ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第83話:心が2つ

 じっ、とクエスパトラの形をしたそれは、デジーを見つめていたが──何処か諦めたかのように、主人の傍らにまで引き下がる。

 

「……えっと、これは」

「見張っているから、さっさと直せ……と言わんばかりだね。警戒を解いた様子はないけど、邪魔するつもりは無いみたいだよ」

「良かったぁ……」

 

 座り込むデジーは、再びアンドロイドの少女に近付く。

 そして、鞄からノートPCを取り出しながら作業を始めるのだった。

 

「コナツ、このアンドロイドが他に持ってたものって?」

「衣服と……妙な仮面でしょうか。それは今、別の所に置いてるのですが」

「オーケー。後で持ってきて」

「もう取り掛かるのね」

「色々調べたいんだ。さもなきゃ、終わらない。オーデータ・ポケモンと一緒に居たなら、もしかしてもしかしてだけど、マジもんのオーパーツかも!」

「しかし本当に直せるの? 見たところ、この世界でもオーバーテクノロジーな機械に見えるよ。だって、ポケモンを従えてたってことは、高度なAIを持ってるってことだろう?」

「持ち主を探した方が手っ取り早いんじゃないかしら」

「もし持ち主が探してるなら、とっくに大騒ぎになっていると思うね。こんな高度なアンドロイド……」

「迷宮に居たっていうのも気になるわね。しかもその後誰も探しに来ない」

「とにかくっ! 此処は、天才のボクにお任せだからねっ! 直せば何か分かるでしょ!」

 

 工具を取り出した彼女は、得意げに言ってのける。

 

「それに、できるとかできないとかじゃない! 技術屋として、こんな()()()()放っておけないね!」

「くえすぱ!?」

 

 

  

 カンカンカンカンカン!!

 

 

 

 クエスパトラの嘴がデジーの頭部を思いっきり叩く。

 

「あーあ、面白案件とか言うから怒っちゃった……」

「真剣にやらないとブッ殺すって言ってるわね、確実に」

「あだだだだ……頭はやめてよ頭はッ!! ボクは、この天才的頭脳だけが取柄なんだぞっ!! お前の所為でバカになったらどう責任取ってくれるんだようっ!!」

「悲しい事を言うのはやめなさいよ……」

「くしゃとりゃ……ッ!」

 

 既に先が思いやられる。

 

「えーとデジー。僕達に出来る事は何か──」

「無いよ。これはボクの戦いだからね。むしろ、君達には休んでいてほしいくらいっ!」

 

 相手は精密機械。下手な事をされる方が面倒だ、とデジーは語る。

 

「コナツ……転校生達に協力して。何だって良いんだ! お願いっ!」

「っ……ええ、勿論♪ デジーちゃんのお願いですからぁ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「それにしても、良かったですぅ。デジーちゃんのお供が、良い人そうで……いえ、むしろデジーちゃんがお供、なんでしたっけ?」

「随分と好意的なのね。正直、無理矢理彼女を連れ戻されても文句言えない事をしてるわよ、私達」

「ちょっとレモンさん……そんな穿った言い方は……」

「……そうですねぇ。正直、考えましたよ。デジーちゃんの御両親も娘の安全第一みたいでしたからぁ。探してでも連れ戻して来いって言われちゃって」

 

 はっきり言われてしまうとぐうの音も出ない。

 

「じゃあやっぱり──」

「御両親がそう言ってるなら、無理に私達の元に引き留めておくわけにはいかないわね」

「でも──デジーちゃんにはきっと、やるべき事があって……やりたい事があって、それで貴方達に付いていってるんだって思ったんです。あの子はいっつもそうですからぁ。私の傍を離れた時も……そうでした」

 

 少し寂しそうにコナツは語る。

 元々、彼女達はサースドシティ市立アカデミアに通っていた。

 しかし、そこの設備ではデジーは思っていたような発明品を作る事が出来ず、また周りから見ても突出した才能は、彼女を浮かせてしまっていた。

 

「正直心配でした。スカッシュ・アカデミアへの移籍が決まる前までは、”お金さえあれば””お金さえあれば”が口癖になっちゃって……かと言って、末子の彼女をスカッシュ・アカデミアに通わせるような余裕は御両親には無かったようで」

「そんな……」

「スカッシュ・アカデミアは企業御用達のスペシャリスト養成学校の側面を持つわ。学費はオシアスのどのアカデミアの中でも高額よ」

「私は……結局、デジーちゃんの力にはなれませんでした」

 

 

 

 ──いけません、デジーちゃん……! クラウングループは、何かと黒い噂が絶えないんですよ……ッ!?

 

 ──邪魔しないでッ!! 親から自分の夢を応援されてるコナツには……一生分からないよッ!!

 

 

 

「……色々あったみたいね」

「はい……そして案の定、こうして追われる事になっちゃって……」

「そりゃあ御両親も連れ戻して来いって言うよ……」

「でも、私にはそんな事は出来ませんでした……だって、今日貴方達と一緒に居たデジーちゃんは……最後に会った時よりも、よっぽど生き生きしてて、昔のあの子を見てるみたいでしたからぁ」

 

 資金、そして両親の反対、様々な要因もあって、一時期の彼女は本当にやさぐれていた、とコナツは語る。

 

「貴方達を見ていると、良い人に恵まれたんだなあって分かります。でも──彼女をアカデミアに誘った、クラウングループの男……アトムはそうではなかったようですね」

「……ええ。あいつらは散々デジーを利用した上で捨てたのよ」

「だから、同じアカデミアの僕らの事も信頼できないと言われると、何にも反論できないんだけど……」

「まさか。私は貴方達の事は信じてるんですよう?」

 

 にこにこ、とコナツは二人の目を見て微笑んだ。

 

「あのデジーちゃんが付いていくことを選んだ相手です。信頼しないわけがないじゃないですかぁ」

「と言うのは?」

「あの子は……ちょっと狡賢い所がありますからぁ。有利な方に付こうと思えば付けたはずなんです。でも、そうしなかった。貴方達は……相当デジーちゃんに信頼されてるんですね♪」

「……だったらいいけど」

「逆に──貴方達にとって、デジーちゃんはどんな人ですか? 教えてくださいな♪」

「後輩よ。私が実力を認めた可愛い後輩だわ」

「──ライバルだよ。初めて……対等に自分の力をぶつけ合ったライバルだ。絶対に勝ちたい、倒したいと思った相手だ。」

 

 ファーストコンタクトは最悪も良い所だった。

 しかし、度重なるぶつかり合い、そして共闘は二人の間に確かな絆を生んでいた。

 

「それに、彼女もポケモンが好きだからさ。ポケモンが好きな人間に悪いヤツは居ないと思ってる」

「……成程。お二人とも、デジーちゃんが大好きなんですね。安心しましたっ」

 

 言ったコナツは振り返ると──

 

 

 

「……デジーちゃんを守ってあげてください」

 

 

 

 ──何処か寂しそうな声で告げた。

 

「あの子は、私とは比べ物にならないくらい賢くて、強い子です。でも……一回こうだと決めたら、何が何でも突き進んじゃう所がある。自分の身も顧みない」

「……」

 

 身に覚えがあり過ぎる。

 特に、メロディーレインでの戦いの際、彼女は聖女の身代わりになり、自ら危険に飛び込んだ。

 結果的に無事だったから良かったものの、下手をすれば途中でバレて命を落としていてもおかしくはなかった。

 普段の悪戯っ子そのものな振る舞いとは裏腹に、その行動は──覚悟が決まり過ぎているところがある、とイクサは感じる。

 

「自分の事でも全力だし……他の人の事でも全力。悪い子ぶってるけど……本質的には、()()()()()()()()()()()()()って子なんです。発明も最初はそうでした」

 

 始まりは、ミミロルの遊び道具を作ったことだ、とコナツは語る。

 そのうちコナツのポケモンが遊んでも壊れないような大きな遊具までデジーは作ってしまったらしい。これが8歳の頃の話らしいので、天才の名に嘘偽りは無いのだろう。

 

「そんなデジーちゃんが、だんだん変わっていくのは辛くて……でも、貴方達が止めてくれてよかった」

「……お礼だなんて良いですよ。確かに手は焼かされましたけど……」

「私達結局、あの子を力づくで止める事が出来ずに、懐柔することしか出来なかったのよ。たまたま、生徒会の裏切りが重なっただけ」

「そうかもしれませんね。でも、あの子……友達を作ったりしないから」

 

 ──だって、ボクに並ぶ才能の持ち主なんて居ないんだもん。

 

 ──今更新しい友達なんてウザったいだけだよ。え? コナツは……もうっ、そういうのはズルい! コナツにまで居なくなられたら、ボクは……。

 

 ──い、今のナシっ!! 聞かなかったことにしてっ!! ほら、あっち行った!!

 

「……良かった。本当に良かった」

「でも、貴女の親友はアカデミアから追われる対象になっているもの。私の所為で──」

「レモンさん。きっと、それをデジーちゃんが聞いたらすっごく怒ると思いますよ?」

 

 見透かしたようにコナツは言った。

 

「何年あの子を見てきてると思ってるんですか? ──あの子が素直に私にお願いするなんて、いつぶりでしょうか……プライドが高くて、他の誰かを滅多に頼らないあの子が、ですよ?」

 

 正直、初めて会った時に比べれば丸くなったな、とイクサは思っていたが、それだけ自分達に心を許していたということなのだろう、とイクサは考える。

 

「私はギガオーライズについての新しい情報を握っているわけではありません。貴方達を匿い、クラウングループに対抗する方法を一緒に考える事しか出来ません。それでも……やれることはできる限りやろうと思ってるんですよ」

 

 にこにこ、と笑みを浮かべると──コナツは手を合わせる。

 

 

 

「あの子をお願いしますね? ……イクサさん、レモンさん♪」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「なぁーんにも分かってなかったわ、私」

 

 

 

 夜、案内された宿屋の一室で──レモンはベッドの上で大の字に寝そべりながら言った。

 

「ついてきてもらったからには責任を取らなきゃ、とか……ずっとそんな事ばっかり考えてて。あの子が自分の意思で戦ってくれてるのを見落としてた」

「いつも全力なんですよ彼女は」

「……そうね」

 

 パーモットに餌をやり終えたイクサは──ふと今もガレージで作業をしているであろう彼女を思い浮かべる。

 キャプテンの協力を得る為に、会うのを渋っていた相手に頭すら下げた彼女は、今も1人で作業を続けているだろう。クエスパトラの姿をしたオーデータと共に。

 

(何か差し入れでも持っていってあげた方が良いのかな……でも邪魔だって言われそうだし)

 

「あら、あの子の事を考えてたのかしら?」

「いや、そういうわけでは──」

「私の前だからって遠慮しなくて良いのよ。私も──同じだったから」

「……レモンさんはそれで良いんですか?」

「私ね、あの子の事、結構好きなのよ。心意気とか……意外なところで純情な所とかね。私、意外と人間の好みが似通ってるのかも」

「……確かに。分かるかもしれません」

「でも、だからこそ……できるだけ危ない目に遭わせたくないって気持ちもあるのよね……どうしても割り切れないわ。勿論、貴方に対してもよ、イクサ君」

「大丈夫ですよ。僕もデジーも強いんですから」

「……なら、あの子の力になりたい。それに、アンドロイドが何か重要な情報を握ってるかもしれないし」

「あ、その件なんですけど」

 

 イクサは思わず立ち上がった。

 件のアンドロイドの姿には覚えがあった。

 朧げで、今も薄っすらとしか覚えていないが──

 

「思い出したんです──僕があのアンドロイドを見たの……ザザの地下迷宮なんです」

「何ですって?」

 

 レモンはそこまで聞いて、1つ解決していなかった疑問がある事を思い出した。

 崩落した迷宮でイクサを助けたのが誰だったのか、だ。

 彼は、ポケモンに襲われてボロボロになっていたにも関わらず、裂け目の近くに寝かせられていた。

 しかしその時周囲に野生ポケモンは居なかった──誰かがイクサを助けて此処まで運んだと考えるのが自然だが、そうなるとイクサ以外にも迷宮の奥に誰かが居た可能性が浮上してくる。

 それが誰なのかは終ぞ分からなかったし、イクサを置いたまま何処かへ行ってしまった意味も分からなかった。

 

「褐色肌、そして仮面。ええ、仮面を被ってました。まだ仮面の実物を見てないから何とも言えませんけど……」

「……迷宮で貴方を助けたのが、アンドロイド? それとオーデータポケモン……? わっからないわ……じゃあ何? 例のロボットは大河の迷宮だけじゃなくって、ザザや他の迷宮にも出入りしていた可能性があるって?」

「逆に、自律稼働できるロボットが大河の迷宮を根城にしてたとして、今まで何度もトレーナーが立ち入ってるのに見つからなかったのは何ででしょう?」

「ぐっ、そう言われるとぐうの音も出ないわ……でも、結局アレは一体何なの?」

「分かりません……それに結局見間違いかもしれませんし」

「……でも、あんな高度なロボット、何人も居て堪るかって話だし……仕方ないわ。もしアレが各地の迷宮を渡り歩いているなら何か目撃情報があるのかもしれない」

「調べるんですか? 僕も手伝います」

「頼むわ。後は……バジルの力も借りましょう」

 

 ──その晩は、バジルにも調査依頼を出した上でネット上のウワサを探し回った。

 結果、それらしき情報はすぐに見つかったのである。

 不思議な仮面を被った少女と、クエスパトラを迷宮で見たという話だ。

 それも1つの迷宮だけではなく、幾つもの迷宮でも確認されているのである。

 バジルの方からも、しばらくして有力な情報が流れてきた。

 

『最後に確認されたのは、ロッツォシティの迷宮……つまり、サースドシティの南部にある迷宮デスね。そこで目撃情報が確認されてマス!』

「じゃあやっぱり、例のアンドロイドは各地の迷宮を移動してたのね」

「猶更分からなくなってきましたね……あの子は何故、迷宮を……? それにオーデータポケモンは何処から……?」

「デジーがアンドロイドを直しさえすれば全部解決よ解決」

「だと良いんですけど……あ、もう朝の4時だ」

「……寝ましょうか」

『私も目がショボショボするデース……』

 

 デジーは今頃何をやっているんだろう、とイクサは思いを馳せる。

 あのクエスパトラ型のオーデータに睨まれながら、修理を続けているのだろうか──と。

 レモンが腕に顔を埋めて眠ってしまったのを見届けると、何処か不安な気持ちが湧いて、イクサは立ち上がる。

 

「ぱもぉ?」

「いやさ、大丈夫とは思うんだけど……」

「ぱもぱも」

 

 パーモットが顔を見あげる。イクサは、日中に町中で買ったお菓子の詰め合わせを見せた。

 

 

 

「折角だし……差し入れしてあげようかなって。パモ様もついてくるよね」

「ぱもーぱもぱもっ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「もーう許せないッ!! 事あるごとに頭をカンカンカンカンカンカンカンカン!! 穴が開いたらどうするのさッ!! このボクの天才的頭脳を何だと思ってるのかなぁ!?」

「くしゃとりゃっ!!」

「こうなったら暴力の出番だよッ!! 人間様が格闘タイプの源流だって分からせて──痛い痛い痛い、腕を啄まないで!! 助けてミミロップ!!」

「みーみみ!!」

 

 

 

 呆れながら飛び出すミミロップ。

 すぐさま、修理中のアンドロイドの前で乱闘が始まった。

 ダチョウのポケモンとミミロップが取っ組み合いになっている。

 血で血を洗う戦場と化したガレージの扉を開けたイクサは──首を横に振る。

 あまりの凄惨さにパーモットは顔を手で覆い隠していた。

 

 

 

「やっぱり来て良かったって気持ちと、来るんじゃなかったって気持ち、心が2つある……」

「ぱももも……」

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