12月20日:彼らの聖剣、我らの偉業
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エクゾーディナリースキル「斬首凶技」。
それはエクゾーディナリーモンスター、アイドロン・ウルフ「三首凶疑」の撃破で獲得可能なスキルである。
アイドロン・ウルフは一見して普通の狼のようなモンスターであるが、特殊な行動として物理干渉可能な霊体のような……いうなればエクトプラズムなもう一つの「頭」を出現させることで一頭でありながら実質的複数の狩りを行うことができる。
エクゾーディナリーモンスターとしての「三首凶疑」はその名の通り、通常は一つだけの「頭」を二つ、本体の頭部も併せて三つの頭による攻撃を行う。
ガル之瀬はシャンフロで手っ取り早く(この場合は短期間で、の意である)強くなるために、あえてユニークシナリオを選ばなかった。
リスナーや攻略サイト、果ては匿名掲示板などありとあらゆる場所から情報をかき集めて狙ったのはエクゾーディナリーモンスター、その撃破で習得可能なエクゾーディナリースキルだった。
(間違いなく強いんだが……)
「斬首凶技」の効果は自身の武器に追従する追加の攻撃判定……エクトプラズムの「武器」を二つ生み出す。剣聖の従剣劇のように自在に動かせるわけではないものの、コピー元の動きに合わせてワンテンポ後に同じ軌道を描く二つの「武器」は単純に考えれば攻撃のスリーヒット、そうでなくともメインの一撃が外れた場合にも追撃は保険になる。
だがその長所の数々は、相手が近接戦闘に応じることが前提である。もしも相手が遠距離に徹した場合、斬首凶技は完全に無駄撃ちになってしまう。
ハンドアクスではなく、メイスを構えながらガル之瀬はしかし警戒のレベルを引き上げる。
(向こうは近接戦に乗ってきた………ここまではいい)
だが、向こうが選んだ使用武器は恐らく「サンラク」のメイン武器種であろう剣。それも、ガル之瀬がこれまでに見たことが無いタイプの武器。
シャングリラ・フロンティアはファンタジーとSFの双方を取り入れた世界観のゲームである。故に、SF側の武器が変形したりするのは別に良い。だが、ファンタジー側の武器がある種SFじみた挙動をする、というのは警戒に値する特徴だ。
(シャンフロの武器は作成に使用したリソースの量に応じて手の込んだ性能……そして見た目になる)
ガル之瀬が今握りしめている黒一色の武骨なメイスは少々特殊ではあるが、基本的にファステイアで入手できるロングソードと、強力なモンスターがひしめくエリアでのみ採れる鉱石から作ったロングソードでは明確に雰囲気が違う。どれだけ取り繕ったところで「何か凄そう」という印象をゼロにすることはできない。
対してあの剣。取り繕うことなど微塵も考えられていない、黄金の輝きになんら恥じ入る部分は無いと言わんばかりのギラついた形に「鉱石を吸って刃を作る」という異質な剣。
(全力かは知らない、が………本腰は入れてきたと考えていいだろう)
これまでの武装も決して半端なものではなかった、だがアレは段階が違う。晴れ舞台でありながら「出すべきではない」と思えてしまう矛盾。美術品としての価値がありすぎる宝剣をガラスケースから出して振り回しているような。
恐らくその印象は間違っていないのだろう。あの剣は…………シャングリラ・フロンティアというサービスにおける最先端にある武器なのだ。
(………だったらイーブンだ)
それ故にガル之瀬は笑う。
シャングリラ・フロンティアにおける最先端……あるいは最終到達地点と言い換えるならば。
ガル之瀬とサンラクは対等な立ち位置にいる。
◆
皇金剣はこの地に……見上げた先、空よりは低いが星空にも負けない輝きを放つ水晶の玉座に君臨していた蠍の皇帝から作られた剣だ。ある意味これ首だけ持って凱旋してる感じではないか? と思ったがいまさらだったな。それに俺と蠍はマブダチなので多分許してくれるさ、どっちにせよバドミントンされる(動詞)から大差ないしな。
水晶群蠍には食えない筈の鉱石を貪り、皇たる剣を鍛え上げる蠍達の皇帝。その素材を惜しげもなくぶち込んだこの剣の輝きは、サイガ-100の持つ聖剣エクスカリバーにも似た黄金だ。というか素材の中に勇者武器関連クエストの素材使ってるしな………だがこれは人の剣に非ず。
あくまでも人が扱える形にしているだけ、その本質は人間のためのものではなく水晶群蠍………彼らの聖剣なのだろう。
「とはいえ………」
あんのヤロー………俺が皇金剣をお披露目しているどさくさに武器を切り替えているのを見逃すと思ってんのか? タワーシールドの陰でこっそり入れ替えているのが対人仕草だ、ああいうことを戦闘中にされるとマジでキツいからな。
ガル之瀬の手の中、先ほどまで俺の命を何度か脅かしていたハンドアックスが別の武器へと変わっている。黒一色の………メイス、か? 恐らく棍棒とかそういう類のものではあるだろうが…………なーんか怪しい。
ガル之瀬、奴のシャンフロプレイ歴を俺は知らない。故に、サービス開始時からの古参勢なのかあるいは超突貫工事で最低限レベルを上げたのかが分からない。
だが一つだけ言えるのは奴のステータス、装備、そして立ち回りはシャンフロの対人用に仕上がっている、ということだ。少なくとも現状のレベル上限、天井を叩いている俺と渡り合えるレベルにはリソースを揃えている。
聖剣の剣聖サイガ-100に匹敵する、いや「硬さ」で言えば奴以上と見ていいだろう。そんな奴がこっちのパフォーマンスに合わせてしれっと切り替えた武器………何かある。俺が万古不易を使っていた時なら、打撃武器に切り替えるのも理解できるが今は別に打撃だろうが斬撃だろうが直撃したら致命傷だ。
と、なると考えられる可能性は二つ。
あの武器種でなければいけない、もしくはあの武器でなければいけない。
それになにやら怪しげなスキルエフェクトまで纏わせちゃってまぁ…………
「よし、」
ちと相性ゲー押し付けるか。ズルいと言ってくれるな、高評価だからこそ解禁するんだ………対人だとマジでズルいんだけどな、これ。
俺は皇金剣を持つ右腕、の繋がる右半身を前に出すようにして、左半身を……そこから続く左腕をガル之瀬から隠すように身体を傾ける。
そしてくいくい、と軽く左手を開いて閉じてを繰り返す。これはサインだ、出前のな。インベントリアを通して、左手の手首あたりにメダルのような円盤が現れたのを音で察知しながら俺はガル之瀬を見据える。
「第二ラウンドだ」