ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第85話:ガチグマはガチって一番言われてる

 ※※※

 

 

 

「いやー、まさかこんな所で再会するとは思わなかったよ、元気してた?」

 

 

 

 イデアはイクサの顔を見るなり嬉しそうに言った。

 

「何やってるんですか貴方こんな所で……妻帯者でしたよね?」

「フィールドワークの一環に決まってるでしょ」

「ベッタベタな言い訳!?」

「もっと言えば休暇中なんだけどね?」

「えーと、この人って……」

 

 怪訝な顔で博士の方を見るレモン。

 怪しい人物でも見るような顔だったが──すぐに思い出したように言った。

 

「そうだ、オシアスの図鑑開発者でサイゴク地方のポケモン学権威の──イデア博士……よね」

「あらぁ、そんなに有名な方だったんですかぁ?」

「まぁね。テレビにも出てるよ。それより──君達も、何かと大変って話は聞いてるよ。追っかけ回されてるんだって?」

「!」

 

 イクサ達は思わず店内を見回す。追手らしき影は幸い見当たらない。

 

「博士、もうちょい声を小さく……!」

「ああ……確かに色々マズいか。場所を変えよう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「で、何でまた町はずれのバトルコートに……」

「決まってるでしょ? ポケモン勝負しようよ、イクサ君」

「……あのイデア博士、こんな事してる場合じゃないんですよ僕ら」

「知ってるよ。知ってる上で言ってる」

 

 砂が吹き荒れるコートでイクサとイデアは向かい合う。

 愉しそうに口角を歪ませると、博士は──ボールを握りし直した。

 オーディエンスは、人ではなくミルタンクたちだ。興味深そうにこれから始まるであろうバトルを見守っている。

 

「だって僕、休日だったんだよ? 君らを助ける以上は……見返りってものが必要だよね?」

「……見返り?」

「勿論──成長した君とのバトルに決まってるじゃないか。あれから何か月か経ったけど──どれくらい強くなったか見せてよ。ポケモン博士は、トレーナーの成長が一番の楽しみなんだぞう」

「そういうことなら……」

「ん? 前より暗いね。色々あったから? ダメだよ。楽しむときは楽しむもんだよ人間」

 

 博士の言葉に──イクサは頷く。

 正直、色々ありすぎてバトルを楽しむ余裕など無かったのだ。

 

「もし、君が勝ったら君達の協力を喜んで受けよう。その代わり、僕が勝ったら──僕の頼みを聞いてもらおうかな」

「……それくらいの方が燃えます」

「サイゴク地方のポケモン博士……お手並み拝見ね」

「ええ。どれ程のものか楽しみです♪」

 

 

 

【ポケモン博士のイデアが 勝負を仕掛けてきた!!】

 

 

 

 両者は同時にボールを投げる。 

 イクサの前に躍り出るのは、マリルリだ。

 その攻撃力の高さと、優秀な技範囲でとりあえずどんな相手にでも戦うことが出来る。

 

 

 

「……頼むよ、ガチグマ」

 

 

 

 砂の地面が思いっきりへしゃげる。

 重戦車の如き威容。大きく太く発達した脚に、重厚な筋肉、そしてそれを守る脂肪。

 地上最強の哺乳類として完成したその身体は対峙しているだけで足が震えてしまうほど。

 

 

 

「わぎぃ!!」

 

【ガチグマ でいたんポケモン タイプ:地面/ノーマル】

 

 

 

 レモンの身体にも鳥肌が立つ。

 現在ではサイゴク地方を始めとした泥炭の発掘される一部の地域に生息する、ヒメグマの最終進化形である。

 

(こんなのが野生に居るなんて考えたくないわ……ッ!! 迷宮でも確認された事例は無いのよ……ッ!!)

 

 ヒメグマ系統の例に漏れず、屈強で頑丈な肉体を持つ、生態系の頂点捕食者、トッププレデターである。

 そして、イクサの居た世界でも──見た目通りの超パワーファイタ―としての性能を誇っていた。

 

(解禁されたらヤバいって言われてた……ッ!! まさかゲームよりも先に、こうして対峙することになるなんて……ッ!! 種族値はHABが高く、Dも低くない。無駄のない洗練されたステータス。準・準伝説級のポケモンと言っても過言じゃない……ッ!!)

 

 それが意味するのは、対戦に於いては一般ポケモンでありながら準伝説ポケモンとも互角に戦えるスペックであるということだ。

 当然、そんなものが現実の世界に放り出されたら、暴力の権化のような怪物となって出力されるわけで。

 

「驚いたかな。あのヒメグマもすっかり大きくなったでしょ」

「えっ!? こいつ、あの時の……!?」

「りーるぅ!?」

 

 以前、イデアの脚にくっついて泣いていたヒメグマをイクサは思い出す。

 この数か月でリングマまで進化し、更にガチグマまで到達したのか、と感心する。

 

(確か生まれたばかりだったはず……やっぱりこの世界でも、優秀なトレーナーはポケモンを進化させるのがとっても早いのか……!!)

 

「以前のように可愛くはいかないよ? さあ、やろうか」

「ッ……はいっ!」

「りるっ!」

 

 パワー自慢なのはマリルリも同じだ。

 体格ではガチグマのそれには遥かに及ばない。

 しかし、タイプ相性ではこちらが勝っている──

 

「マリルリ!! ”アクアブレイク”だ!!」

 

 水を纏った突貫。

 それがガチグマの頭部を正面から捉える。

 ずざざざ、と後ろ脚で踏ん張るガチグマは、恐ろしい事にその勢いを完全に殺してしまうのだった。

 

「ッ……効果は抜群のはずなのに!?」

「”まもる”だ。君の攻撃を完全に防いだ」

「”まもる”──まさかッ!?」

「お、流石にカンがいいね」

 

【ガチグマは かえんだまで やけどした!!】

 

 ぼうっ、とガチグマの身体から炎が噴き出す。

 それと同時に瞳から赤い光が漏れ出した。

 それでイクサは全てを察する。ガチグマが持たされているのは”かえんだま”。

 持たせたポケモンを火傷させるアイテムだ。そして、通常火傷したポケモンは物理技の威力が半減してしまう。

 しかし──ガチグマは違う。

 

「特性・こんじょうを自力で発動させたのね……ッ!!」

 

 レモンは感心したように目を見開いた。

 ガチグマの特性は”こんじょう”。状態異常になると、攻撃が1.5倍される。

 更に、火傷状態の物理技の威力減少を無視するようになるため──今のガチグマは純粋に火力が超強化された状態だ。

 

「ヤ、ヤバイ……!! ってことは──」

「それと、此処はマリルリに倒されるわけにはいかないんだよね。オーライズ……遠慮なくいかせてもらうよ」

 

 イデアはカードを取り出すと、自らの右腕に光るオージュエルに翳す。

 

「──オーライズ。”オオスバメ”!!」

 

 ガチグマの背中に羽根型の鎧が纏われる。

 イクサは愕然とした。これでもう、マリルリからガチグマに弱点を突くことはできない。

 更に、マリルリは自らが特性に依存した性能を持つポケモンの為、他のポケモンにオーライズすると火力が著しく低下してしまう。

 たとえパーモットにオーライズしても、元が貧弱な攻撃力ではガチグマを倒せるかどうか怪しい。

 一方、オオスバメの特性はガチグマと同じ”こんじょう”。

 彼はタイプ相性を変更しながらもガチグマの火力をそのまま維持させたのである。

 更に、ガチグマの技を受けようにも、手持ちの他のポケモンにオーライズしたところで、ガチグマの技を受けられない。

 

「そっちの手持ちに、ガチグマのノーマル技と地面技を両方共無効化できるポケモンが居れば……話は別だけどねえ?」

「ッ……!」

 

 ガチグマの高い攻撃力から放たれるノーマル技、地面技は破壊的の一言だ。

 更にオオスバメにオーライズしたことで、オーカードに記録された飛行技も扱えるようになっている可能性が高い。

 

「突っ込むしかない──アクアブレイク!!」

「”からげんき”」

 

 マリルリの突貫を正面から受け止めたガチグマは──掌拳でその顔面を地面に叩きつける。

 前回とは訳が違う。一撃KOだ。

 ”こんじょう”で上がった攻撃から繰り出される、威力が倍増した”からげんき”。

 並大抵のポケモンが耐えられるものではない。

 

「ッ……マリルリの耐久は決して低くないはず……!!」

「あの腕から放たれる”からげんき”。どれ程のものか、考えたくも無いわね……ッ!」

「……戻って、マリルリ」

 

 初手からクライマックスとはまさにこの事である。

 この怪物を倒すことが出来るポケモンは2匹居るが──真っ向から立ち向かえるのは1匹だけだ。

 

「ハルクジラ! 次は君の出番だ!」

「おおう、来たか新顔……ッ!」

「厳密には違うんですけど──とにかく、ガチグマを止めなきゃ勝機は無い……ッ!!」

 

 冷気で周囲を凍らせ、地面を滑るハルクジラ。

 ガチグマを超える巨体でありながら、その素早さはこちらの方が上だ。

 スケーターのように砂の戦場を滑る白鯨は、氷柱を周囲に浮かび上がらせるが──

 

 

 

「Oワザ”でんこうせっか”」

 

 

 

 ──その前に、一瞬で間合いを詰めたガチグマが、ハルクジラの正面に拳を叩き込む。

 通常習得しないはずのノーマルタイプの先制技。しかし、オオスバメのオーカードに記録されたそれは、ガチグマに本来有り得ない機動力を身に付けさせた。

 イクサは驚愕し、じり、と後ずさる。

 ガチグマの非常に高い攻撃力から放たれたそれは、決して小さくないダメージを与えた。

 ぐらり、と仰け反るハルクジラだが、それでも重戦車同士負けられない矜持がある。

 氷柱を浮かび上がらせ、ガチグマの脳天に正確に叩き落とす。

 

「”つららおとし”!!」

 

 氷タイプの技は、飛行タイプにも効果抜群。

 火傷と先のアクアブレイクで体力が削られていることもあり、流石のガチグマもこれで倒れる──と思われた。しかし。

 

「おっと、まだ動けるみたいだ」

「んなッ……!?」

「いやぁ、これなら”からげんき”で良かったなぁ。でもそのハルクジラ、動きが速いから簡単に間合いを詰めさせてくれなさそうだし。そんじゃトドメと行こうかな!」

「此処で仕留めなきゃいよいよ終わりだ!! ハルクジラ!!」

 

 両者は急接近する。

 ガチグマは渾身の拳を。

 ハルクジラは、周囲に浮かび上がらせた氷の礫を。

 それぞれ相手よりも先にぶつけるべく、打ち交わす──

 

 

 

【ハルクジラの こおりのつぶて!!】

 

 

 

 ──先制したのはハルクジラの方だった。

 一気に氷の弾丸が突き刺さり、重戦車は遂に沈黙。

 その場に倒れ込むのだった。

 

「ありゃりゃ、やられちゃったかぁ。まあ仕方ないかあ……”かえんだま”は強いけど、その分ガチグマの本来の耐久も殺しちゃうんだよなあ」

「ッ……マ、マジで危なかった……!!」

 

 ま、1匹でこれだけ持っていただけでも上々だけどね、とイデアは付け加える。

 先の”でんこうせっか”でハルクジラはかなり体力を削られており、イクサが後使えるポケモンは1匹だけ。

 対して、向こうはまだ無傷のポケモンが2匹居る。

 

「次は君に任せるとするよ。アヤシシッ!!」

 

 現れたのは──イクサの知るものとは違う、黒い体毛に覆われたオオツノジカの如き威容を持つポケモンだった。

 角には宝珠のようなものが付いており、足元からは青白い鬼火が常に燃え盛っている。

 目元は赤い隈取が浮かび上がっていて猛々しい印象さえ受ける。

 また、歴戦の個体なのか──片目は失われており、身体のあちこちにも生傷が見える。

 

「ブルルゥーラ!!」

 

【アヤシシ(サイゴクのすがた) おおツノポケモン タイプ:ノーマル/ゴースト】

 

(リージョンフォーム……って事か……!!)

 

 オシアス地方にオシアスのすがたのポケモンが居るように、サイゴク地方にも”サイゴクのすがた”のポケモンが存在するのだろう、と図鑑を見たイクサは納得した。

 

「おっと見るのは初めてだよねぇ? サイゴク地方は特殊な霊脈が通っている。こいつは、その影響を受けて進化したのさ」

「ッ……原種は確かエスパータイプだったはず……!」

「そうだね。だけどこいつはゴーストタイプってわけだよ。さあ行くよ──」

 

 隻眼のアヤシシの失われた右目に鬼火が代わりに宿る。

 ハルクジラと睨み合い、常に間合いを取り続けるアヤシシ。

 

「何をしてくるか分からないわね……ッ! アヤシシ自体、攻撃と特攻、どちらも高いポケモンだから……ッ!」

「技の種類も多いと聞いていますが……!」

「ハルクジラ、”つららおとし”!!」

「”バリアーラッシュ”」

 

 降りかかる氷柱。

 しかし、それさえも自らの身体の周りに障壁を展開して強引に突っ切ってくるアヤシシに驚愕を隠せない。

 角を突き立てるとハルクジラの巨体が揺れた。

 アヤシシの体躯も、こちらに負けず劣らず大きく、震動がイクサの方にまで伝わってくる。

 

「ガ、ガチグマに負けず劣らずのパワーファイターだ……ッ!! ”つららおとし”があんまり効いてない……ッ!!」

 

(そりゃそうだ、”いかく”でAを1段階落とされて、その上で”バリアーラッシュ”でBを1段階上げられてるんだ、効いてなくても無理が無いか……ッ!)

 

「も、戻ってハルクジラ!」

 

(……物理防御が高くて手が付けられないなら……特殊方面から攻めるしかない……ッ!!)

 

「サーナイト!!」

 

 3匹目にはパーモットを使いたかったイクサだったが、止むを得ない。

 

「成程、確かに”バリアーラッシュ”じゃあその子の特殊技は防げない」

「それだけじゃないですよ。うちのサーナイトの特性は”トレース”。”いかく”をそのままお返しします!!」

 

 ギィン、とサーナイトの目が光り、アヤシシを逆に威迫してみせる。

 これでアヤシシの攻撃力も低下した。防御力が高いとは言えないサーナイトにとってはかなり心強くなる。

 

「……行きます! サーナイト、”かげぶんしん”!!」

 

 一気に周囲にサーナイトの分身が現れて、アヤシシを取り囲む。

 しかし──

 

「”あやしいひかり”」

 

 アヤシシの角の宝珠が光ると、サーナイト達はふらふらと足取りがおかしくなる。

 ”こんらん”させられてしまったのだ。

 分身しようが関係ない。戦っている限り、サーナイトは必ずアヤシシの方を視認しなければならない。

 

「アヤシシの力の源は頭の宝珠だ。これを見てしまえば、一瞬で術にかかる。”こんらん”状態だとポケモンは自滅してしまうし──そうでなくとも、まともに動けないから攻撃は簡単に当てられるね! ”シャドーボール”!」

 

 周囲に影の弾幕が浮かび上がり、サーナイト目掛けて飛んで行く。

 分身は1つずつ消されていき、最後に残ったそれも──消え失せる。

 

「……あれ?」

 

 イデアは眉を顰めた。

 分身はこれで全て消えてしまった。もう視界の中にサーナイトは居ない。

 それならば──本体は何処へ消えたのか、と言う話だ。

 

「悪いけどこの子、”かげぶんしん”が十八番なんですよ」

「まさか──」

 

 イデアは上空に目を向けた。

 サーナイトがアヤシシの背後に回り込んでおり──

 

「分身をデコイにして、()()()()()()()のか!?」

「”ムーンフォース”!!」

 

 ──アヤシシの身体は月光の如き白い光の弾に突き飛ばされ、地面に倒れ込む。

 だが、流石の耐久力というべきか。一撃では落ちず、そのまま足元の鬼火を燃え盛らせて、再び猪突猛進にサーナイトに突貫する。

 

(しかも、混乱してない辺り、アヤシシの角を”見なかった”……ってところかな……! 流石サーナイト、とても知能が高いポケモンだ……!)

 

(やっぱり硬い……だけど!!)

 

 今度は先んじてサーナイトの目が光る。

 アヤシシの身体はふわりと自由を失って空中に浮かび上がり──

 

 

 

「ゴーストタイプだけど……実体はあるみたいだし……自重も合わせてお返しだ!! ”サイコキネシス”!!」

 

 

 

 ──思いっきり地面に叩きつけられるのだった。

 アヤシシの身体に纏われていた鬼火は消えていき、完全に気を失ってしまったようだった。

 

「あーあ……やられちゃったか。戻ってアヤシシ」

「……これで、2匹……!!」

「うん、強くなった。実に強くなったねイクサ君。だけど……そこまで来たなら、本気でやっちゃっていいかなぁ」

「……来る……!」

()()()()、お願いね!」

 

 イデアの投げたボールからは──絵筆の尻尾を持つポケモンが飛び出す。

 

 

 

「どぅーどぅるッ!!」

 

 

 

 彼が最も信頼を置く相棒・ドーブルだった。




Tips:サイゴクの姿
サイゴク地方には特殊な霊脈が存在し、その影響を受けたリージョンフォームが多数存在する。アヤシシもその1匹である。
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