ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「ミミロップ……
「──ッ!?」
目論見も、企みも、全てその一声で打ち砕かれたことをコナツは察した。
後ろ手にデジーがボールからポケモンを出していたのである。
間に割って入るかのように、ミミロップが天井を蹴って飛び掛かり──扉からぬるりと這い出てきたそれを打ち砕くべく拳を振り下ろした。
【ザングース(オシアスのすがた) ネコイタチポケモン タイプ:地面/悪】
傷の如き模様を持つイタチのポケモンが、ミミロップと互角に打ち合う。
「……やめなよ。ボクに不意打ちで勝てるわけないよね」
「……流石ですね、デジーちゃん」
「にしてもザングース? いつの間に」
「カフェに厄介な客が出てきたときの為に用意してた子ですよ」
「……にしちゃあ強くない? ミミロップと打ち合えるなんて……!」
勢いを付けた拳による急襲。それをいなす華麗な手刀。力は大きく受け流され、ミミロップは地面に着地、再び構えを取る。
互いに距離を取り合い、睨み合う姿勢に。
先程までの朗らかな表情は何処へやら。デジーは既に臨戦態勢を取っていた。
「で、質問に答えてよ。どういう了見? ボクがオヤツに騙されるなんて本気で思ってた?」
「……ええ」
「ちょっとそれナメ過ぎ!! コナツの中でボクは何歳で止まってるんだようっ!?」
「冗談ですよ。でも、やっぱりデジーちゃんに小細工は通用しないですね」
「……コナツってさ、ボクと何処までも真逆なんだよね。ウソを吐くのが、昔っから下手クソ!!」
「……」
「心配になって様子を見に来た? 着替えもせずに? 後……お風呂入ってないもんね、誰よりも身だしなみに気を遣うのにさ」
「──ッ」
「僕が機械いじりになると夢中になるの知ってて……気が緩むと思ってた。でも、コナツは優しいから──完全に闇討ちなんて出来なかった、違う?」
「……概ね、その通りです」
「何でこんなことするの? 冗談でやって良い事と悪い事があるよね」
苦々しい表情を浮かべ──コナツは吐露した。
「……ダメなんです、デジーちゃん。これ以上は……デジーちゃんも、私の大事な人たちも傷つくだけなんです」
「……コナツ? もしかして、あいつらに
「勝てっこないんです。それなら私は……デジーちゃんを此処で倒してでも……大事な人たちを守るしか……ッ!!」
怯えたように呟くコナツ。
ザングースは赤黒い残光を瞳から迸らせながら床を蹴り、デジー目掛けて飛び掛かった。
(明らかに様子がおかしい……! 何かあったとしか思えない……ッ!)
だが、それをもふもふの毛皮で受け止めながら、ミミロップは抑えつける。
両者の実力は拮抗しており、互いの打撃を受け流し合い、空中でインパクトを相殺するのを繰り返す。
思わずデジーは後ろを見やった。まだ修理中のアンドロイドが寝そべったままだ。
(此処で暴れたらヤバい──ッ!?)
「──此処は場所が悪いです。舞台を変えましょう、デジーちゃん」
「……? あ”ッ!?」
気が付くと、ザングースの手にはモンスターボールが1つ、握られていた。
半透明のケースの中には、クエスパトラのオーデータ・ポケモンが機能停止したまま眠っている。
暴れ出してはいけないので、あの後ずっとボールの中に放置したままだったのである。
それがこの場では悪い方向に働く。助っ人を期待する事が出来ない。
そのままザングース共々、コナツは地下から脱し、デジーもそれを追いかける形でモーモーファクトリーの外へ飛び出すのだった。
辺りは薄暗く、既に朝焼けが嫌に明るく目に付く。
徹夜明けには苦しい。眠い目を擦りながら、デジーは幼馴染と相対する。
「……クラウングループに脅されたとか?」
「──ッ」
「あいつらならそれくらいやるよね。人質でも取られた?」
「……問答無用ッ!!」
「聞く耳持たず!?」
「……ザングース、此処からが本番です。毒袋から毒を噴き出させなさいッ!!」
毒素を全身から噴き出し、活性化させたザングース。
全身は毒によって侵されていくが、代わりに体細胞が活性化し、ザングースの目の光が更に強くなっていく。
赤い光が飛び交い、ミミロップを切り裂くべく舞い踊り続ける。
「なぁっ……!?」
「私の心配ならば無用ッ!! 気後れするなら──その隙を突き、私は完膚なきまでに──あなたを倒しますッ!!」
「……ガラにもないことを言ってんじゃないよッ!!」
「それで、デジーちゃんは──諦めるんですか? 諦めたりなんか、しませんよね……?」
「ッ……」
組み伏せられるミミロップ。
”どくそかっせい”によって狂化したザングースの力は、通常よりもさらに膨れ上がっている。
特性による効果とは別に、毒素が全身を刺激し、全身の筋肉を活性化させているのだ。
だが、迷いなく攻撃を加え続けるザングースに対し、コナツの顔はどんどん憔悴したように引き攣っていく。
焦り。迷い。それが押し隠せていない。
「──コナツは優しすぎるよ」
「……っ」
「だから、
「……! 分からないです。デジーちゃんみたいに、強い子に私の気持ちは──ッ!!」
【ザングースの どくづき!!】
鋭く尖った爪を舐めると、毒液が滴り落ちる。
活性化した筋肉に任せ、地を蹴り、ザングースは爆走する──
「ッ……ミミロップ今だ!! ”すりかえ”!!」
一瞬、ザングースの身体が大きく沈みこむ。
”すりかえ”によって、”こうこうのしっぽ”を渡されてしまったのだ。
これでは自慢の速度を生かすことも出来はしない──
「”なげつける”!!」
「!?」
──そう思われた。
足に括りつけられた”こうこうのしっぽ”を引き千切ると、思いっきりザングースはそれをミミロップに投げ付ける。
”なげつける”は、自身の持っている道具を相手に直接ぶつけることで攻撃に転用する技だ。
その効果は持っている道具によっても変わり、威力も変動する。
だが、この技のもう一つの側面は──相手に押し付けられた不利な道具を、投げ返すことで無効化することが出来る点だ。
それが顔面にぶつかったことで仰け反り、悲鳴を上げるミミロップ──
「これで速度は元に戻りました。……”フェイタルクロー”!!」
深々と──爪がミミロップに突き刺さる。
毒素が一気に流れ込み、その身体を蝕んでいく。
間もなく、どくん、どくん、と音を立ててミミロップの動脈が浮かび上がっていき、彼女はそのまま頭を垂れてしまうのだった。
「その状態では、もう長くは持ちません」
「……毒状態か……!」
「”ぶきよう”なミミロップでは、”こうこうのしっぽ”を拾ってもう一度”すりかえ”る事も出来ないはずです。……終わりですよ」
ザングースが大きく腕を振り上げ、爪をミミロップの首目掛けて──振り下ろす。
「トドメの”フェイタルクロー”!!」
「──オーライズ──”ホルード”!!」
空振るザングースの腕。
爪は空を切り、辺りには砂煙が巻き起こる。
「ッ……何処に──まさか地中!?」
「──ホルードのオオワザ、”あなをほる”!! これで地中に身を隠した!!」
「でも──それが分かっているなら……! ザングース!! ”じしん”で地中のミミロップを攻撃なさいッ!!」
「させないッ! 攻撃の前、その一瞬が命取りだッ!! ”とびはねる”!!」
ザングースが地面を揺らそうとする刹那、ミミロップは高速で回転しながらその背後から飛び出す。
地面はザングースが足を踏み鳴らしたことで大きく揺れるが──その頃には既に、ミミロップは空中へ逃げている。
「ッ……デジーちゃんは、いつだってそう……身軽で、誰にも縛られない、自由に生きてて……」
「コナツも一緒に来なよ!!」
「……え?」
「何を言われたのか知らないけど! どう脅されたのか知らないけど! あんな奴らの言う事聞いたって、仕方ないでしょ!? 都合の良いように使われて捨てられるだけ!」
強力な技には少なからず反動が付き物。
ザングースは直ぐに回避行動に転じる事が出来ない。
地面が揺れ終る頃には既に、ミミロップは着地の姿勢を取っていた──
「ボクを信じてッ!! 天才のボクを頼れよ、コナツッ!!」
「……っ」
──何? また壊したの? ……コナツは本当に機械に弱いなあ。天才のボクにまっかせといてよっ!
「”とびひざげり”!!」
ザングースの顔面に、ミミロップの膝が思いっきり直撃する。
ごぎっ、と何かが圧し折れたような音と共に、ザングースは砂の地面に倒れ伏せるのだった。
「……ザングース……ごめんなさい。私が不甲斐ないばっかりに……」
「……」
物悲しそうにコナツはボールにザングースを仕舞う。
そして「やっぱりダメでした」とデジーに向けて呟いた。
「……ねえ、何があったの、コナツ」
「……デジーちゃん。オシアスは……もうお終いかもしれません」
「え?」
「キャプテンも、この地方の企業も、全部──クラウングループの掌に──」
「その件については、私の方から説明するとしましょう!」
コナツの顔が蒼褪める。
デジーも、聞き覚えしかないその声に──警戒心、そして嫌悪感を露にした。
彼は、全く前触れもなく現れ、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「……前回の事もありますし……やはりトップがしっかり部下の仕事ぶりを見張っておくべきだと思ったのですよ。貴女もそう思いますよね? デジーさん」
歯車だ。
巨大な歯車と星見磐が、その背後には浮かび上がっている。
それは時を弄ぶ機械仕掛けのオーデータ。
「オオミカボシに……アトム会長……!?」
※※※
「ちっ、くそっ、ちょこまかとッ!! ……だりぃから、それ以上動くんじゃないよ!!」
【アマツツバサの マグマシンガン!!】
地面を打ち鳴らす溶岩の機関砲。
それを掻い潜りながら、ドーブルは墨を辺りにぶちまけ──
「”ストーンエッジ”だ、センセイ!! 下から突き刺してやりな!!」
──墨が落ちた地点から次々に岩の刃を生やし、アマツツバサ目掛けて一気に射出してみせる。
だが、それを阻むのは二機のデコイ。
すぐさま攻撃を察知して、ストーンエッジを阻み、身代わりとなる。
(ッ……何なんだコイツは!? 普通のドーブルとは明らかに何かが違う!? 姿形だけじゃない、そもそもの力量が段違いだ!! ……だ、だけど、落ち着け……ツクバネ。何を怯えてる? アマツツバサが居れば、僕は寝てるだけで誰にでも勝てるはず……!!)
「痛みは代わりに他の誰かが引き受けてくれる。代わりが居る限り、アマツツバサは無敵だッ!! よしんば攻撃が当たっても──”オーライジング”で防御が上がってるんだ!!」
「……流石に”ストーンエッジ”を受けたら落ちると思うんだけどなあ」
「だけどいい加減、こっちも寝たいんでね……さっさと勝負を決めてやるよ……ッ!!」
ツクバネは大欠伸をすると、オージュエルに手を翳す。
アマツツバサの身体が光り輝き──その赤い目にオーラが宿っていく。
しかし次の瞬間、彼の脳裏に過ったのは、アトムの言葉だった。
(良いですか? ツクバネ君。オーデータ達を間違ってもギガオーライズさせてはいけませんよ。負荷で洗脳装置に異常が生じたら……洗脳が解除される可能性がある)
「──ッ!! くそ、アトムの言う事なら仕方ないか……!! ……待てよ?」
事実、アマツツバサは空中から自在に爆撃、機関射撃を繰り返すことが出来る。
そして地上から飛んでくる”ストーンエッジ”すら、身代わりによって防げる。
幾ら相手が特異個体のドーブルと言えど──自らの消耗には敵わない。
(……落ち着けツクバネ。今ヤツの意識はアマツツバサに集中してる──!!)
「──アマツツバサァ!! 最大出力、マグマシンガン!!」
「たまたまたまッ!!」
空から一気に溶岩の雨が降り注ぐ。
その勢いはまさにスコール。
熱気と蒸気によって周囲には白い煙が立ち上り、見えなくなる。
その上、辺りからは甲高いハミングのような歌が聞こえてくるのだった。
(? 何だこれは──機関砲の音に紛れて何かが聞こえて──)
違和感を感じるイデア博士。
何処から聞こえてくるのか、と考えていたのも束の間、ツクバネは更に追撃を仕掛ける。
「後は──絨毯爆撃で辺り一面まとめて焼き払え!! その博士諸共ォ!!」
音を立てて、火の玉が次々に投下されていく。
炸裂すれば辺りにマグマを撒き散らし、家屋も人も飲み込んでいく熱源の塊。
それを前にして、イデアは──「あーあー、いけないねえ若いのは生き急いじゃって」と溜息。
「……センセイ。久々に全解放だ。やっちゃってよ」
コンマ1秒。
ドーブルは尻尾から多量の墨を吐き出し──跳んだ。
降りかかる溶岩の雨。それらを前に、筆を振り、水の塊を吐き出していく。
炎は水に弱い。この世界の常識だ。
だが、熱源の塊とも言える火の玉の前では、生半可な水技では蒸発してしまうだろう。
しかし、常軌を逸した水圧で放たれたそれは、火の玉を一瞬で打ち消したのである。
「はっ……!?」
ツクバネは己の目を疑った。
水ポケモンさえも上回る威力の水砲撃、そして正確に火の玉を撃ち抜いたコントロール。
それを、一瞬でやってのけた素早さ。
アマツツバサが投下した爆弾は全て、不発に終わる。
そして跳躍したドーブルの勢いは止まる事を知らず、そのままアマツツバサの脳天まで到達するのだった。
「待て、おい、待て待て待て──!?」
「勝負の世界に待ったはナシだ。全ては虚構、全ては幻、全てはまやかし。何が現で、何が夢か?」
【ドーブルの そらをとぶ!!】
「答えは──全部現だ」
ドーブルの”ストーンエッジ”が、至近距離からアマツツバサを刺し貫く。
両翼を傷つけられたアマツツバサは、そのまま悲鳴をあげながら、ドーブル諸共地面へ墜落していく──
「待てよ、おかしい! おかしいだろ? そのドーブル、一体幾つ技を持って──ぐぅっ!?」
凄まじい衝撃が周囲にも広がった。
アマツツバサが地面にぶつかったのである。
そして、一方的にオーデータポケモンを落としてみせたドーブルは得意げに筆を振り回しながら、その頭に乗っかっていた。
だが、その姿は先程までとは更に異なるものへとなっており。
「……なんだ、その姿……?」
紳士服のようなコスチュームに、シルクハット。
まさに、混沌が渾沌を呼ぶトリックスタァ。
墨を自由自在に操り、そこからありとあらゆるものを顕現させる百鬼夜行の主。
「この姿はね、長い間使えないんだ。だから──」
先程から戦いの中、ずっと周囲にばら撒かれていた黒い墨から──靄が立ち上がっていく。
「──オオワザ”ちみもうりょう・じごくえず”」
パチン、とイデア博士が両の手を合わせる。
バカな、とツクバネは周囲を見渡した。
出来るはずがない、と断じていた。オオワザは──ギガオーライズしたポケモンか、サイゴクのヌシポケモンしか使えないはずだ、と。
「こんなのウソだ、悪い夢か何かだ──!?」
靄からは次々に異形のポケモン達が姿を現していく。
火山の如き傘を持つキノコ、ドリルの如く捻じ曲がった嘴を持つ鬼鳥、鉄扇を構えた天狗、腐り落ちた氷の林檎の龍。
その最後には、鏡の如き羽根を持つ鎧鳥が何羽も飛び立ち、迫りくる。
百鬼夜行、魑魅魍魎の化生がアマツツバサ、そしてツクバネ目掛けて行進していく。
圧倒的質量、そして圧倒的数量差。
それを前に抵抗できるはずもなかった。
間もなく、アマツツバサも、ツクバネも、百鬼の大群を前に飲み込まれるのだった──
(いや、でも、おかしい。流石にこれは手応えが無さ過ぎるような──)
※※※
「いやあ、決まったなあ。煙幕で身を隠し、その隙にギガオーライズ……ノータイムでのオオワザ……ッ! 自分がいつ寝たかも分からないだろうね」
ツクバネは──笑みを浮かべてみせる。
「……イデア博士ェ。良い夢見てるかい? 僕はねェ、今すっごく気分が良いよ。クッククク……!!」
──アマツツバサのマグマシンガンによって巻き起こった白い煙。
そこに紛れていたのは、彼が最も信頼を置くポケモンであった。
綿のような羽毛を持つ鳥の如き龍のポケモンだ。
「眠ってしまえば無抵抗……自分が夢の中に居る事すら気付かない。文字通りのイージーゲームだ」
【チルタリス<ギガオーライズ> タイプ:ドラゴン/飛行】
彼の前では、うつ伏せになって倒れている博士とドーブルの姿があった。
実際の所、彼らの意識が保たれていたのはアマツツバサの機関砲による斉射が終わるまでの間。
アマツツバサが絨毯爆撃を仕掛けたその後は、全て夢の中での出来事である。
流れたのは爆撃ではなく、チルタリスの大音量による歌声による強制昏倒。
あまりにも一瞬で睡魔に襲われ、夢の中に引きずり込まれたことで、イデア博士はそこから先が現実であると誤認してしまった。
だが、実際はこの通り。イデア博士もドーブルも、こうしていびきをかきながら臥せっている。
「……これがチルタリスのオオワザ……”ナイトバード・ハミング”!! ……最初からまともに相手をする必要はなかったんだ。楽に勝つのが一番だね、何事もさぁ!!」