ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
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──サイゴクは5匹のヌシポケモンを崇め祀るための5つのおやしろを擁する列島西部の地方である。
おやしろは代々、キャプテンと呼ばれる人間が守り、ヌシポケモンの世話をしていた。
そして、500年前に起こった”双竜骸事変”と呼ばれる大災厄を封じ込めて以降、各おやしろとそれを守るキャプテンは共同してサイゴクを守っていた。
キャプテンの実力は他地方の四天王に匹敵し、ヌシポケモンの力は野生ポケモン達を統べる程。
オシアスのそれとははっきり言って、戦力は比べ物にならないくらいに大きい。
故に、どのようなことがあっても、サイゴク地方は揺るがない──そう思われていた。
しかし、盤石と思われていたおやしろの体制は、5年ほど前に揺らぐことになる。
──サイゴク地方を襲ったのは、未曽有の大雨災害であった。
止むことなく、2ヵ月も大雨が断続的に続く、文字通りの天からの災禍であった。
山が多いサイゴクでは各地で土砂災害が起こり、町もおやしろも破壊されていった。
そんな中、地方の再開発に名乗りを上げたのがクラウングループだった。
彼らは何年も前からサイゴク地方の建設企業をじわじわと子会社化しており──既に建設業界の重鎮と化しつつあった。
──ショック・ドクトリン。
大惨事に付け込んで、巨大資本や国が急進的に改革を行うのだ。
クラウングループは、サイゴク地方が大災害で麻痺しているのに付け込み、徐々に進出し、浸食していったのである。
彼らからすれば、サイゴクの悲劇は
幾ら大企業と言えど天候を操ることは出来はしないのである。
無論、サイゴク地方では各町の元締めの役目を努めるキャプテン達はこの動きを警戒していたが、災害に対応するので手一杯で、彼等に対応することなど出来はしなかった。
更に本来ならばこの動きを諫める役目にあるであろう筆頭キャプテンであるリュウグウは──
「ばあさんや、飯はまだかのう……」
「さっきご飯は食べましたよ」
──高齢故、認知症が進んでいた……。
ナンバーワンである彼がこの有様なので、そうなればナンバーツーがこの場を治めるべきなのであるが──その年、土砂災害中の事故でそのナンバーツーであるキャプテン・ウルイが急逝。更にそれに次ぐ実力者のショウブも死亡。
こうして、本来なら5人居るはずのサイゴクのキャプテンは、上から3人が実質的に機能停止という憂き目に遭う。
そして、キャプテンはヌシポケモンが選ぶという習わしがサイゴクには存在するため、代理は立てられても次のキャプテンはそう簡単には決まらない。
更に、土砂災害に巻き込まれたのは人間だけではない。ポケモンもだ。
幾ら強大なヌシポケモンと言えど、自然の力には敵わない。
「……人とポケモンを守って死んだのよ。悔いは……無いでしょうね」
こうして、キャプテンとヌシに大きな穴が出来たサイゴク地方。
トップも機能停止という憂き目の中、クラウングループは借金と復興事業を盾に強引な開発を進めていった。
「おやしろのある土地が買い取られているですって!? 一体何処の誰がいつそんな事を……!?」
「セイランシティの市長が金に困って、売り払ってしまったみたいで……ッ!!」
「な、なんてバカな事を……!? ヌシポケモンが黙って──そうか、シャワーズは
それだけではない。
復興の費用に困ったサイゴク地方の各自治体は、突如おやしろのある土地を売却。
クラウングループ側は、土地と引き換えに多額の費用とサイゴク地方の再開発を確約した。
市長や町長といった政治に携わる人間が、本来キャプテンの承認が無ければできないことを、無理矢理進めてしまったのである。
彼らが、クラウングループに懐柔されていたと分かった頃には、後の祭り。
終わる事のない大雨でサイゴクが侵されている間に水面下で腐敗は進み切っていたのである。
「原則だかそちらのルールだか知りませんが……一度売り払ってしまったものを買い戻すなんて出来やしませんよ。それに、こちらはあくまでも合法的に取引を進めただけですからねえ」
「なーにが合法ッスか!! あんたらが諸々に根回しして買収しまくったのは知ってるんスよ!?」
「はて、何のことでしょう?」
「ヌシポケモンが黙っていないわ!! どうなっても知らないわよ!?」
「……ご自由にどうぞ。開発の邪魔をすると言うならば、こちらの独断で捕獲しますが……」
強引かつ裏取引があったとはいえ、合法的に進められた手続きを前に、各おやしろは手出しが出来なかった。
キャプテンが認知症、ヌシポケモンが死亡したセイランシティはあっさりとおやしろのある土地が売却された。
キャプテンもヌシポケモンも健在だが、市長が強い権限を持つベニシティは、既に取り返しがつかないレベルで腐敗していた。
被害が大きかったうえに、キャプテンが就任したばかりで、ヌシポケモンが死亡したシャクドウシティも、あっさりと為す術なく土地が売り払われていった。
町丸ごと地滑りの被害に遭ったイッコンタウンは、土地を売り払わなければ、復興の見通しなど立つはずがなかった。
浸水で被害が甚大だったクワゾメタウンもまた、砂丘の一部を売り払うのだった。
しかし、おやしろの領域を侵されて黙っているヌシポケモンではない。
非常に好戦的かつ排他的なヌシポケモンは、キャプテン及びその代理の声も聞かずに工事現場に侵入。その圧倒的な力を開発業者に振るおうとした。しかし──
「──流石に手こずったが……危険度5の迷宮に比べれば何とやら、だな」
──クラウングループが何も用心棒を付けていないはずがなかった。
スカッシュ・アカデミアの卒業生は、企業子飼いの優れたポケモントレーナーの集まりであり、クラウングループに所属している者も多数存在する。
複数人で集まれば、ヌシポケモンを抑え込むなど造作もないことであった。
イッコンタウンのキャプテンと、クワゾメタウンのキャプテン代理は、自分達のヌシポケモンが暴れた件について責任を問われ、結果的に”ヌシポケモンの捕獲及びクラウングループへの没収”という前代未聞の事態を許さざるを得なくなってしまったのである。
そして、サイゴク地方は多額の賠償金を免れることを引き換えに、残りのおやしろの土地も引き払う事になってしまったのである。
結果、現在おやしろがあった場所は全て更地と化しており、怒りに煮えたぎる残りのヌシを、キャプテン達が必死に宥める状況が続いている。
合法的な手段では巨大資本相手に勝ち目がなく。しかし、武力に訴えても勝てない。勝てなかった。
完全敗北。完全に制圧されてしまったのである。
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「──ガラル地方では、つい先日、ポケモン愛護の観点からバトルへの反対活動が活発化、とうとうリーグ委員長の主導でリーグ廃止に加え、
「──パルデア地方では、新たに就任したリーグ委員長が大穴を始めとした各地の開発を推進……!? 知らない、
「──カントー地方やホウエン地方でもクラウングループが色んな所に顔出してる……チャンピオンも四天王も知らない人ばかりだけど……まさかこの人たちって」
イデアから渡された各地方の惨状を示す資料を渡され、イクサは体から力が抜けていく。
この数か月の間に、ゲームで知っていた各地方の重鎮の顔ぶれが、要職から消えているのである。
リーグのチャンピオンや四天王の顔ぶれが違うのは、時系列が違うことや入れ替わりが激しいから、という理由で納得していたし、この激動の数か月、他の地方の情勢を調べる余裕などイクサには無かったのである。
(独占禁止法とか無いのかよ、この世界……ッ!!)
「各地方の四天王やチャンピオン。更に組織に入り込んだ重鎮たち。彼らはスカッシュ・アカデミアを卒業した凄腕のエリート。クラウングループが何年も前から用意していた合法的侵略の手駒さ。此処まで撒かれていた小さな種が、この1ヵ月で一気に発芽し、開花したんだ」
言ってしまえば腐敗であった。色んな所に、素性と国籍を隠したトレーナー達を送り込んで、地方の顔となる企業、組織、チャンピオンや四天王、下手をすればジムリーダーも合法的に乗っ取っていく。
クラウングループは多国籍企業だから、各地方に彼らの息がかかった人間が居る。勿論現地出身の社員もいる。
金の力に任せて数々のサービスと商品で民衆の心を掴み、企業の吸収・合併を繰り返す。極力問題が出ないように立ち回る上に、仮に問題が出ても政治的な問題は、送り込んだ刺客でその地方の行政を麻痺させて揉み消す。
そして、彼等のターゲットの1つは……このオシアス地方も含まれている。
「レモンさんはこの事は知ってたんですか?」
「ええ。知ってたから、アトムたちの事は最大限警戒していたのよ。でもまさか、他の地方の重鎮やリーグ関係者もクラウングループの関係者がすり替わってるなんてね」
「分かるわけないでしょ、経歴も国籍も全部書き換えているんだから」
「奴らは何が目的なんですか? 今の話や資料を見た限りでも、ありとあらゆる手を使って此処まで資本を拡大化させる目的が分かりません。わざわざオーデータポケモンという武力まで集めている意味も」
「世界征服でも全然通るけどねぇ。強行突破でひっくり返されないようにするためじゃないかなあ」
それこそ、イクサから見れば「主人公」とも言える存在から転覆させられないようにするために思えた。
現にイクサ達は今、ギガオーライズしかないのだ。
「ただ、奴らは買い取った土地の多くを立ち入り禁止にして封鎖してるんだよ。バトルが禁止され、スタジアムが解体された空き地。おやしろの跡地。パルデアの開発地。住宅街になるでもなく、彼等の新しいビルになるでもなく……ずっとそのまんまなのさ」
結局の所──彼らを現状攻略する手段が全く存在しない事には変わりないのであるが。
「……結論から言おう! 敵はあまりにも大きすぎる。勝利条件はひょっとしたら無いかもしれない」
コナツはイクサ、そしてレモンの顔を見やる。
明らかに暗い。
学園1つを相手取るつもりでいた彼等だったが、結局の所バックに居る超巨大多国籍企業をどうにかしなければならないことが判明してしまったからである。
それは、逆説的に文字通り世界の資本全てを敵に回しかねないことを意味していた。
「……分かり切ってたことですね」
ぽつり、とイクサは言った。
「相手が巨大な事くらい……分かってましたよ。勝利条件は、
「……そうね。だから今、私達はギガオーライズに……縋れるものに縋ってるのよ」
「……成程、思った以上に覚悟が決まってるね、君達」
面白そうにイデアは口角を上げた。
「僕としても、美しいサイゴクを穢した奴らが許せなくってね。協力しようじゃないか、改めて……ね」
※※※
「……正直、信じられません」
イデアにクエスパトラのオーデータを預けた後、イクサ達はモーモーファクトリーの裏に戻っていた。
不安そうな顔でコナツは呟く。
「オシアスは……町の人々は今日も何事も無く過ごしていて。その裏に、その陰に、大きな悪意が潜んでいるだなんて……もし今の話が本当なら……貴方達が相手取ろうとしているものはあまりにも大きすぎませんか……?」
「勝てる勝負だから戦ってるわけじゃないよ。負ける気もないけどね」
「……イクサさんが強いのは分かります。でも──デジーちゃんは……いえ、愚問でしね」
コナツは寂しそうに笑みを浮かべた。
聡明で自分よりも頭が良いデジーが、敵の強大さを分かっていないはずがない。
「……説得して引き留められるような子じゃないのは分かってますからぁ。スカッシュ・アカデミアに行ったときもそうだったから」
「私達だって無茶な事をしようとしてるのは分かる。だから、頼れる人に、頼れるものに縋るしかない。でも、このまま放っておけば、オシアスは──終わるわ」
「……」
「だからこそ──納得するまで、デジーと話せば良い」
イクサの言葉に、コナツは図星を突かれたように唇を引き絞る。
「本当は納得していないんだよね。今までの言葉が全部、自分に言い聞かせてるようだったから。それに、僕が同じ立場なら──やっぱり止めに行くよ」
「……ズルいですね。いっそのこと、貴方達がデジーちゃんを巻き込むような悪い人たちだったなら簡単だったのに」
コナツは──首を横に振った。
「……引き留めませんよ。言わないと分からない事もあるけど、言わなくたって分かる事もあるんです」
「……コナツさん……本当に良いんですか?」
「だって、途中で何かを投げ出したりするのは……デジーちゃんらしくないですから。そんなデジーちゃんは私、見たくないです」
そう言った彼女のスマホロトムに──突如連絡が入る。
少し驚いたような顔をすると、彼女はそれを手に取った。
「……はい……えっ!? トトさんと、アジュガさんが警察に捕まった……!?」
「!?」
飛んできた続報は──オシアス警察当局に、突如二人が逮捕されたというものであった。
イクサとレモンは顔を見合わせる。
明らかに何かがおかしい。
「な、何かの間違いでは……!?」
「ウソだろ、2人が……!?」
「……冤罪を吹っ掛けられたのね。キャプテンを封じる為に」
「ッ……」
レモンの言葉にコナツの顔がより蒼褪めていくのが分かる。
「……この件はお父様に相談します。それでは」
通話を切ったコナツは──溜息を吐く。
アジュガは、不正会計の疑い。
トトは、図書館に違法薬物を隠していた疑いで逮捕されたのだという。
あまりにも唐突で、そして示し合わせたようなタイミングは、まさに答え合わせとしか言いようが無かった。
「トトさんとアジュガさんが逮捕された……?」
「今の話が本当なら、クラウングループが警察に圧を掛けたとしか……」
「どうしましょう……!?」
どうしようもなかった。
今の話を聞いた上で──彼らを助ける方法など何も無かった。
オシアスの司法はとっくに死んでいる。
表面上は秩序が保たれているように見えるが、クラウングループの目的達成に邪魔だと判断されたならば──あっさりと排除される。
「動けるキャプテンは……私だけ……?」
そして、孤立無援と化したコナツは、複雑そうにイクサ達を見やる。
「……コナツさん」
「……お父様に報告しなければならないので、今日はこれで失礼します」
「ッ……」
※※※
(……僕達のやってることは、本当に正しいのか……?)
──その日の夜。
デジーは未だにアンドロイドと向き合っており、イデア博士はクエスパトラの解析を続けている。
レモンも、経営者としての視点からクラウングループを崩す方法を幾つも考え、調べていたが──結果は全て「不可能」に終わった。
勝ち目がない。勝機が無い。
元より逃亡生活を続けており、絶望的な状況であるのは確かなのであるが。
(イデア博士が協力してくれるとは言え、やっていることは只の悪あがきで……他の人を巻き込んでるだけなんじゃないか……)
詰み。
その二文字が相応しい。
わずかに残っていた虚勢も、削がれてしまいそうだった。
自分達は、アトムの遊戯の為に泳がされ、生かされているだけに過ぎないことを、イクサは改めて思い知らされるのだった。
(……世界の何処に行っても、逃げ場なんてない……そして、今の所解決の糸口も見つからない……か)