大河ドラマ「べらぼう」の世界に生きる人々の個性を際立たせるのが多彩な衣装の数々です。デザインを担当された伊藤佐智子さんに、衣装に込めた思いや表現の工夫などを伺いました。
江戸時代中期の衣装は色柄ともに多種多様
私は桃山時代や江戸時代後期には興味があり、知識もあったのですが「べらぼう」の舞台となる江戸時代中期については、今回改めて勉強して非常に面白い時代だと実感しました。
宮崎友禅斎(友禅染めの創始者)によって誕生した友禅染めは江戸の町人、吉原の花魁(おいらん)、武士の着物としても活躍。桃山時代に多用された絞りを友禅で絞り風の模様に染める“匹田染め”なども盛んになり、着物の色や柄を多種多様に変化させました。
江戸時代といえば藍色がベースですが、「べらぼう」ではそこに柄ゆきの派手さも取り入れ、さらに江戸っ子が好きな茶色とねずみ色を効果的に配した衣装をデザインしています。
着こなしから半襟まで浮世絵を参考に
衣装を考えるうえで浮世絵(喜多川歌麿、東洲斎写楽、鳥居清長など)はとても参考になりました。浮世絵に描かれている人物は町人を含めてみな襟元が“ぐずっ”としていて、きっちりと襟を合わせて着ている人はいません。
そこで今回は襟元をゆるやかに着付けることにこだわりました。また“ぐずっ”とした襟元で大事なのが半襟。私が長年趣味で集めている江戸裂(えどぎれ)を使っているのですが、面白い柄ゆきが多くそれだけで江戸の雰囲気を醸し出してくれます。
俳優さんたちのアップが映る画面ではぜひ襟元に注目してください。当時好まれたカチムシ(トンボ)の絵柄の半襟も見られるかもしれません。
◤蔦重の着物◢
人生のスタートを象徴する緑色
主人公の蔦重の着物に一般的な藍色ではなく緑色を選んだ理由は、単色では色が出ない、他の色と掛け合わせることで染め上がる色だからです。
まだ何者でもない彼が何にも縛られず、やんちゃで発想豊かに新しいものを生み出していく。そんなオリジナリティーあふれる人生のスタートを象徴する色として、たやすく再現できない緑という色を選びました。
一着の着物で若々しさと躍動感を
綿つむぎという白生地を緑色に染めたのですが生地の選定から難航。理想の色になるまで3回染め直しています。また緑一色ではなく細い黒縞(くろしま)を入れて彼の動き、若々しさや躍動感を際立たせています。
ドラマの前半、蔦重の着物はこれ一着です。着物を通して人物像を視聴者に伝える。そんな衣装の演出的な考え方がとても面白いと思いました。
◤吉原の親父たちの着物◢
個性とバランスの両立を楽しむ
吉原の親父たちの衣装は全員が並んだときの色の構成やバランスを考えながら作っています。
硬派で武闘派の駿河屋はえび茶色。大店(おおだな)で最古参の松葉屋は、えんじ色やボルドーなどの羽織や金唐革の帯。教養が高い扇屋はブルーグレーの着物と色で差別化しました。
「女郎はかぼちゃを食べていればよい」と言って財をなした新興勢力の大文字屋の着物はかぼちゃ色に染め、大きな独楽柄で目立つものになっています。
女郎屋で働く奉公人たちが主人から与えられる「お仕着せ」という衣服もそれぞれの色で統一。駿河屋はえび茶の着物の背中に富士山の図案。松葉屋は松葉散らし、大文字屋はかぼちゃ色に分銅つなぎのお仕着せです。
◤花の井の着物◢
花魁として花の井が着る豪華な衣装には吉祥模様、松竹梅など縁起のいい模様を数多く使っています。一方、食事をしたり本を読むなど素に戻って過ごす日常の着物に描かれているのは、「かごの鳥」といわれる女郎の心情を表現するような蝶(ちょう)や鳥の文様。そんなところも見ていただけたらうれしいですね。
◤平賀源内の着物◢
平賀源内は登場したときから生き生きとしたチャーミングな存在です。エキゾチックな柄の帯、変化に富んだ生地で作った着物や羽織など、好奇心旺盛で世界に目を向けていた彼なら身につけたであろうと思われる衣装を考えました。また懐紙ばさみや巾着は、彼が考案した金唐革紙製です。大好きな源内のために私の物を提供して作りました。
◤地本問屋の着物◢
地本問屋の主人たちの着物は、知的でいながら色気も感じられるシックな藍色系です。浮世絵に描かれている羽織ひもにもこだわり手組で編んだもの、さらに鱗形屋や須原屋の羽織には金属の鎖を染めたものを使っています。「美は細部に宿る」という言葉を大事に衣装の構成を考えています。
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