ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第73話:反抗

 ──ザングースと言うポケモンは、所謂マングースをモチーフとしたポケモンである。

 毒蛇ポケモンのハブネークとは遺伝子レベルでの宿敵であり、出会うなり死闘を繰り広げる。

 更に種族単位で毒への耐性を持ち、毒を喰らわなかったり毒状態になると暴走して攻撃力が上昇して狂暴化する──といった特徴を持つ。

 しかし、オシアスの食糧が少ない過酷な環境で進化したザングースは──

 

 

 

【特性:どくそかっせい】

 

 

 

 ──毒を持つ獲物を食らい続けた事で蓄積した体内の毒を、利用する術を身に着けた。

 ザングース達の目の色が変わる。

 一気に凶悪な赤い光を揺らめかせ、爪や腕にも罅割れたような赤い傷が現れる。

 明らかに一段階狂暴化したような雰囲気に彼は息を詰まらせるが、すぐさま敵全体を薙ぎ払うべくキルリアに指示を出す。

 

「敵が沢山居るなら君の出番だ!! キルリア、”マジカルシャイン”!!」

 

 強い光が周囲を覆った。

 それに照らされ、ザングース達は苦しみ悶える。

 フェアリータイプの全体攻撃技”マジカルシャイン”は、悪タイプのザングースに効果抜群。

 これで一網打尽と思われたが──それでも尚、ザングース達は倒れずに飛び掛かってくる。

 

「なんてガッツだ……!!」

「地面と悪だから、ニドキングとゴビットを出すのはヤバい……ホルード、レパルダス!! 君達も頼むよーっ!!」

 

 デジーも一斉に手持ちを繰り出し、ザングース達を蹴散らしていく。

 だが、自らの被弾を気にせずにザングース達は突っ込んでいき、爪による一掻きを見舞うと、余計に力を漲らせていく。

 

(”マジカルシャイン”でいっぺんに弱らせたはずなのに……!!)

 

 そのキルリアも、ザングースの攻撃を避けるので精一杯のようだった。”かげぶんしん”を使って回避していくが、相手も集団であるが故に捉えられている。

 

「気を付けて!! ザングースの特性は”どくそかっせい”……戦闘を始めると体内の毒素を活性化して毒状態になるけど、攻撃すると相手から体力を吸い取るようになるわ!!」

「はぁ!? 体力を吸い取る!? てか、自分から毒状態って、正気ですか、この生物!?」

「そうそう!! 長期戦は禁物、倒すなら一発で倒さなきゃダメなんだけど……!!」

 

 つまりそれが意味するのは、事実的な状態異常の無効化。

 そして、全ての技が「ギガドレイン」や「ドレインパンチ」のような吸収技となる。

 まるで吸血鬼のような性質にイクサは驚愕する。するが──

 

(幸い、ザングースの耐久自体はそこまで高くない……!! BもDもたったの60しかないし……!! 弱点を突いて一撃で倒せれば良い!!)

 

「タギングル!! オーライズ──”マリル”だ!!」

「きゃいきゃいきゃいーっ!」

「Oワザ、”アクアテール”!」

 

 甲高く鳴いたタギングルが、一気に周囲を駆けまわる。

 レモンたちに、そしてミミロップに近付いたザングース2匹を”アクアテール”で瞬殺する。

 更に、すっ飛んできた一匹も振り向きざまに”アクアテール”で叩き落とした。

 

「は、はっやい、そして強い……!! 高速アタッカーに超火力は相性が抜群だよ……ッ!!」

「最早鉄板ね。”ちからもち”+タギングルでの高速無双コンボ──」

「みーみみ……!」

 

 さしものミミロップも、その火力と速度に圧倒されているようだった。しかし、得意げにタギングルがサムズアップすると──ぷい、とそっぽを向いてしまう。流石に項垂れるタギングル。日頃の行いというものだろうか。

 

(そりゃあれだけセクハラしてりゃあね……)

 

 残念でもないし当然であった。 

 とはいえ、状況は好転しつつある。

 ”ちからもち”で跳ね上がった攻撃力から放たれる弱点技ならば、幾らザングースと言えど耐えることができない。

 

(よし、この間に地面タイプに弱いカルボウをボールに──あれ、あいつ何処行った!?)

 

 辺りを見回す。

 カルボウが見当たらない──と思ったら、ずっと岩陰に隠れてキルリア、そしてマリルを見つめているようだった。

 

(良かった……2匹が守ってくれていたのか……)

 

 すぐに岩陰に近付き、イクサはカルボウを抱きかかえる。ほのかに温かく、木炭の香りが漂う。

 

「キルリアとマリルを見てたのか……驚かせないでよ。ほら、ボールに戻るよ」

「ボウ? ボウボウ!」

 

 ボールに引っ込めようとすると嫌がるカルボウ。どうやら、キルリアの戦いっぷりを目に焼き付けたいようだった。カルボウは本来、好戦的なポケモン。未来の進化に向けて、己を鍛えたり、格上のポケモンの戦いを見ていることがあるという。

 

(うーん、何かカルボウにとって為になるかもしれないし……このまま抱きかかえておくか。キルリアの戦い方は、グレンアルマに進化する時に役立つかもだし)

 

「マリル!! キルリア!! そっちは君達なら抑え込めるよね!?」

「きーりりぃ!」

「りっるる!」

「”マジカルシャイン”で弱った奴を、マリルの”アクアジェット”で倒していけ!」

 

 際限なく湧いてくる敵の群れだが、弱点を突ける2匹の敵ではない。こうして

 

「これなら、一掃できる……ッ!! ──ん?」

 

 風が不自然に吹き付ける。

 砂混じりの風だ。肌を叩きつける勢いだった。

 

「ぺっぺっ、何だこれ……!?」

「なんか、いきなり砂嵐が凄いよ!?」

 

 周囲の視界は悪化する。

 砂で目が開けられない。しかも、叩きつけるような砂でポケモン達がじわじわとダメージを受けていく。

 

 

 

【ザングースの どくづき!!】

 

 

 

 タギングルを上回る速度で接近する影。

 ”かるわざ”を発動させていなかったタギングルは、一瞬で不意を突かれ、そのどてっぱらに毒素を含んだ爪を叩き込まれてしまう。

 何が起こったのかイクサにも分からなかった。

 今度は、向こうで戦っていたマリル、そしてキルリアにも近付いていく。

 

「キルリア、”リフレクター”!! マリル、アクアジェット!!」

 

 指示を出すイクサ。

 しかし、相手が一歩も二歩も上を行く。

 一気に距離を詰めると、キルリアとマリルの身体に”どくづき”を叩き込む。

 こちらの行動が追い付いていない。

 防御力が高くないキルリアとマリルは、それを受けて昏倒してしまう。

 

「いけない!! キルリア、マリル、戻って!!」

「ボウッ、ボウ!?」

 

 イクサは急いでボールを取り出し、二匹を戻す。取り乱したカルボウが暴れるが、何とか抑えつけた。

 

「大丈夫だよ、カルボウ! 二匹は無事だ、君もボールに戻って!」

「ボウ……」

 

 何処か物悲しそうに鳴くカルボウだったが、今度こそイクサはボールに彼女を収納した。

 タギングルを片付け、更にマリルとキルリアまで瞬殺したあの個体は──今までの強さの比ではない。

 

「三匹、持ってかれた……ッ!!」

 

(”かるわざ”を発動していなかったとはいえ、タギングルがザングースに速度で後れを取った──あ、そうだ! タギングルもボールに戻さないと!)

 

 

 そう思い、倒れたタギングルを探すイクサ。すぐにザングースがマリル達を襲いに行ったので、目を離してしまったのだ。

 しかも、砂嵐で視界が悪く、何処にタギングルが居るかよく分からない。ザングース達の群れは更に勢いづいており、非常に危険な状態だ。

 このままでは、倒れたタギングルが危険だ、と焦燥感に駆られたその時。

 

 

 

「みーみみ!」

 

 

 

 ぽんぽん、と肩をふわふわとしたものが叩いた。

 するとデジーの声が聞こえて来る。

 

「ねえ転校生ーっ! ミミロップが、そっちに行ったと思うんだけどーっ! 砂嵐で目が潰れて、よく見えないのーっ!」

「……!」

 

 2メートル超えの身長のミミロップを見あげる。

 腕には、大事そうにタギングルを抱きかかえていた。

 どうやら今の間に倒れた彼を回収してくれていたようだ。

 

「あ、ありがとう、ミミロップ……! 後、いつもタギングルがゴメンね」

「みぃ……」

 

 抱きかかえられたタギングルをすぐにボールに戻すイクサは──近くに戻ってきたパーモットと共に、手持ちを一瞬で何匹も倒した個体を見据える。

 大きい。群れの他の個体と比べても巨大だ。ミミロップ程ではないが、十二分に威圧される。

 

「やっと見えた……ってか、あいつ大きい……!」

「どう見ても、群れのボスだわ。こいつ、砂嵐が来るのを本能的に理解して、このタイミングで強襲を掛けたのよ」

 

 タギングルを葬った鋭い爪をミミロップに挑発するように向けると、好戦的な笑みを浮かべた。

 次のターゲットを定めたのだ。漸く目が見えるようになったデジーは、相手から向けられる敵意を察知すると叫ぶ。

 

「ッ……ミミロップ!! “すりか──”」

 

 

 

【ザングースの インファイト!!】

 

 

 

 距離を詰めるのは一瞬だった。

 ミミロップが動き出した瞬間には、もうザングースはミミロップの腹部に爪を食いこませ、更に強烈な蹴りを見舞って岩壁に叩きこむ。

 ぐらり、と彼女は地面に倒れ込み、そのまま気を失ってしまうのだった。

 素早さを奪う暇さえ与えられなかった。

 

「そんなぁ!! ミミロップまでやられた……!!」

「パモ様”マッハパンチ”で迎撃するんだッ!!」

 

 パーモットの音速の拳がボスのザングースを捉える。

 しかし、それをあっさりと受け止めたザングースは好戦的な笑みと共に強烈な蹴りをパーモットに叩きこむ。

 

 

 

【ザングースの 10まんばりき!!】

 

 

 

 撥ね飛ばされたパーモットは、地面に転がり、苦しみ──そして倒れてしまう。弱点の地面技は文字通りの致命傷であった。

 

「こ、こいつ、強くない……!? 幾ら何でも……!!」

「……ザングースに素早さを上げる特性は無いはず……いや、でもリージョンだから僕が知ってる奴等と違うんだった……!」

 

 砂嵐下で強襲を仕掛けてきたこと。

 そして、他の個体と比べても明らかに群を抜いた素早さである事。

 これらから、イクサはこのボス個体の特性で思い当たるものを言ってのける。

 

「”すなかき”!! ”すなかき”だ!! だから砂嵐が吹いたタイミングを好機と見て襲って来たんだ!!」

「ッ……かもしれないわね!」

 

 いまいちレモンでも断定することが出来ないのは、これまでオシアスのザングースに”すなかき”を持つ個体が確認されてこなかったからだ。となれば、通常の個体が持たない”隠れ特性”ではないか、とレモンは推測する。

 ポケモンは通常、特性を2種類まで持っているが、それとは別に非常に稀少な”隠れ特性”を持つ個体が存在する。ゲームでは大抵、入手手段が難しくなっており、その分強力であることが殆どだ。そして、この世界に於いては、ポケモンの”隠れ特性”はそもそも把握されていない事の方が多い。一般には知られておらず、一部の強いトレーナーが隠し玉としている場合も多々あるという。

 また、パルデアでは、ぬしポケモンがこの隠れ特性を所持していたケースから、野生下でも群れを率いるボス個体が隠れ特性を所持していると確認されている場合があるとされている。

 従って、今イクサ達を苦戦させているザングースが、通常の個体とは異なる特性を持っていてもおかしくはないのである。

 さて、相手の特性を”すなかき”だと推定したところで、イクサは、この速度を奪う方法が思いつかない。”でんきだま”を投げ付けられるタギングルは既に倒されてしまっている。 

 パーモットの”ほっぺすりすり”が効くものなら、最初にぶつけていたところである。地面タイプに電気技は通用しないのだ。

 となれば後に残るのは──彼の中では最も成功率が低い策しか残っていない。

 

(でも、レモンさんとデジーに被害が及ぶ前に……やるしかない!!)

 

 

 

「ッ……ハルクジラ!! 出番だッ!!」

 

 

 

 カルボウと入れ替えで手持ちから外していたそれをイクサは繰り出す。

 ボールは空で爆ぜ、そして──周囲に冷気を溢れ出させるのだった。

 

 

 

「ヴゥゥゥゥォォォォォオオオオオオオオンンン……?」

 

 

 

【ハルクジラ りくくじらポケモン タイプ:氷】

 

 

 

 地鳴りが響くような大声に、ザングース達も怯む。

 大鯨の如き白い体躯に加え、重厚な脂肪。そして巨体を前にすれば、潜在的な恐怖を覚えるのも無理はない。

 

(正直、あんまり出したくなかったんだけど……ッ!!)

 

「ハルクジラ、頼む! 今だけ力を貸して! ”ゆきげしき”だ!!」

 

 ──砂嵐を上書きするには、この場で天候を変えてしまえば良い。

 そしてハルクジラの特性は”ゆきかき”。雪が降っている時、素早さが倍増するというものだ。

 幾らザングースが素早いと言っても、天候を塗り替えた上で”ゆきかき”が発動すれば、ハルクジラが速度で上回れる。

 

(なんだ、天候を変えられるなら最初っから出してよ転校生!!)

 

(イワツノヅチと入れ替えで手持ちに加えてたのね! でも、イクサ君……あまりハルクジラを出した事が無いような──)

 

(……手段を選んでる場合じゃあないんだッ!! ないんだけど……ッ)

 

 以前、イクサはイワツノヅチを賭けた決闘で、このハルクジラを勝ち取っている。

 だが──レモンは、彼がこのハルクジラをボールから出したところをあまり見たことが無い。

 確かに氷タイプであるが故に、オシアスの暑い天候下では出しづらかったのかもしれない。

 氷タイプは弱点が多いが故に戦闘では繰り出しにくいと考えていたのだろう。

 夏の特訓の時も「ほら、暑いビーチにハルクジラは酷じゃないですか」と言って、あまりボールから出していなかった。

 しかし、明らかにハルクジラを出せば有利に試合が運べるであろう場面でイクサはハルクジラを出さない場面が多かったように思える。

 最初からハルクジラを選出するのを切っていたようにさえ思えるのだ。

 

(そう言えば、デジーと決闘する時、バジルがハルクジラについて何か言ってたような……まさか、彼が出し渋ってたのって、()()──)

 

 レモンの嫌な予感は当たる。一向に雪が降る様子はない。

 デジーも何かがおかしいとばかりにイクサの方を向く。

 当の彼は──「やっぱりダメか……」と項垂れた。

 ハルクジラはザングースのボス目掛けて突貫していく。

 あれでは良い的である。当然、群れのボスは取り巻きと共にハルクジラを袋叩きにするが──

 

 

 

「ヴゥゥゥゥォォォォォオオオオオオオオンンンッッッ!!」 

 

 

 

 怒ったハルクジラの口から、とてつもなく長く、重い咆哮と共に周囲に冷気が満ち満ちる。

 それで取り巻きたちは寒さで震え始め、引き下がりだす。

 無論、ボスはそれでも構わず”インファイト”をハルクジラに叩きこむが──

 

 

 

【ハルクジラの ボディプレス!!】

 

 

 

 ──その巨大な図体で一気に押し潰されてしまうのだった。

 だが、ザングースもそれだけで倒れる程ヤワではない。すぐにハルクジラの腹の下から抜け出し、再び爪を構えようとする。

 

「にゃぎ……!?」

 

 しかし、そのまま襲い掛かってくることは無かった。

 砂嵐が突如止んでしまったのだ。これにより、特性”すなかき”は解除されてしまう。

 オシアスの気候は気まぐれ。いつ風向きが変わるかは分からない。

 最早不利だと悟ったのか、ザングースは一度大きく啼くと、部下と共に崖の方へ跳躍し、そのまま逃げてしまうのだった。

 

「……何とか、なった……」

 

 イクサはへたり込む。

 結果から見れば、大きな被害を受けたと言える。

 パーモットやタギングルといった主力級が倒され、更にデジーもミミロップが倒されてしまっている。

 砂嵐に乗じて現れた、あのボス級個体が非常に強力だったこと、そして群れとの戦いで体力を消耗し続けていた事が大きい。

 何より──

 

「イクサ君。ハルクジラが言う事を聞かないの、何で黙ってたのよ」

「す、すみません……仮にも僕のポケモンだから……それに、先生たちには相談してたんです。ただ、時間が解決するしかないみたいで」

「そうだけど……」

「いつかは他の子みたいに言う事を聞いてくれるだろうって思ってたんですけど。やっぱ、上手くはいきませんでした」

 

 ──イクサのハルクジラは、未だに彼の命令を聞いていないという点だ。

 元より、デジーとの決闘の際、彼女のオーカードが氷タイプに弱いものばかりだったにも関わらず、イクサはハルクジラを使わなかった(結果的に使わないのが正解だったとはいえ)。

 これは彼が最初からハルクジラで戦うという選択肢を消していたからであった。

 

「ダイモン先生が言うには、多分、バトルがあんまり好きじゃないけど、元の主人の言う事だから戦ってたみたいで……」

「ああ、そういうタイプの子いるのよね……」

 

 しかも、ハルクジラはイワツノヅチ程ではないにせよ巨大なポケモンだ。もしも癇癪を起こして暴れれば周りに被害が出る。命令を無視する巨大なポケモンがどれほど危険かイクサは理解していないわけではない。

 更に、その強さも加入時点ではイワツノヅチに並ぶほどに強かったのだ。つまり、種族値の差が無ければイワツノヅチが負けていたほどにレベルが高いポケモンだったのである。新人トレーナーのイクサの言う事を聞かない程に。

 

「同じ一年なのに、よくもまあ此処で育てたもんだよ……って思ってたけど、オシアスで仕事をしているお兄さんから貰ったらしいんだ。そして、彼もパルデアでは結構強いトレーナーだったみたいなんです」 

「それでも、イワツノヅチが抜けた今、手持ちの戦力を補えるのはハルクジラしか居ません。今度こそ、ちゃんと向き合わないとって思ったんですけど」

「……よっぽど前の主人が好きだったのね。そんなポケモンを決闘で賭けるなって話だけど……釣りあわないって思ったんでしょうね」

「親がパルデアのとある企業の社長だったみたいで、どうしてもイワツノヅチを欲しがってたみたいなんだ」

 

 それで賭けの商品にされるハルクジラからすれば堪ったものではなかったのだろう。

 主人が変わったこと以上に、拗ねているのではないかとイクサは考えている。ハルクジラは人懐っこいアルクジラの進化形だが、進化すると家族愛が強くなり、警戒心も伴って大きくなる。

 その特徴から、個体によっては、進化した後は新しい主人になかなか懐かない事がある、と図鑑に書かれていた。

 

「転校生もそんな状態なら、元のトレーナーに返してあげればよかったのに」

「一度ユキノシタ君──元の持ち主──には相談したけど、断られちゃったよ。それが決闘に挑む自分の覚悟だったから、って言ってて。僕、あの試合は正直イワツノヅチが居たから勝てたようなものなんだけどなあ……それくらい強かったんだよ」

 

 負けた相手から情けを掛けられるのは複雑な心境だろう。相手もそれなりの覚悟があって、ハルクジラを賭けたはずだ。そこは尊重しなければならない。

 となれば、イクサに出来る事は如何にしてハルクジラを御するか考えることである。

 

「イワツノヅチの開いた穴に……とんだ難物が入ってきたわね」

「何ていうか転校生、ボクらが思ってる以上に気苦労が多かったんだね……」

「とはいえ、あるもので戦わないといけないからさ……正直頭を抱えてるんだ」

「てか、氷タイプならマイヅル副会長のオドリドリにも弱点突けるじゃん。ツクバネ先輩も飛行タイプ使いだし……ハルクジラが戦えるに越した事は無いよね?」

「……そうだなぁ」

 

 手持ちを回復させながら、思い悩む。正直、ハルクジラの性能は局所的に刺さる場面が必ずあるとは思っていたのだ。

 しかし、本人が戦うのが好きではないのに無理に戦わせる必要があるのか? と、どうしても考えてしまう。

 何より言う事を聞かない戦力ほど、扱いづらいものはない。

 それでも”インファイト”を受けても微動だにしなかったほどの耐久力、そしてボスのザングースを撃退してみせた膂力はあまりにも魅力的なのだった。

 

「ポケモンとトレーナーの関係は、その数だけあるわ。正直私も、これと言ったアドバイスはできない」

「ッ……そうですか」

「でも、今からでもハルクジラに向き合ってみれば良いんじゃないかしら。そんな時間も場所も無いのが問題なのだけども」

 

 イクサは、ハルクジラの入ったボールを見つめる。問題点は、叩けば次から次へと出てくる。

 

(……今は、君の力が必要なんだよ……欲しいんだ。イワツノヅチと互角に戦ってみせた君の力が)

 

 しかし、世の中には欲しいと願っても簡単に手に入らないものがある。ポケモンから向けられる信頼だ。それは、此処までの経験で痛い程イクサは理解していた。

 

「取り合えず、ハルクジラの事は置いておいて、この渓谷に居るであろうキャプテンに報告をしましょう。野生ポケモンの群れが居る状態で発掘なんて危険だわ」

 

 

 

「谷の方が騒がしいので駆け付けてみたら……随分と派手にやったなッ!!」

 

 

 

 その時だった。

 何処からともなく──快活で明朗な大声が聞こえて来る。

 振り向くと、谷の奥の方から人影が見える。恰好からして、アカデミアの生徒ではないようだった。

 

 

 

「悩める少年少女よッ!! 俺の名を呼んだかッ!!」

 

 

 

 遠くからなのに鼓膜に響く。

 

「いや、呼んでないんですが……」

「天が呼ぶ地が呼ぶ砂漠が呼ぶッ!! 古代のロマンと青春がッ!! 俺を、待っているッ!!」

「待ってないと思うんだけどォ……ねえ、レモン先輩。この人って」

「……ええ、そうね。聞いていた通りの人だわ。非常に()()()()()

 

 現れたのは、中折れハットを被り、皮ジャケットに身を包んだ、背の高い青年だった。

 その容貌はトロッコに乗って水晶ドクロの謎でも探していそうな服装であった。

 

 

 

「随分と辛気臭い顔をしているな少年ッ!! 辛い顔をしていると、幸運もお宝も逃げていくぞッ!! 困った事があるなら、このキャプテン・アジュガに相談するんだッ!!」

 

(また変なのが来た……ッ!!)

 

 

 

【”太陽の遺跡・キャプテン”アジュガ】

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