ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
『カフェ・モーモーファクトリー』
でかでかと掲げられた看板を前に、イクサ達は立ち尽くしていた。
オアシス都市・ファウントタウンはそれなりに大きな町ではあるが、その中でも異彩を放つのが、ファンシー極まりないこちらの店。
近くには放牧地らしきものが広がっているのが見える。
「……ウッソぉ、これってまさか」
「デジー、見覚えがあるの?」
「故郷……サースドシティの店さ。シンオウ地方のとあるカフェにインスパイアを受けたとかで……」
「でも、絶妙に入りにくいねコレ……」
店舗の様相は、イクサの知るメイド喫茶の如くであった。
町の人々が行き交い、各々が接待を受けている。
「お帰りなさいませ、ご主人様ーっ♪」
メイド服の女の子の黄色い声が聞こえてきた。
「この砂の町に、ごりっごりにジャパニライズされた店があるのすっごく違和感あるな……世界観どうなってるんだ?」
「見てみなさいよ、お客さん皆デレデレしちゃって。イクサ君もああいうのが好きなの?」
「僕は別に。そういうのに拘りがあるわけでは──」
「今度、着てみせてあげようかしら?」
「良いですって! いや、そりゃあ、レモンさんは何を着せても似合うとは思いますけど、滅相も無いです」
「今の私は寮長でもなければ風紀委員長でもなく、君の保護者でもないのよ?」
(何か、この二人距離近くない……? 以前にも増して)
横でやり取りを聞いているデジーは気が気でない。
そう言えばイクサは砂漠を歩いている時もぴったりとレモンの隣を離れていなかったし、彼女も事あるごとにイクサの方を向いて笑みを浮かべていた。
だが一方で、二人とも目が合うと、何かを思い出したかのように視線を逸らしてしまうのだった。
(何? ひょっとしてボクだけ置いてけぼりにされてる? ボクが気絶している間に何かあったの?)
「ぶもぉー」
どすん、どすん、と足音が聞こえる。入り口から中を覗いていた3人に、何かが近付いてくる。
振り向くと、立派な角を携え、黒い体毛をどっしりと背負った、二足歩行の乳牛のポケモンがぼんやりした目でこちらを見つめていた。
「……ミルタンク、だよね? 僕が知ってるのとはだいぶ違うけど」
姿は違うが、そうだと断定できた。
初登場は金・銀。ノーマルタイプのジムリーダーのエースとして暴れ回り、数多のプレイヤーにトラウマを植え付けたことで知られている。
無進化ポケモンであるが故にステータスが高く、おまけに回復技まで持ち合わせていることが主な理由だ。
故に人々は嘆いた。「ミルタンクが倒せない」と。
高い火力、耐久力、回復技、まさにミルクのタンク、生ける重戦車ポケモンだったのである。
「しっかしまた、どうしてこんな姿に? 何というかワイルドな見た目ですね」
「他の地方のミルタンクと違って、オシアスのミルタンクは長い間、川辺やオアシスの近くで人に寄り添って来たポケモン。姿かたちが違ってもおかしくないわ」
「水辺での戦闘は大の得意なんだよ」
「ぶもぉ♡」
【ミルタンク(オシアスのすがた) すいぎゅうポケモン タイプ:水/フェアリー】
(水でフェアリー、マリルリと同じタイプか……)
「でも、ポイントはやっぱり栄養満点のモーモーミルクかな」
「やっぱりその名前で呼ばれてるんだ」
ミルタンクの乳ということで回復アイテムに挙げられるのが「モーモーミルク」である。
栄養は満点、飲み過ぎるとそれこそミルタンクの如き体型になってしまうと専らのウワサらしい。
「オシアスは水が少ないから、昔から酒類や、ミルタンクの乳がありがたがられたんだ。癖が強いからボクは苦手なんだけど……」
「あらあらぁ、まだモーモーミルクが苦手なんですかぁ? それじゃあ、いつまで経っても大きくなれませんよ、デジーちゃん♪」
おっとりとした声が聞こえてくる。
店の中から姿を現したのは、メイド服を身に纏った少女だった。
包容力に溢れた立ち振る舞いに違わず、服の上からでもはっきりとわかる非常に暴力的なそれが真っ先に目についてしまう。良くないとは分かっていても。
そして、それすらも許してくれるのではないかと思わせてくれるような、天使の笑顔を前に、イクサもレモンも釘付けになってしまうのだった。
「
デジーがその名を呼び、イクサとレモンは彼女の方を向いた。
そして次の瞬間、牛の如き突進がデジーを襲う。
たゆん、と服と下着で押さえつけられているはずの豊満な胸が揺れ、彼女を埋もれさせた。
「お久しぶりです、デジーちゃん♡ 会えなくて寂しかったですよーっ」
「むぐ、むぐぐぐぐ!!」
「ちょっと! それ以上は彼女が窒息死するからやめてあげた方が……」
「え? あ……ごめんなさい、つい感極まっちゃって……」
「こ、殺される……おっぱいに、殺される……ッ!!」
(軽くバジルの倍はあるスケール感ね……)
(あのデジーが逆に弄ばれてる……)
手を地面に突いてぜえぜえと呼吸するデジー。
圧倒的なサイズ差による敗北感を突きつけられ、既に心は折れそうであった。
(こ、このうしちち女……!! ボクと同い年でこの胸……!! だから会いたくなかったのに……!!)
「じゃあ、貴女が……」
「はいー、お出迎えが遅れて大変申し訳ございません♪ 私が”大河の遺跡”のキャプテンのコナツと申します。デジーちゃんは……私の親友で幼馴染です♡」
【”大河の遺跡キャプテン”コナツ】
「立ち話も何ですし、続きはウチの店で話しましょうか?」
※※※
「こちらが、モーモーミルクで作ったアイスクリームパフェでーす♪」
メイド服のウェイトレスが持ってきた、たっぷりアイスが乗ったそれを前に圧倒される。
アイスをスプーンですくい、口に運ぶと、濃厚でまろやかな脂肪分の味が優しく舌を包み込む。
「んッ、美味しい!?」
「……流石ね」
「ぐっ、悔しいけど、アイスにすると普通に美味しいんだよなぁ……」
「気に入っていただけたようで何よりでーす♪ 元々、デジーちゃんにうちのミルクをどうやったら楽しんでもらえるかって考えて作ったのが、このアイスクリームですからぁ♪」
「アイスのレシピは、コナツさんが作ったんだ」
「ええ! 私、お料理が大好きなんですよ。今通ってる学校でも、調理を専攻させてもらっています♪」
楽しそうに彼女は語る。
「それで、コナツさんは……キャプテンなんですよね? 何でこの店に? 見た所、メイドさんと同じ服着てますけど」
「イクサさんはぁ6次産業って知ってますかぁ?」
「ああ、農業と製造業とサービス業を総合化するっていうアレですよね」
(元の世界の授業でやったなぁ)
「はいー♪ ウチは代々ミルタンクの畜産を代々行っており、それを使った加工食品も作ってましてぇ。ただ……」
「何か良くないことでも?」
「海外の安いモーモーミルクが輸入されるようになってから、癖の強いオシアスミルタンクのミルクの消費量は減少傾向だったんですぅ。美味しいんですけど、匂いが強いし、脂肪分も更に多いですからぁ」
「確かに、学園のお店でもあまり取り扱ってなかったような……」
「だから、そのおいしさを広める為にお店を立ち上げたんですよぉ♪」
「ちょっと前まではあんまり売れ行き良くなかったんだけどね、路線変更したらこの通り」
要するに、自社でモーモーミルクの生産、それによる乳製品の製造、そしてそれを提供する店の経営まで行っているのがモーモーファクトリーらしい。
「はいー♪ おかげさまで、次はプライシティに3号店を出そうという話が出ているんですよー♪」
「そこまでいってるのか……」
「ええ、ええ! まあ、ミルク目的なのかメイドさん目的なのか、分かりませんけど……結果オーライです♪」
「たとえメイドさんが居ても、ミルクがマズかったらお客さんは定着しないと思うし……味に自信は持って良いと思うよ。僕もこの味好きだなあ」
「……本当ですかぁ!? 美味しいって言っていただけるのが、嬉しいですーっ!」
席から立ちあがり、イクサに抱き着くコナツ。
あまりにも圧倒的なスケール感に、イクサは首の骨が折れるかと思った。成程確かにバジルのそれよりも遥かに大きい、というより比べ物にならない。
「ちょっと! 転校生にベタベタし過ぎ!」
「ああ、ごめんなさいっ。デジーちゃんみたいな可愛い女の子だったから、つい」
「……あの、僕、男なんですけど……」
「えっ……お、男の子……!?」
余計に目をキラキラと輝かせるコナツ。
「すごいですぅ! こんなに可愛い男の子が居たなんてぇ! デジーちゃん、何で教えてくれなかったんですかぁ!?」
「こうなるからだよっ! 転校生は、ボクのオモチャなんだからっ! それ以上は許さないよッ!」
「ち、窒息死するかと思った……」
首をポキポキ鳴らしながらイクサはげんなり。
胸の奥底からは黒い衝動が漏れ出している。早速理性との戦いになりそうだった。
横をちらりと見ると、レモンも巨大なそれに釘付けになっていた。
(レモンさんまでガン見してるじゃないか……)
(私は弱い……)
「そんな事はどうでも良いのっ! コナツ、用事って何? ボク達が今大変なの知ってるよね」
「ええ、勿論。デジーちゃんのパパとママ、とても心配してましたよ? 娘がとんでもなく悪い事をしたんじゃないかって。私の方から、罠に掛けられたであろう旨は話してますけどね?」
「うぐっ……そうだよね……」
「事情は他のキャプテンから聞いているのかしら」
「はい、それは勿論。トトちゃん、そしてアジュガさんから、聞いています♪ すっごく悪い人が学園に居るって事も」
「確か、変な機械を拾ったんだっけ。協力してあげるから、ボク達の事匿ってよ!」
「勿論、デジーちゃんのお願いなら何でも聞いてあげますよう。皆さん、これを食べ終わったらモーモーファクトリーの地下ガレージにご案内します♪」
「ガレージ? 何故そんなものが?」
「昔、このお店は重機工房だったらしいんです。経営難で潰れちゃったみたいで、その建物をお父様が買い取って改造したんですよぉ♪」
にこにこと笑みを浮かべて話すコナツ。
そんな恐ろしいものがあったのか、とオシアス地方の治安の悪さを改めて実感するイクサであった。
「で、頼みって何なのかしら」
「それはもう機械修理──デジーちゃんの十八番ですよぉ♪」
※※※
「な、何コレ……」
連れて来られた地下ガレージに横たわっていたのは──褐色肌の少女だった。長い銀の髪がよく目立つ。
目は瞑っており、衣服らしきものは着ておらず、毛布が掛けられているのみ。
体は冷たく、体温らしきものは感じられない。
一行は──「あー、そういう系ね……」と納得。治安が悪い悪いと思ってはいたが、とうとう死体遺棄に加担させられることになるとは思っていなかった。
デジーは顔面蒼白で、コナツに掴みかかる。
「何!? 機械修理って名目でボクに死体処理やらせにきたの!?」
「め、滅相もありませぇぇぇん!! よく見て下さぁい!!」
「……残念だわ、こんな事になるなんて。シャバで会えるのを楽しみにしてるわよ」
「だから違うんですってぇ!!」
「もしもしお巡りさんですか? モーモーファクトリーの地下に女の子の死体が……」
「違います違いますぅ!!」
「むごごごごごごご!?」
イクサが通報するのを必死で胸で押さえつけて止める。しばらくのたうち回っていたが、そのまま彼は動かなくなった。
「あああ!! 転校生が窒息死した!! この殺人うしちち女!!」
「死体がもう1つ増えたわね……」
「だから、死んでないし殺してませぇぇぇん!!」
コナツは困ったような顔を浮かべて、少女に掛けられた毛布を剥ぎ取る。
「ほら見て下さい! これは──ロボットさんなんですぅ!!」
「またまた、そんなわけ……
体にはエキゾチックな白いラインペイントこそ施されてはいるが、
確かに女性的な体つきではあるものの、身体のそこかしこにあるはずのものがないのである。
その異様な光景にデジーは押し黙り、すぐさま少女の身体を調べ始めた。腕を触り、顔を触り、真剣にそれを調べていく。
そして、確信したように叫ぶ。
「本当だ! 肌はどっちかっていうとゴム、いやシリコン……それに、ただの人形ってわけじゃない、中に機械らしきものがある……ッ!! ねえ、転校生も見てみてよ!」
「どれどれ……」
改めてイクサは少女を見やった。
何処かで見たような風貌だった。具体的にどうと言われると思い出せないのだが──
「うーん……何処かで見たような」
「えっ」
「いや、ちょっと待って。あの、コナツさん。これって何処で見つけたんですか?」
「迷宮ですぅ」
「え!?」
「”大河の迷宮”……うちの敷地に出現した迷宮で、年に何度かトレーナーさんに立ち入って調査してもらうのですがぁ……」
「しかしまた、何でこんなものが……」
──その時、比較的浅い層で、このアンドロイドは発見されたのだという。
だが、その時厄介だったのは、アンドロイドではなく、その近くに居たポケモンだったらしい。
「この子を守っていたポケモンが暴れて、大変だったみたいです……何とか鎮圧して捕獲したらしいのですけども」
「そのポケモンは今どこに?」
「此処に居ますよぉ」
コナツはボールを取り出した。何ともまあ物騒な話であった。
「この子の近くに置かないと暴れるんで──きゃっ!?」
ポン、と音を立ててそれは飛び出した。イクサ達は身構える。
「くしゃとりゃっ!! ……ピピピピピ!!」
全身が鋼の羽根に包まれたダチョウのようなポケモンだった。
目は電飾のようになっており、外装は朽ちた鋼のような色をしている。
胸の部分には三角形の板が取り付けられており、そこにオシアス磁気が集中しているようだった。
しかし、それでも女王のような気品のある立ち振る舞いは変わらない。
横たわる少女を守るように、それは立ちはだかる。
「クエスパトラ……!?」
イクサは思わずその名を呟く。
だが、鋼の身体に迸るプラズマ、この特徴はむしろ──オーデータポケモンに合致していた。
「オーデータポケモンが、どうしてこんな所に!?」
「本当は専門の研究機関に持っていこうと思ったんですけどぉ……怪しいウワサを聞いたのと、この子が、このアンドロイドから離れようとしないので、断念しましたぁ……」
(アンドロイドがポケモンを従えてたのか!? そんなバカな事があるのか……!?)
「くしゃとりゃっ!!」
刃のような体毛を逆立てて、クエスパトラの形をしたそれは威嚇してみせる。
目は赤く光っており、明らかに怒っていることが分かる。
「落ち着いて! 私は、貴女のご主人様を、彼女に治して貰おうと思って!」
「……くえすぱッ!!」
「うう、やっぱり知らない人たちが寄ってきて警戒してるみたいです……」
(クエスパトラは非常に気性が荒いポケモン……! 同じ姿をした、こいつも同じか……! 狭い所で戦闘は避けたいけど……!)
腰のボールに手を掛けようとするイクサ。
此処で暴れられたら、無理矢理鎮圧するしかなくなってしまう。
しかし、そんな中──
「お願い! 此処はボクに任せてよ!」
──クエスパトラのオーデータの前に立ったのはデジーだった。
全く恐れる様子を見せず、彼女はクエスパトラの円らな目を見つめる。
「ご主人様が動かないから心配で不安になっちゃったんだよね。大丈夫っ!」
「くえすぱ……ッ!!」
「ボクは天才だよ? まっかせておいて! 絶対に、君のご主人様を元に戻してあげるよっ!!」