獣医学博士号取得も病魔が…

話の肖像画 鴨川シーワールドの獣医師・勝俣悦子<28>

ルーピングキックを披露するシャチのルーナ(鴨川シーワールド提供)
ルーピングキックを披露するシャチのルーナ(鴨川シーワールド提供)

《現在、国内のシャチは、鴨川シーワールドに「ラビー」「ララ」「ルーナ」、神戸須磨シーワールド(神戸市)に「ステラ」と「ラン」、名古屋港水族館(名古屋市)に「リン」が暮らす》

ラビーは、まさに長女気質のしっかり者。妹のララは次女気質のおてんばですが、ラビーの子育てをよく手伝っていました。泳ぎに不慣れな赤ちゃんがプールの壁にぶつからないよう、一番壁側へ回り込んで一緒に泳ぐ優しい子です。

ラビーの長女であるルーナは目下成長中で、父親の「オスカー」ゆずりの立派な体形になりつつあります。ルーナの「ルーピングキック」(ジャンプしながら上空につり下げられたボールを尾びれで蹴る技)の姿勢は一番きれいなのではないかと思っています。

シャチは年長のメスがリーダーになりますが、今見ていて、トレーナーに聞くところでも、ラビーとララは同じくらいの力関係にあるようです。姉妹でけんかをすることもありますが、仲良く生活してもらうのが一番です。

《シャチの日々の健康管理はどのようなことを》

「個体関係」と言いますが、3頭の誰がどこにいて、どのような行動をしているのかというのをよく見ています。開館前の時間では、トレーナーが階段を上がってくる音に反応し、トレーナーのところに向かうかどうかもチェックします。

うんちも大切です。いいうんちはすぐに水に溶けるので、浮いていたり沈んでいたりする変なうんちがないかを確認します。また、呼吸孔から人間でいう痰(たん)をポッと飛ばすことがあり、ものすごく飛ぶことがあるのでプールの周囲に落ちていないかも見ています。

シャチは世界中の海に生息していますが、野生のシャチを誰もが見られるわけではありません。当館でしっかり毎日の健康管理を行い、シャチの美しく力強い姿を多くの方に見ていただき、海の動物たちに関心を持つきっかけとしてもらえたら、うれしい限りです。

《現役の獣医師として勤務する傍ら、平成17年、52歳で獣医学博士号を取得した》

「論文博士」という制度を利用しました。動物の繁殖に興味があることはお話ししてきましたが、人工授精や避妊を含む計画的な繁殖についてしっかり考えて研究する必要があると感じていたため、繁殖をテーマとしました。

通常の業務をしながらの挑戦でしたから時間的にも体力的にも大変でした。東京農工大学大学院で生殖生理学を専門とする田谷一善教授(現・名誉教授)が指導してくださいました。田谷先生も学生時代は馬術部、その後は馬術部の顧問をされており、私が弱音を吐くと「馬術部出身でしょう!」と叱咤(しった)激励されました。先生のおかげで、博士論文「飼育海生哺乳類の繁殖に関する研究」は無事に完成し、獣医学博士号を取得することができました。

《26年、乳がんが見つかった》

体力自慢の私ですが、市の検診で乳がんの疑いを指摘されました。乳腺に小さな「石灰化」があったのです。その後5年間は半年に1回の検査で変化が見られなかったので、1年に1回の検診となったところでした。当時バンドウイルカの最長飼育記録を更新していた相棒の「スリム」が亡くなり、その報告書を書き終えたところでした。

主治医の先生がおっしゃるには「トリプルネガティブ」という「顔つきの悪い」がん。抗がん剤でがんを小さくし、手術で摘出後、放射線治療を行うことになりました。治療のパンフレットには5年生存率の推移のグラフが載っていて、それを見ると憂鬱になります。このときには、「2020東京五輪まで頑張ろう」が目標になりました。(聞き手 金谷かおり)

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