ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第75話:先ずはお試しから

 ※※※

 

 

 

 村の外に出たアジュガと、イクサ達。更に村長までついてくる。

 やってきたのは、だだっ広い砂漠。此処ならば、誰の迷惑にもならない。

 

「何をするか知らんが、ワシも見届けさせてもらうぞい」

「ああ村長ッ! 万が一俺だけで抑えきれない時は頼むッ!」

「オーケー!! 村長頑張っちゃう!」

 

(ノリが軽い……ッ!!)

 

「本当にあれでギガオーライズできるのかなあ」

「まあ、黙って見ておきましょう」

「……何事も起こらなければ良いけど」

 

 アジュガが先ずボールから出したのは──フカマルだった。

 

「きずなリンクと要領は同じならば……行くぞッ、フカ坊ッ!!」

「ふるっかー!!」

 

 村長のオージュエルを腕輪に嵌めこんだアジュガは──フカマルのオーカードを翳す。

 

 

 

「──フカ坊、ギガオーライズ!!」

 

 

 

 オーカードがオージュエルによって分解され、フカマルに纏われていく。しかし。

 

 

 

「ふるっかー……?」

 

 

 

 纏われたオーラは、鎧にはならず、フカマルの体表から反発して掻き消えてしまう。

 ぽかん、と口を開けたフカマルはパチパチと目を瞬かせるばかり。

 通常のオーライズと同様、同じポケモンに同じオーラは反発して重ねられないということを示しただけに終わってしまった。

 

「ふむ、思っていた通りか!」

「……どういうことですか?」

「きずなリンクは進化の到達点に至っているポケモンでなければ発動しない。ギガオーライズも、同じようだ」

「つまり、最終進化を遂げたポケモンか、進化しないポケモンでないといけないって事かしら?」

「そうだ。先ずはそれを確かめたかったッ! どうやら……()()()()()()は念頭に入れねばならないらしいッ!!」

 

 フカマルをボールへ戻したアジュガは──もう1つのボールを放り投げる。彼の言うリスク、それはポケモンが暴走して御しきれなくなった時に、最終進化まで遂げたポケモンでは抑えきれない可能性が高い──ということだ。

 しかし、それですら”多少”と言い切るあたり、余程の自信があるようだった。

 

 

 

「──()()()()()ッ!! 力を借りるぞッ!!」

 

 

 

 砂地に降り立つのは──鋭利な鰭を持ち、流線形の身体を持つ竜だった。

 フカマルの進化の到達点。音速の龍の異名を冠する砂鮫だ。

 

 

 

「バォオオオウ!!」

 

【ガブリアス マッハポケモン タイプ:ドラゴン/地面】

 

 

 

(ッ……ガブリアス……!!)

 

 対戦で幾度となく見た一般ポケモン最強クラスの種族値を持つ600族の一角。

 全身は鮫肌に覆われており、その風格は王者のそれに足ると言っても良い。

 

「どうせリスクがあるならば、俺にとって最も信頼に足るポケモンを選ぶとしようッ!」

「ほーう! ガブちゃんお久じゃのう!」

「知ってる子なの?」

「インゲンの相棒だったんじゃよ。古傷は、幾多もの冒険の証じゃ」

 

 右目の切り傷は特に目立つ。

 それ以外にも身体は傷だらけ。歴戦の個体であることがうかがえた。

 どうやら、その口ぶりでは──もうインゲン本人はこの世にはいないようだった。

 

「──ガブリアス。勝手だが、俺の魂をお前に注ぎ込むッ! 少年達の未来の為だッ! 頼めるか!?」

「バォオオウ!!」

 

 お安い御用だ、とガブリアスは腕を振り上げて応える。  

 どうやら、信頼関係については全く問題が無いようであった。アジュガは──ガブリアスのオーカードを取り、躊躇なくオージュエルに翳してみせた。

 

 

 

「二度目の正直だッ!! ギガオーライズッ!!」

 

 

 

 オーカードが分解されると共に眩い光を放つ。

 記録されたオシアス磁気はガブリアスに纏わりついていき、一度反発するが──再びオージュエルが光り輝くことでその粒子の光が棘の如く突き刺さった。鮫竜の身体はより屈強に、鰭は刃の如く研がれていく。

 

 

 

 

「バギガオオオオウ!!」

 

【ガブリアス<ギガオーライズ> マッハポケモン タイプ:ドラゴン/地面】

 

 

 

 周囲に龍気(ドラゴンエナジー)を帯びた紫電が迸る。

 黄金の瞳からは紫色の炎が一瞬灯り、そして消えた。

 

「ッ……変身した……!! メガシンカともちょっと違う……!!」

「成功だよっ! ギガオーライズだ!!」

「ッ……これは凄まじいなッ! 想像以上だッ!」

 

 そして──何処か危機感を感じたような顔を浮かべると、アジュガは再びオージュエルに手を翳す。

 ガブリアスの身体に付着していたオシアス磁気は離れていき、元の姿へと戻っていく。

 

「……成程、よく分かったッ! コイツは確かにとんだクセモノかもしれんなッ!!」

「えっと、今の……成功だったよね……直ぐ解除しちゃったけど」

「確かに要領はきずなリンクと同じだッ! だが、出力、そして消耗共にこちらの方が断然上ッ! アイテムは必要だが()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 図書館での戦闘で示された仮説は、アジュガの発言で確固たるものとなる。実際に両方を体感した者が言うと説得力が増す。

 村長も感心したようにガブリアスに近付く。

 

「ほぉーう、すごいのう……! 今のガブリアス、ぬしポケモンのそれに匹敵するパワーだったぞい! ワシの若い頃見たそれ以上じゃないか?」

「ああ。じいちゃんにも見せてやりたかったッ!!」

「バオオオウ!!」

「出力は凄まじいが、幸い手綱の握り方は同じだッ! 慣れれば俺は問題なく扱うことができるだろうッ!」

 

 だが、それはあくまでも”きずなリンク”で慣れているアジュガだからこそ。まだ、この現象に不慣れなイクサ達はそうではない。

 

「……やっぱり、うっかりすると”持っていかれる”んですかね……? 自分の本性ってヤツに」

「そうだな、制御が難しいッ! トレーナー側が気張らなければ、ポケモンに全部精神力を吸い取られてしまうぞ!」

「でも、生徒会はこれを使いこなしてた……ッ! 練習したのかな……?」

「だろうなッ! 一度や二度で完全制御出来るものではないッ! 回数を重ねるしかあるまいッ!」

 

 魅力的ではあるが、恐ろしさも感じる。気圧されている場合ではない事は分かり切っているのであるが。

 

「オージュエルのクールダウンには時間が掛かるが……順番に行こう。次は君の番だッ!! そこの少女ッ!」

「えっ……ボク!?」

 

 アジュガが指名したのは、デジーだった。言われるがままに、彼女は前に進み出る。

 

「いきなりだけど、大丈夫なのかなぁ……?」

「俺達の修行も、最初にきずなリンクを試して問題点を洗い出すところから始める。何事もやってみなければ分からないッ! そのために、最も自分が信頼できるポケモンを出すんだ。その方が御しやすいだろうッ!」

「分かった……ミミロップ、お願いねっ!」

 

 デジーのパートナーは当然ミミロップだ。

 早速、いつも通りにオーカードを手に持ち──ジュエルに翳す。

 万が一の時は、アジュガが抑え込むと言ってくれているので、心置きなく己を解放できる。

 

「呼吸を合わせろ。ポケモンとひとつになる感覚を恐れるな」

「ッ……呼吸、か」

 

(己の本心……か。怖くないわけじゃないけど──ッ!)

 

「ミミロップ行くよーッ! ギガオーライズだーっ!」

 

 翳されたカードは粒子と化し、一度ミミロップに吸着しようとするが、反発して拡散していく。

 だが、次の瞬間再びオージュエルが光り輝き、ミミロップの身体に突き刺さっていく。

 

「ボクの、本心……ッ」

 

 目を瞑ると、白い空間に彼女は立っていた。

 幼少期から荒んだ青春時代まで、ずっと支えてくれたポケモン達。

 自分をどん底から引っ張り上げてくれたレモン。

 そして──自分の心をかき乱す、あの少年の顔が浮かぶ。

 その気持ちに今更ウソを吐くつもりはない。

 にっ、と笑みを浮かべると、彼女はオージュエルの光を解き放つ。光が、デジーにも集まっていき、白い炎が彼女の瞳に灯ろうとしたその時だった。

 

 

 

 鎖が巻かれるような感覚を彼女は覚えた。

 

 

 

「ッ……!?」

 

 

 

 己の心を縛るかのような鎖。

 それに雁字搦めにされていた。

 傍から見れば彼女の目からは既に炎は消えてしまっており、呆然と立ち尽くしているようにしか見えない。

 ミミロップの身体からも、粒子が拡散してしまっており、かくんと膝を突いてしまっていた。

 

「惜しいわね……」

「はい……何があったんでしょうか……」

「失敗した……途中まで上手くいってたはずなのに……!?」

「初めてにしては上出来だッ!!」

 

 パチパチと手を叩くアジュガ。

 言い知れない虚脱感に襲われながらデジーは、オーカードを、そしてミミロップを眺めていた。

 不安そうな顔でミミロップはこちらを見つめている。

 

「俺が修行を始めた頃は、そもそもその段階に辿り着けなかったッ! めげずに何度も練習すれば、いつかは身に付く! そして次は──少年ッ!」

「はいっ!?」

 

 次に指名されたのはイクサだった。

 おずおずと彼はアジュガの下へ歩いていく。

 正直、ギガオーライズを手にしたいという気持ちは強い。だが同時に、不安も募りつつある。

 しかし──この力を手にしなければ、生徒会には勝てない。

 

(やるしか……ないよね)

 

「少年ッ! 君の抱える本性や欲望だとか、俺は君本人ではないから何も分からんッ!」

 

 その上で、と彼はイクサの肩を手で掴んだ。

 

「万が一の時は、死ぬ気で俺が抑え込む。だから、存分にやれッ!」

「……っ」

 

 有無を言わせない、太陽のような明朗さ。

 彼の下でならば大丈夫かもしれない──そう思わせてくれる。

 これが、彼が慕われる理由なのかもしれない。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──パモ様。やってみるよ」

「ぱもぉ……ッ!!」

 

 

 

 どくん、どくん、と心臓が脈打つ。

 右手首の腕輪には、いつものオージュエルの代わりに、村長の黒化したものが嵌めこまれていた。

 左手には──パーモットのオーカードが握られていた。

 パーモットを見下ろす。気合を入れるように、キュッと拳を握り締めている。

 

「これは何度でも繰り返すぞ。己の中にある己から常に目を離すな。ポケモンとひとつになる感覚が重要だッ」

「……ポケモンと、ひとつに」

 

 言い聞かせるように呟き、そしてオーカードを翳す。

 

 

 

「──ギガオーライズ……ッ!! ──ッ!?」

 

 

 

 オーカードがオージュエルに分解された瞬間、イクサは自らの胸から何かが引っこ抜かれるような感覚を覚える。凄まじい引力を宝石から感じた。

 

(なっ、何だッ……!? これ──吸い寄せられ──意識が……ッ!?)

 

「気を強く持て、少年ッ!!」

「ぱもぉ!?」

「あっぐぐぐゥ──!?」

 

 理性も、倫理観も、全てが引き剥がされる。

 露になるのは全てが剥き出しになった裸の自分だけ。

 イクサの瞳から黒い炎が一瞬灯り、黒い稲光がパーモットを突き刺していく。

 

(抑えるな、抑えるな……!! このまま、身を委ねて──ッ)

 

 激情の奔流がイクサを襲う。

 

(委ね、て……ッ!!)

 

 ふっ、と力を抜いたその時、イクサの意識は全て黒い濁流に押し流されてしまった。声が何処からともなく聞こえて来る。

  

 ──何をしにお前はこの世界に残った? 忘れていないか?

 

 ──僕が、この世界に残る理由──

 

 黒い靄が彼の心を蝕んでいく。

 

 ──何で良い子ぶってたんだ? 

 

 ──違う。僕は──

 

 ──解放しろ。さもなくば、一生奪われたままだ。

 

 悪魔の囁きが聞こえてきたようだった。

 どくん、どくん、と鼓動が強く脈打ち、嫌な汗が伝っていく。

 

 ──前の世界じゃあ、手に入らなかったものが、この世界なら手に入る……ッ!! 本物のポケモンも、女達も──富も、名声も──ッ!! 

 

 ──お前の要領の良さがあれば、幾らでも手に入るだろう? 現にもう少しで全て手に入る所だった。

 

 ──なのに、生徒会の奴等……僕の邪魔をしやがった! 許せないッ! ()()()()を、全部奪っていく……ッ!! ()()()()を、傷つけていく……ッ!!

 

 

 

 ──だから僕が全部奪い返して、今度こそ手に入れるんだ。

 

 

 

 じろり、とレモン、そしてデジーを舐るように睨むと、イクサは薄っすらと下卑た笑みを浮かべた。

 

 

 

 ──全部手に入れてみせる。そして、僕らから全てを奪った奴らから、全部奪い返してやる──ッ!!

 

 

 

 パーモットの体毛が黒く染まっていき、目は赤く光り輝く。

 そして、一瞬だけ黒い炎が灯り──消えた。

 そこにあったのは、パーモットの姿をした怪物だった。

 

「オーライズには成功したっぽいけど、なんか、おかしくない……!?」

「な、何、これ……!? どうなってるの……!?」

 

 デジー、そしてレモンも驚愕する。

 伴ってイクサの様子もおかしい。

 口角はずっとつり上がっており、目からは黒い炎が揺れている。

 黒い稲妻が砂漠を打つと波紋が浮かび上がる。

 デジーに手で制されるが、レモンは──必死に呼びかけた。

 

「──イクサ君、しっかりしてッ!!」

「いや聞こえてるの、これ──」

「理性の枷が完全に飛んだなッ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()と相場が決まっているッ! これは、ギガオーライズに限ったことじゃないッ!」

 

 暴れ出そうとするパーモット。

 しかし、その背後に回り込むのは音速のドラゴンだ。

 

 

 

「──だが言ったはずだ少年ッ!! 君がどうなっても、全力で俺が抑え込むとッ!! 容赦をするつもりは微塵も無いがなッ!!」

 

 

 

 逃げ場など無い。振り向きざまの渾身の拳は、ガブリアスを打つ。

 ぐらり、と巨体が揺れて仰け反った。

 しかし、高速アタッカードラゴンの中でも屈指の耐久力を持つその龍に、抜群ではない攻撃は致命傷足り得ない。

 思わず飛び退いたパーモットだったが、ガブリアスはその強靭な足を思いっきり地面に叩きつけた。

 

「ガブリアスを怯ませるとは、とんでもない出力だな少年、感心したぞッ! 一番ギガオーライズを強く使えるのは少年かもなッ!」

 

 

 

【ガブリアスの じしん!!】

 

 

 

 砂漠がうねり、そして揺れる。

 本能のままに暴れるだけのパーモットに、それを躱す手段などあるはずもなかった。

 衝撃波が襲い掛かる。威力は地面タイプトップクラス。

 範囲は敵全体。何処に逃げても、パーモットは致命傷を避けられない。

 パーモットの身体からオシアス磁気が抜けていき、それと同時に──イクサの目からも黒い炎が消え、靄が抜けていく。

 そのまま彼は、気を失って倒れてしまうのだった。

 

「イクサ君っ!!」

「転校生っ!! 大丈夫!?」

 

 血相を変えてレモンとデジーは駆け寄った。

 揺さぶるが、返事は無い。

 そんな中、至って冷静にアジュガは言ってのけた。

 

「己の抑圧した欲望や本性が大きければ大きい程、飲み込まれた時にタガが外れやすくなり、ポケモンに自分の精神力を全部注いでしまう──俺も修業時代に何度かやらかしたッ! 故に問題ないッ!」

 

 その証拠に、息はあるからな、と彼は告げる。

 健康的な問題は無さそうだった。

 

「ギガオーライズを自転車に例えるなら……少女ッ! 君は、補助輪外したてで怖くて自分から降りてしまったッ! 少年は……ペダルに足を置かずに坂道で爆走して倒れた……と言ったところだッ!」

 

 ギガオーライズが途中で解除されてしまったデジー、そして到達はしたものの暴走してしまったイクサの状態を言い当てるには的確な例えであった。

 

「前者に関してはまだ何とかなりそうだけど、後者はどうなの? イクサ君は……ギガオーライズ、使いこなせるようになるのかしら?」

「問題ないッ! 時間さえあれば、な」

「でも時間なんて無いわ。私達、追われてるのよ?」

「ならば提案があるッ!」

 

 サムズアップしたアジュガは、レモンに白く輝く歯を見せつけながら言った。

 

 

 

「どうせ逃亡中の身ならば、しばらくこの村に身を置かないかッ! 俺も付き合おうッ! オージュエルの研究……という名目でなッ!」

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