ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
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(”外に出るな”……ね)
短文でのローカル通信メールは、危機をレモンに強く強く知らせていた。
それだけで何が起こったのかレモンには凡そ察せてしまっていた。
外は暗い。主戦場が遠い事もあってか、喧騒は伝わってこない。
だが──こちらに敵が来る前にイクサ達が何とかしてくれるのをレモンは願うしかなかった。
(……問題は……このメールの
※※※
「たまたまたまッ!!」
──マンタイン、と呼ばれるポケモンが居る。
テッポウオを腹にくっつけた、巨大なエイのようなポケモンだ。
海中を優雅に飛ぶように泳ぎ、そしてひとたび海面から飛び出せば100メートルも滑空するとされている。
だが、それでも重力の縛りがある限り、延々と飛び続けることはできないのであるが。
一方、アマツツバサは──重力など知らぬと言わんばかりに飛び続ける。
燃え盛る翼を広げ、空を
その巨大な腹には、黄金の大筒が二つ、取り付けられており、地上の獲物を虎視眈々と狙い続ける。
確かに造形こそ黄金のマンタインそのものであるが、その実態はマンタインの形をした攻撃機と言っても過言ではない。
地上のイクサ達、そして生徒達の繰り出したポケモン目掛けて──
【アマツツバサの マグマシンガン!!】
30mm口径の機関砲が勢いよくかき鳴らされる。
砲弾は溶岩。狙いは無論、地上にある全てだ。
「う、撃ってきたぁ!? 味方も居るのに──いや、違う」
イクサは注意深く敵ポケモンを観察する。ガーディ、ヘルガー、セキタンザン、ブースター。
それらの共通点はタイプだけではなく、特性だ。
(まさか”もらいび”を誘発するために味方を巻き込んで攻撃したのか!? しかもトレーナーには当たってないし……狙いが正確無比……!!)
狙いは正確無比、敵ポケモン達の宿す炎は更に勢いを増していく。
イクサの推測は当たっていた。
強化された炎ポケモン達は勢いづきながら襲い来る。それを捌くパーモット、そして感心して舌を巻くイクサ。
「数が多いッ……!!」
「次々に湧いて出てくるなあ! ……センセイもあんまり消耗させたくないんだけど」
「この数の敵を従えて、しかも味方には当たってもダメージを受けないどころか強化する支援爆撃……な、なんて
「感心してる場合かい!?」
「……こないだ戦った敵が、”おはかまいり”の威力をあげる為に味方を殲滅してたんで……」
「それはもう敵じゃなくて一周回って味方なんだけどねェ!?」
「そうですね……味方でしたね……ある意味」
あれは外れ値であった、と諦めるしかない。
ともあれ、強化された炎ポケモン達を先ずは片付けなければならないのであるが──
(どうする? レモンさん達は既に勘付いてる? デジーは?)
「イクサ君。先ずは包囲網を突破しようか。幸い、アマツツバサは速度がそこまで出せるポケモンじゃない」
噛みついてくるデルビルを拳で叩きのめすパーモット。
だが、追撃と言わんばかりにヘルガーやセキタンザンといった面々が接近。
火傷を狙うべく”おにび”を放ってくる。
電光化によってスレスレで回避するのがやっとだ。
そして、このまま長期戦を続けていれば、いずれギガオーライズは解除されてしまう。
使っているイクサ側の体力、そして気力も削られ続けている。
「手っ取り早くアマツツバサを直接狙えば良いんじゃないですか? 今のパモ様なら、届きますよきっと」
「ダメだね。見てほしい」
イデアはイクサに双眼鏡を手渡す。
見ると、アマツツバサを護衛するかのように、テッポウオのような形をした何かが腹の下を飛んでいる。
「何ですかあれ……!」
「デコイさ。自分の身体の一部と、オシアス磁気を使って作ってるんだ。あれで、アマツツバサは地上からの攻撃を防ぐ。言わば高性能な”みがわり”だね」
「みがわり──”みがわり”じゃあダメだ。必ず一回は防がれる……しかも2機もある……!」
「だから、先にザコを片付けようか。その為には君の力が必要だ。センセイの力だけじゃ、無理だね」
胡散臭い笑みを浮かべ、イデアはサムズアップ。
彼は博士である以前に歴戦のトレーナーなのだろう、と否が応でも思い知らされる。
それに、人が何と言おうが──イクサは、彼を信じると決めていた。
「なぁに簡単さ。僕が奴らの動きを止める。後は分かるね?」
「はいッ!!」
博士が説明をしている間にもドーブルは筆をべちゃべちゃと地面に塗ったくる──
「センセイの描いたものは、総て現実となる」
【ドーブルの トラバサミ!!】
ガチンガチンと金属音が鳴り響き、周囲のポケモン、そして生徒達の足が止まる。
トラバサミが彼等に噛みついているのだ。
だが、狂犬と化したポケモン達は痛みを感じない。そのまま怯むことなくイクサ達に迫ろうとする。
「その動きなら──まとめて全部倒せる!! パーモット、ポケモンに触れて方向転換を繰り返すんだ!!」
パーモットが地面を大きく蹴った。
電光化した身体はそう簡単には止まらない。
だが、周囲に点在する敵ポケモンにぶつかる寸前で掌を当てることで方向を切り返し、別のポケモンへ向かうことならばできる。
さながらパチンコ玉の如く、パーモットは次々に敵ポケモン達の間をピンのように跳ね返っていく。
「おおう、全員片付けたか。流石に速いね」
的が止まってるならば、掌を当てるのも容易い。避けられることもない。
後に残るのは黒焦げになったポケモン達のみである。
「パーモットの発電器官は掌にあるからね。触れるだけで相手を気絶させるのは容易い、か」
だが、イクサの身体にも一気に疲労が圧し掛かる。
「ッ……やっば」
眠気に似た虚脱感が襲い掛かる。
意識を保つので精一杯だった。
倒れかけた彼の身体をイデアが腕を掴み、支える。
「おっと、大丈夫かい?」
「……何とか。慣れてきましたから」
「ギガオーライズの負担だけはどうしようもないねえ」
「……限界になる前にパモ様を戻します」
イクサは、疲弊して肩で息をしているパーモットをボールの中に戻す。
これで脱力感は少しはマシになった。
ギガオーライズの体力的代償はあまりにも大きい。
そして、一度引っ込めてしまうとしばらくギガオーライズを使うことはできない。
それほどまでにポケモンの身体に掛かる負荷も大きいのだろう。
(あまりにも間が悪かった……! 本当なら、温存するべきだったのに……! やっぱり、一日二回は……キツい……!)
へたり込んでしまいそうになるのを、無理矢理頬を叩いて持ち直す。
まだ、ツクバネとアマツツバサが残っている。
「ふぁぁーあ……なんか静かだなぁ。もしかして……ラビス・スクワッド、全滅した?」
声が上空から聞こえてくる。
悠然と火の玉が夜の空を舞い、そして降りてくる。
「やだなぁ、困るなァ。代わりに働いてくれるんじゃあなかったのかね。眠いんだけどなァ……ふぁぁーあ……」
「……生徒会の……」
「ああ、オマエが転校生か。やっほ、初めまして……ふぁぁぁ」
欠伸混じりに彼は答えると──単刀直入に切り出した。
「レモンは何処だよ? ここら一帯焦土にする前に、それを聞いときたいかな」
「答えるわけないだろ」
「だよなぁ……いやぁ面倒だなァ……誰か代わりにやってくれないかなーとか思ってたんだけど……ま、いいか。アマツツバサァ──こいつら丸焼きにしちゃってよ」
背中から飛び降りるツクバネ。
彼の声に応じるように、正気を失った黄金のグライダーが咆哮する。
「……ま、いいや。どうせあの兎を叩けば、吐いてくれるっしょ。ラッキー此処に極まれり、楽な仕事だったな」
「ッ……! どういう意味だよ」
「言葉通りだ転校生。優秀な駒が今、このツクバネの代わりに兎狩りに出かけてる。あのクソ兎の場所は割れてんだよな。いい加減、観念しなぁ? 面倒だからさあ」
デジーは今も例のロボットの修理をしている。とても無防備な状態だ。
「狙うなら僕だけにしろ!!」
「ウチの会長はね──君達全員捕まえなきゃ気が済まないみたいだ」
愉快そうにツクバネは嗤う。
「……でもその筆頭はやっぱりレモンみたいだよ。去年の学園最強決定戦で黒星付けられたのがよっぽど気に食わないんだろーな、クク」
「……まさかそんな動機で──!?」
「プライドの塊みたいな人だからさ。あんな顔してるけど、内心腸煮えくり返ってたみたいだぜ。じゃなきゃオオミカボシを死ぬ気で捕まえたりなんかしないだろ」
おっとこれオフレコな? と彼は続けた。
「ま、雑談は此処までさ。レモンの場所は分からないけど、君達二人を餌にすれば、流石に自分から出てくるだろーって」
「ッ……捕まらないよ。此処であんたを倒せば全部解決だ」
「結構脳筋だね君。状況分かってる? こっちには──オーデータポケモンが居るんだよ?」
翼を広げ、宙を舞うアマツツバサ。
熱風が周囲に吹き荒れる。
そんな中、イクサは──冷静にツクバネの言葉を分析していく。
(罠か? 博士と、デジーが心配な僕を分断して各個撃破するための……? だけど、嫌な予感がする……!!)
「それと──こっちとしては、
(……
「んじゃ、こっちは寝とくから……後はヨロシク、アマツツバサ」
「たまたまたまっ!!」
イクサは次のボールを構える。
簡単に倒せる相手ではない。しかし、デジーの事が気掛かりだ。
ブラフの可能性もある。だが、デジーを退避させなければ、どの道彼女は捕まってしまう。
(でも、どうやって倒す? この巨大重爆撃機を……!!)
──イクサが足踏みしたその時だった。
アマツツバサの周囲を墨が取り囲み、縛り付ける。
「──ダメダメ。2対1じゃあヌルゲーだね」
「ッ!?」
下手人は無論、ドーブルだった。
尻尾から墨を垂らしながら、アマツツバサの動きを封じ込め、牽制する。
普通の個体からは考えられない挙動に、流石のツクバネも面食らったようだった。
「アマツツバサ!! 振り切れよ、そのくらいッ!!」
「君の相手はセンセイだよ」
其の言葉に、生徒会幹部は己の敵を直感する。
このイデアと言う男に彼は覚えがあった。サイゴク地方から来た図鑑開発者だ、とツクバネは記憶していた。
(……やっぱり邪魔をするか……大人しくしておけば痛い目を見ないのに)
「やっぱクラウングループからサイゴクを取り返す為に潜り込んでたのか?」
「そうじゃなきゃ、わざわざこんな砂漠の僻地に来やしないよ」
「ダッル……クラウングループに逆らうつもりかよ? サイゴク地方がどうなっても良いのかって」
「ああ、そうさ」
「……はは、良いね。だけど、すごく面倒だ」
「面倒なのが取柄でね」
「……言葉遊びをしたいんじゃないんだ。サイゴクの惨状はこっちも会長から聞いてる。もう大人しくしときなよ。終わってるんだ、何もかも」
「いいや、諦めたらそこで全部お終いだろう?」
ふっ、と笑みを浮かべてみせるイデア博士。
「何故なら、まだこうして戦い、抗う事が出来てる。此処で君を倒したら、オーデータポケモンも1匹、取り返せるって寸法だ」
「……言わせておけばさっきから好き勝手言いやがるなあ、この博士は──諦めたらオシマイ? ダルい事言ってんじゃあないよ」
対して──だんだん、苛立ちが隠せない様子でツクバネは言った。
「ああ、そうだともッ! これでも僕は研究者だからね。諦めない事の素晴らしさはしっかり理解してるつもりさッ! どんなに困難な事でも、
「ッ……!」
そうだろ? と同意を求めるかのようにイデアはイクサに手を伸ばす。
「生物学の再現実験! あれはなかなかキツい! 根気が必要だ! できるだけ周囲の環境、ポケモンの状態、全部を同じ条件で揃えなきゃいけない、実験室だけじゃなくって屋外なら泣きそうになるね!」
「いきなり何の話だ……?」
「それでも──
(……僕は……この博士の何に惹かれたのか分かった気がする)
イクサは──サングラス越しの曇りなき眼を前に圧倒されていた。
(イデア博士は……何処までも純粋で真っ直ぐなんだ。目の前の敵がどんなに大きくても、自分が勝てると疑ってない。僕は……どうだっただろうか)
「ガンバルだとか、アキラメナイだとか……一番キライな言葉だなァ……ダル過ぎて反吐が出んだよなぁ」
嫌な琴線に触れたのか、ガラにもなくツクバネは苛立ちを抑え切れないようだった。
(何だ? 纏ってた気だるげな雰囲気が一気に変わった……ッ!)
「ああ、目覚めが悪い……こういう時ってすっごくイライラする。そんな時に、ダルイ言葉なんて聞かされてみろよ。虫唾が走るね!!」
それに呼応するようにしてアマツツバサの纏う炎がより強くなっていく。
トレーナーの精神に応じてオシアス磁気はより激しく昂っていく。
「イクサ君。此処は僕とセンセイに任せてくれたまえ」
「良いんですか?」
「普段なら絶対行かせないよ。二人掛かりで倒した方が楽だ。しかし──デジーだっけ? 彼女だけじゃ確実に手に余るヤツがこの町に来てる」
イデアは、何かを感じ取ったのか暗い空の先を見やった。
「それって何か根拠が?」
「いや、これは……僕個人としてのカンだね!!」
「はぁ……でも、信じます」
「ひとつだけ守ってほしいことがある。……必ず後で合流しよう」
「……はいッ!」
ドーブルが威嚇するように尻尾を振り上げる。
漸く墨を振り切ったアマツツバサだったが、その頃には既にイクサは消えていた。
「あーあ、転校生逃げちゃった。マージでだるいなぁ……眠いなあ……」
「先生が生徒の味方をするのは当然だからね」
「くっさ。希少種だかリージョンフォームだか知らねえけど……ダルいのは勘弁してくれねーかなぁ? ……逮捕しちゃうぞ」
ぴくり、とイデアは眉を動かした。
「ぼかぁね──ひとつ、許せない事があるんだよ、ツクバネ君」
「あ?」
ドーブルが勢いよく、筆を振るう。
墨が硬化し、一気にアマツツバサを地面に叩き落とした。
(ッ……速、重い──ッ!?)
「この僕にも地雷ってヤツがあるんだ」
(やっぱりこのドーブル、変種か──!?)
見れば見る程、通常種とは違う挙動、そして体色。
何よりも自在にうねり、相手を絡めとる墨。その全てに対し、ツクバネは警戒せざるを得ない。
そんな中、博士は──
「──逮捕しちゃうぞ☆ って言って良いのはミニスカポリスのお姉さんだけだ」
(そんでもって、何言ってんだコイツ……)
──只々、己の欲求に忠実なだけであった。
(ッ……いけない! コイツのペースに飲まれるな! 普段は飲む側だろ、ツクバネ! しっかりしろ……! ああクソ、目が冴える……! 誰か代わりにこいつをやってくんねーかな……!)
のらりくらりとして本性を掴ませないイデアに対し、ツクバネは湧き上がる苛立ちが抑えられない。
トレーナーとしても、昼行燈としても、彼の方が一枚も二枚も上手なのだった。
「ついでに一つ。僕はね──ポケモンバトルで対戦相手を退屈させることだけはしないよ」
「あぁ?」
「借り物のオーデータポケモンで粋がっている子供にはおあつらえ向きの娯楽を提供しよう」
「……いやぁー、冗談キツイんだけど。それ、ギガオーライズの前でも言える?」
完全に目が覚めたのか──あるいは、不愉快な目の覚め方故か。
完全に持ち前の凶暴性を剥き出しにしながら、口角を指で引っ張り、ツクバネは叫ぶ。
「両方火だるまに変えてやれば良いや──アマツツバサァ!! 火炎放射だッ!!」
「センセイ。フレアドライブで接近してやれ」
火の玉同士がぶつかり合う。
離れても尚、火の粉が散る勢いだ。
(すごい戦いだ……! 見られないのが残念だけど、デジーの所に急がなきゃ……! レモンさんも心配だけど、此処からは遠いし……大丈夫、だよね……?)
熱源を背に、ふらつく足で──イクサはモーモーファクトリーへと向かうのだった。
(博士の言う嫌な気配って……何の事なんだ……!?)
※※※
「──騒がしいなあ」
デジーは作業を止め、ぴくぴくと小さな耳を動かす。
だが、此処はスマホロトムの通信圏外。何が起こっているのかは全く分からない。
そして思わず──殺気を感じた彼女は振り返った。
がちゃり、と遅れてガレージに通じる扉が開く。
「……ッ!! ……なぁんだ」
「あ、あはは、驚かせちゃいましたねえ、デジーちゃん」
誰かと思えば、見慣れた幼馴染がおずおずとした様子で入ってくる。
「どーしたのさ。帰ったんじゃなかったの?」
「デジーちゃんが心配で、つい戻ってきちゃいました」
「ええ? コナツのお父さん、心配性なのに。ダメだよ、そんなことしたら」
「こっちのセリフですよ、デジーちゃん。私達が止めたのにスカッシュアカデミアに行っちゃったのは何処の誰ですか?」
「あははは……返す言葉もないね」
その所為で今、とんでもない厄介事に巻き込まれているのだから、本当に反論のしようがなかった。
「でも、ボク……スカッシュアカデミアに入った事、後悔してないよっ! にししっ」
「……デジーちゃん」
「当初の目標は潰えちゃったかもしれないけどさ。……すっごく良い出会いがあったからっ!」
「……妬けちゃいますね」
「え?」
「ちょっとだけ、です。そんなに、あのイクサって方を気に入ったんですか?」
「転校生だけじゃないよっ。レモン先輩、バジル先輩、ゼラ先輩。皆……ボク、大好きなんだっ」
「……」
「みーんな、ボクにとって大事な人だよっ。勿論、コナツも!」
屈託のない笑みで言ってのける彼女に──コナツも思わず笑みが漏れた。
あれだけ他者を信用したがらなかったデジーが。
周囲から浮くほどの才能故に、他者と壁を作り、交わることを避けていた彼女が。
今となっては──仲間を自慢するところまできた。
(デジーちゃんは……私の知らないところで、沢山のことを経験してたんですね)
「……? ん、どしたの」
「いえ、やっぱり……羨ましいです。強いなって……思えちゃったんです」
「もーう、どうしたのさ。ボクが天才なのは今更でしょー?」
「ええ。デジーちゃんは……天才ですね。そんなデジーちゃんに、オヤツの差し入れでーすっ♪」
彼女の手には、山盛りのお菓子の詰め合わせが入ったカゴ。
丁度糖分を欲していたデジーには願っても無い幸運だった。
「さっすが、コナツ! 助かるよーっ!」
「デジーちゃんが欲しいものは、分かってますからっ」
「昔からコナツは気配り上手だよ、ホント」
「ふふっ。根を詰め過ぎてはいけませんよ、デジーちゃん」
──下手人は、冷酷にデジーが近付くのを待つ。
コナツの立つ背後。暗い通路の天井に潜む暗殺者の元へ手招きするかのように。
(お願いですから。そのまま──近付いてきてくださいね、デジーちゃん)
コナツは──籠を抱えたまま、近付いたデジーをいつもの笑顔のまま見つめる。
(これは、私の為。そして、デジーちゃんの為でもあるんです。お願いだから……良い子にしててください)