ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第77話:一歩ずつ

(ポケモンを同時に複数匹出して管理するのは凄腕のトレーナーでも難しいッ! できるだけ1匹だけで、複数匹を相手取り、切り抜ける訓練をするんだッ!)

 

「手加減は無用だと、言っているッ!! 君達も存分に戦えッ!!」

 

 幾ら格下と言っても、何匹も束になって掛かって来れば、それを捌き切ることは難しくなってくる。

 だが、乗り越えることさえできれば、ポケモンに多くの戦闘経験を積ませることができる。

 とはいえ、いっぺんに多くのポケモンの技が飛び交う以上、トレーナーに誤爆することもあるわけで──10分ほど、イクサは目を回して昏倒していた。

 キルリアが心配そうに此方を覗き込んで来る。

 

「きーりぃ?」

「キルリアは優しいね……ありがとう」

「再開だッ! お前達、遠慮なくやってしまって良いぞッ!」

「おーけーっ!」

「おにーちゃんっ、おねーちゃんっ、もっと遊んでーっ!」

 

 村の子供たちは自慢のポケモンで、イクサ達を取り囲んで来る。 

 この包囲網が抜けられないようでは学生たちを潜り抜けて、アトムの首を取ることなど出来はしない。

 だが、それでもじわじわとダメージは蓄積していく。

 技の被弾が重なれば、ポケモンの動きは徐々に鈍くなっていく。

 最初はばっちりだったイクサとデジーの連携も、乱れていく。

 

「ッ……これ、結構キツいな……!!」

「へばってる場合ではないぞッ!!」

 

 ずどん、と大きな音を立て、砂鮫が立ちはだかる。

 アジュガのガブリアスが空を切って、ゴビットとキルリアを突き飛ばし、地面に叩きつけた。

 

「敵の中に、中枢メンバーが居る可能性も考えろッ! ありとあらゆる手を駆使して、食い破れッ!」

「バオオオオオウッ!!」

 

 アカデミーの同級生、そこらの1年生と比べても遜色ない実力の子供もいる。

 おまけに相手は回復して、エンドレスでこちらに襲い掛かってくる。

 決して手を抜くことなどできない。イクサに残っている手持ちは、1匹だけ。

 

「ハルクジラッ!!」

 

 

 

「ヴオオオオオオオオオォオオオオオオオオオン?」

 

 

 

 強烈な冷気を放ちながら、それはイクサの前に現れる。

 地が震えるような咆哮は、子供たちや村人、そしてポケモン達を怯ませる。

 機嫌が悪そうにイクサの方を一瞥したハルクジラは、ぼてっ、と座り込むと呑気に昼寝を始めてしまったのだった。

 

「あああああッ!! やっぱり言う事を聞く気はないのかーッ!!」

「やっぱりダメなのかなあ!? ゴビット!! ガブリアスを冷凍パンチで迎え撃──」

 

 幾ら何でも膂力で負けてしまっている。

 ゴビットは敢え無く”ドラゴンダイブ”を受けてリタイア。

 後に残るのはイクサのハルクジラだけだ。それを狙って、子供たちのポケモンが寄ってたかる。しかし。

 

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 寝ていたところに攻撃を受け、ハルクジラ、キレた。

 辺りに雪が降り出す。”ゆきげしき”だ。

 砂漠地帯を塗り替える勢いで白い雪がしんしんと降り積もる。

 そして、ハルクジラの周囲には氷の鎧が纏わりついていく。

 

「雪で氷タイプの防御力は1.5倍! しかも”ゆきかき”で素早さ2倍! これはワンチャンあるか!? いや、あるぞッ!!」

 

 ガブリアスの”ドラゴンダイブ”を真っ向から受け止めたハルクジラは、再び咆哮すると──”ゆきなだれ”を引き起こし、ガブリアスを巻き込むのだった。

 

「何か知らないけど、勝った!?」

「──と思うのは、まだ早いッ!!」

 

 空をジェット機の如く駆け上るガブリアス。すんでのところで空へ避難したようだった。

 そのまま、遠距離から岩の刃を幾つも撃ち放ち、ハルクジラ目掛けて放つ。

 ”ストーンエッジ”だ。しかし、ハルクジラも負けてはいない。

 スキーのように雪に覆われた地面を滑っていくと、自らを狙う岩の刃を次々に躱していく。

 

「こ、これは予想外ッ──なかなか骨のある手持ちを持っているじゃないかッ!!」

「でもこいつ、僕の言う事を聞かないんですーッ!!」

 

 ぎゅるるる、と巨体を回転させ、ガブリアスに向かって突撃するハルクジラ。必殺の”アイススピナー”だ。

 しかし、ガブリアス側も飛行したまま口から炎を噴き出し、大の字に放つ。

 最大火力の”だいもんじ”が受け止めるようにハルクジラを襲う。

 氷に全身を包んだ突撃と、強烈な炎。両者はぶつかり合い──結果的にハルクジラの全身を焼け付くような灼熱が覆う。

 黒焦げになった巨体はガブリアスに到達することなく、雪の地面へと落下していく。

 

(まあ、幾ら雪で防御を上げたところで、努力値振るかとつげきチョッキでも持たせない限り、特防はスッカスカのままなんだよね……)

 

 目を回すハルクジラをボールに戻す。ポケモンは全滅。これで特訓は終了となった。

 しかし、ガブリアスをあと一歩の所まで追い詰めたハルクジラに、感心したようにアジュガは近付く。

 

「今のは正直危なかったッ! 相性有利だったとはいえ、少年の手持ちでガブリアスを追い詰められるのは、現状そのハルクジラくらいなものだろうッ! はっきり言って強いッ!」

「……僕が育てたポケモンじゃないんです……3ヵ月くらい前に決闘の報酬で手に入れて。その時は、すごく強い手持ちが居たから……勝てたんですけど」

「例のオーデータポケモンか! そうでなくては、勝てていないだろうッ! それくらい頼もしいポケモンだ、こいつはッ!」

「でも、言う事を聞かなくって……」

「レベルの高いポケモンが、レベルの低いトレーナーの言う事を聞かないのはよくある事だッ! しかし、現実には一概にそうだと切って捨てる事は出来ないッ!」

「何が原因か、アジュガさんには分かるの?」

「分からんッ! まだ俺は、そのハルクジラについて何も知らないからなッ!」

「ッ……」

「だが、本当にポケモンがトレーナーを見限っているならばッ! さっさとボールから出て行ってもおかしくはないッ!」

「!」

 

 アジュガの言葉に、イクサは顔を上げる。

 

「距離を測りかねているのは、君だけではないと言う事だッ! 根気強く、接しろッ!」

「……はいッ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ギガオーライズがポケモンと息を合わせることが重要なら……パモ様に教えた拳法、貴方にも教えるわ」

「ッ……お願いします!!」

「来なさい。先ずは立ち会いましょう」

 

 2秒後。

 イクサは砂漠の上に突っ伏していた。

 煩悩や雑念を抱いている場合ではない。

 ステゴロでレモンに勝てるわけがなかったのである。

 飛び掛かっていったところを全力でぶん投げられて、視界が全部ひっくり返る。

 

「やっぱり貧弱ね。合宿で基礎的な体力訓練はしたはずだけど」

「あいだたたたた……つ、強い、強いです、レモンさん……」

 

 それと格闘術はまた別の問題である。

 

「列島の柔術、カラテ、その全てを織り交ぜた総合格闘術。それが、パモ様に叩きこんだものよ。普段私が使っているものと遜色ない」

「ぱもぉーぱもぱも」

「貴方なら覚えられる。そう信じて託す」

「ねー、レモン先輩。ボクには何も教えてくれないのー?」

「貴女の手持ちに、格闘術が使える子はいないでしょ……」

 

 元からレモンに格闘術を教わったパーモットだからこそできるシンクロ法と言える。

 

「ま、覚えたいなら一緒に教えてあげるわ。時間がもったいないし」

「やった!」

「その代わり──手加減はしない。それが、私の気持ちよ。折角だし、ポケモンが全滅しても最低限戦えるようにはしてあげるわ」

 

 ぐっ、と拳を握り締めるレモン。イクサも気合が入り、パーモットと同じ構えを取る。

 

「これを乗り越えられない限り、間違っても私を傷つけるかもしれないだなんて宣うのは許さないわよ。全力で叩き込んであげる」

「……はいッ、お願いします!!」

 

(レモンさんは……本気だ)

 

 パンパン、と頬を叩く。

 

(……僕も頑張らないと……ッ)

 

 その後、二人揃ってレモンに投げられながら、彼女の技を覚えていく。

 オシアスの暑い砂漠の下、3人は己をポケモンと共に鍛えていくのだった。

 

「パモ様が出来たんだ……僕だって……ッ!!」

 

(──ッ!)

 

 疲労困憊の中、イクサの目には──黒い炎が灯っているのを、レモンは見逃さなかった。

 

「基本的な型から教えるわ。パモ様と合わせられるようになって頂戴」

「……はいッ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 このようなトレーニングを繰り返す中──

 

「ごめんなさいねぇ、畑仕事まで手伝って貰っちゃって」

「いえ、これくらいお安い御用ですよ。村の皆さんにはお世話になってますから」

 

 ──修行の合間には村人の手伝いを行い、

 

「──オージュエルの解析、どうですか?」

「何かの要因で圧縮された形跡はあるけど……それが直接的要因かは分からないわ。あるいは特殊なレーザー光に照射されたとか?」

「つまり何にも分かってないって事?」

「悪かったわね……」

 

 ──村長のオージュエルの構造をレモンが解析するもなかなか何も手掛かりが掴めなかったり、

 

「どわぁ!! また転校生が暴走したーっ!!」

「ガブリアス、”じしん”ッ!!」

 

 ──ギガオーライズの制御の練習で一日を終える。 

 

「今日はすぐに目を覚ましたね、転校生っ」

「……昨日よりはマシかな。相変わらず気分は悪いけどね。デジーはどう?」

「あー……えーと、ボクはぼちぼち、かなっ」

「……何か隠してる?」

「そういうわけじゃないよっ! 平気平気」

「何かアドバイスとか貰ったりしていないの?」

「アジュガさんが言うには──」

 

 

 

 ──己の本性と言うが、あくまでもそれは一側面でしかない! 受け止め、むしろ自分が食らうつもりで行け!

 

 

 

「……なーんて言ってるんですけど」

「むしろ喰らわれた側ってことね」

 

 芳しくないのはギガオーライズの訓練だけだ。これが一番重要なのであるが上手くいかないのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──1日目は囲まれた敵を相手取るのに手一杯だった。

 2日目は、アジュガもガブリアス以外の手持ちを投入するようになり、敵の勢力は更に増していく。

 3日目には、最初からアジュガのポケモンが相手をするようになった。

 極限状態でのサバイバルではあったが、4日目になって、漸く目に見えて成果が表れ始める。

 疲労困憊でトレーナー側も倒れそうになる対多人数戦の中、ポケモンは──経験に経験を重ねて、一気に強くなっていく。

 

 

 

「りーるぅ!!」

 

 

 

 一気に抑え込まれたマリルだったが──突如、その力を爆発させた。

 次の瞬間には、その身体は一回り大きくなっており、耳は長くなっていた。

 

 

 

【マリルリ(マリルの進化形) みずうさぎポケモン タイプ:水/フェアリー】

 

「進化した……ッ!?」

 

 

 

 タイプは変わらないものの、ステータスは大きく強化され、特性:ちからもちも据え置き。

 破竹の勢いで、飛び掛かってきたポケモン達を振り回し、叩きのめしていく。その姿はまさに鬼神が如くだった。

 

(ポケモン達も順調に成長してる……! この調子なら……!)

 

(フッ……どうやら、成果が出てきたようだなッ!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン──キュオオオオオオオオオオオン」

 

 

 

 その日の後半は、ハルクジラと何とかして打ち解ける為に、アジュガ共々ハルクジラの相手をする運びとなった──のであるが、ハルクジラは全くイクサを相手にすることなく、周囲を震わせる咆哮が響く中、しんしんと雪が降り積もる。

 周りが暑いならば技で天候を変えてでも雪を降らせてしまうあたり、想像以上に図太い性格をしているようであった。

 

「ふむッ! 成程ッ!」

 

 その様を見ていたアジュガは、何かを理解したかのように頷く。

 

「このハルクジラ──超が付く程のマイペースのようだッ!」

「じゃあ……さっきからずっと鳴いてるのは? ホームシックとか?」

「歌っているのだッ! ホエルコやホエルオーも歌うことがあるが、祖先を同じとする彼らも歌う!! 意味はあったり無かったりするぞッ!! 人間と同じだッ!!」

 

 イクサの住んでいた世界でも、鯨はコミュニケーションを取る目的で鳴くことがある。これは、鯨が聴覚に大きく依存する生き物であるからとされている。

 陸に上がったハルクジラも、発声器官はホエルコ系統と同じままのため、こうして歌うことがあるらしい。

 

「この個体を見る限り、大人しい性格のようだッ! 正直、能動的に戦うタイプではないッ! 好戦的な性質とは無縁と言えるだろうッ!」

「……戦うのが好きじゃないのに戦わせるのは、やっぱり可哀想な気が……」

「しかし、どのようなポケモンも大なり小なり好戦的な本能を備えているッ! 何故ポケモンバトルなどというものがあるのかと言えば、戦わなければポケモンは大きくストレスを抱える生き物だからだッ!」

 

 そうでなければ、ガブリアス相手にあそこまで暴れられるわけがない、とアジュガは語る。

 

「ッ……どうすれば」

「正面から向き合ってみる事だッ! 怖がっている相手の言う事を、ポケモンは絶対に聞かないッ!」

「……」

 

 図星だった。

 迷宮での一件以降、イクサは心の奥底ではポケモンへの恐怖を完全に拭えずにいる。

 克服できたと思っていても、言う事を聞かないハルクジラを遠ざけていたのがその証拠だ。

 自力で捕まえたイワツノヅチと違って、元が他者の手持ちであるハルクジラは言う事を聞かなくても仕方がない、と思っていたからだ。

 

(そうだ。僕は逃げてたんだ、ハルクジラから。言う事を聞かない身体の大きなポケモンが危ないから、って言い訳して。今更虫が良いのは分かってるけど)

 

「ハルクジラッ!! お願いがあるんだッ!」

「ヴゥ?」

「君がバトルが好きじゃないのは分かってる! 前の主人の方が好きなのも分かってる! だけど今は、君の力が必要なんだッ!」

 

 彼の両の目を見て──正面からハルクジラに向かう。

 怖いという気持ちはすぐにはぬぐえない。しかし、それでも今ハルクジラは彼のポケモンなのだ。

 自分の手持ちとして戦ってほしい、とイクサは願う。

 

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 直後。

 周囲の空気を震わせるほどの咆哮が辺りに響き渡った。

 それを真正面から受けたイクサは──真剣な表情を保ったまま、ぱたり、とその場に倒れた。

 

「ヴゥ? ヴオオオオオオオオオオオン!!」

「ハハハハ! 一般人がハルクジラの咆哮を正面から受ければよっぽどのことが無い限り、ショックで気絶するッ!! 大丈夫か、少年ッ!」

 

 故に慣れないうちから、ハルクジラの正面に立つべきではない、とされているのである。

 肩を叩くが、意識が戻る様子はない。思わぬ結果に、ハルクジラも動揺しているようであった。

 前の主人が雪山出身で、ハルクジラの咆哮如きでは気絶しないパワー系なのが良くなかった。イクサは只の貧弱な一般少年である。

 

「ヴゥウオン!?」

「分かっているッ! 君に悪気があったわけではないこと、少年には俺から伝えておくッ! 流石の声量だハルクジラッ!!」

「ヴウウオ」

「とはいえ、こうなる覚悟で少年は君の前に立ったのだろうッ! その心意気くらいは認めてやっても良いと思うぞッ!!」

「ヴゥ……」

「君も少年も、距離を測りかねていただけだ。これは大きな一歩になるッ! さあ、君の歌を俺にも聞かせ──」

 

 

 

「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 咆哮が真正面からアジュガを襲う。

 そして彼も──爽やかな笑みを口元に携えたまま、ぱたり、と雪の上に倒れるのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「本当に……心配したのよ」

「ごめんなさい、頭がキンキンします……」

 

 

 

 いつまで経っても帰って来ないので、駆け付けてみると、ハルクジラの前でイクサとアジュガが倒れているので、心底レモンは肝を冷やしたのだった。

 当のハルクジラは慌てふためいた様子で二人に近付いている。最初、怒ったハルクジラに二人が襲われたのかと思ったが、すぐに起き上がったアジュガがそれを否定したので事なきを得た。

 そのまま、彼を引っ張って宿に連れ帰る。今日はもう特訓どころでは無さそうだった。ベッドで横たわる彼に、レモンは心配そうに視線を投げかけながら額をタオルで拭いてやった。

 

「……あいつ、倒れてる僕の傍で心配そうにしてたって。覚悟を決めて、彼の前に立ったのは無駄じゃなかったんですね」

「まさか、こうなるって分かっててやったの!? 全くもう……変な所で無茶をするんだから」

「……へへへ」

「無駄に心配をかける悪い子は好きじゃないわ」

「……すいません」

 

 こつん、とレモンは彼の額を小突く。

 変なところで見栄を張ろうとするのだ、この少年は。

 

「レモンさんには……いっつも恥ずかしくない僕で居たいんです」

「……気持ちは嬉しいわよ」

「でも、実際は情けない所や、弱い所ばっかり見せちゃって。こんなんじゃ、不安にさせちゃいますよね」

「……あら、その情けない所や弱い所が可愛いところなんじゃない」

「何てこと言うんですか!?」

「私ね、貴方のカッコいい所に惹かれたんじゃないのよ」

 

 イクサは泣きそうになった。仮にもこれまで頑張ってきたのに、やはり彼女からすればまだ「可愛い後輩」でしかないというのか、と落胆する。しかし──

 

「──惨めったらしく這いつくばっても、恐怖に怯えても、カッコ悪くても……それでも必死に立ち向かって抗う貴方に惹かれたのよ」

「ッ……レモンさん」

「今日だってそう。ポケモン相手でも、人間相手でも、真摯になろうとする。そのためならいくらでも身体を張れる。勿論、失敗する時もあるけどね。そこも含めて愛嬌って奴よ」

「……」

「だから、恰好付けなくて良いの。遠慮なんてしなくて良い。我慢なんて……しなくて良い。貴方は貴方らしく、今まで通り泥臭く戦ってくれれば、それで良い」

 

 何かを決意したかのように、レモンはイクサの頬に手を当てた。

 

「……私は覚悟できてるから。君なら……良いと思ってるから」

「ダメですよ、レモンさん。本気にしますよ、そんな事を言ったら」

 

 ガバッ、と起き上がり──イクサは警告するように彼女の手を掴む。

 

「男はバカなんですから。すぐに勘違いするんです」

「……じゃあ貴方は、勘違いで私の騎士(ナイト)になったの?」

「違いますッ! だからこそですッ! 大事にしたいんです。僕の所為で悲しい顔をさせたくないんです……」

「私は──アトムの嫁になるくらいなら、貴方のモノにしてほしいけど?」

 

 ふわり、とレモンは笑みを浮かべる。

 

「……責任取ってよ。恥をかかせないで。こっちは、貴方の所為で色々ぐちゃぐちゃにされちゃったんだから」

「レモンさん……」

「不埒だとか何だとか言い訳させないわよ。私の唇を奪ったくせに」

 

 言い訳するのも、もう苦しくなってくる。

 悪戯っ子のように笑う彼女に──イクサは、喉の奥に突っかかっていた言葉を吐き出そうとする。

 どくん、どくん、と胸が脈打ち、蝕む黒い衝動に耐えながら、彼女の目を見据える。

 

「僕は……レモンさんが……ッ」

 

 そう言いかけた時だった。

 着信音がけたたましく鳴る。

 すぐさまイクサはスマホロトムを取った。

 

「どうしたの!? デジー!?」

『ドローンロトムが変な影を幾つも捉えた! 鳥ポケモンが、村の上空からこっちに降りて来るッ! 人が乗ってるッ! 生徒会の制服だよアレ!』

「……まさか」

 

 レモンは窓を見あげる。

 暗くて良く見えないが──確かにポケモンらしき影が旋回しながらこちらに降りて来る。

 

「レモンさんは此処に居て待っててください」

「ッ……で、でも」

「夜の闇は危険です。どさくさに紛れて連れ去られるかもしれません。僕達が……あいつらを倒します」

「……」

 

 とすん、とレモンはイクサの胸に拳を当てる。

 

 

 

「……必ず勝って、無事に戻ってきなさい。これは──寮長命令よ」

「──はいっ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──ご主人様が来るまでの間に……このキャンベルがレモンを手土産としましょうッ!!」

 

 

 

 白服の生徒達を率いるのは、首輪が目立つ犬少女・キャンベル。

 彼女が背に乗るのは、冥府の番人とも呼ばれるおどろおどろしいポケモンだった。

 

 

 

「さあ、悪霊の狩猟(ワイルドハント)の開始です……ッ!!」

 

【ヨノワール てづかみポケモン タイプ:ゴースト】

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