ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第95話:潰滅

 アトムの目、そしてオオミカボシの目からは黒い紫電が迸っている。

 更に溢れたオシアス磁気はプラズマの怪物となってオオミカボシから顕現した。

 人の顔とも獣の顔、どちらともとれるが無機質で無感情な顔が浮かび上がり、更にプラズマの腕がそこから伸びていた。

 オシアス磁気で構成された、歯車を身に纏った怪物。そうとしか形容しようがない。ギギギアルの如き姿の原形は留めていなかった。

 

「バケモノ……」

 

 思わず、イクサはそう呟いてしまっていた。

 最早ポケモン等と呼べる存在ではない。

 自分の知識も、勝負勘も、何一つ役に立ちはしない。

 ギガオーライズしたパーモットでさえ、怖気づいてしまっている。

 自らに噛み合っている歯車を車輪の如く側面に動かした怪物は、そのままイクサ達目掛けて疾走する──

 

 

 

「星屑の如く──燦然と散りなさい。”はどうだん”弾幕ッ!!」

 

 

 

 プラズマの怪物は空に無数の弾頭を撃ち放つと──それは雨の如く地上の目標を目掛けて降り落ちる。

 狙いはザングース。

 必中技である”はどうだん”は、どんなに追跡を振り切ろうとしても逃げ切る事が出来ない。

 更に、それが先程までとは比べ物にならない速度で追ってくるのである。

 ザングースは一撃目が足に当たったことで大きく体勢を崩し、そのまま残る全ての弾幕も受けてしまう──

 

「あぁ、ザングースちゃん……ッ!?」

「こォれでもう、庇えませんねェェェーッッッ!! イーッヒヒヒヒィィィーッッッ!!」

 

 更に、側面二つの巨大な歯車が空へ飛んで行くと、歯車の中央に取り付けられた宝石から”サイコイレイザー”を発射。

 弾幕の隙を薙ぎ払うように砂の地面を焼き払っていく。

 ギガオーライズしたパーモットでさえ、レーザー光全てを躱すことはできず、突き刺すような”サイコイレイザー”に貫かれてしまう。

 

「堕ちろッ!! 堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ち堕ち堕ち堕ち堕ちィィィィーッ!!」

 

 そして狙いはポケモン達だけではない。

 オオミカボシとアトムの変貌を前に慄くしかないイクサ達もだ。

 雨の如く降り注ぐレーザーに身体を貫かれ──後に残るのは、死屍累々。

 

「あ、ぐ……ッ!!」

 

 パーモットとミミロップ、ザングースの3匹はうつ伏せに倒れており、イクサ達もレーザー光に穿たれた部分を庇うようにして膝を突いていた。

 

「穴が、開いてる……腕に……ッ!!」

 

 直撃を受けた部分からは血が噴き出していた。

 じんじんと焼け焦げるような痛みが全身を迸る。

 3人共最早、まともに歩けるような状態ではない。

 

「……コナツさん、デジー、平気?」

「ボクは何とか……だけどコナツが……!」

「うぅ……私は平気です」

 

 服越しからでも分かる。

 全身に赤い染みが点々と滲みだしている。

 だが──彼女は首を横に振ると、ザングースをボールに戻し、次のボールに手を掛ける。

 イクサはオオミカボシの力がこれまでとは比べ物にならない程に高まっていることに気付いた。

 同時に──最早アトムが半ば正気を失っていることも察しつつあった。

 右目から黒い紫電を迸らせ続けるアトムはくくっ、と喉で笑うとヒステリックに自らの頬を掻きむしる。

 

「最高の気分ですねェェェーッ!! レモンさァん、見ィィィーていますかァァァー!?」

 

 内側から湧き上がる高揚感。万能感。

 オオミカボシは際限なく暴れ回り、レーザー光を撃ち放ち、辺りのもの全てを焼き払っていく。

 

「貴方が手塩にかけて育てた後輩がッ!! 私の手でェ!! 無惨に壊される姿がァ──!!」

「……どうするのアレ」

「ギガオーライズは只でさえ負荷がかかるのに……あんなの使ったらポケモンだって長く持たないはずだ」

「って事は……耐え切るしかないってこと?」

「……オオミカボシが力尽きるその瞬間がチャンスじゃないかな……」

「ねえ転校生、もしかして万策尽きた……?」

「半分は当たってるね……耳が痛いよ」

 

 正直否定は出来なかった。しかし、正直オオミカボシから逃げられるとも思えない。

 背を向ければ撃たれるだけの話だ。

 己を奮い立たせるように、イクサは立ち上がると──倒れたパーモットに呼びかけた。

 

「でも……策が尽きたなら、後に残るのは力業だけだ──そうだよね、パモ様ッ!」

 

 ギガオーライズを超えたギガオーライズを前にして、立ち向かえるのは──イクサとパーモットだけ。

 ギン、と目を見開いたパーモットは頭の電球に稲光を迸らせながら起き上がる。

 

「ただでさえ消耗が激しいギガオーライズ以上の力を振るってるポケモンが、長い間戦えるはずもない」

「んなっ、無茶だよ転校生ッ!? まさか耐え抜くっていうの!?」

「その間に二人は態勢を立て直して!! ……時間は僕が稼ぐ!!」

 

 パーモットと共に突っ込むイクサ。

 その背中を追いかけようとして──デジーは倒れたミミロップに目を向けて足を止めてしまう。

 

「バカ、騎士ぶってんじゃないよ──!!」

 

 無理だった。今の自分の手持ちでは、逆にパーモットの足を引っ張ってしまいかねない。

 それほどまでに、力が乖離してしまっている。

 

(無理だ……何処までいっても、ミミロップはアタッカーのパーモットに攻撃力が及ばない……オオミカボシに有効打を与えるどころか、近付く前に撃墜されちゃう……!!)

 

 回復薬を注射で打ち込み、ミミロップを肩で担ぐデジー。

 既にパーモットとオオミカボシが壮絶な空中戦を繰り広げているのが見えた。

 

「何故貴方のような部外者がァ!! そこまでしてレモンさんを助けようと言うのですッ!!」

「愚問だよッ!!」

 

 その瞳に──紫電が迸ると共にパーモットの動きも徐々に加速していく。

 ”サイコイレイザー”を躱しながら拳を振るい、まるで飛び道具の如き”かみなりパンチ”を飛ばす。

 だがオオミカボシも頑強さ故か、一度や二度、それを受けたところで怯まない。

 それどころか”サイコイレイザー”を疲れた様子も見せずに放ち続けるのだった。

 

「自分の才能は……自分が面白おかしく生きる為に使うものだって思ってた。自分が勝って、生き残る為に使うものだって思ってた」

 

 しかし、その思惑はこの世界に来て早くも打ち砕かれた。

 この世界ではあまりにも自分はちっぽけで、脆弱で──持っている知識も何も役に立ちはしなかった。

 

「でも、違うんだ。重要なのは知識や力、才能じゃない──ッ!! 諦めない心だッ!! 逆境に立ち向かうハートだッ!! 僕はそれをあの人から教わったッ!!」

「ならば教えて差し上げましょうッ!! 諦めが肝心であるとォッ!!」

 

 オオミカボシとパーモットの頭がぶつかり合う。

 しかし──溢れ出るオシアス磁気に押し返され、パーモットが弾き飛ばされてしまった。

 それを狙うようにして”サイコイレイザー”が集中して放たれるが、電光化したパーモットは地面に急降下してそれを再び避ける。

 

「今度は……僕が示す番なんだッ!! 僕が逃げたら……誰があの人の手を取れるんだよッ!!」

「所詮は無意味に終わるだけなのに、無様に足掻こうとするとは──滑稽ですねェ!! 大人しくしていれば、こうして傷つかずに済んだものをッ!!」

「元はと言えば──お前の所為じゃないかッ!!」

「ぱもーぱもぱもっ!!」

 

 同じく怒り心頭のパーモットは両拳に電気を溜め込み、ラッシュを放つ。

 それを打ち返すかのようにオオミカボシもまた、レーザーを撃ち放つ。

 両者の勢いは互角──否、オオミカボシの方が余裕があった。ほぼ無際限に放たれる弾幕を前にして、パーモットは遂に被弾を許してしまう。

 

「パモ様ッ!?」

「ほうら見た事かぁ!!」

 

 ”サイコイレイザー”が集中して放たれ──パーモットは煙を上げながら落ちていく。

 それをイクサは思わず駆け出して受け止める。

 

「パモ様……ッ! ごめん、無理させて……」

「ぱもぉ……」

 

 ふるふる、と首を横に振るパーモット。

 レモンを慕っているのは彼も同じだ。

 そのために、まだ戦えると言わんばかりだった。

 イクサは回復薬をパーモットに打ち込む。しかし、幾ら体力が回復してもギガオーライズの負担は容赦なく二人を蝕み続ける。

 

(頭がくらくらして痛い……目が、重い……! そして出血が酷いからか? 脳が回らない……!!)

 

「……でも」

 

 イクサは──力を放出し続けるアトムと、オオミカボシを見遣る。

 ギガオーライズ時は、ポケモンが負うそれをトレーナーが半分以上代わりに受け止めているのではないか、とイクサは推測する。

 トレーナーとポケモン、両者の心がシンクロした時、最も強い力を得られるが──その代償に負担も共有しているのではないか、という理屈だ。

 そして、この条件はアトムも同じはずだ。

 

「我慢比べだ──どんなに無様でも、這いつくばっても──生き残った方が勝者になるッ!!」

「ぱもーっ!!」

「会長が倒れた時……僕達が立っていればそれで良い!!」

「冗談を……貴方、今まで何を見てきたんですかねェェェーッ!!」

 

(この世界が僕の知ってるポケモンの世界と大分違うのは──分かってる)

 

 何かが込み上げてきて──イクサは咽た。

 黒っぽい液体が掌にべっとりと付いていた。

 ギガオーライズの過重負荷は、パーモットのそれを肩代わりするかのようにイクサにも重く重く圧し掛かっている。

 

(掛け違ってはいけないものが掛け違ってしまった世界……居ないといけない人が居なくて、居たらいけない奴らがのさばってしまった世界……それが、この世界なんだ……ッ!!)

 

 口元を手で拭い去ると、更にどっと疲労感が押し寄せてきた。

 それでも、己の全てを摩耗させながら、イクサとパーモットは立ち上がる。

 

(パモ様……君も同じなんだね。こいつらが許せないんだ)

 

 視線が交差した。

 種族は違えど、共に倒すべき敵、そして守るべきものたちは共通している。

 

(でも、僕が一番許せないのは……皆が傷ついてる時に、この世界が滅茶苦茶にされてる時に、何にも出来なかった自分の不甲斐なさだッ!!)

 

 バチッとイクサの目から紫電が迸ると共に、パーモットが掌を打ち鳴らした。

 迫りくる”サイコイレイザー”が一瞬で雷鳴の元に打ち消される。

 

「──こんなゲームは終わらせるに限るッ!!」

「終わりませんよ……強者が弱者を搾り尽くすマネーゲームはねッ!! オオミカボシ、オオワザですッ!!」

「ハグルルルルルルルルルッ!!」

 

 がぱぁ、とオシアス磁気で構成された怪物の口が開く。

 そこに禍々しい紫電が溜め込まれていき──

 

 

 

「地平全てを平定する、唯一つの輝く星であれ──ッ!!」

 

 

 

【オオミカボシの ア・ステラ・ホライゾン!!】

 

 

 

 薙ぎ払うようにパーモット目掛けて降り下ろされる。

 あまりにも大振りの極太の閃光。それが夜の闇を一気に晴らす。

 故に、避けるのは容易かった。その予兆に気付いたデジーはすぐさまゴビットを繰り出し、コナツと共に離脱。すんでの所で極閃光を避ける事に成功する。

 

「ヤバ過ぎでしょ、何あのゲロビーム──!?」

「あまりの威力に狙いを付けられなかったようですが……!!」

 

 しかし──遅れて、何かがめきめきと崩れるような音が聞こえてくる。

 コナツはその方向を見やる。

 ()()()。音を立てて、炎と共に焼け落ちる建物が遠巻きに見える──

 

「あっちの方向って……!」

 

 彼女の顔が蒼褪めた。

 

「……ええ、ええ、()()()()()()()、コナツさん……我々を裏切った報いは受けて貰わないとねえッ!!」

「まさか──ッ!!」

「貴方達が一回目の”クロックワーク・リバース”から立ち直った理由!! ミルタンクのモーモーミルクをポケモンに飲ませましたねェ!? 貴女が余計な事をしてくれたおかげで、私の完全なる勝利に疵が付いたァ!!」

 

 デジーは双眼鏡を鞄から取り出し、その方向を見て愕然とする。

 炎上し、崩れ落ちているのはモーモーファクトリーの店だった──

 

「っ……デジーちゃん……!?」

「燃えてる……お店が……」

「あっちの方って、うちの──」

「許せない……アトム会長ォォォーッ!!」

 

 デジーの叫び。

 そして、アトムの口ぶりから全てを察したイクサは──

 

「ふざけるなッ!!」

 

 激昂し、パーモットも再びオオミカボシに組みかかる。

 だが、オシアス磁気の怪物は歯車を重ね合わせることで強固な盾を作り上げ、パーモットの拳を受け止める──

 

「届かないッ!! 届きませんねェェェーッ!!」

「よくも……ッ!! よくもそうやって、人の大事なものを好き勝手に──ッ!!」

「クラウングループに従わない異分子は排除するに限るのですッ!! 力づくで従わせ、地に這いつくばらせ、分からせてやれば良いのですッ!!」

「ッ……!!」

「貴方も……愚かですねぇ……!! いい加減、力の差というものを理解しなさァい!!」

 

 浮かび上がった歯車からレーザーが放たれ、パーモットを撃墜した。

 シンクロが途切れ、イクサの目から紫電が消える。

 同時に更に負荷がかかり、腕の筋肉もまともに上がらなくなっていた。

 全身をズタズタに切り刻まれたかのようだった。

 

(悔しい……起き上がってボコボコに殴ってやりたいのに……ッ!! 身体が、言う事を聞かない……!! パモ様も、限界なのか……ッ!!)

 

「……徹底的に、この世遍く全てを平定する。それが我々クラウングループのやり方なのです。大いなる目的の為に……ね」

「それでうまくいくと思ってるなら……流石に御目出度いなッ!!」

「?」

「力づくで従わせて、地に這いつくばらせる……!? 抵抗されないって、本気で思ってるのか……ッ!!」

「……死に体の癖にッ!!」

「必ず、お前達の喉を食い破りに行く……ッ!! 例え僕が此処で倒れたって!! 同じ志の誰かがお前を討ちに行く──ッ!!」

「それが遺言ですかァッ!! 漸く、自分に勝ち目がないことを理解しましたねぇ!!」

 

 レーザーの雨が再び降り注ぐ──パーモットの頭部の電球からは光が消えつつあった。

 その様を見て、コナツは立ち尽くすしかなかった。

 あまりにも力の差が大きすぎる。自分達が介入する余地すらない程に。

 ギガオーライズしているパーモットですら、苦戦を強いられている。

 通常のポケモンが割り込めば、却って足手纏いになってしまうことをコナツは理解していた。キャプテンであるが故に。

 

「……やっぱり、ダメだったんですよ、デジーちゃん」

「コナツ……?」

「諦めましょう……お店はまた建て直せば良いんですよ。それより、イクサさんが危ない……パーモットちゃんも……!!」

「……本気でそんな事思ってんの?」

 

 ぐいっ、とデジーはコナツの胸倉をつかんだ。

 

「コナツは悔しくないのッ!?」

「っ……」

「ボクは悔しいよ……! もっと自分が強ければ……ギガオーライズ出来れば……!!」

 

 元気の塊を飲ませ、回復薬の注射を打ち込んでミミロップを完全に回復させ終えたデジーは──弱腰な幼馴染を睨み付けた。

 泣きそうな顔で彼女は俯いた。だが──それでも振り絞るような声でデジーに告げた。

 

「悔しいに決まってるでしょう……!!」

「っ……」

 

 ぼろぼろ、と涙が零れる。

 

「モーモーファクトリーは私達の夢なの!! デジーちゃんみたいに、モーモーミルクが苦手な子も楽しめるような味をオシアスに広める為に建てたの!!」

「じゃあ猶更──!!」

「でもね、その夢の為に……デジーちゃん達を犠牲にしようとしたんですよ」

「ッ……」

「バチが当たったんです。きっと──だから、今は退きましょう。これ以上の戦闘は危険だから……離脱の準備を……!!」

「離脱なんかしないッ!! じゃあ、あそこで必死に戦ってる転校生は何なのさッ!?」

 

 怯えで震える拳を抑える。

 オオミカボシの”ラスターカノン”に貫かれた記憶が蘇る。

 だがそれでも──ボロボロで戦う背中をデジーは放っておくことなんて出来ない。

 

「……ボクはずっと負い目を感じてた。転校生を陥れたのは、ボクだったから。彼の隣に立つ資格なんて無いって思ってた」

「……それは」

「でも、間違ってた。大事なのは資格だとか過去だとかじゃない。今!! 今ボクがどうしたいかなんだっ!! ボクが行かなきゃ、誰が転校生を助けるのさっ!?」

「その所為でデジーちゃんにもしものことがあったら私は──」

「ボクは……転校生と一緒に戦いたいんだっ!! そして、コナツを泣かせたアトムをブッ倒すッ!! 今がその時なんだッ!!」

 

 駆け出すデジー。

 コナツは何か言いかけたが──喉から何も出はしなかった。

 その代わりに後ろから彼女を呼び止める声が飛んだ。

 

 

 

「待ちたまえッ!!」

「!?」

 

 

 

 聞きなれない声にデジーは思わず振り返る。

 新たな敵──と一瞬身構えたが、そうではないようだった。

 

 

 

「知ってるかい? どっかの地方のレイドバトルって奴は()()()()()()()()()()()()()()らしいねぇ?」

 

 

 

 イクサから口伝で聞いていた、ドーブルを連れた胡散臭そうな白衣姿の博士が立っていた。

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