ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「前が見えないねえ」
「うわぁ、マジで何にも見えなさそう」
数十秒後。
変態の顔面は陥没し、ブリーフ一丁のまま正座で座らされていた。
何故ならば、イクサの事件性の高い悲鳴を聞きつけるなり──
「反省したかしら?」
「まあ待ちなよ、レモン君。転校生が重傷と聞いていても立ってもいられなくなってしまってね。つい気分が昂ってしまっただけなんだ。それに此処は聊か暑すぎるし、私の会社が所有してる飛行船だし……脱いでも何ら問題無いかと」
「問題しかなかったわよね?」
──ステゴロ番長・レモンが部屋に飛び込み、鉄拳制裁を加えた次第である。
「断じて事件性は無かったと思うんだがね、暴力は酷くないかい?」
「酷くないわね」
「……レモンさん、無事だったんですね……」
「ええ。出来ればこんな形以外で再会したかったわね。色々言いたいことはあるけど、先ずはこのアホを無力化しましょう」
「もう既に無力化されてると思うんだけども」
顔の中央がめり込んでいるのによく喋る変態である。
「でも、此処は何処なんですか?」
「飛行船よ」
「は!?」
「もっと正確に言うならば、我が社の所有している豪華飛行船かな、転校生」
【マスカットグループ所有飛行船”眉目秀麗なるシャイン・マスカット号”】
(史上稀に見るクソみたいな名前だァァァーッ!?)
立体映像が現れ、飛行船の全貌が明らかになる。
ファンタジーの世界でしか見たことが無いような巨大な船体を遥かに上回る気球部分が浮かせている。
だが、エンジンも設備も最新鋭のものが取り揃えられており、猶更この口にするのもはばかる名前を付けられていることが勿体ないのだった。
「君達を匿うなら……空の上が良いと考えたのさ」
物理的に凹んだ顔のまま、シャインは続ける。
「既にイデア博士、キャプテンのコナツさんも迎えているよ」
「ッ……良かったです。でも、どうしてこんな──」
「我々マスカットグループは水面下で、クラウングループを打倒する準備を進めていてね。私は夏休みの騒動に乗じて表舞台から姿を消し、自らそれに加わった」
「じゃあ、オーデータ・ロワイヤルで寮生達から裏切られたのも、計算通りだったって事ですか……?」
「フッ、そうなるね……まあ、彼らが裏切るであろうことは前々から予見していたからね」
(そんなわけないでしょうが……このバカ)
(自分の素行を客観視出来ているのは偉いなあ……)
凹んだ顔で嘯くシャインに、思わずレモンも呆れ顔。
いずれにせよ、この数か月姿を見せなかったのは、自ら本社に戻って計画を取り仕切っていたかららしい。
本当にこの男に任せておいて良いのか、と誰もが不安になったのはさておき。
「──だが、そのためにはマスカットグループの人間だけではあまりにも戦力が足りないぞ。なんせ一族郎党、頭があっぱらぱー揃いだからな。兄様は筆頭だ」
「!?」
部屋の扉から澄ました顔で入ってきたのは──いつぞやぶりの、健康委員長にして保健室の番・ガーベラであった。
「ガーベラさん……お久しぶりです」
「転校生。兄様が迷惑かけたな。寝起きにアレはキツいだろう」
「そうですね……って、今なんて!?」
「ああ。私の本名はガーベラ・マスカット。コイツは非常に不本意だが、私の兄貴だ」
【”マスカットグループ次女”ガーベラ・マスカット】
(そう言えば顔のパーツや髪の色が似てる……全然結びつかなかった)
「本当にすまんな。兄様には私からたっぷり仕置きをしておく」
「はぁ」
「フッ……素直になれない所が妹のチャームポイントさ。私が倒れたと聞いた時は泣き叫んでいたらし──」
次の瞬間、シャインの顔面がもう一度へしゃげた。渾身の後ろ蹴りが加わったのである。
「転校生。クラウングループを倒すには、お前達の力が必要だぞ。学園を──いや、オシアス全土を救う為に協力してくれ」
「……っ」
「と、今寝込んでいるお前に頼むのは流石にちょっと酷だな。今はせいぜい休むんだぞ。このバカは私が好き勝手しないように首輪をつけておく」
「ははは、ガーベラはそういうプレイが好きなんだな! おにいちゃんの見ていない所で、少し大人になったかな」
「さすがだぞ、死は救済だってばっちり理解してるんだな!」
シャインの首根っこを掴み、そのままガーベラは部屋から出て行った。
彼がどのようなお仕置きを受けることになるかは想像したくもないイクサだった。
変人であるとはいえ、頼れる味方であることには違いないのだ。生粋の変人で変態なのであった。
嵐のような勢いで去っていった兄妹を眺めながら──イクサは嘆息する。
「……とりあえず、逃亡生活もこれで終わりですね」
「どうやら、バジルが水面下でシャインと連携して、合流の準備を進めてくれてたみたい。彼女達ももうすぐ此処にやってくるわ」
「……良かったです。何とかなりそうで」
「ええ。本当に──本当にありがと、イクサ君」
ベッドに座ったレモンは、わしゃわしゃとイクサの髪を掻きまわす。
「私、今回は何にも出来なかった。……ポケモンが居なきゃ、鬼の風紀委員長も形無しだわ」
「そんな事無いですよ。レモンさんが無事で居るってことが重要なんです」
「嬉しい事を言ってくれるわね。まあ、そういう意味では大人しくしておいて正解だったわね。人は──今できる事以上の事は出来ない。当然と言えば当然だけど」
「大丈夫です。僕はもっと強くなります。アトム会長どころか──レモンさんを決闘で打ち負かさなきゃいけないんで!」
「……そうね。そうだったわ」
嬉しそうに言った彼女は、立ち上がる。この少年は、しっかりと約束を覚えてくれている。
「今回の戦い、僕一人だけでは勝てませんでしたから。仲間がいたから──そして、レモンさんが僕とパモ様を鍛えてくれたから。勝てたんです」
「……私達寮長では出来なかったことをやってのけたのよ、貴方達。誇って良いわ」
「えへへ……でも、一番の功労者はデジーですよ。彼女が居なかったら、オオミカボシを倒せなかった」
「そうね……そこの所どうなのかしら? 今回のMVPさん」
「え?」
「出て来なさいな」
部屋の外。扉の陰に張りついていた少女は──恐る恐る、入り込んで来る。
気まずそうな顔をしたデジーがやってくる。
「……居たんだ!」
「全く、変なところで気が小さいわね貴女」
「邪魔しちゃ悪いかなって思ってぇ……でも、隠れるのはもうやめたっ!」
飛びつくような勢いでデジーは、イクサの枕元にやってきて──頬に自ら口づけする。
「ちょっ──デジー!?」
「にっへへへ。好きだよ転校生っ」
「こんないきなり、しかもレモンさんの前で──あいだだだだだだ!?」
起き上がろうとして、全身が筋肉痛に襲われたイクサは再びベッドに叩きこまれる。
「あら、大胆ね。お邪魔だったみたいだし、私はこの辺で」
「ちょっ、良いんですか、レモンさん……!?」
「言ったでしょう? 今回私は何にもしていないし、彼女に花を持たせてやるわよ」
「やった♪」
「私は──やらないといけない事があるから、この辺で。せいぜい楽しんで頂戴」
そう言って手を振り、彼女は部屋から出て行く。
後に残ったのは、捕食者の如き眼光を目から迸らせるデジーと、ベッドに縛り付けられたも同然のイクサだけであった。
「転校生! イデア博士から聞いたよ、一日に三回もギガオーライズするのは、無茶し過ぎっ!」
「ごめんなさ痛たたたた」
「……でもこうして……転校生を独り占めできるけどねっ♪」
「お手柔らかにお願いシマス……」
にし、と悪戯っ子のような笑みを浮かべたデジーは──顔を近付ける。
得意げな彼女の顔が、いつもよりもとても眩しく思えた。
「ま、でもボク達のコンビネーション、完璧ってカンジだったじゃん? ボク達二人なら、どんな相手でも倒せる気がしない?」
「……それは否定しないけど」
「もう隠さないし、隠れない。逃げない。レモン先輩に負けないくらいアピールするからっ。覚悟しといてねっ!」
「……そうだね」
イクサは──ふっ、と微笑む。
本当に眩しい。明るい。
それがどれほど、支えになってくれているか。
「僕も、君が居てくれてよかったと思ってる。これからも、助けてくれると嬉しいかな」
「……~~~!! えへへへへっ!! やったやったっ!! 迷惑じゃなかった!! 邪魔だって思われてなかったっ!! えへへっ」
「ちょっ、痛い!? マジで痛いからぁ!?」
飛びつかれると、全身の筋肉と骨が悲鳴を上げる。
だが、イクサは──嬉しそうな彼女の頬に涙が伝っているのを見逃さなかった。
「……にしし。ボク、少しでも転校生の力になれたかな。少しでも……償えたのかな」
「何言ってんのさ。とっくに力になれてるし──償う必要なんて無い」
「っ……」
「でも、デジーのそうやってひたむきになれる所、ボクは凄く好きだな」
「えへへ……でも、今度はボクの事も好きだって言って貰えるように頑張るからねっ。都合の良いオンナで終わらないからっ」
(そんな事無いんだけどなあ)
不安がりで寂しがりな彼女を安心させるため。イクサは覚悟を決めて、言葉を紡ぐ。
「ねえ、デジー。僕は──レモンさんだけじゃなくて、君の泣くところも見たくないし、君を泣かせる奴らを許せない」
「ッ……」
痛む体を無理矢理起こし──デジーの唇を奪う。
不意を突かれ、驚いたような顔をしていた彼女だったが、それが離れると共に、何処か満足げに微笑んだ。
「これが答えって事で良いのかな」
「うん。取りこぼさないし──何かを切り捨てるつもりもない。全部拾って……前に進む」
この胸の高鳴りはきっと、ウソ偽りではない。
好きになってしまっているのだ、と否が応でも思わされる。
(正直、良いのかなあ、って思うけど……やっぱり僕は、僕が思っていた以上に欲張りだったみたいだ)
「約束する。きっちり責任は取る……それくらい、大きな男になってみせる。だから──これからも隣で戦ってほしいんだ」
「っ……にしし! 嬉しい事言ってくれるなあ、転校生は! だから女たらしなんだろうけどっ!」
「あだだだだっ!?」
「あ、ごめん」
遠慮なく抱き着いてくるデジーだったが、身体は乙女の抱擁を耐えられない程に痛んでいた。
思わず彼女は離れ──しかしそれでも、傍からは離れまい、と彼の手を握った。
「だいじょーぶ。欲張りなのはボクも同じだもん。転校生は大好きだけど、レモン先輩が居ないのはイヤだし。好きなものは皆で仲良く、ね?」
「……それが罷り通る価値観に、まだ慣れてないけど……善処するよ」
(そもそも今、僕が一番女泣かせになりそうな立ち位置だし……気を付けなきゃな)
「にしっ。いーんだよ。ボク達が好きでやってるんだから」
「……それなら良いんだけど」
ぽすん、とイクサの胸に倒れ込むデジーは──満足げだった。
「あーあ……本当はずっとこうしてたいけど、例のロボットちゃんも完成させなきゃ」
「あれってまだ完成してなかったんだ」
「最終調整の段階だよ。色々調べたいこともあったからなかなか進まなくて」
「ちょっと……」
「ほ、ほら! そこはエンジニアのサガってヤツだよっ! でも──内部構造を調べるうちに気掛かりな事があって」
歯に引っ掛かるような違和感。
例のアンドロイドを調べている最中に気付いたことを、吐露する。
「あれって本当に……
「は?」
今までの全てをひっくり返しそうなデジーの発言に、思わずイクサは目を丸くしてしまうのだった。
※※※
(……結局、ヌシ様も、会社も……何も解決していないまま、飛行船に乗り込んでしまいました)
部屋で一人──コナツは黄昏ていた。
(デジーちゃんが……イクサさんが居てくれなければ、今頃私は……)
すん、と彼女は目を伏せる。
家で代々受け継がれるキャプテンの称号。
その肩書に合った働きを自分が出来ているとはお世辞にも言い難い、と己を責める。
(……強くならなきゃ、いけなかったんです。デジーちゃんみたいに……イクサさんみたいに。ギガオーライズ出来れば……!!)
少女は強さへの渇望に飲まれていく。圧倒的な力を前にしたことで、それは泥濘の如く彼女を包んでいく。
※※※
──君の力が必要なんだよ、レモン。
──……ポケモンも無ければ権威も無い、今の私に何ができると言うのかしら?
──あるさ。たっぷりとね。
「──それなら、私は、今の私にできる事をやるだけよ」
レモンは、用意された黒スーツに手を掛ける。
飛行船の行く先は──クランベリグループ本社の座すエナメルシティだった。
「……ラズ。あいつは何をやってるのかしらね」
※※※
「──オーデータポケモン、ギガオーライズ。そして未知のロボット。やはりこの地方には興味深いものが多すぎる」
飛行船の一室でイデア博士は研究資料を取りまとめていく。
傍に佇むドーブルの身体からはどろり、と墨が流れていき──本来の黒い姿が顕になった。
「ああでも、本来の目的を忘れちゃダメだ。僕はサイゴク地方の切札……らしいからね?」
「どぅーどぅる」
「あーあ、何処に行ったんだろうなあ……
いつになく彼は真剣な面持ちだった。
普段のおちゃらけた態度からは考えられない程に。
「……必ず君達を連れ帰ってみせるからね」
※※※
「アトムが敗北。オマケにアマツツバサが奪還されたか……」
「現在、レモン達の居場所は不明……! 恐らくは手引きしている者が居るかと」
そこは何ら問題ではないがな、と男は告げた。
クラウングループ本社、その最上階に座す彼は──険しい顔で部下を一瞥すると「計画を進めろ」と命じる。
彼にとって、学生同士の争いや息子のゲーム紛いの大捕物など些事に過ぎない。
無論、オシアスを取り巻く悲劇も、災禍も、全て些事でしかない。
「……ドグウリュー達とハタタカガチさえいれば、それで良い。俺の計画を邪魔されないように……徹底的に奴らを足止めしろ」
「ハッ」
「後は……フーパさえ見つかれば……万事うまくいくのだが……二の矢はある」
【”クラウングループCEO”アカシア】
「──俺の理想である、美しき世界の実現のために、手段は選ばん」
──第六章「ポケモン廃人と古の文明」(完)
ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?
▶はい
いいえ
第六章、完結!!なんか章題に反してあまり突っ込んだ話が出来ませんでしたが……次章ではそれらについて深堀していきたいところ!!
漸く見えてきた反抗の兆し、お待たせしました……此処からが反撃の時間です!!皆さん、乞うご期待!!