカラーとなりました。(2023/12)
『キャラクターデザイン資料』や『用語解説』『ゲストイラスト』等は冊子版のみのコンテンツとなりますのでご了承お願いいたします。
※note限定のコンテンツとして『あとがきコーナー』が付属します。
※EXからカットしたシーンの追加に加え、加筆修正と挿絵の追加を行っております。(EXの同パート部分に対し、約2倍での追加となります。+新規挿絵:9枚)
※誤字、誤表記、ご編集やご感想などお気づきの点が御座いましたら是非下記お問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。
【データの閲覧に関する諸注意】
FILE:Ⅰ
ある日突然、ゼロ・リバースと呼ばれる謎の組織からエリア・ゼロへの強襲を受けたシエルたちガーディアン一行。飛空艇『ガーディアンベース』で命からがら脱出した後、艦体をレーダーから隠せる空域にてひとまずの安堵を得ていた。
その艦内にてシエルはロゼと交戦した際に斬られた右腕をペロケに修復してもらっているところである。
「シエルさん、腕の方、調子はいかがですか……?」
元レジスタンスの一員にして、シエルの助手でもあった彼は、現在はガーディアンの科学者として活躍している。今回の襲撃では突然の事に無我夢中で逃げながらも運よくガーディアンベースに合流できていた。
「ありがとうペロケ。斬られた時はどうなるかと思ったけど、お陰さまで元通りよ……。こういう時、つくづく機械の体でよかったと本当に思うわ……」
シエルは白衣を着込むと、安堵しながら返事を返した。
基本的に物事に意欲的で優秀な彼だが、レプリロイドであるにも関わらず瓶底メガネを掛けている。機体そのものか制御系ソフトウェアの問題かは不明だが、いずれにせよ目が悪く、本人の申し出もないまま人手不足も相まって今日まで特に修理や検査もされず、そのままであったりする。
「恐縮です、セルヴォさんならもっと手際よく対処してくれたと思うのですが……あいにく旧レジスタンスベースも連絡がつかない状況でして」
セルヴォはレジスタンス時代からシエルを父親のようにサポートしてくれていたメカニックだ。紅き英雄に数々の武器を提供し、いつもサポートに徹してくれていた。今は旧レジスタンスベースに残り、治安維持のための装備を整えている最中である。
「それよりも、連れ去られたアルエットとパッシィが心配だわ……よりによってウェクトが裏切るなんて……」
「わたくしもビックリです……内側からの行動は流石にノーマークでした……。なにしろ、ウェクトさんの日頃の献身からは想像も付かない行いでしたので、皆その場で固まってしまいました」
新参者にもかかわらず、それほどまでにウェクトという科学者はガーディアンのメンバーから信頼を寄せられていたということだ。現にリバースメタルやガーディアンベースの配備がここまで早く実現したのはウェクトの功績あってのことである。
「私の至らなさが招いた結果よ……結局エリア・ゼロも占拠されてしまって今はどうすることもできないもの……」
「そんな、シエルさん………」
滅多に見せない弱気なシエルを前に、普段はおしゃべりなはずが思わず沈黙してしまうペロケだった。
そこに通信機からのアラート音が響く。
「あっ、どうやらゼロ・リバースからの広域中継が開始された模様です……!」
「急いで中継を開いて! あ、回線の逆探知には気を付けてね」
◆SCENE2
通信回線が接続されると、まさにロゼの演説が始まる瞬間だった。
「我が名は剣帝ロゼ! あの紅き英雄の映し身である!」
時折拳を握りしめながら身振り手振りで熱く語り始めるロゼ。その勢いは止まらなかった。
「この通信を見ている諸君らに問う!」
「今の世は、かつて世界を救った彼の英雄に誇れるような有り様か? 我々残された者達は慢心していないか?」
「過去にすがるアルカディアの残党に始まり、右を見ればレプリロイドの弾圧! 左を見れば人類への反抗! それを選ばなかったとして略奪に手を染める者! 安全圏に引きこもり、僅かな自然と資源を独占し、傍観者としてのうのうと過ごす者共!」
「故に我は立ち上がった! 彼の代弁者として! 彼の後継者として! 諸君の意思を受け止める『鞘』とそれを貫く『剣』を手にして!」
「そもそも我らは『正しさの奴隷』である! 今までの歴史でそうではなかった瞬間があったであろうか? いや、ありえない! この世の全ては自らよかれと思い、積み重ねた行為の結果でしかない!」
「そして! かつて『彼』は全てを『力』によって解決してきた! ならば『力』によって正しさが証明されれば、すなわち我らの存在もまた、必然のものとされよう!」
「同様に、諸君らも自らの正しさを我に対して証明したいとあれば、我が空中要塞『ヴァルハラ』にて盛大に歓迎しよう!」
「諸君らもまた、『正しさの奴隷』なのだから!」
画面の前の人々に向けて強く指差すと彼は一呼吸おいた。
「ではここに、正しさの証明として我らは『世界の再生』を始めよう。『ゼロ・リバース』の名の元にその称号をついだ者として!」
「手始めに過去の幻影にすがる者達を駆逐し、その温床であるエリア・ゼロを制圧した! 我は影ではなく『それ』そのものである!」
「なればこそ! 古き幻想に取りつかれた者共には鉄槌を下し、次なる未来への礎として潔く散って頂く次第である!」
「この『再生』が成就された暁には世界に平穏と安定をもたらすことを約束しよう!」
「そして我が軍勢はいつでも同士を待っている! 来たれヴァルハラへ! 人類とレプリロイドの再生のために!」
「セイブ・ザ・リバース!《再生による救済を!》諸君らの進む先に明るい未来をッ!」
大仰に左右に大きく手を広げながらロゼは叫んだ。それと同時に歓声が上がり、演説は熱気の中で一旦止むこととなった。
◆SCENE3
「こんなふざけた演説をして、何を考えているのかしら……そもそも『彼』とは大違い……というか、あまりにも芝居がかり過ぎているわ……」
「なんていうかいかにも絵に描いたような英雄って感じですね~」
「そうね、まるで伝聞で作り上げられた英雄像そのものだわ……」
2人はロゼの振る舞いの不自然さと共に、何かしら引っ掛かるものを感じ取っていた。それはかつて紅き英雄と共にした時間があるからこそ浮き彫りになるものであったが、そっくりではなく違いすぎるという点こそが最大の疑問だった。
なぜそうする必要があったのか。答えを出すにはとにかく情報が足りておらず、見たままの光景を頼りに探るしかない。
「それにしても、空中要塞のヴァルハラからは動かないというか、まるで攻め込まれるのを待っているようにも感じたわ」
ロゼからすれば、今の時代にこの規模の軍事力を保持する組織が存在しないという自負があるからこそ微動だにしないのだろうが、それでも違和感はぬぐえなかった。敵対……というよりも、同志が集まることを見越してなのか、または別のねらいがあるのだろうか。
「確かに変ですねぇ……あっ! 演説が再開されましたよ!」
◆SCENE4
中継に目を戻すと、ロゼは不適な笑みを浮かべながら口を開いた。
「さて、言葉だけでは足りないことは承知の上だ。ひとつ、ここでデモンストレーションをさせて頂こう……このヴァルハラの主砲『ピュシス・レイ』の力をご覧になっていただく!」
そう言い終わると、映像が切り替わり、空中要塞ヴァルハラの下部に装着された茎のような形をした主砲が輝き始める。その先にはネオ・アルカディア残党の集落が姿を見せていた。
「手始めにそうだな……ネオ・アルカディア残党の諸君、かの事変以降、度々治安を乱す君達にはそろそろ退場願いたい。残念だが阻止する手段も、時間もあるまい……なにより、もはや誰1人と後ろ楯なき君達を庇おうとする者もいはしないだろうが……」
ロゼの指が鳴ると、主砲の砲頭に位置する緑色のクリスタルにエネルギーが収束し、眩い光を放ち始める。
「ではさらばだ。破壊神たるこの私自らが鉄槌を下すのだ。生半可なものではないぞ……」
途端に辺り一面が碧白い輝きに包まれた。
続いて激しい衝撃と轟音が響いたかと思うと、徐々に主砲が放たれた先の地表の様子が明らかになっていく。そこには存在したはずの施設や住居が跡形もなく消滅し、衝撃でえぐられたかに見えた地面が隆起しているといった異様な光景が広がっていた。
暫くして映像が戻ると、再びロゼが口を開く。
「ご覧頂けただろうか……? 『愚者には鉄槌を!』というのは簡単だが、単なる破壊では世界の再生には程遠い。そのため、この『ピュシス・レイ』には直撃した対象の分解と再構築の機能が備わっている……つまりはサイバーエルフの技術の応用だ。見たまえ、ネオ・アルカディア残党の跡地は見事な土壌汚染からの回復を見せている……! データ上でも確認可能だ」
時間が経過するにつれ、なんと隆起した大地一面には、言葉通りの再生と追悼を現すかのように彼岸花が咲き誇りはじめた。
「かように、我がヴァルハラは『再生』の光を有している。単なる破壊とは異なり、環境を回復させることが本分だ。レプリロイドも朽ちた建造物も母なる大地へと還すことが可能である!」
「そして、原則人間には手出しはしない。命の保証もさせて頂く。エリア・ゼロでは今まで通り人間の受け入れを行う次第だ……」
「それでは今回は以上だ。諸君らの判断に期待する……!」
◆SCENE5
ロゼの演説を見守っていたシエルとペロケであったが、流石の事態に困惑を隠せなかった。
「この威力と効果……普通じゃないわ……サイバーエルフの中でもトップクラスの空間干渉能力がなければ不可能な領域……」
「しかしそんな力を持つサイバーエルフは限られています……!」
「心当たりが一つだけあるわ。最近全くレーダーにも反応がなくなった『マザーエルフ』……彼女ならばこのクラスの力を引き出すことが可能なはずよ……」
マザーエルフは現存するサイバーエルフの中でも最大級の能力を持つ。過去にその影響を世界全土に及ぼし、その最大の活躍の場となった妖精戦争当時は猛威をふるったウイルスにより暴走。イレギュラー化していくレプリロイドに対して、ある種の同様の効果で先んじて洗脳……つまりは広域コントロールという離れ業をみせ、ウイルスを無効化することで戦争を終結に導いた。
しかし、その能力はあくまで一端であり、まだ未知に包まれている。今回のような使われ方をしてもおかしくないということだ。
「そんなまさか……! あのマザーエルフを簡単に捕獲できるわけありませんし、仮にしたところで制御するのも困難なはず……」
「……ウェクトなら……ウェクトならできるはずよ……彼の持っている知識や技術はどう考えても妖精戦争時代由来のものに裏打ちされたとしか思えないレベルだもの……」
「仮にそうだとして、彼はやつらに味方する理由があるのでしょうか? いよいよ事態を飲み込めなくなって参りました……」
「全くわからないわ……ただ、彼にとってそれは望ましいことで、何かしらメリットがあるということ……」
考えても仕方のないことだが、並外れた知識と技術を持つウェクトは、単に力を貸していた訳ではなく、何かしらの目的をもって接触を図ってきたということだ。もしかしたらゼロ・リバースですら利用されているのかもしれない。そんな予感がシエルの胸をよぎる。
「それにしても、ロゼはあまりにも芝居がかっているというか、過剰に演出しているように思えるわ……まるでわざとのような……」
「それはわたくしも思いました。我々の知っているあの方とはかなり違うといいますか……こう、ステレオタイプな英雄のイメージに当てはまりすぎていると感じますね……」
「ペロケ、あなたもそう思う……? 私はなんとなくだけど、彼がそう演じなければいけない理由があるのかもと思ったわ……」
ふと、シエルに過去の記憶が蘇る……
「――――やっぱりあなた、あの伝説の、ゼロなのね?」
「――――ゼロ‥? オレの名前‥か」
「――――オレがその、ゼロじゃなかったらどうする?」
「――――ふふっ、私にとっては、あなたはもうゼロなのよ」
そして、自らを振り返った。
(かつて私は『彼』に英雄であることを求めたわ……それはきっと、ゼロ・リバースの人達と何も変わらない)
(何より世界に再び『彼』を目覚めさせたのも、幼い私が偏った知識で『偽りの蒼き英雄』を産み出してしまったから……)
(そして今の私は私で、『彼』の力をまだ求めている。そこにどれだけの差があるのかしら……そして、それは……許されることなのかしら……)
「シエルさん! イロンデルさんから秘匿回線での通信です!」
追憶を打ち切るようにペロケが叫んだ。
「イロンデルから? ということはベースのみんなは無事なのね!」
「はい、旧レジスタンスベースはゼロ・リバースの進軍からはまだ免れていた模様です。ただ、彼らによる広域のジャミングによって今、地上は分断されているといってよい状況のようです……あっ、イロンデルさんに繋ぎますね」
イロンデルは長髪長身が特徴の主に情報を扱った分野の活動に長けた元レジスタンスメンバー。今はガーディアンの諜報員として、各地を飛び回っていたのだが、今回はたまたま旧レジスタンスベースに居合わせたため、こうして緊急時の連絡を取ってきたのだろう。
「やぁ、シエル! 元気かい? ゼロ・リバースについて、ちょっと気になる情報を掴んだからキミにも報告しておきたいと思ってね」
「イロンデル! 無事で何よりよ……続きをお願い……!」
「では、さっそく。エリア・ゼロについてなんだけど、ゼロ・リバースによって封鎖はされているものの、エリア内の活動は自由。警備に関しては、彼らの放った兵士達が配備されて以前より厳しくなっているんだけど、むしろそれによって安全になっているそうなんだ。これは他のエリアも同じ様子だね……」
「そんな……以前より治安が良くなっているというの……?」
「それだけじゃない、襲撃に見せかけて起こしたあの火災、実はサイバーエルフによるホロ・エフェクトによる偽装だったんだ。更には発火地点も、住民の避難誘導を兼ねて練られていたようなんだ。だから植物や住民はほぼ無傷で、シエル達が見ていたサクラもホロによる炎上だったみたいだね……」
「そう、結果的に負傷者はあなたを除けばゼロになるわ」
突如、イロンデルからの通信が切れ、女性の声が響いた。
「ネージュ!」
「ごめん、割り込んじゃった。許して――って、大体はもうイロンデルが話してくれたみたいだけど……シエルが心配でね……」
「ありがとう、と言いたいところだけれど、流石にいきなりね……いつものことといえばそうだけど、元気そうで安心したわ」
「まあ、なんとかね。昔から運だけはいいみたい。しかしヤツらは敵ながら見事ね。被害を最小限に抑えた見事な侵略と統治と言わざるを得ないもの。というか、そもそも敵なのかしら……」
「そうね。実際、逃げ遅れた住民達を保護しつつ元の住居に住まわせ、配備兵により外敵を牽制して、更にはヴァルハラによる攻撃でネオ・アルカディア残党への対処まで……住人からしたら外的な脅威が減ったといえるわ……」
「そう……私がガーディアンでやろうとしていたことが、こんな短期間に実現されたのね……」
「まあ確かにそうなんだけどさ、性急すぎる変化は軋轢を生むんじゃないかしら。実際ヤツらを止めないとまずいのは明らかだし。シエルはそこらへん、じっくり時間をかけるタイプなんだからさ、落ち込むことはないよ」
そこへいくつかの回線が接続された音が鳴り響いた。
「さて、そろそろ方々の準備も整ったかな。シエル、ここからは反撃開始よ……! ちゃんと自分の足元みて一歩ずつ進みましょ!」
◆SCENE6
「……と、いうわけで今から他のエリアも交えたゼロ・リバースへの緊急対策会議を開きたいと思います。今回は各エリアの連合チーム結成ということで、進行はわたくしネージュが務めさせて頂きます。それでは各自、手短に自己紹介しつつ、報告があればお願い」
ネージュのはからいで、分断されていた各エリアの代表による、ゼロ・リバースへの対策会議が行われる手はずとなった。もっとも、通信妨害のジャミングが地上に敷かれた今、この会議もいつまで続けられるかはわからない。
「それではさっそく。ガーディアン司令官のシエルです。現状我々の拠点のエリア・ゼロは彼らの手に落ちましたが、奪還のためにはまずヴァルハラの攻略……特にピュシス・レイのこれ以上の使用はなんとしても回避するのが急務であると考えています」
「やぁみなさん。こちら旧レジスタンスかつ現ガーディアンの諜報担当のイロンデルだ。情報不足は仕方ないけど、まずはあのやっかいなヴァルハラについて知っておきたいところだね!」
「こちら、エリア・ヴィーザルのラファール。人間の集落の代表だ。シエルさん、バイル事変の時はキャラバンが世話になったな。ヴァルハラについてはこちらが知りたいくらいだ」
ラファールはかつてバイル事変の折にネオ・アルカディアから逃げ出した人間のキャラバンのリーダーで、緑の短髪に右頬の傷が特徴的な男性だ。そしてシエル達と共にエリア・ゼロを守り、発展させてきた同胞でもある。今は人間の集落を別途開拓中だ。
「私はエリア・ヘーニルのダインです。こちらはレプリロイド中心の集落で、昔はパンテオンとして戦線に駆り出されておりました。ドクターシエル、今さら詫びれることではないですが、かつてあなたをかの地まで追い詰めた1人です。ご容赦頂きたい……」
「それは、もう済んだことだわ……お互い大切なヒトを沢山失くしたわね。それより今は先のことを考えましょう……!」
「お心遣い痛み入ります……我々も今回の自体は静観できないものとして対処にあたっております」
「なあ、話をぶったぎって悪いんだが、あのロゼってヤツは一体なんなんだ? まるで『あいつ』にそっくりじゃないか……! その上もっともらしいことを言いやがる……」
「……!」
ラファールによって唐突に切り出され、最も触れたくない、考えたくない話題がシエルの思考を硬直させた。
「確かに確認した限り、声も容姿も瓜二つです。確か『彼』は帰還されなかったと伺っておりますが、ご本人という可能性は……?」
あえて思考から除外していた可能性をダインは指摘した。もちろん本人であることを否定する材料や根拠は殆どない。しかし、目で見たり、データではとらえられないものがある。シエルはそれを伝えようとした。
「……おそらく違うと思うわ。直接話して戦ったからとしかいいようがないけれど、私には少なくとも同一人物とは思えなかったわ……太刀筋のそれは本人かそれ以上と思えるレベルだったけど……」
「根拠はなしか……ま、ずっと『あいつ』の側にいた上で科学者のあんたが言うんだからそれ自体が根拠なのかもな」
「刃を交える、というのは実のところ話すより余程互いのことを伺い知れるのは否定いたしません。姿形ではなく、その存在の在り方が異なる、という現象は我々アルカディアにいた者が一番思いしらされた過ちそのものですので、お考えは尊重いたします」
「はいはい、そろそろ話を戻していい? 誰かヴァルハラについて情報持ってるヒトはいない?」
話が脱線しかけたところをネージュが戻しに入った。
「あぁ申し訳ない……現在わがエリア・ヘーニルの数少ない人間のメンバーが旧アルカディアのデータベースを洗い出している最中で、詳しくは彼女からお伝えいたします」
ダインによって画面が切り替わると、どこか見覚えのある黒髪の少女が映し出された。
「グレイシス、と申します。以前はネオ・アルカディアにて審官様のサポートを担当していた人間です。現在はエリア・ヘーニルにて、ダインの補佐を務めさせて頂いております」
「あなた……どこかで……」
思わずシエルから言葉が漏れ出た。
かすかにあの白い剣士の少女の面影を感じたからだ。更に名前も瓜二つのため、内心動揺していた。
「……?」
気づくとシエルは無意識にグレイシスの顔を見つめていたが、視線に気づいた彼女は不思議そうな顔をしたため、シエルもばつの悪そうに目線を逸らす。
「ごめんなさい。どうぞ続けて……」
「それでは、ヴァルハラについての報告ですが、かつてドクターバイルがレプリロイドの再生技術の研究に用いていた施設のひとつだったようです。そして、元々はネオ・アルカディアの移動型環境再生装置として配備されておりました」
すかさずイロンデルが挟み込む。
「つまり、今はその本来の用途で運用しているってことかな?」
「その認識で構いません。もっとも、出力は本来のものとは大幅に異なりますゆえ、その範囲や効果は先ほどみなさんがご覧になったものですら、どの程度のレベルなのか判断がつかない状態です」
「破壊は可能かしら?」
ストレートにシエルは問う。
「現実的に考えて、外部からの攻撃で有効なものは今の地上には存在しません。よって、内部から破壊する他ないと思われます」
「内部っていっても……ジャミングで転送はできないし、飛空艇も非武装のものが大半だし、あそこまで辿り着けるのかどうか……」
グレイシスの意見に対し、ラファールが首をかしげる。
「残念ながらヴァルハラには外敵に備えた対空兵装が存在します。特に単機での突破はまず不可能といってよいでしょう」
「すると、複数で撹乱しつつ、一機でも辿り着くことができれば展望はあるかもしれませんね」
ダインが冷静に述べる。
「その場合、四方から飛空艇で同時に強行突破すれば弾幕が分散し、辿り着ける確率は上がると見込めます。問題はどれだけの精鋭を内部に送り込めるかですので、メンバーの選定の必要があります」
「仮に潜入できたとして、どのように破壊すればいいのかしら?」
再びシエルが尋ねる。
「ヴァルハラは円形に配置された8つのブロックからなる構造で、中央シャフトで全て接続し、コントロールされています。いわゆる花のような形状ですね。問題のピュシス・レイは、この中央シャフトに存在します。逆にいえば各ブロックは対空兵装と稼働に必要なエネルギーの生成と循環が兵器としての主な役割です」
「うーん……なら、各ブロックを破壊すれば、とりあえずピュシス・レイは撃てなくなる感じかな? 問題は破壊したらヴァルハラ自体のエネルギー源も途絶えるわけだから、要塞自体を支える浮力も無くなって地上へ落下するのは確実ってことだよね……」
イロンデルが再び挟み込む。
「確かに、各ブロックの破壊自体は動力炉に爆弾を設置し、タイミングを合わせて起爆することで、比較的少数による実行が可能です。問題は、各ブロックは確実に警護されている可能性があることと、設置後は中央シャフトへ逃げ込む必要があるということです。緊急の脱出装置もそこに備えられているようなので」
「中央シャフトへのルートは限られているのか? 図面を見る限りだと、どのブロックからも繋がっているようにみえるんだが」
ラファールが確認する。
「はい、実際のところ、中央シャフトと各ブロックは通路は繋がってはいるものの、潜入した時点で封鎖される可能性が高いです。そのため、爆破の前にルートを確保する必要があります」
「なるほど、潜入チームのおおよその役割が見えてきましたね。各ブロックの制圧、爆弾の設置、中央シャフトへのルート確保」
ダインが簡潔にまとめあげる。
「陽動も欲しいな」
ラファールが提案すると、イロンデルが口を挟む。
「なら、逃げ慣れた元レジスタンスのメンバーが適任だろうね!」
「ブロックの制圧はどうする?」
「私が、やります」
再びラファールが口を開くと、シエルが即答した。
「確かに、単体の戦力差を考えるとそれしかなさそうです」
グレイシスがそう答えると皆頷いた。
「しかし、襲撃時のデータでゼロ・リバースの勢力に光学、実弾共に銃は殆ど効かない事も判明したわ。防弾に優れた装甲と光学エネルギーを減衰させる装置の組み合わせで近接戦闘に持ち込む以外撃破は難しい……その点を踏まえて準備をお願いしたいの」
「それはありがたい情報です。銃は牽制程度にしかならない前提で、罠や地形を利用した戦略に切り替えたほうがよさそうですね」
ダインは早速、装備の手配を仲間に指示しているようだ。
「銃が効かない時点で人間にはお手上げだな。殺されないだろうが、足手まといも避けたい。それから爆弾の設置はどうする?」
「では、爆弾の設置は我々ヘーニルのメンバーが。怪我の功名ではありますが、こういった工作には慣れておりますので……」
ラファールの問いかけにダインが申し出る。
「と、なると俺たちは飛空艇で潜入までの撹乱が限界かな。恐らく人間が撃破される事はないだろうし、そういう意味では気楽か……あとロゼだ。あいつは厄介なことこの上ない」
「中央シャフトへの誘導も私たちで。ロゼの相手は私がします」
シエルは更に続けた。
「実は、リバース達に私たちの仲間が捕らえられているの。だから、どうしても助けたくて……! あの子たちがいるとしたら中央シャフトの可能性が高い……きっとロゼもそこにいるはずだから……」
「やれやれ、毎度厄介な事情を溜め込んでいるようだな……しかもロゼには一度負けてるんだろ? 大丈夫なのか……?」
ラファールが再度ため息をつくと、ダインがうつむいて話し始めた。
「事情はわかりました、実は私達も似たような理由で潜入したいのです……。と、いうのも、これまでリバースの連中に惹かれて加盟してしまった仲間のレプリロイドは決して少なくなく……そこで、最後の説得の機会を設けさせて頂ければと考えております……」
「内輪揉めか、相変わらずレプリロイドは争いが絶えないな……」
「やめてラファール。あなただってわかるでしょう? みな背負ってるものがそれぞれあって、よかれと思った結果なのよ……けど、取り返しがつかなくなる前に手を打たなければ……」
ラファールの小言はネージュによって遮られた。
「悪い。言いすぎた。実はオレ達人間の集落も似たようなものなんだ。正直、レプリロイドを嫌悪しているメンバーは少なくない。そして、オレ達の恐れているレプリロイドの代表格がアルカディアの連中だ。だから、そいつらを始末したリバースに感化されている者は決して少なくない……正直オレは怖い」
「このままだとリバースに加わる者が増えることは容易に想像できるし、そうなったらますます止める手立てが限られてくるわ……」
「身内がいれば刃を握る手にも力は入らなくなるでしょう。そうした虚をついて、彼らが勢力を拡大させるのは必至……」
シエルとダインの言葉を最後に場に沈黙が訪れてしまった。が、話がネガティブな方向に突入するのを察したネージュが割って出た。
「はいはい、進行を買って出たけど全然出番が無かったので、そろそろまとめたいところだけど……シエル、作戦名とか候補ある?」
「そうね……紅き亡霊への弔いの歌……レクイエム……」
『彼』への思いを巡らせつつ、それを断ち切るように言葉にした。
「そう、ゼット……レクイエム……」
「シエル……あなた……そんな風に考えて……」
ネージュは目を開いて驚いた。あえて傷口を開くような真似をするシエルを見て、そこに覚悟の現れを感じ取ったからだ。
「なるほど、レクイエムときたか……」
「鎮魂歌……確かに亡者を弔うには相応しい名前ですね……」
ラファールとダインもそれぞれ思うところはあるのだろう。シエルにとっての意味も理解した上での反応だった。
「リバースに対するアンチテーゼとしてはこの上ないです」
グレイシスはあくまで冷静だ。
皆それぞれに感想を口にし、ひとしきり思いの丈を語ったせいか、場が落ち着くのを見計らってネージュが会議を一旦打ちきった。
「それじゃ諸々きまり! 作戦コードは『ゼット・レクイエム』で! 各々担当箇所の準備があると思うのでひとまず解散!」
◆SCENE7
「シエルさん会議の方ご苦労様です。さっそく準備にかかります」
会議から解放されると、ペロケが労いの言葉をかけたが、シエルは胸の奥につかえていたものを打ち明けた。
「……みんなに言えないことがあったわ……マザーエルフのこと」
「確かに、判断が難しい案件ですね……」
「そうね、それにあの力は今の世界にとって良い作用をもたらすとは思えないわ……ひたすらに混乱を招くだけ……」
「下手すれば妖精戦争やバイル事変の再来になりかねません……」
「だからマザーエルフが捕らえられていた場合、ひそかに解放しなくては……ミッションがいくつも重なって、目眩がするわ……」
「一旦整理いたしますと、今回の作戦目標はヴァルハラ及びゼロ・リバースの鎮圧。我々のミッションはアルエットさんとパッシィさんの奪還。そしてマザーエルフの調査と解放と、3つになります」
「過程過程でのことまで含めると盛りだくさんね。そして、ひとつ残らず全てこなさなければならない……今まで『彼』にはこういうことを押し付けてきてしまっていたのね……」
「ですが、『あの方』はいつも最善を尽くしてくれました。今我々がこうしていられるのもそのお陰です。シエルさんもあまり気負わず、今できる最善をとにかく尽くしましょう!」
「ええ、それとあの子、さっきのグレイシスさんね。ロゼの配下の少女と近い雰囲気を感じるの……ちょっと気になるわね……」
「確かに少し気がかりです。何か聞き出せるとよいのですが……」
「そろそろ作戦準備に移りましょう。私もリバースメタルの調整に取りかかるわ。ガーディアンベースの整備と点検の方をお願いね」
「承知いたしました。それではまた、後ほど」
FILE:Ⅱ
ついに作戦が始まった。ガーディアンベースにアラートが鳴り響く。
〈ただいまから作戦コード『ゼット・レクイエム」を発令します。チーム総員、ただちに配置についてください。繰り返します……〉
作戦全体のアナウンスは元レジスタンスメンバーのオペレーター、ジョーヌがガーディアンベースから担当してくれている。黒いバイザーをかけ、金色の髪を短く揃え、シエル達と共に死線をくぐり抜けた頼もしい存在だ。
「シエルさん、総員配置につきました」
シエルは司令室兼ブリッジへ到着すると、発艦の号令を叫んだ。
「ガーディアンベース、発進! つづいて戦闘用意!」
空中を漂っていたガーディアンベースのエンジンが火を吹き、夕暮れで紅く染まる空をひたすらに加速していく。
「目標、空中要塞ヴァルハラ……!」
速度を上げながら索敵していくとヴァルハラはエリア・ゼロから近い海の上空に、紅き華のような姿で佇んでいた。
「目標発見! このまま接近します!」
再び号令をかけると、シエルは中央の艦長席でため息をついた。
「さて……ここからはみんなを信じるしかないわね……」
事が動いた、と知らせるがごとくジョーヌが立て続けに報告する。
「敵要塞に補足されました! 予想通り弾幕を展開開始! 実弾とビームの混合です!」
ヴァルハラの各ブロック上部に前方と後方に設けられた対空用の砲台が起動した。前述の通り実弾と光学兵器の2種類の弾幕で速度と威力を兼ね備え、どちらか一方の対策では突破できない仕様だ。
「本作戦参加の飛空艇も散開、わが艦を含め10機となります!」
「エリア・ヘーニルの飛空艇『スキッド』シリーズ3機が先行! このまま加速して突破の様子! 2号機は既に被弾しています!」
「続いてエリア・ヴィーザルの飛空艇『グリン』シリーズ3機が陽動を開始! やはり人間と認識されているので完全に打ち落とす気配は無いまでも弾幕を確実に誘導している模様です! 300秒を目安に離脱予定です! こちらも3号機は被弾し、既に離脱しました!」
「更に旧レジスタンスの飛空艇『ナグル』シリーズ3機も弾幕を掻い潜って陽動中! 今なら突入可能です!」
一瞬のことだが、明らかに状況は動いていた。通信はできないものの、皆の連携で空いた隙を逃すわけにはいかない。
「ガーディアンベース、最大出力! 突破開始!」
最高速度まで加速したガーディアンベースは敵の弾幕の穴を掻い潜り、間近のブロックへ衝突する覚悟だ。
「敵要塞へ緊急着陸に移行! 潜入メンバーは上陸準備……!」
「ジョーヌ、ここはまかせるわね」
そう言い残すとシエルは変身しつつ艦の下部ブロックから乗降口へ移動した。直後、凄まじい衝撃が襲い、あたりは沈黙した。
◆SCENE2
シエルがヴァルハラに降り立つと、グレイシスから通信が入る。
『そちらも無事到着されたようですね。ここからは私がナビゲートさせて頂きます。現在地はわかりますか?』
目の前には奥に続く通路が見え、薄暗い誘導灯が血液のように循環しながら先を照らしていた。黒を基調とした大理石のような艶やかな内装は何処かネオ・アルカディアを彷彿とさせるものがあった。
「内部に入ったから通信はできるのね……現在NEブロックよ」
『我々はSWブロックにおりますので、ちょうど真反対のようですね。現状ですと、作戦プランに少し修正が必要と思われます。』
「辿り着けたのはどれくらいなのかしら……?」
『我々エリア・ヘーニルのスキッド1号機、あなた方のガーディアンベース、旧レジスタンスのナグル3号機と計3機になります。』
「まずは私達ガーディアンがSEブロックまでを制圧して合流する形ね。その後、ヘーニルのメンバーが各ブロックに起爆装置を設置、中央シャフトまでのルート確保と誘導。そんなところかしら?」
ヴァルハラのブロックはコンパスのように方位で別れている。基本的に実際の方位と連動して航行しているようなので、位置関係も現実のものと遜色無い。
『そちらで構いません。問題は中央シャフトに移動してからの脱出のタイミングや手筈ですが、今回は想定より外部に待機しているメンバーが多いため、その点はクリアしやすくなりました』
「わかったわ。それではこのエリアの探索と、制圧を試みるわね」
シエルが内部へと一歩踏み出そうとした、その時だった。
「おっと、そこまでにしてもらおうか!」
シエルが声の方向に振り向くと、立て続けに光の柱が稲妻のように降り注ぐ。そこに並んでいたのは、あの『紅き英雄』を彷彿とさせる真っ赤なアーマーに身を包んだ6体のレプリロイドだった。
「転送! うかつだったわ! あなた達は一体……?!」
「これはこれは失礼! アタシ達はロゼ様直営の守護騎士『リバース・ナイツ』……そしてアタクシは甲盾騎《こうじゅんき》ラセニア。以後お見知りおきを……☆」
真っ先に口を開いたのはラセニアと名乗る巨漢。見た目に反して饒舌な雰囲気を醸し出している。
「ラセニア、リーダーを差し置いて名乗るのは無粋だぞ……」
「まあまあ、気にしなさんな絶槍騎《ぜっそうき》のゼニムさんよ。おっと、オレは一応騎士団のリーダーやってる系の閃突騎《せんとつき》ヒガンだ。よろしくな」
ゼニムと呼ばれた騎士はつぼみのように尖った頭に鋭い目付きをしていた。一方彼より少し背丈の高いレプリロイド――ヒガンは荒々しい印象の角が複数並んだ頭部をしており、ボロボロのマフラーで口元を隠していた。リーダーとのことだが、それに相反するような粗野な見た目とは裏腹に眼光は油断ならないものだった。
「ヒガン、お願いですからいい加減『騎士団長』と名乗ってください……」
割って入ったのは長身の細身に刺々しいアーマーの騎士だった。
「おう、すまんな、グリオサ。えーと、キミは鎖刃騎《さじんき》だっけかな……?」
「いい加減覚えてください……仮にも敵の筆頭の前なのですよ……」
「悪い悪い、そんで、こっちの小さいのが飛扇騎《ひせんき》モネア様だ。一言よろしく!」
「えっ、えっと……初対面の人とお話しするのは慣れなくって……うーんと、ロ、ロゼさまの邪魔はさせないよ……」
モネアとよばれた騎士はシエル位の背丈で、花弁を象った頭部から覗く目からはやや引っ込み思案という印象を受けた。
「モネアよ、戦場では殆どの敵が初対面になるのだぞ……仮にも騎士を名乗るのであれば、汝、心を乱すべからず、だ」
「ご、ごめん……ベラーガ……」
ベラーガと呼ばれた騎士は怒髪天のような頭部の下から複数に髪を結っていた。その風貌は上半身はほぼアーマーを纏わず、騎士よりも拳闘士という呼称が相応しい。顔も文献にある仁王像のようだ。
「剛拳騎《ごうけんき》さんよぉ、小さい子には優しくしてやんないと、ほら、ビビっちゃってるじゃないのさ」
ヒガンは仲間に突っ込まれる隙は見せつつも、仲間を取り持っている。チームのバランサーなのだろう。彼がリーダー、もとい騎士団長というのも頷けることだった。
「おっと、そろそろ本題だけど、俺達がわざわざここまで出向いたのはちょっとしたゲームのお誘いだ」
「どういうこと……?」
「本来ならば俺達は守護騎士ゆえ嬢ちゃんを通すことはできない。だが寛大なロゼ様は力を示せば会ってくれるそうだ」
「つまり、あなた達を倒せと……?」
「ん、半分正解だが、ちょいと違う。このゲームは俺達からそれぞれの持つ武器を集めることだ。もちろん武器はそのまま使ってもらって構わない」
そう言い終わると同時に騎士達が各々の武器を取り出した。それは見覚えのある紅き英雄の『光る武具』であった。
「絶槍騎《ぜっそうき》ゼニム・ザ・ランサー」
「甲盾騎《こうじゅんき》ラセニア・ザ・シールダー」
「鎖刃騎《さじんき》グリオサ・ザ・チェイナー」
「剛拳騎《ごうけんき》ベラーガ・ザ・ナックラー」
「ひ、飛扇騎《ひせんき》モネア・ザ・ダンサー」
「そして俺、閃突騎《せんとつき》ヒガン・ザ・リコイラー。俺達から武器を取り上げれば鍵となり、中央シャフト:テロス・ブロック最上階『王の間』への道が開かれる……そういう仕組みだ」
「武器がプロテクトを解除する、と受け取ってよいのかしら……? わかったわ」
「理解が早くて助かるねぇ。もちろん、勝負はサシ、一対一でつけさせてもらう。このヴァルハラの各ブロックにて君を待つよ。仮にも紅き英雄に連なる騎士だからね。誇りってヤツはあるんだわ、これが。この武器を持つ意味、嬢ちゃんならわかるだろ?」
「意外ね。エリア・ゼロの時のように一斉に襲い掛かってくるのかと思ったわ」
「心外だねぇ。あの後あそこがどうなったか知らないわけでもないんだろ? 前より上手くいって治安も安定したそうじゃない?」
「っ! それは……確かに私も甘かったことは反省するわ……」
「まぁともかくだ、俺たちは散らばってるからさ、嬢ちゃんがそろそろ『斬れる』ようになってくれるのを祈っているよ。じゃ」
瞬間、ヒガン達リバース・ナイツは光の柱となり転送され、散り散りとなった。
「……見透かされていた」
シエルはロゼに指摘された『正面から相手を斬れない』という、己の欠点を反芻していた。メカニロイドならともかく、人に近く、意思を持ったレプリロイドはどうしても攻撃にブレーキがかかってしまう。そして、同時に『そのため』の切り札を回想した。
◆SCENE3
「――今の私には決定力が欠けている……特に1対1での格闘戦ではどうあがいても敵に遅れをとってしまう……でも、これなら……」
そうして目の前のモニタに表示されたのは『sysΩ』と名付けられたプログラムだった。以前、リバース・メタル・モデルB開発途中で同様のことをウェクトも見越しており、対象の無力化を想定したアシストモードの導入を検討していた。それが『対象殲滅機構・システマ・オメガ』だった。
「できれば使いたくはなかったけれど……それも限界ね。次、私が倒れたら作戦が成功する保証がないわ……」
システマ・オメガはリバース・メタルのリミッターを解除し、限界まで性能を引き上げると同時に、使用者の意思を超えて敵対勢力と判定した対象を殲滅するまで追い込み続ける。その過剰な力の制御にパッシィの力を必要としていたが、今となってはそれも頼ることができない。頼りになるのはシエルの精神力のみとなる。
「――――私、頑張るわ‥」
「――――武器の力ではなく、」
「――――科学の力で」
「――――世界を平和にしてみせるの‥」
ふいに過去の記憶が蘇った……。
◆SCENE4
突如、回想をしながら黒い通路を移動していたシエルの前に見覚えのある赤い影がちらついた。
まさか、と目を疑った。振り返った影はあまりにも『彼』に酷似していたのだ。しかし、その頭部はに単眼かつ逆三角の形状をしており、ネオ・アルカディアのパンテオンを彷彿とさせる。
『シエルさん! 無事ですか?! 前方に敵が接近しています!!』
グレイシスの声で『敵』と認識するまでに時間が掛かり、シエルに隙が生じる。相手はそれを見逃さず、すかさず手から光の刃を発生させ、振りかざす――――――
逡巡するシエルはとっさに『システマ・オメガ』を起動していた。
先ほどまでの回想の影響かも知れないが、それが功を奏したのだろう。一瞬にして頭部のバイザーが降り顔を覆う。それは、まるで鬼のような形相だった。
「こ、これが、システマ・オメガ本来の力なの……?」
気づいた時、既に相手の上半身を斬り裂いていた。かつてない最速の抜刀だった。
「それより、『彼』を模してこんなことをするなんて……アルカディアの二の舞よ……」
動揺するシエルの元に更に赤い影がいくつも迫っていたが、システムの反応の方が早かった。
「体が……勝手に……ッ! でも、これを制御できないと無暗に相手を傷つけてしまう…!」
なんとかシステムに抗いながら自分のタイミングで攻撃を繰り出せるようシエルは歯を食いしばった。無我夢中のまま数十秒。対象が消失したため『システマ・オメガ』の動作は停止を迎える。ふと背後を見渡すと、かつてあの紅き英雄が通った後と等しい光景が繰り広げられていた。
「あたり一面が、紅い……」
紅き稲妻とでもいうべき速度だった。数えると5体のレプリロイドを一気に斬っていたようである。その力に戦慄しながらも、彼女は歩みを前に進めなければならないことを改めて理解した。
――――この、紅き戦士たちへの鎮魂歌、『ゼット・レクイエム』を終焉に導くために……
◆SCENE5
――――空中要塞ヴァルハラ。中央シャフト、テロス・ブロック最上階『王の間』……
ロゼと側近のグレイシアとウェクトの3人が一同に会し、今後の成り行きを論じていた。
「ロゼ様、ヴァルハラの防空網を掻い潜って反乱分子どもが複数潜り込んでいるようですが、よろしいのでしょうか……?」
現時点ではこちらがホームで敵を迎え撃つ形になり、圧倒的に有利に展開しているが、そもそも本拠地に乗り込まれていることは否めないため、彼女は率直に訪ねていた。
「よい、グレイシア。どうやらシエル嬢も乗り込んできたようだ。あれほどの事があっても心がまだ折れない様子。今度は我も相応の覚悟を持って徹底的にその心を絶ち斬らねばなるまい……」
確かに敵側は通信は分断されているし、これ以上の増援も望めないだろう。攻めの一手で事足りる。
「ロゼ様がお望みとあれば私からは何も……」
そう言いつつも彼女は具体的な策を示さず、シエルに対して好戦的な姿勢を崩さないロゼにやや不満気味だった。こちらには何重にも切り札があるのも事実ではあるのだが。
「ロゼ様のご判断に不服かね? 差し出がましいぞグレイシア」
案の定、その隙をウェクトにつつかれてしまったため、思わず語気を荒げて反論してしまう。
「ウェクト……ですから私からは何もないと……!」
「フン、まあいいじゃろ。それよりロゼ様へご報告が」
彼女としては、場を乱される方が好ましくないため、内心ウェクトの切り替えの早さに安堵した。ロゼの前でだけは醜態を晒したくないのだ。
「ああ、頼む」
「ガーディアンから捕獲したサイバーエルフ『パッシィ』の件、ロゼ様がお使いの『ロゼット・ストーン』との同調率が凄まじく、あの変身後のピーキーな出力の稼働を安定させる事が可能となった次第ですじゃ」
「ふむ……やはりあちらのリバースメタルと近いルーツを持つ以上、向こうでお前に試させていた通り、我が『ロゼット・ストーン』にも同調したか。ご苦労だった」
「かつての『紅き英雄』を蘇らせ、永くその体に宿っていたエルフだからこそですな。そして再びうつし世に解き放たれた所に巡り合わせたことは天命を感じた次第」
ウェクトは感慨深く天を見上げると、そのまま停止した。ロゼのために各地で聖遺物の調査に当たっていた折り、偶然にも満身創痍で漂っていたパッシィを保護したのだ。
「運命は流転し、ロゼ様というあるべきお方に再び廻り合ったということですね……」
つられて思わず口から言葉をこぼしていたため、彼女は少し気が緩んでいるのかもしれないと、姿勢をただした。
「それだけではございませぬ。本要塞の動力機関となる『イデア・ドライブ』にもその効果が現れはじめておりますのじゃ。かのエルフは月日の流れと共に本来の力とは異なるエネルギー制御に長けた存在になった模様……お陰でコアとなった『マザー』も安定しとりますな」
「そうか、つまりはこれで我らの態勢も整ったということ……」
「そういえば、ヒガンらが独自に『ゲーム』を始めたようですが、あちらはいかがいたしますか?」
彼女は話題を切り替えた。どうにも命令にない『ゲーム』を始めた騎士達の行動に不安を感じたのである。
「よい、話は通している。彼らなりのもてなしなのだろう。守護騎士として鍛えあげた力を存分に発揮してもらえればなによりだ」
「では私も様子を見させて頂ければと思います。場合によってはあの娘と一太刀交えるご許可を願えればと」
「好きにしろ。ただし殺すのは我の務めだ。忘れるな」
「かしこまりました。その旨、留意させて頂きます」
全く信用していない訳ではないが、曲者揃いの騎士のため、万が一を考慮して彼女なりに『監視』をするため、公に許可を取る必要があった。
「ちなみに我らが信奉者《レゾナント》達からなるゼットルーパー部隊も既に各ブロックで配備が完了しておりますぞ。先ほども一戦交えた模様じゃが、あの小娘、小細工をしでかして一刀のもとに斬り伏せおった……あのシステムはエルフなき今、使い物にならんはずなのだが……」
「……ついに『斬れる』ようになったのか、それとも一時の気の迷いか……いずれにしろ彼らには丁重に再生処置を施してくれ……」
「ロゼ様、私の方でも道中に犠牲者の確認をさせて頂きます」
彼女はここぞとばかりに申し出た。犠牲になった仲間達には申し訳ないが、これで騎士達の『監視』をするために外を出歩く理由ができたし、それ以上に急に変化したシエルが気になったのである。
「ふむぅ……ワシの方でも受け入れの準備を進めておこうかの」
「2人とも頼む。自ら選んだ道とはいえ、志半ばで倒れるのはさぞや無念だろう……すまないが少し1人になりたい。後は任せる」
そう言い終わるとロゼは目蓋を閉じて、思案にふけり、ウェクトはどこかへと移動し始めた。
その様子をグレイシアは遠目で見守ると、足早に動き出した。ウェクトのロゼへの忠誠は疑わないが、そのやり方までは信用しきれていない。事実、ゼットルーパーの配備や指示は彼が一任しているため、何が仕掛けられているかわかったものではない。レゾナント達の身の安全の保証もないのだ。
加えて、敵に塩を贈るような真似をして、シエル達にリバース・メタルの技術を授けてしまったことも今回の状況に影響している。ロゼもウェクトもシエルに研究させることで、よりこちらに見返りがあると思ってのことだが、当の本人に攻め込まれては意味が無い。
なにより、胸の中に渦巻く不安を彼女は拭いされないままだった。一体自分は何を恐れているのか。その正体を確かめるべく今もシエルの元に足を運んでいる。2人の運命が交錯するであろう、そう遠くない未来に思いを馳せて。
【第2章:ヴァルハラ 完】
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note限定 あとがきコーナー
本作を企画し、執筆させて頂きました。Hi-GO!です。
記事をご購入頂いて最後まで読んで頂き、まことにありがとうございます。
ここからはnote限定のあとがきコーナーになります。
冊子版には編集後記というものがあるのですが、そちらは内容そのものより、書籍の編纂まわりの事情を書きましたのでこちらではもう少し内容に沿ったものを書きたいと思います。
大変お待たせしましたが、ようやく第2章のリリースにこぎつけました……!
実は第3章の執筆を先行していて、EX版で既にある程度完成していた2章の方は手付かずでしたので、結果的にコミケ用の作業へ突入するタイミングで並行して執筆する羽目になってしまいました。(厳密には4章の作業も入りつつだったりします。)
しかし、おかげさまで前後の繋がりなど、様々な要素の検証や復習などを兼ねることができて、結果的には必要な作業だったと今なら思えます。
EX版との違いは主にはカットしたアルエットや各エリアの住人と会議シーン、そして『ピュシス・レイ』まわりでしょうか?その割に本文の量はかなり増しておりまして、細かい描写をひたすら追加したことが原因かもしれません。特に前半はほぼ会議漬けとなってしまいました。
とはいえ、ゼロ4からのつながりを描くという意味では、『ネージュ』や『ラファール』の存在は外せませんでしたし、ゼロといえば定番のレジスタンスメンバーの存在が挙げられますが、『ペロケ』や『イロンデル』は今回のような話では必須でしたね。オペレーターの『ジョーヌ』はゼロ4に出ていた『ルージュ』とは逆に今作で出て頂こうと思い、採用しました。このようにシエルだけでは世界観が担保できないのは自明のことですね。
更に、ZRオリジナルキャラクターとして『ダイン』と『グレイシア』が登場しました。他のエリアを描きたいとあって、人間の集落に対してレプリロイドも必要だろうと思い、元パンテオンの兵士が統治しているような場所があるのではないかと思い、『エリア・ヘーニル』が誕生しました。
オペレーターのグレイシスは思い付きで追加したキャラクターでしたが、アルエット不在でオペレーターも新規のキャラクターが担ってもいいだろうということで、思ったより出番が増えましたが、今後も描くのが楽しみです。
さて、上記を綴っていて皆さんにお伝えしたいのが、キャラクターデザイナーの目線からの意見ですが、サブキャラクターのデザインは世界観をデザインすることに直結するということです。各々の立場や役割、生活などが垣間見えるとはこういうことなのだなと教えて頂きました。
そして中山徹さんはこういった要素を記号化し、デフォルメすることによって我々にわかりやすく伝えるのが非常にお上手だと改めて実感した次第です。絵のうまさには様々なベクトルがありますが、一つのパッケージングされた『作品』という観点から見ると中山さんの絵力は作品の魅力を引き上げるという観点でズバ抜けているように思えます。
また、イラストの観点ではイロンデルやペロケを描いて思ったのは、自作で二次創作とはいえ、久々に彼らに会えて嬉しかったのは他ならない自分自身だったということです。メインより、サブにこそ心を動かす要素がいたるところに転がっているということを実感させられますね。
あとは副題にもなっているヴァルハラについてでしょうか。
ロックマンファンならすぐに思いつくでしょうが、ゼロ4の『ラグナロク』とX4の『ファイナルウェポン』から着想を得ています。元々花を模した集団を出すとなった時点で、拠点もそれに沿ったデザインにしたかったため、結果的にシリーズ内で印象に残ったものが組み合わさった形です。
架空の花ではありますが、植物っぽさを内包したメカにしたいと思った時にいざスケッチを重ねるとなかなかピンと来ない状態が続きまして、結果ディテールを引き算したことで完成稿のものへ仕上がりました。
名前については本作の企画を開始した時点でこれしかないと決めておりました。そのためロゼはオーディンを、グレイシアのデザインはヴァルキリーをそこはかとなく意識しています。
あと、デザイン的にZXAのウロボロスからも着想を得て、ブロック単位で分離できる構造になっています。(花びらが取れる感じです)そして分離したブロックは大型の飛空艇としても運用可能で、すべてのリバース・ナイツに一隻ずつ貸与されています。(ナイツ6人に対して8ブロックなので2個予備もありますが、これはロゼや幹部用です。)
このデザインを踏まえて停泊用ハッチを追加し、外部の飛空艇の格納も可能となっています。(シエル達はこちらには入らず突撃をかましましたが)
正面の単装のビーム砲は飛空艇では主砲を兼ね、二連装の副砲は実弾で援護します。属性の違う攻撃を織り交ぜることで敵機に対して隙を与えない構えですね。
それでは次回は本編第3章のあとがきでお会いしましょう!
Hi-GO!
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