ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「改めて自己紹介しようッ! 俺はアジュガ、太陽の遺跡のキャプテンだッ!」
(しかもうるさい……)
オシアスの夜と昼の気温並みに、今のイクサ達と比べて温度差の激しい男であった。
「それにしても、ザングースの群れかッ! 実に珍しいッ! 作業場に来なくて良かったッ!」
「そうそう! ボク達、それを報告しようと思って……! 群れのデカいボスが居て、そいつが滅茶苦茶強くて……ッ!」
「普段群れない生き物が、強いボスが出現したことで群れだすのは珍しいことではないが──穏やかではないなッ! 私が上に報告をしておく、実に良い働きをしてくれたッ!」
「は、はぁ……ありがとうございます」
こうして受け答えをするだけでも疲れる男であった。テンションが高過ぎる。
口元には常に爽やかな笑みが浮かべられており、キラキラが周囲から舞っている。
「なんか……冒険映画の主人公みたいな人ですね……」
「ええ、アジュガさんのお祖父さん、インゲン・ジョーズは高名な考古学者で冒険家として知られていて、その活躍は脚色されて映画化されているわ」
(冒険映画なの? 鮫映画なの?)
きっとこの世界線の、同じ映画なのだろう、とイクサは納得する。名前の所為でイマイチ内容が掴みづらいが、アジュガの恰好を見るに、恐らく前者寄りなのだろう、と判断する。そうであってほしい。
「祖父はオシアスでは有名だからなッ! 俺の自慢で誇りだッ!」
「ボクのその映画、見たことある! まさか元ネタのお孫さんに会えるなんて! レモン先輩、映画見た事あったの?」
「シャインの奴が大ファンでね……一度ラズ共々観賞会とか言って4本全部見せられたわ──丸半日使ってね」
「一本3時間超えの大作か……」
「1作目がお宝を探す話なのに2作目でいきなり二つ首のサメハダーと戦うんだから、ちょっとビックリしたわよ」
(やっぱり
「二つ首のサメハダーは居ないが、祖父が近海で巨大なサメハダーと戦ったのは本当らしいぞッ!!」
「そこは制作会社の悪ふざけであってほしかった……」
「ハッハッハ! だからお前もいずれ……サメハダーと戦える凄いヤツになれるはずだ! ──
豪快に笑ってのける男の傍には、よちよち歩きの鮫のような小さなドラゴンが現れる。
「ふかふか」
【フカマル りくザメポケモン タイプ:ドラゴン/地面】
(あ、
「かわいーっ! フカマルだ! 本物は初めて見た!」
「迷宮にしか出て来ないポケモンね。映画インゲン・ジョーズは、迷宮の奥でフカマルとインゲン教授が出会う所から始まるの」
(本当にインゲン×ジョーズだったのか……)
傍から見れば可愛らしい鮫の赤ん坊といった容貌のフカマルだが、成長すると恐ろしく強いポケモン・ガブリアスにいずれ進化する事をイクサは知っている。
イクサの世界では、長い間対戦環境でトップに居座ったことで「主人公」とまで呼ばれたドラゴンである。
並みの耐久ポケモンと同等の耐久、高い火力、優秀なタイプ、優秀な技、そして平均よりも高い素早さから、トップから陥落しても尚、毎世代何らかの形で環境に爪痕を残し続けている。
そんなガブリアスは、ある地方ではチャンピオンのエースだったりするが、この地方では有名な冒険家の相棒であったらしい。
「このフカ坊と共に、いずれはオシアスに名を残す冒険家になる──予定だッ!! 今は博物館で学芸員をしながら、たまの冒険を楽しんでいるッ!!」
「それは今までの流れで何となく、分かりましたが……」
「ところで、そこに居るのは……シトラスグループの御令嬢、レモン・シトラスではないかッ!」
「ッ! ……変装してたけど分かったのね」
サングラスと帽子、そしてウイッグを取るレモン。得心したようにアジュガは続ける。
「ああ、君の顔を見た時、ピンときたッ!」
「訳は話すと──長くなるんですけど」
「いや、結構! 実はトトから連絡を貰っているッ!! 母校は勿論、君達も大変な事になっているようだなッ!!」
「良かった……トトさん、助かる……」
「うむッ! 既にもう1人のキャプテンにも連絡は入れている。だが、どうやらサースドシティの方には既にアカデミアの追手が来ているようだなッ!」
「……もしかして、もしかしなくても、ボクの地元だから?」
「でしょうね……まあ、此処までは想定通りの動きよ」
デジーの出身がサースドシティであることは、生徒会を通じて情報共有されてしまっているのだろう。
そうなると、心配なのはバジルとゼラの二人になってくるが──
(バジルとゼラは、それも当然織り込み済みで動いてる。むざむざ捕まりにはいかないでしょうけど)
無論、サースドシティが危険であることを理解していないはずがない。
それを承知の上で偵察に向かったのである。
見つかったら見つかったで、敵の意識をサースドシティの方に向けることができ、レモンたちを動きやすくすることができる──というのがバジルの狙いでもあった。
「お願いします。生徒会に対抗するには、アジュガさんの協力が必要なんです。何か、生徒会が使っているギガオーライズについて覚えがないでしょうかッ!?」
「無いッ!!」
「言いきっちゃった!?」
「……と言えば、ウソになるッ!!」
「どっちなの?」
腕を組み、うんうんと頷くアジュガ。
「特に注目したいのはオージュエル!! 変異したオージュエルがきずなリンクのような現象を引き起こすッ! 興味が深すぎてマリアンナ海溝に到達してしまったッ!」
「その変異条件が分からないから、現にうちでも手をこまねいているのだけれど」
普段は水晶のように透き通ったオージュエルだが──グローリオが使っていたものがどのような色だったかは、イクサはもう覚えていない。
あの時はベトベトンに気を取られて、そこまで見る余裕が無かったのである。
「しかし、
「本当ですか!?」
「俺の知人がその昔発見したものだが……善は急げだッ!!」
「なんか想像以上に話が早いんですけど、良いんですか? 僕達の事を疑ったりしないんですか?」
「何故疑う? 思い悩む少年少女を、俺は放ってはおかないッ! それに、トトが認めた相手だからなッ! あいつは人を見る目があるッ!」
(トトさんありがとう……)
イクサは再び彼女に心の底から感謝した。
結局、一番大事なモノは人脈なのかもしれない。
「母校の危機に黙ってはおけないッ! それに、話に聞いたアトムという男と今の生徒会、実にきな臭いッ!! 故に、俺も出来る限りの協力をさせてもらうッ!」
そう言って彼に連れて来られた先には、とても物々しいジープのような車が止められていた。
「掴みたくば乗れッ!」
「良いんですか?」
「丁度発掘作業も節目、これから少し長い休みを取るつもりだったところだッ! 君達の話からは──冒険が、待っているッ!!」
「……」
少年のように目を輝かせてハンドルを握り締めるアジュガ。彼を見ると、イクサはどうしてか胸に熱いものが込み上げて来るようだった。
確かにやかましいし、騒がしい男ではあるが──まるで、かつての自分を鏡映しにしたようだった。
この世界に来た時、自分もあんな風にはしゃいでいた気がするのを思い出す。
(何だか、僕から抜け落ちてしまったものを……持っている人……)
※※※
──車に揺られ、2時間。
イクサ達が辿り着いたのは、オシアスの大砂漠に座する閑散とした村だった。建物の数もとても寂しい。
だが、それでも遺跡の調査にやってくる者に向けて、宿は開いているらしく、更に行商も度々通ってくるので最低限の生活には困らないらしい。
「ドーガの村……古のポケモン使いの隠れ里だったらしい!!」
(一番隠れ里に相応しくない声量の人が今目の前で存在感を放っている……)
「トレーナー修行をしていた頃、この村で世話になったッ!」
「修行?」
「お祖父様直伝の秘密の修行場があるのだッ! それはさておき早速村長の所に向かうとしようかッ!」
どうやら、オージュエルは村長の家にあるらしかった。
道中、物珍しそうに村人がイクサ達を眺めていたが──アジュガの姿を見るなり、嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。
「アジュガ君っ! 今日はどうしてここに来たんだい!? お茶を用意するから、上がっていくといい!!」
「大変ありがたいッ! だが、またの機会に頼むッ! 今日は、村長に急ぎの用でな」
「村長さんなら今、日課の瞑想中だよ」
「何かあったら私達に言ってくださいねっ」
「キャプテンのおにいちゃんだーっ!」
(……存外、慕われてるのね)
(あの人柄なら、おかしくはないのか)
村人たちに手を振りながら、進む彼はまるでヒーローか何かのようだった。
アジュガからすると勝手の知る第二の故郷のようなものなのだろう。
しばらく進むと、小さな家に辿り着く。その横には、ふんかポケモンのバクーダが繋がれた小屋が置かれていた。
荷物を引かせるのに村ではよくバクーダや進化前のドンメルが使われるのだという。
「此処だッ! 早速入るぞッ!」
全く遠慮することなくアジュガはその家に入り込んでいった。不用心にも、鍵すら掛かっていない。
「ちょっと、呼び鈴も無しに大丈夫なんですか!?」
「問題ないッ!」
「怒られないかなあ……」
イクサ達が困惑する中──大声でアジュガは叫ぶ。
「久しいなッ! 村長ッ! 入るぞッ!」
「……その声は、アジュガか」
小さな家の奥に、座禅を組む老人の姿があった。
(何だか、如何にもって感じだね……)
(シッ! この人に協力してもらわなきゃ、ギガオーライズに辿り着けないのよ)
(……交渉が上手くいけばいいけど)
「……フン、バタバタと子供を連れて押しかけてきよってからに。何用じゃ?」
「借りたいものがあるッ!!」
「……言ってみよ」
「村長が以前見せてくれた、変色したオージュエルだッ! 野暮用であれが必要になったッ!」
「……お前と言うより、その子供たちが欲しているのじゃろう?」
「そうだッ!!」
「……いきなり押しかけてくるなり、ワシの物を借りたい、か。おまけに見知らぬ子供にオージュエルを使わせる……か」
重苦しい空気が周囲に漂う。これは断られてしまう流れか、という不安が沸き起こる。
村長はギロリ、とアジュガを睨み付け、口髭をたっぷりと蓄えた口を開いた。
「いいよー♪ アジュガのお願いなら、村長何でも聞いちゃう♡」
座禅を解き、村長はサムズアップ。
あまりにもノリの軽い返事にイクサ達はずっこけてしまうのだった。
「流石村長ッ! 太っ腹だッ!」
「え、えええ!? 良いんですか!?」
「インゲンの孫息子のお願いを聞かんかったら、あの世であいつに怒られるわい!!」
「村長と祖父は長い付き合いでな! トレジャーハントの冒険に出た祖父とは良いコンビだったそうだッ!」
「もしかしてその辺りの話も映画化されてるの……?」
「そうね……」
映画を全て見せられたらしいレモンは頷いた。
どうやら村長は若い頃村を飛び出してトレジャーハンターをやっており、アジュガの祖父とは親友でライバルだったのだという。
「フッ、インゲンとの冒険が今でも昨日のようじゃわい。最初はいけ好かんヤツだと思っていたが……ポケモンが暴走したりお宝を探したり、そのお宝が実はポケモンでとんでもない目に遭ったり、デカいサメハダーと戦ったりするうちに親友になってな」
「はぁ……本当に映画の通りだったのね……」
「今のアジュガは、あの頃のあいつを見ているようじゃよ……」
「村長、まだまだ俺は祖父には及ばないッ! これからもっと、俺だけの冒険を刻んでいくつもりだッ!」
「ところで……そのオージュエルは一体何処に……?」
「何処じゃったかのう……ああ、丁度肩叩きに使っておったわ! オシアス磁気で凝りもバッチリ取れるんじゃよ」
とんでもなく罰当たりな使い道に、イクサは眉間を摘まむ。
「レモンさん、オシアス磁気ってそんな効能があるんですか?」
「無いわよ」
「だよね……聞いたことないもん。大丈夫かなあ、あのおじいちゃん……」
断言されてしまった。村長の健康が逆に心配になる一行であった。
「おっ、あったあった! ほれ」
「有難いッ!」
アジュガが受け取ったオージュエルを、イクサ達は覗き込む。
「ッ……何だこれ」
イクサ達のものとは異なり、黒々と輝くオージュエル。
そこからは恐ろしく強いエネルギーが感じ取られた。
思わず手を伸ばそうとするが──イクサは、胸の中にドス黒い何かが湧き上がってくる気がした。
「村長ッ! このオージュエルを何処で手に入れたのか教えてくれないか?」
「ありぃ? ワシ前に言わんかったかの」
「もう10年以上前だ。覚えていないッ! 済まないが教えてほしいッ!」
髭を触りながら──まるで昨日の事のように、村長は語る。
「あー、ざっくり言うと、
全員は目を見開く。
それは、これまでの迷宮の常識を覆すものだった。
ミイラ、言い換えれば丁寧に埋葬された人間の死体だ。
この世界でも、古代遺跡からミイラが発見されることはあるが──隔絶された異空間である迷宮からミイラが見つかるなどと言う話は初めてだ。
「オシアスの迷宮にミイラがあるなんて聞いた事が無いわよ。それって逆説的に人が迷宮に住んでる証明じゃない」
「それがあったんじゃよ……1人で潜った時だった上に、その部屋は崩落して入れなくなってしまったから、誰も信じてくれなかっただけじゃ──インゲン以外はな」
皆ワシの事をほら吹きと思ってからに、と彼は続ける。
「どんなミイラだったんですか?」
「ボロボロの棺に入っていたんじゃ。そして包帯に巻かれていた。中のミイラが握っていたのが、このオージュエルだったというわけじゃ」
「でも閉ざされてるはずの迷宮の部屋にミイラだけあるのはおかしいですよね!?」
「そうね。ミイラは当然、加工して埋葬した人間が居るはず。言い換えれば、文明無くして作られるわけがないわ」
「そこって本当に迷宮の”部屋”だったのかな……」
「しかも……オージュエルは迷宮で採掘される鉱石。加工しなきゃ使い物にならないわ。何で加工されたオージュエルを、ミイラが持ってるのよ……!!」
「──その迷宮の時空の裂け目が、何処かの古代文明の遺跡に繋がっていた……のかな」
そもそも、時空の裂け目と呼ばれる扉の先の空間が、地下空間であるとは誰も言っていない。
そこがオシアス地方であるかも確かではないのである。
「地味にとんでもない爆弾だよね……今のって」
「でも、それ以降それらしき話は聞いた事が無いわ。本当の本当にレアケースだったのかしら」
「おい、ウソではないぞ!」
「信じないとは言ってないわ。……ただ、色々と引っ掛かる事があるだけよ」
「そんなものを僕らが貰って良いんですか……?」
「構わん構わん、時が来た……というところじゃな。恐ろしい力を持っていたが故、自分で使った事はあまり無かったがのう。試しに何度か使ったが、特に何ともなかったぞ」
そもそも、オーライズは同じポケモン同士ではできないという常識があったので、村長がギガオーライズに辿り着くことはなかったのである。
(古代文明から発掘されたオージュエル……ッ!!)
黒く変色したそれを見つめていると、イクサの胸中から言い知れない何かが湧き上がってくる。
目を見開き手を伸ばそうとするが──デジーが肩を掴んで彼を揺らした。
「転校生っ。どうしたの?」
「ッ……ご、ごめん」
(──これを見ていると”アイツ”が出て来そうになる……何でなんだ……?)
デジーが心配そうに顔を覗き込んだ。彼の額からは妙な汗が浮かんでいた。
「気分悪いの?」
「平気だよ。それよりも、これでギガオーライズが出来るんですかね……?」
「やってみるしかあるまいッ!」
溌溂とアジュガが言ってのける。
「砂漠に来いッ! 先ずは俺が、このオージュエルでギガオーライズが出来るかどうか試すとしようッ!!」