水の檻〜ミズノハコ。出られる場所に留まる理由〜 - 2話/ヤスタカ。過去に触れる

アーカイブされた 2025年12月29日 01:38:32 UTC
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2話/ヤスタカ。過去に触れる

挿絵(By みてみん)どうやら、俺は運が良いらしい。

子供の頃、お年玉といえば宝くじ一枚だけだった。
しかし、いつの間にか俺名義の口座には数百万円が入っていた。
ただ─ー当たった時の半分ほどに減っていたのは、俺の記憶違いだろうか。

友人にも恵まれた。
親友と呼べるやつができ、その男は当時まだ認知度の低かった仮想通貨を教えてくれた。
貯金をはたいて購入した俺に、彼は「買う直前にレートが倍になってて、半分しか買えなかった」と申し訳なさそうに謝ったほど誠実だった。
今では相場が八千倍になったので、謝る必要なんてなかったのに。
その彼は、数ヶ月後に音信不通になった。
噂では、俺の仮想通貨を買った直後くらいに大金を手にしてから散財し、借金を作り、ついには消えたらしい。
言ってくれれば肩代わりくらいしたのにな、と今でも思う。

結婚もできた。
地道に働き、子供も二人できて──そう、あの頃は幸せの絶頂だった。
……14股されていたことと、子供が俺の子じゃなかった事実が発覚するまでは。

けれど慰謝料をしっかり回収し、建てた家の財産分与も放棄させたので、貯金はむしろ増えた。

職場にも恵まれた。
パワハラ上司と、それを黙認した会社を訴えたらきっちり賠償金を払ってくれた。
数ヶ月後、その会社は潰れていた。
タイミングよく逃げられた俺を同業者達は“異次元の逃亡者”と呼んだ。

──やっぱり、俺は運がいい。
いまでこそ1LDKで2人住まいだが、そこには“狭いながらの幸せ”が溢れている。

「いや、それ絶対運悪いですって。
人間関係ガチャ大爆死じゃないですか。どう考えてもヤスタカさん、メタ認知できてませんよ」

ベッドでうつ伏せに漫画を読んでいたいろはが、ジト目でこちらを見ていた。

「あれ?声に出てた?恥ずかしいな……」

モノローグを聞かれるのは、死ぬほど恥ずかしい。

「けど、大爆死ではないだろ?こうしていろはに出会えたわけだし……」

コーヒーを置き、ベッドの横に座り、いろはの頭を撫でる。
こんなおっさんが、いろはのような子と同じ空間で生きている。それだけで勝ちだ。
そう思わないか?

撫でられたいろはは真っ赤になって枕に顔を埋めた。

「自分と出会えたから運が良いでしょ?なんて言う人、いませんよ。
いても信じちゃいけないタイプの人ですよ……」

俺の手を避けながら、枕を抱えて座り込む。

「まあ、出会えて嬉しいなんて言われたら悪い気はしませんけど……はあ……
私が幸せにしてあげますから、覚悟してくださいね♡」

そう言うと、いろはいきなり抱きついてきて耳元で囁いた。

「取り敢えず、まずは体から幸せになりましょう?♡」

これが俺たちの日常。
怠惰、と言えばその通りだろう。
このままで本当にいいのだろうか──。


ある夜。

「ん♡ん♡ん〜!!!!!♡」

乱れた息、熱気、肌の火照り。
限界まで体力を削り合い、最後はぐったりと倒れ、抱きしめ合う。

「……ねえ、ヤスタカさん。最近なにかあったんですか?
なんていうか……心ここに在らずというか……」

胸に顔を埋めるいろはの髪は少し湿り、俺の肌に吸い付くようだった。

「ん?まだ足りなかった?いいよ。何度でも……」

「!? 私は今日はもう限界です〜……
それよりも、ヤスタカさんですよ。いつもより激しいですし、回数も多いし……
なのに時々、別のことを考えてるみたいで……」

心配げに覗き込むいろはに、胸の奥を見透かされたようで苦しくなる。
意を決して、胸の内を明かす。

「実はな……つくりたいんだ……」

いろははキョトンとした後、何かを察したように微笑んだ。

「作りたいって…子供ですか?私はいいですよ♡」

どや顔で自分の腹をぽんと叩く。
いや、そうじゃない。

「じゃなくて!というか、俺が種無しなの知ってるだろ?
もちろん“作る行為”は大好きだけど……」

あの日。
二人の子供が自分の子か調べた時、一緒に調べておいたのだ。
俺は無精子症。
誰とどれだけ体を重ねても子供はできない。

「そういえばそうでしたね。ピル飲んでるから忘れてました。
……だとしたら、何を作りたいんですか?」

問われ、逆に困惑する。

衝動だけが先走り、何を創りたいのかはまだ見えない。
ただ、金属加工やモノづくりではないことだけははっきりしていた。

「実はな……そこは考えてなくて……
ただ、何かを創りたくてたまらないだけなんだ」

「ふむふむ、なるほど……
例えば、漫画とか小説とかみたいな“クリエイター”って感じですかね?」

雷が落ちたようだった。

そうか、“創る”とは形ある物だけじゃない。
忘れていた当たり前のことが、彼女の言葉で一気に腑に落ちた。

「……そうか……そうかも!ありがとう、いろは!全部繋がった!」

つい、いろはの肩を掴んでしまうほどの興奮だった。

「あ、ごめん。つい……」

「大丈夫ですよ♡
でもどうします?ヤスタカさんも私も、そっち系は得意じゃないですよね?」

「そこなんだよな……まずは高性能なパソコンでも買って準備しようかな」

「そうですね。取り敢えずの準備して……
あ、ちょうどいい人いるじゃないですか。隣の残念さん」

いろはがピコン、と声を弾ませた。

「ああ!そういえばそうだな!残念美人だけど、確かに優秀なクリエイターがいたな!」

その言葉に、いろはがふくれた。

「……ヤスタカさん。あの人は確かに美人ですけど……私の前で言います?」

「ごめんごめん。1番好きなのはいろはだよ!
その証拠に……ほら……ねぇ……もう一回いい?」

「ちょ……待ってください!私はもう限界……あ♡」

本当ならすぐ行動すべきなのだろう。
だが、この状況では仕方ない。

明日、相談しに行こう。
──天才小説家・しずかのところへ。

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