ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第94話:フェーズ・2

「──今だッ!! ミミロップ、”なげつける”!!」

 

 

 

 ぐるん、と一回転して遠心力のままにミミロップが何かを投げ付ける。

 それは宙高く飛び上がり──アトムの視線は思わずそれに注がれた。

 早朝、まるで太陽の如く明るく光り輝いている。

 

「んなッ──!?」

「そして──ッ!! パモ様、打ち下ろせッ!!」

 

 更に、それ目掛けてパーモットが高く高く跳躍する。

 光り輝く対象は大きな目印。タイミングを合わせて大きく拳を振りかぶり、叩きつけた。

 ミミロップの投げた何かは軌道を変え、オオミカボシの歯車に挟まり、ガチン、ガチン、と音を立てて動かなくなるのだった。

 

「い、異物混入!? いけない、オオミカボシ!! 無理矢理砕きなさい!!」

「ハグルルルルル……!!」

 

 丁度歯車が噛み合う位置にそれは挟まり、オオミカボシはなかなか動き出す様子が無い。

 時の歯車が回らない以上、時間が巻き戻ることもなく、オオワザはそれ以上進まない。

 ただただ、()()()()()()()()()()()()のみが横たわる。

 

(気に食わないですねェ……転校生ッ!! 父上の命令の()()()とはいえ、やはり直接潰しに来て正解でした。貴方が居なくなって、絶望するレモンさんの顔こそが私のメインディッシュですからァ!!)

 

「小細工を……ッ!! オオワザを解除なさい、オオミカボシ──ッ!!」

「オオミカボシの融通が利かない所から察するに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

「ッ!!」

「そもそも、全ての行動の軸たる歯車が回らないんじゃあ、話にならない!!」

 

 つぅ、とアトムの額に汗が伝う。

 残る手持ちは4匹。それら全てを総動員してでも、歯車に挟まった異物を砕くまでにオオミカボシを護衛しなければならない、と判断する。

 

(プライドはこの際捨てるッ……!! 寮長相手ならいざ知らずッ──彼らに負けるのは、絶対にあってはならない──ッ!!)

 

 

 

 ──アトム。お前に敗北は許されない。我々クラウングループの悲願の為、お前は誰よりも強くなければならない。

 

 

 

(……でなければ、全てを賭して強くなった意味がない──ッ!! こんなやつら、蹴散らせなくて何が頂点かッ!!)

 

 

 

 アトムの細い目が開かれた。

 そして、一気に手持ちのポケモンをばら撒く。

 飛び出したのはいずれも鋼タイプのポケモン達ばかり。

 

(何かの……何かの間違いですッ……!! そうでなくては──ッ!!)

 

「ドリュウズッ!! サーフゴーッ!! ナットレイッ!! クレッフィッ!! 貴方達の出番です、奴等を排しなさいッ!!」

 

 鋼の異形たちが総出でイクサ達を抑え込みに掛かる。

 オオミカボシから敵を遠ざける為に。

 しかし──勝負は一瞬で付くことになる。

 開幕からミミロップの”とびひざげり”が土竜のポケモン・ドリュウズに炸裂して一撃でKO。

 続いては、ザングースがサーフゴーと打ち合い、そのまま黄金の身体に”つじぎり”を喰らわせて、霊体の身体を両断してしまう。

 残るは耐久力が高く、タイプが優秀なナットレイとクレッフィのみだが──

 

「パモ様ッ!!」

「ぱもーぱもぱもっ!!」

 

 電光雷轟のギガオーライズの本領が此処で発揮される。

 一瞬で間合いを詰めたパーモットは、ナットレイに触れるだけで電気を流し込み、機能停止させる。

 更に、続いてはクレッフィにも同様に触れる事で電気を流し込む。

 二匹共、身体が麻痺して動かないのか、そのまま地面に落ちてしまうのだった。

 

「や、役立たず共め──ッ!!」

「ポケモンの事も駒としてしか見ていないから、力を発揮させられないんじゃないかなッ!!」

「決定的に貴方と僕達とで違う所だッ!!」

「ッ……!」

 

 図星だった。

 だが同時に──その理由は彼の中では分かり切っていた。

 

(そう、そうです、私にとって全てはゲームの駒……私のポケモンは……()()()()()……ッ!!)

 

 ガチンと音を立てて、オオミカボシの歯車に挟まっていたものが砕け散る。

 歯車が再び音を立てて動き出す──

 

「今です、“クロックワーク・リバー……”!!」

 

 

 

「ハグルルルルルルルルルルル!?」

 

 

 

 次の瞬間、オオミカボシは音を立てて地面に落下。そのまま仰向けに倒れてしまう。

 何が起こったのかアトムは理解出来なかった。

 

「貴方一体、何をオオミカボシに投げ付け──」

「”でんきだま”だよ」

 

 イクサの言葉に、アトムの顔面から色が失われていく。

 投げ付ければ高圧電流を流し、ポケモンを麻痺させる道具だ。

 それが歯車に挟まり、砕かれたことで──その破片が一気にオオミカボシの内部へと隙間を通じて入り込む。

 

「さっき、砂嵐の中にオオミカボシは突っ込んでこなかった。鋼タイプは砂嵐が平気なはずなのに、不思議だよね」

「……ッ!!」

「だから気付いたんだ。想像以上にそいつはデリケートな生き物なんじゃないか……って。粉塵を避けただけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()のを避けたんだ」

 

 事実、あの時の砂嵐の勢いはすさまじく、内部では紫電が迸るほどであった。

 まともに受ければ、折角回復したのに、またしてもオオミカボシが麻痺してしまう。

 そうなればイクサ達に反撃の隙を与えてしまう──

 

「……でも、歯車に噛んだものはしっかり見ておくべきだったね会長。確かに殴っても蹴ってもそいつはびくともしないけど」

 

 結果、電流を帯びたそれは機械の身体中に散らばり──オオミカボシは横転。

 地面に転がり込んでしまい、起き上がらない。

 

「ずっと、ずっと、この日を、この瞬間を待ちわびていたんだ。僕が……狙ってなかったとでも思ったのか?」

「ッ……」

「耐えて、耐えて、耐え忍んで。プライドも恥も全部投げ捨てて、積み上げて──そして今、僕達は掴んでいるんだッ!!」

 

 一瞬、イクサとパーモットの瞳に電光が迸る。

 

 

 

「お前達を潰せる……今、絶好の瞬間(とき)をッ!!」

 

 

 

 激昂するアトム。

 だがもう全てが遅きに失した。

 パーモットは高く高く跳び上がり、右拳に電撃を溜め始める。

 更にそこに、地面を打ち鳴らしたザングースが砂嵐を巻き起こす。

 それがパーモットを巻き込み、姿を隠す。

 オオミカボシは、尚も起き上がり、砂嵐の中に”ラスターカノン”を撃ちこみ続けるが、照準が定まらず、パーモットを撃ち落とすことが出来ない。

 

「認めましょうッ!! 認めて差し上げますともッ!! 貴方達は強いッ!! いや、強くなったッ!! やはりこうして直々に視察しに来た価値があったというものッ!! しかし、それでも──」

 

 

 

【パーモットの ボルテック・ガンマバースト!!】

 

 

 

 雷が落ちたかのようだった。

 地が割れたかのようだった。

 宙からはパーモットの雷撃の如き拳が貫き、地中からはミミロップの鋼鉄の如く硬化した耳が穿つ。

 鋼の身体は砕け散り、オシアス磁気は放散し、歯車はあちこちに飛び散る。

 その様を──放心した様子でアトムは膝を突いて見つめるしかなかった。

 

「砕けた……オオミカボシが……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──子供の頃から、帝王学を叩き込まれた。

 頂点に立つ存在であれ。そうであれと願われ、望まれた。

 たとえ周囲に忌み嫌われようとも──力を以て全てを捻じ伏せる。

 有象無象を児戯の如く散らし、屈服させる。

 それこそがクラウングループのトップに立つ者としての在り方だ、と教えられてきた。

 父からは強いポケモンを与えられ、最強であることを願われた。

 生まれてこの方、ポケモン勝負で敗北したことなど一度たりともなかった。

 当然、そのような育ちが彼にとって負担でないわけがなかった。

 子供からすれば、不相応な”理想”を押し付けられるのである。疲弊しないわけがない。

 日々、勉学に追われる。日々、教育係からの叱責が飛び続ける。

 だがそれでも、頑張って来られたのは相棒である一匹のポケモンのおかげであった。

 

「……ミミズズ。貴方だけが、私のオアシスですよ」

「ミミズズゥ」

 

【ミミズズ ミミズポケモン タイプ:鋼】

 

 赤いボディの鋼鉄のポケモン・ミミズズ。

 ある地方で、たまたま視察中に出会い、こっそり捕まえたポケモンだった。

 父から与えられた他のどのポケモンよりも、アトムはこれをいたく気に入っていた。

 のんびりとした表情に、円らな瞳。すべすべとした鋼の身体。

 

「父のポケモンは、皆私を監視しているのですよ……安らげるのは貴方の傍だけです、ミミズズ」

「ズズゥ」

 

 子供の頃に自力で捕まえた、たった1匹のポケモン。

 寵愛を向ける理由など、それだけで十二分だった。

 決してバトルは得意ではなかったが、試合に出して悪目立ちさせて父からより顰蹙を買うくらいならば──と、アトムはミミズズを人目から遠ざけた。

 自分だけでいいのだ、自分のポケモンの魅力を理解しているのは──

 

 

 

「──いつまでそいつを持っているつもりだ? そんな醜いポケモンは、我が社のCEOに相応しくない」

「……」

「そんなに俺の与えたポケモンが気に食わんかね、息子よ」

「そういうわけでは──」

「俺の言う事に従え。頂点に立たぬ限り、人は()から抜け出せない。お前もまた、例外ではない」

「ッ……」

「去年同様、学園の頂点に立て。これは──決定事項だ」

 

 

 

 ──父は、ミミズズを気に入らないようだった。

 

「……貴方を認めさせるには、強くなってもらうしかありません」

「ズズゥ……」

「……長く険しい道ですが……私は容赦しませんよ、ミミズズ」

 

 シトラスグループの令嬢・レモンは、ピカチュウで名だたる学園の強豪を打ち倒している。

 彼女に出来て自分に出来ないことなど無い。

  

 ──ましてや、ミミズズは鋼タイプでありながら地面タイプを無効にできる特性、高い防御力がある……!! あまり気は進みませんが、ミミズズの力を示せば、お父様にも──ッ!!

 

 迫る学園最強決定戦。

 生徒会の長として、力を示す時。

 昨年のように各寮長を打ち倒し、名実ともにアトムが学園の頂点であることを証明できれば──父にもミミズズが認められる。

 そうアトムは考えていた。しかし結果は──

 

 

 

『2回戦終了──前年度優勝者のアトム生徒会長、此処で堕つ!!』

 

『次回戦に進むのは、レモン選手だ──ッ!!』

 

 

 

 ──圧倒的な大敗であった。

 アトムは、何が起こったのか理解が出来なかった。

 1年の時とは比べ物にならない程の速度で、レモンとピカチュウは成長していた。

 オーデータポケモンに頼ったから、と言う言い訳をさせる余地もなかった。ミミズズを含むアトムのポケモン達は──全て叩きのめされたのである。

 断っておくと、これはアトムが弱くなった訳ではない。あまりにも相手が悪かっただけの話である。

 もし此処でレモンに当たっていなければ、アトムは間違いなく決勝戦まで行けるポテンシャルはあったのだ。

 只々、相手が悪かったのである。

 

(負けた? 負けた負けた負けた? 私が頂点であるという証明は──?)

 

 虚脱感のまま、アトムは生徒会本部に帰る。

 どうやって戻ったのかなど覚えていない。あまりにも鮮烈で無惨な敗北だけが心に刻まれていた。

 次に覚えているのは──大会が終わった後、気が付くと手持ちやボックスから相棒の姿が消えていた事である。

 アトムは思い出す。

 大会終了後、自分の寮の部屋に、クラウングループの社員がマスターキーを使って出入りしていたのを。

 最初はいつものように荷物を届けに来たのだと思い、気にも留めていなかった──それどころではなかった──からであるが、1つ恐ろしい可能性に辿り着き、彼は急いで父に連絡を取る。

 

 

 

「お父様、私のボックスからミミズズが消え──」

「──処分した」

 

 

 

 返ってきたのは、想像以上に酷な現実であった。

 父の言葉には抑揚が無かった。

 

「ッ……!? は、え、処分──」

「社員たちに、お前のボックスにアクセスして引き出させた。鋼タイプの弱点は知っているだろう。()()()

 

 アトムは──全身から力が抜けていくのを感じた。

 相棒は、もうこの世に居ない。

 

「処分って、処分って……!!」

「我が社の溶鉱炉は優秀でな」

「ひ、酷いです、お父様、幾ら何でも──」

()()()()()()()に執着しとるから、シトラスグループの小娘に敗けるのだ貴様はッ!!」

 

 罵声が飛ぶ嵐のように。

 ショックに打ちひしがれる余裕もなく。

 アトムは、たった一度の敗北で、たった1匹の相棒を喪った。

 声など聞こえはせず。彼は──淡々と父の言葉を肯定するのみだった。

 

「……俺の美しき理想の世界に、俺が醜いと認めたものは不要」

「はい、お父様……」

「……そうと分かればレモン・シトラスを潰せ。我がグループの顔に泥を塗ったあの小娘は……いずれ我々の障害足り得る」

「……ッ」

「お前の弱さが、クラウングループの綻びになるのだぞ──弱い者に執着する者は、弱くなる」

 

(私の、弱さ……)

 

「──弱さを捨てろ息子よ。それが、美しき理想の世界の王に相応しい矜持だ」

 

 乾いた笑み。

 怒り、憎悪、喪失感。

 後から溢れ出るのは、憎悪。

 何事も無かったかのように涼しい顔で称賛を浴びる彼女への憎悪であった。

 今も相棒を肩に乗せ、微笑んでいる彼女が憎くて仕方がなかった。

 

 

 

(私の残る全ての命を以てしても……貴女を弄んでみせますとも、レモン・シトラス……ッ!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ハグルルルルルルルルルルル!!」

 

 

 

 アトムの瞳から、黒い炎が漏れ出す。

 それに呼応するようにして、バラバラになったオオミカボシの身体が──再び元の通りに組み上げられていく。

 

「はぁっ!? ウッソ!? 何で!?」

「倒したはずじゃあ……!?」

 

 周囲には先程を遥かに上回るオシアス磁気が充満していた。

 オオワザの反動で動けないパーモットを吹き飛ばす勢いでそれは放出されていく──

 

(ウソだろ!? オオワザに弱点技!! ”のろい”の削りダメージも入ってるッ!!)

 

(あれで倒れないポケモンなんていないはずなのにっ!!)

 

(な、なんだか、危ない空気になってきましたよぉ……!?)

 

 アトムは笑みを浮かべた。

 

「感謝しますよ、貴方達に。嫌な事を思い出させてくれたことを。()()()()()()()()()ということを。それは私もまた例外ではなかったということをッ!!」

「……何だ、どうなってるんだ、これは……!?」

「ですがねぇ、私は駒なんかじゃあない、お前達が、お前達こそがゲームの駒だッ!! 私が全てのルールを支配する、ゲームマスターだッ!!」

 

 バラバラに分かれた歯車が、両側面に移動し、プラズマによって浮かび上がる。

 先程までのダメージが無かったかのようにオオミカボシは巨大な歯車の隙間から黒い炎を噴き上げて起き上がった。

 

「ギガオーライズ……!? いや、これは何かがおかしい!? どうなってるんだ……!?」

「ぱももぉ!?」

 

 絶対的だと思われていた勝利が潰えた事だけは確かだった。

 今まで押し隠されていた憎悪や悪意が、オシアス磁気を通してイクサにも伝わる。

 全身が寒気立ち、生命の危険さえ感じさせる。

 これまでのアトム、そしてオオミカボシとは何かが違う。

 

 

 

「理解も、共感も、同情も、賞賛も……何も要らない。私は孤高の頂点、唯一つの星たれ──ッ!!」

 

 

 

【オオミカボシ<ギガオーライズ・フェーズ2> タイプ:鋼/エスパー】

 

 

 

 ギガオーライズを超越したそれは──歯車の怪物となり、イクサ達に立ちはだかるのだった。

 

 

 

「……さあ、終わりの始まりです。全てを喪う覚悟はできましたか?」

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