ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「貴方は……図鑑開発者のイデア博士!?」
「顔を会わせるのは初めてかな。いたずら兎君」
にたにたと胡散臭い笑みを浮かべながら介入してきた彼は──「おおう派手にやってるねぇ」と感嘆の声を上げる。
既にイクサとパーモットは満身創痍。対するアトムも、己の命を削りながらオオミカボシにビームの雨を降らせている。
「いやはや想像以上だな、オオミカボシ。僕の予想だと、もう少しマシな性能してたと思うんだけど……」
「ッ……ねえ、ボク急いでるんだけど! 用事があるなら早く言ってくれない?」
「まあ落ち着き給え。今の君だけでは、あいつを倒すことはできない。勿論──そこで戦ってるイクサ君もね。そしてきっと、センセイでもオオミカボシには勝てないだろう」
(あの超耐久、ビームの雨、センセイが苦手な要素しかないなあ……体内の
それでも、タイプ相性の関係上サイコイレイザーとはどうだんを無効化することはできる。
問題はそれ以外の技だ。既にオオミカボシはラスターカノンをも雨の如く降らせる事が出来るようになっている。
1発1発の威力は高くないが、それらが無数に放たれるとなると話は別。
幾ら墨で自己強化していると言っても、所詮はドーブル。耐久力は高くない上に、発動し続けているだけで体内の墨を消費し続けるドーブルの本気状態は長い間続けられないのである。
「だとしても、ボクは戦うんだっ!!」
「分かってる。だから力を合わせるのさ。作戦を立てよう。アタッカー、主軸となるのは間違いなくイクサ君とパーモットだ。彼が力尽きたらゲームオーバーだねぇ」
そう言いながらイデアは未だに力尽きずに戦っているイクサを眺め──ふと一言。
「……てか、むしろよく戦えてるね彼?」
「モーモーミルクのおかげでしょうかぁ……」
「クロックワーク・リバースの疲労にも、ギガオーライズの負荷にも効いたんだよね……バツグンに」
「ミルク万能説出ちゃったかあ~~~!!」
閑話休題。
「イデア博士の言う通り、4人も居れば、分担ができる……!! 転校生はアタッカー、イデア博士は──」
「サポートは任せたまえ」
「そして、コナツ! 残ってる手持ちにミルタンクが居るよね!? ヒーラー、お願いできる?」
「ひ、ひーらー……?」
「回復役ってこと!」
「ま、待ってくださぁい!? なんか勝手に話が進んでますぅ!?」
「観念してよコナツ! ボクはもう止まる気はない。ボクが心配だっていうなら、地獄まで付いて来てもらうかんねっ!」
「ッ……本当に、デジーちゃんは仕方ない子ですねぇ」
漸く覚悟を決めたのか、コナツは溜息を吐いて一言。
「……絶対に、無事にこの戦いを終える。それだけ、約束してください」
「分かってるっ! 後は……ボクもサポートに回れば」
「いや、それじゃあ、あの異常な耐久力を持つバケモノは落とせないだろうね。だから、君も攻めに回りな」
「で、でも、ボクの今の手持ちじゃあ──」
「これ使いなよ」
イデアは、煌々と輝く腕輪をデジーに投げ渡す。
彼女は思わずそれを受け取り、目を丸くした。
埋め込まれた宝石は黒い輝きを放っている。
「黒いオージュエル……!」
「敢えて僕が命名するなら──”ギガオージュエル”ってところかな。それを使えばギガオーライズできるんだろう?」
「何処で手に入れたの!?」
「気にしない気にしない」
「ッ……」
(正直、願ったり叶ったりだ。でもボクは、今までギガオーライズを成功させられたことがない)
いざ手にすると腰が引けてしまう。
ミミロップが不安そうな顔でデジーの顔を覗き込んだ。
相棒の表情を見ると、余計にそれは膨らんでいく。
「それに、ミミロップに大きな負担を掛けてしまうかも──」
「みーっ!!」
べしん、ともふもふの毛皮に包まれた耳がデジーを叩いた。
「っ……ミミロップ」
「みーっ!!」
「どうやら、君の相棒はやる気みたいだ。君はどうする?」
「……そっか。ミミロップがやるって言うなら──止まる理由は無いよっ」
己の両頬を叩き、デジーは立ち上がる。
そして、ミミロップの胸に拳を押し当てた。
にぃ、と相棒も笑みを浮かべてみせる。やっと「らしく」なったな、と。
その光景を見て、安心したのか──コナツもボールを握り締めた。
全員が同じ敵の方を向く中、デジーはギガオージュエルの腕輪を嵌める。
「……ミミロップ。ボク達二人ならきっと、できるよねっ」
「みーみみっ!」
「にししっ!! イタズラ兎を見捨てたこと、たぁーっぷり会長に後悔させてあげよっ!!」
「みっ!!」
オージュエルにカードを翳す。
負い目と言う名の──戒めの鎖は砕かれた。
「ミミロップ、ギガオーライズ──ッ!!」
※※※
「気に食いませんねェ、転校ォ生……その顔はァ、何なんでしょう──反抗的で甚だ腹が立ちますよォ、ええッ!!」
「ッ……生徒会長。あんたの余裕ぶった顔が剥げる時を楽しみにしてたんだッ……!!」
「それはこっちのセリフですよ、決闘代理・第二号ォ──!!」
互いに疲弊し切り、ギガオーライズの過重負荷で消耗し続ける中、イクサもアトムも互いの瞳を見据え狂気的な笑みを浮かべる。
その場に居るトレーナーも、ポケモンも、
(──刺し違えても、
イクサも、アトムも、パーモットも、そして──オオミカボシでさえも。
だが、燦然と輝き続けるオオミカボシだけは、ほぼ無傷に近い状態であった。
アトムから生命エネルギーを吸い続けていることで、消耗が激しいフェーズ2を続行させつつ、余裕を残しているのだ。
従って、まだオオワザを連発するだけの力が余っている訳で──
「オオミカボシ、消し飛ばしなさいッ!! ”ア・ステラ・ホライゾン”ッ!!」
全身のオシアス磁気を集約させたフルパワーの砲撃が地面を薙ぎ払う。
砂の大地を抉り取り、そのままイクサ目掛けてねじ込む──避けようとしたパーモットだったが、既に足腰に力が入らなくなっており、自らを電光化させることも出来ない。
そして当然、イクサもまた──その場から動けない。
(やっば……流石に一日三回は……無茶し過ぎたかも──やっぱり、勝てないなあ……敵わないなあ……、このままじゃあ……!!)
「──センセイ、”ひかりのかべ”!!」
次の瞬間、巨大な障壁が周囲に展開され、迸る紫電の束をゴムの幕のように受け止める。
それでも尚、防ぎきれないのかみしみしと音を立てて貫かんばかりだが、それだけの時間が稼げれば十分だった。
「ッ……うわっ!?」
突如イクサとパーモットは米俵のように何かに抱えられる。
ワイルドな黒い体毛に、ぼよんぼよんとした脂肪を併せ持つ牛のようなポケモン──ミルタンクだ。
その重そうな見た目とは裏腹に凄まじい脚力でその場を走り抜けるミルタンクは、そのままビームの射程からダッシュで離脱する。
(力強ッ!? そして速ッ!? そういやこいつ、Sの数値100あったような──って、そうじゃなくて、こいつもしかしてコナツさんのポケモン!?)
「ぶもぉ」
直後に”ひかりのかべ”は砕かれ、威力が弱まった紫電の束は砂の地面を抉り取った。
もしミルタンクに助けられていなかったら、と冷や汗が伝う。
だが、オオミカボシは未だ健在。そのまま次を放つべく、オシアス磁気を全身に充填させるが──
「”とびひざげり”ィッ!!」
流星の如き何かがオオミカボシの身体に飛び込む。
その一撃は重く、歯車に罅が入るほどであった。
「んなっ!? 一体何処から──!?」
アトムは驚愕し、吹き飛ばされたオオミカボシを見やる。
そして再び──周囲を見回して全てを把握する。
加勢が来た、と。特に目につくのは、正面きって立つ──かつて自らが見捨てた少女であった。
「ああ……やはり、あくまでも邪魔をするのですねェ……ッ!! デジーさんッ!!」
「──デジー……?」
ミルタンクからさりげなく手渡されたモーモーミルク瓶を飲み干しながら、イクサは砂煙の晴れた方を見やる。
そこにあったのは──全身を磁気に包み、両目から紫電を放つミミロップの姿だった。
腕や足、そして首には月輪の如き光の環が浮かび上がっており、全身の毛は磁気の発光で白く輝いているようにさえ見える。
「ギガオーライズ、出来たのか……ッ!」
「ぱもももっ!」
モーモーミルクを飲み干し終えたパーモットが力強く起き上がり、飛び跳ねる。
当の彼女はと言えば、イクサの方に向けて指でVサインを送るのだった。
「……言ったでしょっ!! 困ったことがあったら、絶対に助けに行くってねっ! ぴょーんぴょんっと!!」
「……やっぱり君は凄いよ」
「──調子に乗らないで頂きたいッ!! 頂点に立つのはこの私とオオミカボシだけなのですッ!!」
再びオオミカボシがオオワザを放つべくオシアス磁気を全身から頭部に集中させ始める。
だが、既にモーモーミルクで疲労を全回復させたパーモットは間合いを一瞬で詰めていた。
そして、それに合わせるかのように、ミミロップも再び蹴りを見舞う。
その瞬間、全身に浮かび上がっていた光の輪が足元に集中していき──脚部は金色に輝いた。
「”かみなりパンチ”ッ!!」
「渾身の”メガトンキック”だッ!!」
オオワザを放つ隙を突かれたことで、全身を駆け巡っていたオシアス磁気が暴発。
オオミカボシはインパクトと同時に頭部を爆発させると、再び地面に転がる羽目になるのだった。
とはいえ、並大抵のポケモン、それどころかパーモットの拳でもびくともしなかったオオミカボシが完全に押されていることにアトムは驚愕を隠せない。
ギガオーライズをする前と後では、明らかにミミロップの攻撃力が跳ね上がっている。
二匹同時による攻撃で、オオミカボシの内部へ響くダメージが増大しているのだ。
「バカな……オオミカボシが……ッ!! 此処まで……ッ!?」
その先を意味するのは──敗北。
確かなそれを予感してしまった瞬間、アトムはもう冷静ではいられなかった。
「やり直し……やり直しやり直しやり直しィィィィィィィィィーッッッ!!」
【オオミカボシの クロックワーク・リバース!!】
周囲の空間が歪む。
歯車が音を立てて回転を始める。
起死回生のオオワザ。全てを無かったことにし、相手にその全ての負債をおっかぶせる。
最早これで、オオミカボシを全回復させることしかアトムには出来なかった。
たとえ回復薬を打ち込んでも、機械の身体のオオミカボシの再生には時間が掛かるので、これしか手が無いのだ。
「──マズい、パモ様!! オオミカボシにトドメを刺すんだッ!!」
「ぱももっ!!」
だが、先程との決定的な違いがあるとするならば──オオミカボシはこの間に防御を固めることが出来る点である。
オシアス磁気で生成した歯車の影を盾の如く全身に展開し、強固なトーチカと化すのだった。
「何故貴女がッ!! いがみ合い、蹴落とし合った貴女達が手を組むのですッ!! そして、何故に此処まで強くなるのですッ!?」
喚き散らしながらも、オオミカボシの歯車は高速で回転していく。
時間が巻き戻ろうとしている。
「憎み合い、いがみ合っていたはずですッ!! 敗北し、一生モノの屈辱を植え付けられたはずです、デジーさんッ!! その貴女がッ!! なぜ、転校生などに与するのですッ!?」
「うっさいなぁっ!! 決まってんでしょッ!!」
パーモットとミミロップが再び並び、地面を蹴った瞬間──
「
──少女は、とびっきりの恋を──己の原動力たる最大の理由をぶちまける。
あの日、あの時、確かにデジーはイクサに心を奪われてしまったのだ。
「ぴょーんっとキメちゃうよっ!! ”とびひざげり”ッ!!」
「残りの電力、全部力に変えるんだッ!! ”でんこうそうげき”!!」
オオワザは間に合わない。
チャンスは一回きり。
展開された防護壁を貫くべく、最後の力を振り絞り、二匹は跳ぶ。飛ぶ。跳ぶ──ッ!!
「ゲームセットだねぇ。アトム会長」
遠巻きでそれを眺めていたイデア博士は、相も変わらずにやついていた。
「……人の縁を簡単に切り捨て、踏み躙る君達と……人やポケモンと縁を結んできた彼らの差かな。今はまだまだ若い芽だけどね」
パーモットが両拳に電気を溜め、ミミロップが一転集中の跳び膝蹴りを見舞う。
歯車の盾はいとも容易く貫かれ、中のオオミカボシも──貫かれる。
今度こそ──オオミカボシの身体はバラバラに砕かれ、崩れ落ちたのだった。
「こんな事が……私の敗け……? またしても──?」
オシアス磁気は空中に霧散し、オオミカボシは沈黙した。
それと同時に──負荷はアトムに襲い掛かり、彼は吐血する。
「……こんな事があっては……ッ!! あのゴミ共の介入さえ無ければ私は──」
「──敗けてないよ」
「ッ!!」
「……僕は今回、皆の助けがなきゃ貴方に勝てなかった。貴方のやったことは許せないけど──貴方とオオミカボシがとんでもなく強いのは事実だ」
「……!!」
「だから次は……言い訳も出来ないくらいに……強くなって……貴方に勝つ」
そこでイクサの意識は途切れ──デジーが思わず肩を貸した。幾らモーモーミルクの力と言えど限界はあったようであった。
「もう、無茶し過ぎ……っ! パモ様も、ボールに戻って!」
「ぱもぉ……」
真っ白に燃え尽きたパーモットを、イクサの代わりにボールに引っ込めて、デジーはその場を離れようとする。
白い制服を着た生徒達が次々にやってくるのが見える。
直感だが、デジーはミミロップのギガオーライズが長続きしないことを察していた。
加えて、力尽きたイクサを庇いながら戦える自信が無い。
息も絶え絶えに、アトムは哄笑して続ける。
「バカですねえ……逃げられるとでも? 私達から……ッ!!」
「援軍……!!」
「今に、マイヅルさんとグローリオ君も到着しますよ……ッ!! 今の貴方達で、ギガオーライズしたポケモンとオーデータを相手出来ますかねえ……ッ!!」
(悔しいけど、ボクも体力が限界……! イデア博士とコナツだけで、戦えるの……!?)
白制服、そして彼らが引き連れるポケモン達の影が迫る中──
「いいや、アトム。彼等は預からせて貰うよ。この私がね」
──突如、周囲は”しろいきり”に包まれ、デジーとイクサの姿はアトムからは見えなくなる。
「この不愉快極まりない声は──ッ!?」
「おっと、詮索はノーサンキューだ、会長。予定がぎっしり詰まっているのでね、私はこれにて失礼!!」
だが、それを確かめる術もない。
霧が晴れた時には、既に誰もかれも目の前から居なくなっていた。
「おのれ……貴方が手引きしていましたか……ッ!!」
※※※
──泥のように眠りこけたイクサが目を覚ました時に最初に見えたのは、白い天井だった。
此処が何処かも分からない。
あれからどうなったのかも分からない。
そんな中──ふと、声がした。
「やあ……転校生。目を覚ましたようだね」
聞き覚えのある声がする。
男の声だった。その主を確かめるべく、首を右に向けた時、目に入ったのは──
「……」
「おや。私の美貌に見惚れてしまったかい? 照れるね!」
「ぎゃああああああああああァァァァーッッッ!!」
──浅黒い肌に白髪ロン毛、そしてブリーフ一丁の変態であった。