ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第88話:凶来・天(あまつ)

 ※※※

 

 

 

 各地方のチャンピオンや有力者の姿が違う。

 伝説のポケモンに関する事件も起こった記述が無い。

 何よりゲームの主人公に相当する人物たちの記録が無い。

 色々調べた末──イクサは嘆息した。

 この世界は、「自分の知るポケモンの世界」ではないということを。

 

(……きっと、本来なら起こってないといけない事件が……この世界では起こらなかったんだ。だから、クラウングループが滅茶苦茶できる環境が出来てしまった)

 

 並行世界理論──レモンも言っていたこの言葉が重くのしかかってくる。

 

(……この世界は……詰んでいたんだ、最初っから)

 

 原作で知る多くのキャラクターが居ないとなれば、地方の外に期待することはできない。

 

(戦えるのは……僕達だけ?)

 

 イクサは、目を瞑る。

 最初に浮かんだのは──レモンの顔だった。

 流石の彼女も、今回ばかりは不安そうな顔をしており、口では気丈に「だとしても、引き下がる理由は無いわ」と言っていたものの、心の奥底では行き詰まりを感じているようだった。

 無理もなかった。今の彼女には自ら戦う手段を持っていない。

 そして、戦う手段を持つイクサでさえ、敵の圧倒的な大きさを前に、心を折られそうになっていた。

 

 

 

 ──イクサ君。私にはもう……推薦組の貴方達しか残ってないのよ。

 

 

 

 そんな彼女が、弱音を零したのは──二人きりの夜の一幕だった。

 それほどまでに、レモン・シトラスという少女は他者に弱みを見せたがらない。

 たとえそれが唯一無二とも言える親友のバジルが相手であっても。

 彼女が余程自分に心を許してくれているのだ、とその時は少なからず調子に乗っていたが──

 

(違う……レモンさんだって、弱り切ってたんだ)

 

 イクサは己の頬を叩く。

 

(間違ってる? 勝ち目がない? 理屈をつけて逃げたら、誰がレモンさんを守る?)

 

 ぎりっ、と唇を嚙み締めた。

 血の味さえ滲んで来る。

 

(僕でやれるのか? とか考えてる場合じゃなかっただろ、ずっと……ッ!! 最初から……ッ!!)

 

 それに、と次に脳裏に浮かぶのは──不敵な笑みを浮かべながら今もガレージに籠っているであろうライバルの姿だった。

 

(何より──こんな所で折れてたら、デジーにがっかりされる……ッ!!)

 

 イクサは起き上がり、モンスターボールを見つめた。

 

(僕一人では出来ない事だ。だけど……)

 

 手立ては、ありとあらゆる場所に転がっている、とイクサは考える。

 自分一人では限界は確かにあるかもしれない。だが、方法は一つだけではないし、頼る事が出来る相手もまた、一人だけではない。

 そして、レモンが戦えず、デジーがアンドロイドの修理に専念している今、前線を張ることができるのはイクサだけだ。

 だがそれでも──今度はもう、抱え込まないとイクサは決めていた。

 強さが足りないならば、今よりもさらに強くなればいい、とイクサは考える。

 そして、強くなるならば自分だけでは不可能だ。必ず、誰かの力を借りなければならない。

 

 

 

 ──あ、取り合えず今日は解散ね。何かあったら、僕の電話番号に連絡してよ。

 

 

 

 適当そうに言い放ち、去っていったイデア博士は、イクサを試すように流し見ていたことを思い出す。

 

「僕はイクサ……最初から、戦うことが役目で……それが、僕が最も得意とすること……それを、伸ばすしかないんだ……ッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 空は暗い。

 イデア博士はこんな夜中まで起きており、イクサの誘いに乗って昼間のバトルコートに呼び出したのである。

 見れば見る程に、満足そうな顔をしていた。

 

「尻尾を巻いて逃げるのか。それとも、落ち込んで押し潰されるだけか。……どんなもんか見たかったんだけどねえ、予想以上だ。覚悟キマってるよ君」

「本気のセンセイと、戦わせてくれませんか?」

「ほう?」

「今まで僕は二回、試合で貴方に勝ってる。だけど、本気のセンセイとは一度も戦ってません」

「……」

「本気のセンセイに勝てないなら……僕は一生、アトムに勝つこと、ましてやクラウングループをぶっ潰す事なんて出来ない」

「そこまで分かってるかあ。敵の強大さを理解し、そして相手と戦うに足る戦力差を理解し、それでも尚立ち上がる。良いね君、やっぱり僕が見込んだ通りだ」

「わざと僕達の心を折るような話をしたのも、僕達を試したんですよね」

「あの話をした後君、半ば放心状態になってたからさ。ダメかなって思ったんだよね。周りの人の声もあんまり聞こえてなかったでしょ」

「そうですね。だけど……」

 

 イクサは己の胸を叩く。

 

「──進む道が間違っているだなんて……今更思いません」

「結構」

 

 イデア博士はボールを腰のベルトから取り出すと、愛おしそうに指で撫でた。

 

「先に言っておく。僕は強い。センセイも強い。だけど──敵と互角に戦えるのが僕だけじゃダメだ。ギガオーライズの力は計り知れないし、オシアスのポケモンじゃないセンセイはそもそもオーライズ出来ない」

「……」

「だから僕は協力者を集めることにした。より強く、より賢く、そして何より折れない心を持ってる協力者をね。まだ君達だけだけどさ」

「──アテはあるんですか?」

「あると言えばあるし、無いと言えば無い」

「……テ、テキトーだなぁ」

「でも、僕もやるしかないんだよね。サイゴクのヌシポケモン達を取り返さなきゃいけない。あの暗黒企業を潰さない事には始まらない。そして、それは僕一人だけじゃ無理だ」

 

 これでも教える側だからね、とイデアは続ける。

 自分よりも弱いトレーナーでは、協力者に足り得ない。

 だが、協力者を選んでいる場合ではない。

 故に──育てるしかない、と彼は結論付けた。

 

「……まだ僕は、ギガオーライズしたオーデータとは戦えていない。もっと先のレベルに進まなきゃ、アトムには勝てない」

「だから、あの場では一先ず及第点をあげた。今後の期待値も込みでね。後は──君のやる気次第だけど」

「……強くなりたいんです。もっと、その先へ」

「分かってるよ。でも、何事も一歩ずつが基本だ。確かにあまり悠長には出来ないけどね。準備ができてないまま突っ込んでもダメだ。そこが難しいんだけどさあ」

「……それでも!!」

 

 イクサは叫ぶ。

 

「──それでも、強くならなきゃいけない理由が僕にはあるんです」

「でもねぇ、僕がセンセイの強さをひた隠しにしてた理由は幾つかあるんだよ。1つは、あんまり人に見られたくないから」

「どういうことですか?」

「もう1つは──確実に折れちゃうから。だって、ギガオーライズしたオオミカボシは()()()()()()()()()()()()よ? 確実に。それを知った上で本気のセンセイと戦う?」

「ッ……! 覚悟してます」

「そ。なら、やってみようか。……裏ボスモードってヤツ」

 

 イデアはボールを投げる。

 そこからは、いつにもなく凄まじい気迫を放つドーブルが地面に降り立った。

 イクサもまた、パーモットを繰り出し、相対させるが──

 

「ぱもぉ!?」

 

 じり、と気圧されて引き下がるパーモット。

 明らかなレベルの違いを感じ取っているようだった。

 月に照らされていることでハッキリと分かる。

 ドーブルの特徴的な絵筆のような尻尾の先端──そこから、どす黒い色の墨がポタポタと音を立てて滴り落ちていた。

 

「パモ様……このドーブルを倒せなきゃ、アトムには勝てない」

「……ぱもぉ……ッ」

「切りなよ、君のギガオーライズ。修羅の国・サイゴクで育ったポケモンの恐ろしさを勉強していくと良い」

 

 黒く染まったオージュエルにオーカードを翳す。

 

 

 

「──ギガオーライズ……ッ!!」

 

 

 

 稲光が──ドーブルの元に落ちた。

 身に纏ったオーラをマントのように翻し、電球を王冠の如く被ったパーモットの牽制の一撃。

 だが、それは並みのポケモンが受けていれば昏倒する程の必殺の殴打であった。

 地面にはクレーターが出来ており、周囲には砂が巻き起こる。しかし。

 

(手応えがない……!?)

 

「──そこだ。力を溜めて”ぶちかまし”」

 

 赤い残光が砂煙から迸る。

 次の瞬間、黒い影がパーモットに向かって猛襲した。

 すんでのところで躱したものの、更に空中で勢いを殺しながら体を翻したそれは、再びパーモット目掛けて突貫していく。

 

「センセイ、隙を与えちゃダメだよ。体勢立て直して”フレアドライブ”!!」

 

 火の玉がパーモットを地面に押し倒した。

 砂煙が晴れ、完全にパーモットに対してマウントポジションを取ったドーブルの姿が顕になった時、イクサはその異形を嫌でも焼き付ける事になる。

 全身からはドロドロと黒い墨が溶け出しており、尻尾に吸収されていく。

 今までの”よく知るドーブルの姿”が偽りであったのだと思わせるようであった。

 全身の毛は普通の種類と違って黒く、そして頭部の形状もベレー帽ではなく、編み笠を思わせる形状となっていた。

 リージョンフォーム、と直感した。

 これまでの姿は、只のカモフラージュでしかなかったのである。

 

(これがドーブル……!?)

 

「これが、センセイの本気を見せびらかしたくなかったもう1つの理由……かな。センセイはね、僕の家で代々飼ってるドーブルなんだよ」

「……代々……?」

「そ、超長生き……なんだよね。今年で500歳……かな」

「ごひゃっ……!?」

「僕の御先祖様はね”イデ”って言うんだけど……そのご先祖様が健在だったころから居るみたいだよ?」

「そ、そんなバカな……じゃあゴーストタイプか何かなんですか、そのドーブル!?」

「そうだね。言ってしまえば()()()()()さ」

「墨……!?」

「本体はこの墨そのものだよ。それが具現化してドーブルの形になったゴーストポケモンなのさ」

 

 

 

【ドーブル(????のすがた) すいぼくポケモン タイプ:悪/ゴースト】

 

 

 

(リージョンフォーム……!? これがサイゴク地方のポケモンの力……!?)

 

「勿論、そんなドーブルはサイゴクにも生息していない。センセイが何処から来たのかも分からない。それが知られたら悪い奴等に狙われるかもしれない。だから、普段は人目を忍んで普通のドーブルの姿をしてるってわけ」

 

 イクサは言葉を失う。

 そんなインチキ染みた設定で良いのか、と。

 これまでの”センセイ”の恐ろしい強さと底知れなさにも漸く納得が行った。

 そして、普段墨を纏ってコーティングしている所為で、それがドーブルの枷にもなっていたことに。

 

「抜け出して、パモ様!!」

 

 だが、かと言って負ける訳にはいかない。

 パーモットは即座にドーブルを払い除け、今度は両拳に電撃を溜めて地面を蹴る。

 しかし、その軌道を読めていると言わんばかりに尻尾で打撃をいなしてみせる。

 

「確かに素早い、そして重い。だけど、肝心のパーモット自身がそれに付いていけていない」

「く、くそっ……!! 速過ぎて逆に勢い余ってる……!!」

 

 パーモット自身も、電光と同等の己のスペックに付いていけていないようだった。

 柔軟に、空中でさえ姿勢制御してみせるドーブルに対し、パーモットは一挙一動ごとにラグが発生している。

 それは、速く動き過ぎる身体を抑えつけるために、ブレーキを掛けているためだ。

 電光同然と化したパーモットは確かに速く動けるが、逆に言えば制御が効かない状態でもある。こうして静止させなければ、パーモット自身が投げ出されてしまう。

 ブレーキが壊れた自転車を操縦しているのと同じだ。停止するためにブレーキではなく、足を地面に付けて無理矢理停止させているのに等しい。

 そんな状態でドーブルに付いていけるはずもない。

 だが、付いていかなければ今後の戦いで勝ち目があるはずもない。

 

「ギガオーライズを只のステータスアップだと思ってないかい?」

「……?」

「ギガオーライズってのは、ポケモンが持つタイプの特徴、そして生態としての特徴を大きく引き上げるものだと僕は考えていてね。君も使ってただろ、ハルクジラで」

 

 イクサは目を見開く。

 ハルクジラの口を冷気で凍らせて塞ぎ、キノコのほうしを防げたのは、ギガオーライズに伴ってハルクジラの冷気出力を引き上げる事が出来たからだ。

 

「あ、あの時は咄嗟に”できるかも”って考えただけで──」

「そうだね。だが結論から言えば”できる”だ。想像力を働かせるんだ。体を電光化させるなら、どんなことが出来る?」

「速く動ける──だけじゃない」

 

 体が迸る電光ならば、全身は触れるだけで相手を感電させることが出来る武器と化す。

 パーモットのオオワザが、初手の蹴り上げで相手の自由を奪う事が出来る点はそこにある。

 高圧の電流が相手に流れ込むことで、反撃の余地を消してしまえるからだ。

 だが、その本質にイクサはまだ気付けていなかったことを思い知らされる。

 

「例え荒唐無稽でも、()()()()()()って思う事が重要だ」

()()()──こう言う事も!! パモ様!! 拳を思いっきり地面にぶつけて!!」

 

 飛び掛かって”ぶちかまし”を見舞おうとするドーブル。

 今度は避けない。向かってくる敵を前に、思いっきりパーモットは拳を叩きつける。

 電気の奔流が弾け飛び、溢れ出し、触れるもの全てを焼き焦がす障壁と化した。

 しかし──

 

「ぱもぉっ!?」

 

 パーモット自身がその電圧に耐え切れず、目を回してしまう。

 体中を流れる電気に耐えきれていないのだ。

 

「パモ様!? しっかり!?」

「ぱもぉ……!?」

「おやおや、電気タイプの電流制御、実は結構難しいからねえ。でも、そこを敵は突いてくるッ!!」

 

 立て直す間もなく、ドーブルの痛烈な攻撃が次々に加えられる。

 尻尾で叩くだけで、拳での殴打に匹敵するそれは、パーモットが両腕で受け止めるのに精一杯の威力だ。

 

「ッ……受けきれない……!!」

()()()()()()、オオワザ」

「ッ!!」

「じゃなきゃ勝てないかもね?」

 

 ──挑発染みたイデアの言葉に、イクサは乗ってしまうのだった。

 

「ッ……パモ様!! ”ボルテック・ガンマバースト”だ!!」

「ぱもぉッ……!!」

 

 一気に飛び出したパーモットは間合いを詰め、電撃を込めた蹴りをドーブルに見舞い、上空へと蹴り上げる。

 しかし──それは大きく空振ってしまった。避けたわけではない。手応えがそもそもない。

 べちゃり、と音を立てて墨が辺りに飛び散る。

 

(当たってない──ッ!?)

 

 さぁっ、と全身の血の気が引いた。

 電撃を帯びているため、ゴーストタイプであっても命中は避けられない一撃。

 

「ごめんごめん、それ()()()()

「んな──ッ!?」

「オオワザはねぇ、一発逆転の手段じゃあないんだよ。不発に終われば、大きな隙を晒す!」

 

 勢い余ったパーモットは転んでしまい、地面に倒れてしまう。

 そして、地中から音を立ててドーブルが飛び出し、足に思いっきり力を溜めて──踵を振り下ろした。

 

 

 

「トドメだ。”ぶちかまし”──」

 

 

 

 

 

 ──ズドォン!!

 

 

 

 致命的な一撃。

 しかし──

 

「……無粋なジャマが入っちゃったか」

「ッ……!?」

 

 だが、それはパーモットにはぶつからず、その顔の横で止まっていた。

 イデア博士は忌々しそうに向こうを見つける。

 

「ガルルルルルル……ッ!!」

 

 唸り声が何処からともなく聞こえてくる。

 夜のフィールドを背景に、制服姿の少年達が現れる。

 しかし、声の主はポケモンではない。

 血走った目をカッ開き、歯を剥き出しにし、口輪を身に着けた少年達だ。

 

「な、何だ、こいつら……!?」

「明らかに正気じゃないねぇ……」

 

 イクサ達を見つけるなり、彼等は次々にボールを繰り出していく。

 その中からはガーディ、ヘルガーといった犬型ポケモンが次々に現れるのだった。

 

 

 

「たまたまたま……ッ!!」

 

【アマツツバサ オーデータポケモン タイプ:炎/飛行】

 

 

 

 そして──空からは一際鮮烈な炎が舞い降りてきた。

 焼け盛る炎の翼をもつ黄金のグライダーが華麗に羽根をひらめかせている。

 

「アマツツバサ……!?」

「あれが例のオーデータか。上に誰か乗ってるねえ……!」

 

 

 

 

「ズガァァァ、ズゴゴゴゴ……ZZZ……」

 

【3年トレーナー科”生徒会会計”ツクバネ(睡眠中)】

 

 

 

 ──そんでもって、滅茶苦茶寝てるーッッッ!?

 

 ──何で落ちてないんだろうねえ、アレ……。

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