ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第92話:すげぇよミカは

 雷光が迸る。

 デジーも、コナツも思わず息を呑んでしまった。

 女子のような可愛らしい顔とは程遠い、修羅の如き形相で──少年は宿敵を睨み付けていた。

 

「……二人とも、遅れてごめん」

 

 息を切らせ、肩を上下させているものの──イクサは確かにそこに立っていた。

 

「……おやおや、やっとお出ましですか、イクサ君」

「クラウングループは……世界征服でもするつもりか?」

「世界征服は手段の一つでしかありませんよ。我々には只、広大な土地が必要なだけです。それを何に使うかは──私の父のみぞ知るところですがね」

「そんな事の為に、レモンさんや皆を追い込んで……お前達が居ると、デジーも、レモンさんも笑えないッ!! 奪ったもの全部返して、謝れッ!!」

 

 パーモットが頬を擦り、電撃が身体に迸っていく。

 体力は既に回復薬で満タンになっている。ギガオーライズによる疲労こそ蓄積しているが、戦う力は残っている。

 問題は、オージュエルが過熱していること、そして何よりイクサに掛かっている過重負荷によって、3度目のギガオーライズは望めないことだ。

 もしも切ったが最後、イクサは自分がその瞬間に地面に倒れ伏せるであろうことを察していた。

 それほどまでに魂を引っこ抜かれるような感覚を覚えたのだ。

 しかし、過熱して使えないのはギガオーライズを行う黒いオージュエルの話。

 イクサはオオミカボシを睨みながら、熱を放ち続ける宝石を火傷覚悟で取り外して換装した。

 今、この腸が煮えたぎるような思いは──石の熱さだけでも隠せない。

 

(ギガオーライズが出来なくとも、通常のオーライズなら出来る……ッ!! こいつを此処で倒す──アジュガさんとの特訓を活かす──ッ!!)

 

「──ですがねぇ貴方、例の戦いを見ていなかったわけではないでしょう?」

 

(確かにオオミカボシは強い──ッ!! だけど逆に考えるんだ、アトム会長はどうやってオオミカボシを捕まえた?)

 

「それでも尚、私に立ち向かってくる。面白いですねえ……まさかオオミカボシ1体だから勝てるとか……微塵でも考えているのではないでしょうね?」

 

(必ず、必ずだッ!! あの無敵とも言える瞬間移動にも、オオワザにも、()()があるはずなんだ……ッ!!)

 

 貴方達は手出し無用、と狂犬部隊たちに指揮すると、アトムは不敵に笑みを浮かべてみせる。

 

 

 

「……せいぜい足掻いてみれば良いでしょう。オオミカボシ相手に何処までやれるか、楽しみですよ」

 

【オオミカボシ オーデータポケモン タイプ:鋼/エスパー】

 

 

 

「……転校生、気を付けて。タイプが分かり切ってても、オオミカボシは速過ぎる……ッ!!」

「瞬間移動と、ギガオーライズ後のオオワザか」

「ちょ、ちょっと二人とも、まさかまだ──」

 

 狼狽しながらコナツが止めようとする。

 オオミカボシからは溢れんばかりのオシアス磁気がとめどなく漏れており、その力はキャプテンである彼女でさえも怯えるものであった。

 数あるオーデータポケモンの中でも明らかに格が違うと思わされてしまう。

 だがそれでも──言えることがある。

 

「だって()()()()()()()()、ボク達」

「まだ戦ってすらいないから当然だけど」

「──愚かですねえ──寮長達が目の前で焼き鳥にされたのを覚えていない御目出度い頭には惚れ惚れしますよ」

 

 オオミカボシの巨体が再び消える。

 今度はイクサ達の背後に回り込み、”ラスターカノン”を三発、歯車から射出。

 地面を薙ぎ払っていく。しかし、消えた後に出現して攻撃するのが分かっているなら、対処は容易い。

 狙いが正確過ぎる故に、射線を切られてしまうと簡単に攻撃を見切られてしまうのである。

 だが、そんなことはアトムとて分かっている。”ラスターカノン”の軌道が直線的であることなど、分かり切っていることなのだ。

 故に不意の一撃によって、敵を殲滅することを彼は計画する。

 

「”だいちのちから”で地面から攻撃なさいッ!!」

 

 パーモットの足元が揺れる。

 赤熱したそこから溶岩が溢れ出す。

 飛び退こうとするが、ノータイムで起爆したそれを避ける手段など無い。

 しかし──

 

「ゴビット! 今度は君の番だよっ!」

 

 デジーが咄嗟に繰り出したゴビットは、降り立つなりパーモットを抱えると、足からジェット噴射で空に逃げる事で離脱。

 辛うじて弱点技である”だいちのちから”を避けることには成功する。

 

「ッ──誰に鍛えられたのか知りませんが──なかなかの機動力ですねェッ!! 大方、キャプテンのどっちかに稽古でも付けて貰ったってところでしょうかァ!?」

 

 オオミカボシの放つ”ラスターカノン”を掻い潜り、駆け抜けていくパーモットとゴビット。

 圧倒的で、強大な敵を前にひるまずに立ち続けるイクサとデジー。

 それを見つめながら、コナツは己の胸元で手を握り締めた。

 

「何で──何で戦えるんですか……?」

 

 

 

 ──キャプテン達は既に捕縛した。会社の経営権も我々が買い取った。

 

 

 

 ──済まない……コナツ。しかし、従業員とヌシ様の命を取られては、私は……。

 

 

 

 ──そんな、お父様……。

 

 

 

 ──賢い選択をしたまえよ、オシアス最後のキャプテン……コナツ君。

 

 

 

「勝てる相手じゃないのに……此処で勝ったって終わりじゃないのに……」

 

 振り絞るように、コナツが問いかける。

 クラウングループの強大さを目の当たりにした後、彼女は完全に恐怖に支配されてしまっていた。

 身内も、己が守護するヌシポケモンも人質に取られ、戦い立ち向かう気力など無くしてしまっていた。

 元より穏やかな気質の彼女には、土台無理な話であった。

 しかし、それでも──

 

 

 

「うっさいなァッ!!」

「相手が誰であっても勝てば……良いだけだッ!!」

 

 

【──ゴビットのシャドーパンチ!!】

 

【──パーモットのマッハパンチ!!】

 

 

 

 ──両者の拳は、初めてオオミカボシに有効打を与えた。

 ラスターカノンを射出する直前、パーモットとゴビットは一気に距離を詰めてその拳を叩きつけたのである。

 巨体は揺らぎ、またしても光線は暴発に終わる。

 その様を見て、アトムもまた──驚愕に顔を歪めるのだった。

 

(──!? オオミカボシが瞬間移動出来なかった……ッ!?)

 

(当たった! 無制限に消えられるわけじゃないのか──ッ!!)

 

 一気に距離を取るオオミカボシ。

 ガチャガチャと音を鳴らしながら、その目玉でパーモットとゴビットを漸く「敵」として認識する。

 

「此処で勝って終わりじゃないなら……次も、その次も勝ち続ければ良いだけの話だコナツさん」

「それに……清算しなきゃいけないんだ。ボク自身の手で犯した間違いは、ボク自身の手で終わらせるッ!!」

 

(……私は、イクサさんやデジーちゃんみたいに、強くない……)

 

 

 

 

「一撃入れた程度で好い気にならないで貰いたいですねぇぇぇーっ!! この私が……オオミカボシが堕ちることなど、あり得ないのですよォッ!!」

 

 

 

 直上。

 既にオオミカボシは瞬間移動していた。

 そして、レーザーの射出口である歯車の中心にエネルギーを溜め込んでいる。

 

「星が瞬くような素晴らしい夜にしましょう。”サイコイレイザー”ッ!!」

 

 

 

【オオミカボシの サイコイレイザー!!】

 

 

 

 星が瞬くかのようだった。

 空から無数のレーザー光が降り注ぐ。

 正確に、刺し穿つかのように緻密な射撃。

 避けても避けても、袋小路に追い詰めるかのような執拗な軌道がパーモット達を追い詰めていく。

 

「や、ヤバい!? ラスターカノンの比じゃない!?」

「これが本命か!! パモ様!! 回避に──」

 

 そう言いかけてイクサは咄嗟にデジーを庇う。

 こちらにもレーザーが次々に飛んでくる。

 こちらが避けるので精一杯で、ポケモン達に気を遣っている場合ではない。

 

「そんなっ……パモ様ッ!!」

「ゴビット!?」

「……終わりましたねえ」

 

 砂煙が爆発で巻き起こり視界が見えない。

 オオミカボシは既にエネルギーを放出しきっており、冷却に入っていた。

 その視線の先には、穴だらけになったパーモットとゴビットが倒れている──はずだった。

 

 

 

「……正確過ぎる狙いは、逆に仇となります」

 

 

 

 刺し穿つようなレーザーの雨。

 それを受け止めたのは──ザングース。

 パーモットとゴビットを背中で庇ったのである。

 2匹共無傷。そして、ザングースもそれを受けて尚、健在と言った様子だ。

 

「……コナツのザングース!?」

「”げんきのかたまり”で……もう少しだけ頑張ってもらう事にしました」

「……ッ!!」

 

 殺意の籠った視線をアトムは彼女に向ける。

 

「……会社がどうなっても良いんですね? コナツさん」

「……分かりません。自分がやってることが正しいかどうかなんて。だけど、今此処で()()()()()を裏切ることなんて……私には出来ませんっ!!」

「コナツさん……っ」

「私は、お二人のように強い心があるわけじゃない。でも……今此処でやるべき事は……」

「成程ォ。どうやら──全員此処で処分されるのがお望みのようだ──ッ!!」

 

 オオミカボシが再び直上に瞬間移動を行う。

 邪魔なザングースを撃ち貫く”はどうだん”の態勢だ。

 だが、その前にザングースは怒りのままに拳を砂地に叩きつけた。

 

 

 

「ザングース、”すなあらし”ッ!!」

 

 

 

 周囲に特大の砂を含んだ大竜巻が起こる。

 アトム、そしてオオミカボシの視界は砂に阻まれ見えなくなった。

 イクサ達の姿は完全に隠れてしまう。

 更に、精密機械であるオオミカボシは、歯車の間から砂を一気に吸い込んだことで、不調をきたし、エネルギーのチャージが遅れてしまった。

 その上、凄まじい砂嵐の中では、砂と砂が擦れて静電気が起こり、それが極大まで高まる事で──雷さえも巻き起こす。

 確かに”はどうだん”は撃ち放たれれば必ず相手に命中する技だ。

 だが──この砂嵐の中では、オオミカボシはまともに技を撃つことすら出来ない。

 

「いけません、オオミカボシ!! 一旦引きなさい!!」

 

 アトムもまた、砂嵐を前に退くしかない。

 巻き込まれれば自分も無事では済まない。

 そうして、砂嵐が止んだ時──既に、3人の姿は無かった。

 

「……やはり、キャプテンはキャプテンでしたねぇー……」

 

()()()()の如く、砂嵐の目に隠れて雲隠れしましたか……しかし、逃げられはしませんよ。私と、オオミカボシの前からはね)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はいっ、栄養たっぷりモーモーミルクですよぉー♪」

「あ、ありがとうございます」

「持ってきてたんだ、ビンごと……うえ、でもやっぱり苦手だこのニオイ」

「ダメですよぉ、デジーちゃん。強敵を前に精を付けておくのは大事ですからぁ。人間でも一気に体力を回復できますっ」

 

 そう言って、コナツは鞄からモーモーミルクの瓶を取り出す。

 独特の癖があるものの、飲み干すと抜けた力が戻ってくる。

 それどころか、体中から気力がわいて漲ってくるかのようだった。

 

「凄い、ギガオーライズで消耗した体力が一気に……ッ!!」

 

 イクサは拳を握り締める。

 これならば、たとえもう一度ギガオーライズしても踏ん張ることが出来そうだ。

 既に身体に掛かっていた負荷は解消されつつあった。

 

「その代わり、飲み過ぎると太っちゃうので要注意ですよぉ。私も飲み過ぎで太っちゃって……」

「……」

「……」

 

 たゆん、とたわわな胸が揺れて、イクサもデジーも生唾を飲んだ。

 そして彼女の体型事情を知っているデジーは「よく言うよ……」と悪態を吐く。

 あの外見に反し、言うほど腹に肉は乗っていない上にくびれがあるのだ、彼女は。

 それはさておいて、モーモーミルクや元気の欠片のおかげで、消耗していたポケモン達の体力は全快した。

 オージュエルのクールダウンも終わり、ギガオーライズを使う準備も出来ている。

 問題は、今この瞬間にアトムが乱入してこないか、であるが。

 

「助かったよ、コナツさん。やっぱりキャプテンは凄いや。オオミカボシの動きを止めた上に、こんな準備まで」

「……私はすごくないですよぉ」

 

 コナツは目を伏せる。

 デジーを裏切って襲撃した事への負い目があるようだった。

 一方のデジーも、昔アトムに協力していたことへの負い目か、気まずそうにコナツから目を逸らす。

 何があったのか分からないイクサだったが、空気が微妙になっていることには気づきつつあった。

 それでも自分から口を出す事では無いので、彼から何かを言う事はしなかった。

 

「えっと、僕──向こうの様子を見てきますね」

 

 

 

「……ごめんなさい、デジーちゃん」

「コナツ、ごめんっ!!」

 

 

 

 イクサが立ち去ろうとした瞬間、両者は同時に切り出した。

 声がハモり──思わず二人は苦笑する。

 先に言いだしたのは、コナツだった。

 

「……焦ったんです。家に帰ったら……クラウングループの人たちが占拠してて……お父さんも、お母さんも……何も出来ない状態で」

「家にクラウングループの社員たちが……!?」

「はい……会社を買収して、ヌシ様を捕獲するって言って脅して来たんです。私は……二人の夢である会社を守る為に……御二人を捕まえることを選びました」

「そんな……! やっぱりなんて連中だ、ポケモンを人質に会社を買収するなんて、犯罪じゃないか」

「オシアスの司法は機能していない、その意味が分かりました。モーモーファクトリーだけではありません。現在、他のキャプテン達も、無実の罪を掛けられて捕まっているようです」

「そんなっ!?」

「トトさんと、アジュガさんが……!?」

 

 イクサ達は、あまりの敵の横暴っぷりに閉口する。

 警察機構は既に腐り落ちてしまっていることの証左だった。

 そして、遂に3人目のキャプテンであるコナツにも──魔の手が伸びたのである。

 彼女は買収と脅迫によって味方に付けるという形で。

 

「私、デジーちゃんが悪い事をしていないのは知ってました。分かってました。でも──結局、両方共選べませんでした」

「そんなの選ばせる方がおかしいッ!! 選ぶ必要なんてないッ!!」

「っ……」

 

 イクサは思わずコナツの肩を掴んで叫ぶ。

 彼らの所業に、思わず心が昂ってしまったのだ。

 

「両親も、ポケモンも、親友も! 天秤にかけることが出来ないくらい、コナツさんにとって大事で大好きなものじゃないか……!! それを人質にとって、コナツさんに迫ったあいつらが悪いんだ!!」

「イクサさん……」

「だから、コナツが負い目を感じる必要なんてない。コナツは悪くない」

 

 励ますようにデジーが言った。

 

「確かに敵は強いかもしれないよ。でも、コナツのおかげでポケモンもボクたちも、まだまだ戦える。勝てない戦いなんて、無いよッ!」

「……優しいし、強いんですね、お二人は、私は結局どっちつかずで……」

 

 その証拠が、このモーモーミルクだった。

 何処かでデジー達のポケモンを助けるのに使おうと考えていなければ、はなからこんなものは持ってこない。

 彼女には当然、少なからぬ迷いがあったのである。

 結果的に今こうしてイクサ達はそれに助けられることになったのであるが。

 

「ボクだって……強くなんてないよ。お金に目が眩んで、アトム会長に協力して、転校生を──レモン先輩を陥れようとしたのは事実だかんね」

「デジーちゃん……」

 

 さっきアトムが言っていたことは全部事実だ、と言わんばかりにデジーは全てを彼女に話す。

 一方、コナツも発明に関する彼女の懐事情は知っていたのか──静かに頷きながらその話を聞いていた。

 だんだん悪の道に落ちていく親友を止める事ができなかったのはまごう事なき事実で、それに少なからず彼女も責任を感じていた。

 

「結局、ボクはアトム会長にこっぴどく捨てられて……レモン先輩に拾われた。転校生に救って貰った。だから……今度は二人の為に戦う。それだけ。正義感とか、そういうのがあるわけじゃないんだ」

「僕はもう昔のことは気にしてないけどね」

「気にしなさすぎだよ、転校生は……」

「……そういうことだったんですね。イクサさんと、この場には居ませんが……レモンさんにはお礼をする必要があるようです。改めて、デジーちゃんを助けてくれてありがとうございます」

「礼には及ばないよ。当然のことをしただけさ。だから、此処から先の戦いも──僕達を信じてついて来てほしい」

「もう、まーたキザな事言って女の子口説いてるよ転校生がぁ」

「そ、そういうつもりじゃあ」

 

 歯の浮くようなことを息するように言ってのける彼に、苦言を呈するデジー。

 だが、嫌いではない。実際彼のそんなところに皆は惹かれるのだ。

 言葉だけではなく、行動を以て苦難に立ち向かう不屈の心に。

 

(そうだね。だからきっとボクも──)

 

 いつの間にか熱を帯びた視線をイクサに向けていたデジーは「んーん、今言う事じゃないよね」と首を横に振る。

 

「今は、オオミカボシへの対抗策を考えようよっ。3人とポケモンが居れば──」

 

 

 

「やはり、此処に居ましたか」

 

 

 

 上空からレーザー光が降り注ぐ。

 町から離れた岩場は、空からの追跡を阻むようにところどころがアーチ状になっていて、イクサ達はそこに潜んでいた。

 だが、小細工はアトムとオオミカボシにとっては無意味だったようである。

 

(見つかったッ!?)

 

(流石に早い──!!)

 

「……さあ、ネズミ捕りの時間です。終わったら、レモンさんを捕まえにいかねばならないのでねぇ、手短に終わらせますよッ!!」




【DETA】
オオミカボシ オーデータポケモン タイプ:鋼/エスパー
種族値:H100 A55 B110 C115 D100 S105
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