ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「デジー、敵の様子は?」
「完全にこっちを見つけたってカンジ! 何日もこの村に居たから、上空から偵察されてたのかも! あいつら倒すのは良いけど、逃げる準備もしなきゃ……ッ!」
「宿で知らんふりは……出来なさそうかな?」
「多分、無理かも……秘書のキャンベル先輩がいる! あの人はマイヅル副会長にぴったりくっついてるから、マイヅル副会長も直に来る!」
あの様子では村全部をひっくり返してイクサ達を探すつもりだ。
そうなれば、村人たちに被害が及ぶ可能性が高い。
イクサとデジーは、二人して宿を飛び出し──生徒会を追い払う事に決めたのだった。
もしこのような襲撃があった場合、第一陣を撃退し、隙が出来た瞬間にアジュガの車で逃走するという運びになっていた。
現状をアジュガに報告すると、電話越しにこのような返答が返ってきた。
『では、俺は宿に向かい、真っ先にレモン少女の保護に向かうッ!』
「ありがとうございますッ……!」
「村長たちが先に食い止めるはずだ、ぎりぎりまで君達も待っていてくれ」
「必ずいるはずですッ!! 探してくださいッ!! 全てはご主人様のためなんですッ!!」
キャンベルの声が響き、生徒会や捜索班の生徒達が空から降り立つ。
フワライド、サマヨールといったゴーストポケモン達が夜の闇に紛れながら村を彷徨う。
すぐさま異常を感じ取った村人が何人か外に出ていった。矢面に立ったのは──村長だった。
「なんじゃなんじゃ、騒がしい……此処は只の古ぼけた村、学生の欲しがるようなものは置いとらんぞい」
「金目のものに用はありませんっ! 欲しいのは、レモン・シトラス嬢とその共犯者たちですっ!」
「はて? レモンなどこの村に植えておらんがのう……」
「そうだそうだーっ! 夜遅いんだぞ! 今日の所は帰ってくれや!」
「……しらばっくれるなら……ヨノワール!!」
ヨノワールの目が妖しく光る。
次の瞬間、村長も村人たちもバタバタとその場に倒れてしまうのだった。”あやしいひかり”だ。
ポケモンに使えば一瞬で混乱させてしまうこの技を人間に使えば、記憶を混濁させ、気絶させてしまう凶器に早変わり。
「フフッ、大丈夫ですよ。起きた時にはぜーんぶ、忘れてますから……さあ片っ端から探しましょうか──」
「──タギングル、”なげつける”!!」
夜に煌めく”くろいてっきゅう”がヨノワールを襲い、ぐしゃり、と押し潰してしまった。
”なげつける”の威力や効果は持っているアイテムに応じて変わるが、”くろいてっきゅう”を持たせた場合は威力130の悪タイプの技となる。
効果抜群、高火力。そして、少々防御面の育成が足りていないようだった。
「ちょっ、ヨノワール!? い、一撃でやられるなんて……!!」
生徒会たちがざわめく中、彼らは毅然とした顔でその場に現れた。
「関係ない人たちに手を出すなら……見過ごせないッ!」
「狙うなら、ボク達を狙えッ!」
「丁度良い所にターゲットが来ましたね……総員、全力で彼らを捕らえなさいッ!!」
生徒会の生徒達が次々にポケモンを繰り出していく。
(なあ、何でこの変態メス犬ポケモン女、当たり前のように俺達の中に混じって音頭を取ってるんだ……?)
(誰も呼んでないんだが……マイヅルさんも含めて……)
そんな至極当然の疑問はさておき。
ゴーストポケモンの群れはまさに魑魅魍魎。
二人を捕らえるべく次々に襲い掛かるが──
「レパルダス、”つじぎり”!!」
渦巻くは黒い旋風。
ゴーストポケモン達は、悪意に満ちたその刃に切り刻まれ、次々に倒れていく。
レパルダスの技も、佇まいも、修行の前に比べて磨きに磨かれたものとなっていた。
「ぴょーんぴょんっ! 君達ザコの相手はっ、この”いたずらウサギ”のボクだよっ!」
「げぇっ、デジー!!」
「お、俺達のポケモンが瞬殺されたぁ!?」
「なんかあいつ、また強くなってねぇか!?」
「全く問題はありませんっ!!」
高らかにキャンベルの声が響き渡る。
倒れた手持ち達をボールに戻そうとする彼らを手で制し、何処か狂気的な笑みさえ浮かべた彼女は、次なるボールを繰り出す。
現れたのは、禍々しい瘴気を放つ骸骨の身体の犬ポケモン。
その頭部には墓石が埋め込まれており、長い体毛が目を、そして背中を覆っている。
「こぉぉぉーひゅぅぅぅー……ワォオオオン!!」
【ハカドッグ おばけいぬポケモン タイプ:ゴースト】
がぱぁ、と朽ち果てた顎を開けたハカドッグ。
そこに倒れたポケモン達の無念が吸収されていく。
更に、骨と化した身体からは砂がざらざらと溢れていく。
「ハカドッグ。準備運動のお時間ですよ──”すなあらし”!!」
周囲は砂で満ち満ちる。
(セルフ砂起こしの”すなかき”型!? しかも、この体勢は──)
「マズい! デジー、気を付けろ!」
「えっ!?」
ゴーストポケモン達を纏めて相手しているデジー。
そこに襲い掛かるのは砂の中で速度を増していくハカドッグ。
膨大な霊魂の群れ──即ちワイルドハントがレパルダスとデジーに襲い掛かった。
まさに百鬼夜行にして魑魅魍魎。逃れる術など無い。
「”おはかまいり”!!」
圧倒的な数の暴力だった。
味方のはずのゴーストポケモン達もデジーも巻き込み、霊魂の群れが一気に地面へ叩きつけられる。
全てが終わった時、レパルダスも、そしてデジーも倒れてしまっていた。慌ててイクサは駆け寄る。
肩を揺らすが、彼女は目を覚ます気配が無い。そればかりか、大技を放ったばかりのハカドッグは次の獲物にイクサを選んだのか、瘴気を溢れ出させながら迫りくる。
だが、その前にキャンベルとハカドッグを咎めたのは、周りにいる生徒達だった。
「おいっ、キャンベル!! 何て事するんだ!! うちのポケモンも巻き込むなんて──」
「そうだッ!! そもそも何でお前が此処に来てんだ、このメスブタァ!! 誰も呼んでねーんだよ!!」
「何リーダーみたいな顔して指図してんのよ、あったま来ちゃう!」
「そこに居た貴方達が悪いッ!! こうして転校生もウサギも追い詰めたんですから、上々でしょう」
「何だとォ!?」
「今のを見て分かりませんか? ……潰しますよ? 貴方達も」
言い終わらん間に、ハカドッグの口から青い炎が大量に現れ、生徒達に襲い掛かる。
何が起こったか分からない彼らは逃げ惑うが、霊魂から逃げられるわけもなく、追いつかれ、次々に地面に組み伏せられていく。
「なっ、何をするキャンベル!?」
「きゃぁっ!? 何コレェ!? あんた、あたし達まで裏切る気ィ!?」
「ご主人様に手柄を捧げるのは、この私だけで充分ッ! むしろ、数人掛かりで”いたずらウサギ”に後れを取る貴方達の方が無能中無能、用済みですッ! 私とハカドッグが居れば、転校生など簡単に捻ってくれましょう!」
訳が分からない、と言う顔で生徒会役員達がキャンベルに掴みかかるが──
「貴方達は、さっさと逝っちゃってください……”おはかまいり”!!」
【ハカドッグの おはかまいり!!】
霊魂が彼らの意識を一瞬で刈り取った。
敵は勿論、邪魔だと判断した味方まで殲滅する姿に、イクサは心の底からゾッとする。
あのキャンベルという首輪をつけた少女、明らかに正気ではない。
「あははははぁ、ご主人様ぁ、ご主人様ぁ、これで卑しいキャンベルだけが、誇らしきご主人様に褒めて貰えますゥ……!! いーっひひひひひぃ」
涎を垂らしながらイクサにターゲットを切り替えるキャンベル。その顔に、イクサは覚えがあった。
(確か、オーデータ・ロワイヤルでシャインさんを裏切った……秘書の子だったはず。でも目がイッちゃってる……! 言動もおかしい……っ!)
「さあ、これで二人っきりですよ転校生。尤もチェックメイト。追い詰めましたけどね!」
「……誰を追い詰めただって?」
気障に強がってみせるが、イクサはハカドッグというポケモンの恐ろしさをゲームでイヤと言うほど体感していた。
(あの”おはかまいり”はヤバすぎる……! 元々、倒れた味方の数だけ威力が50ずつ上がっていく恐ろしい技だ! 今ので味方を巻き込んだから、更に威力が上がった!)
加えて、ハカドッグは元々高い耐久力と、砂嵐状態で素早さを上昇させる”すなかき”を持つポケモンだ。
それらの恵まれたステータスから”おはかまいり”を放ってくるので、ハカドッグが居るパーティにゴーストの一貫性を持たせてはいけない、と言われる程である。
全抜き、つまりパーティ全員がハカドッグ1匹に壊滅させられかねないのだ。
更に、この技は上昇する威力の上限が5050と設定されており、ほぼ上限が無いも同然。
味方のポケモンを殲滅して威力が上がった”おはかまいり”がどれほどのものかは、イクサは考えたくもなかった。
(狂気の沙汰だ! 味方どころかトレーナーまで倒して”おはかまいり”の威力を上げるなんて! あんなの当たったらお終いだ……ッ! かと言ってタギングルに有効打は無いし……)
デジーを背中に負ぶい、ハカドッグへの有効打が無いタギングルを引っ込めて、次のボールを投げ込む。
現れたのは──ハルクジラだった。野太い咆哮が周囲に響き渡る。
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン?」
「ハルクジラ!! 君の力が必要なんだ!! 力を貸してくれ!!」
「ヴウウウウオオオン?」
「勝手なお願いなのは重々承知してる──だけど、君じゃなきゃ、あのハカドッグは攻略できない!」
ずしん、と鈍重な身体をハカドッグに向けるハルクジラ。
砂を味方に付ける死の猟犬と、雪を味方に付ける白き陸鯨。
倒れたデジー、周囲に横たわるゴーストポケモン達。
そして、必死に懇願する少年。それを前に、ハルクジラは──思い出す。前の主人との別れの日を。
──ハルクジラァァァーっ!! 何処に行っても、おで達は……ぐすっ、おで達は親友同士だべぇ……。
──だけど、次の御主人様とも仲良くしてほしいんだべ……あいつ、すっごく強くて……気持ちの良いヤツで……オメェとなら仲良くできるから……。
──ただ、悔しいのは……オシアスの迷宮生まれのお前に、ナッペ山の景色を見せてやれねぇことだべ……。
ハルクジラは悔しかった。
自分の所為で、主人を泣かせてしまったことを。
そして気に入らなかった。
その主人が泣く原因となった、新たな主人の事を。
あの手この手で近付こうとする彼を、突っぱねてすげなくあしらった。
「ハカドッグ、仕留めなさい! ”おはかまいり”ですっ!」
無数の霊魂がハルクジラを襲う。
その鈍重な脚ではワイルドハントから逃れる術はない。
しかし──
「──オーライズ……”タギングル”!!」
──クールタイムが存在し、1度しか使えないオーライズを、躊躇なくイクサは此処で切った。
タギングルはノーマルタイプ。ゴーストタイプの技を完全に防ぐことが出来る。
ハルクジラの身体に霊魂は吸い込まれていき、そのまま消失してしまう。
「僕は……君に全て賭けるよハルクジラ。その為に、君の技もビルドし直したんだから」
「ヴゥ──!?」
まだ新たな主人を認められたわけではない。
しかし、彼は──
これを逃せば、もう逆転のチャンスは無い。
むざむざと勝てる戦いを逃すのは──彼だけではなく、前の主人の顔に泥を塗ることになる。
ハルクジラはもう、負けるわけには行かなかった。
「”オーラジャミング”です! ノーマルタイプを解除すれば”おはかまいり”が通る!」
「わふっ! ──ばうっ!?」
駆けだそうとしたハカドッグ。
しかし、その動きがピタリ、と止まる。
骸の鼻先に、雪が降り落ちた。
周囲が冷気に覆われ、足は縫い付けられてしまっていた。
更に、ハルクジラの姿が一瞬でハカドッグの感知圏内から消え失せる。
「ありがとう、ハルクジラ」
【ハルクジラの ゆきげしき!!】
辺りは一瞬で銀世界に塗り替えられていた。
キャンベルは驚愕した。砂漠の村に雪を降り積もらせる程の冷気。
あのハルクジラは、只者ではない。転校生の手持ちの中でも、目下最大クラスの脅威だ、と。
その本質は重戦車アタッカーなどではなく、”ゆきげしき”で己の得意なフィールドに書き換えて戦う自己強化アタッカー。
冷気を巨大な上顎の棘から放ちながら、スケートのように地面を滑る巨体は、既にハカドッグを排除する対象として見ていた。
オーライズしたことで”ゆきかき”は上書きされてしまったが、それでも素早さではまだハルクジラが上回っている。
「……君を勝たせるのは、僕の役目だッ!!」
巨大な氷柱が骸骨犬の脳天に浮かび上がる。
「”
【ハルクジラの つららおとし!!】
頭部の墓石を叩き割る勢いの正確な狙いだった。
ハカドッグは”オーラジャミング”を放とうとするも、ダウンを取られてしまい、その場に寝そべってしまう。
見ると、綺麗に墓石には罅が入っており、そこから霊瘴がどんどん抜けていく。クリティカルヒットだ。
霊瘴はゴーストタイプのエネルギー源、それが抜けていくのは急激な弱体化を意味する。
「あ、ああ、ハカドッグ!? しっかり!! な、何か色々漏れてる──!?」
「そのまま滑走しろハルクジラッ!! 距離を取れ!! ”ゆきかき”が無くても君なら出来るはずだ!!」
咆哮しながら雪の地面を滑りながら距離を取るハルクジラ。パルデアのナッペ山では、雪山の斜面を当然のように歩いたり滑走するハルクジラやアルクジラの姿が見られるというが──迷宮生まれのこのハルクジラも、巨体に負けぬ健脚が自慢であった。
「オーライズです、ハカドッグ!! ツンベアーにッ!!」
それならば、とキャンベルが選ぶのは”ゆきかき”へのタダ乗り。
同じ特性を持つ、この白熊のポケモンならば、相手の”つららおとし”を軽減する事が出来る上に、現状”ゆきかき”を失っているハルクジラを速度で上回ることが出来る。
「そ、そうだ! 最初っからこうしていれば良かったんですッ! ”サイコファング”!」
雪の地面を滑走するハカドッグ。
ハルクジラに急接近すると、念動力を帯びた牙で思いっきりその腕を噛み砕く。
「ヴオオオオオ!?」
これでもう、避けることはできなかった。食らいついたまま、ハカドッグは”オーラジャミング”を放つ。
電磁波が、ハルクジラの鎧を解除していく。
「勝ったッ!! これでノーマルタイプは消えたッ!! ”おはかまいり”が通る──ッ!!」
結論から言えば──キャンベルは詰んでいた。
イクサはハルクジラに”オボンのみ”を持たせていた。”オーラジャミング”が来なかった場合は”かるわざ”が発動して、ハカドッグの速度を再び上回る。そして、ハルクジラの耐久ならば、オボン圏内に入る前に倒れる事は無い。
そして、こうして”オーラジャミング”が来た場合は”ゆきかき”が発動。やはり、ハカドッグの速度を上回ってしまうのである。
今回は、このオーラジャミングで漸く体力が半分を切るだけのダメージを受けたので、後者のプランが通ったわけだが──
「”ばかぢから”ッ!!」
腕に噛みついたハカドッグを、そのまま自らの体重をかけて力任せに地面に叩きつける。
氷タイプに格闘タイプは効果抜群。更に700kgの体重が掛かったことで、全身骨の身体のハカドッグはバラバラに砕け散る。
【効果は抜群だ!!】
結局の所”ゆきかき”が発動したハルクジラに、追撃など土台無理な話であった。
辛うじて、骨を霊気で繋ぎ合わせて元の姿に戻り、目の前の敵にせめて一噛みしようとするハカドッグだったが、結局そこで力尽きてしまうのだった。
「そ、そんな、ハカドッグが負けた……」
(……僕は……君の事をちっとも理解してなかったけど)
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!! キュウウウオオオオオオオンッ!!」
雄叫びが周囲を震わせる。何処か楽しそうにハルクジラは体を震わせていた。
(──嬉しい時は、そんな風に歌うんだね)
真正面から聞けば倒れてしまうんだろうな、と考えながら──切札を失ったキャンベルに視線を向ける。
性懲りもなく次のモンスターボールを投げようとしていた。
「い、いけません、このままでは……私、ご主人様に顔向けできな──」
「ヴオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
本質的には戦いが好きではないハルクジラ。
それが意味するのは、避けられる戦いは徹底的に避けるということであった。
雪場を滑走し、キャンベルの正面に一瞬で距離を詰めたハルクジラは、思いっきり”歌”を聞かせてやる。
モンスターボールを握ったまま、犬少女は眉一つ動かさず、地面にぱたり、と倒れてしまうのだった。
(ちょっとは反省してほしいよね。寮長を裏切ったり、手柄欲しさに味方を攻撃するなんてさ)