ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──その頃。先日から立て続けに起こった事件について、アカデミアでは大きく以下の者に分かれていた。
「──生徒会執行部である以上、アトム様の指示に従わないわけにはいかんからな」
「捕えれば生徒会から何でも願いを叶えて貰えるってよ!!」
「特記戦力の力、見せてやろうじゃねえか」
「所詮は1年坊主、怖くなんかねえぜ」
「集団で追い詰めれば、簡単に音を上げるだろうよ」
先ず、イクサ達の追討に出向く者。とはいえ、町の外には有事以外で重機を出すことはできないので、イクサの捕縛に出向くのはトレーナー科の生徒ばかり。必然的に上位の上澄みばかりとなる。生徒会の思想に賛同する者、単に報酬が欲しいだけの者、レモンたちに恨みを持つ者、強者である彼らと戦いたいと闘志を滾らせている者。理由は様々だ。イクサ達の罪に正当性を感じているかどうかも分かれて来る。
「つーか、何でわざわざ転校生追わないといけないの? ポケモンクッソ強いんでしょ確か」
「バカらしい、やってらんねー、課外授業が自由行動ってなら宝探しやらせてもらうわ!」
「オシアスのオアシス最高ーっ!」
「転校生? 見つかったらその時はその時くらいで良いんじゃね?」
「よっしゃー! オープンワイルドだー!!」
──次に、課外授業に乗じてオシアス観光に出向く者。課外授業を履修すればその期間中の単位を免除できる上に自由行動である事を良い事に、満喫している者達である。結論から言えば彼らは元よりイクサ達に勝てるなどとは思っていない者や、ごたごたを嫌う日和見主義者たちである。率直に言えば「どうでもいい」、「生徒会の事だからロクでもない事考えていそう」といった理由で協力していない。
今オシアスに出ている生徒達の半分はこのタイプである。とはいえ、中には当然、イクサ達を見つければ生徒会に通報して漁夫の利を目論む者も居るので、決して安全とはいえない。端的に言えば平和だが、人によってスタンスが異なる烏合の衆であった。恐らく一番青春を満喫しているし、一番美味しい立ち位置に居ると思われる。
「ブロ先輩、イクサを助けるって言ってたぜ」
「なあ、生徒会ってやってる事無茶苦茶じゃね? あの映像だけが証拠ならいくらでも捏造できるじゃん」
「乗っかってる奴らもなあ……何だかねえ」
「私、レモン先輩に助けられたことがあるんだ。どうにかしてあげたいけど……」
「だけど大っぴらに、生徒会に協力しないとか言えねえもんな……」
「課外授業に登録するだけするか? 見つけたら俺達で匿うとか?」
「ダメだ、転校生達からすれば、俺らは全員敵に見えるぜ。それに何処に匿うんだよ……」
「俺達、応援する事しか出来ないのかなあ。俺、ポケモン弱いんだよなあ、ビジネス科だからさあ」
──そして、学園で傍観者に徹する者。真面目だったり、多少気が荒くとも良心的な大半の生徒は、このグループに入る。大っぴらに生徒会に反抗するとは言わないし言えないが、出来る事も何も無いので、学園に残っているトレーナー科以外の生徒がこれに当てはまる。理由は様々で、そもそもトレーナー科ではないからポケモンが弱い者(技術科なのにやたらと強いデジーは例外中の例外)。
このように、少なからずイクサ側を擁護し、案ずる者達も居る。それなりに。しかし、声を上げようにも上げられないのも実情だ。
その中でも──イクサ達の支援に出向こうとする者が居た。
「クソッ、悔しいけど風紀委員長が一枚上手やった……でも、生徒会長は更にもう一枚上手やった! 俺らもイクサをどうにかして助けられへんか……?」
「──友達のピンチ、放っておけへんよ……!! うちらも出来る事あらへんの……?」
「……イクサなら、俺らの事信頼してくれるはずや。助けに行く……ッ!! 仲間に加えさせてもらうんや!」
「でも、目立ったら逆効果やない?」
「……くう、八方ふさがりや……!」
──友のピンチに立ち上がる者。
「……シャインをハメた生徒会に協力するくれぇなら、あいつらを助けるぜ。ダッハハハハハ!!」
「ブロ先輩が言うなら、あたしも覚悟決めるかー」
「おっ、カンザキィ。おめーも来るのかァ?」
「風紀委員長はあたしが倒すって決めてるの。ちゃんとした場でね!」
「イクサ君……大丈夫かな。フツーに、シンプルに心配だよ……」
──好敵手の再起を願う者。
「……どいつもこいつも馬鹿げてる。イテツムクロが居なくなったのも、
──静かに怒りを燃やす者。
各々が、自らに出来る事を模索しながら準備を進めていた──
※※※
──モイスシティとオシアス大渓谷までは公共交通機関が存在しない。
そのため、運転手付きの車をチャーターする必要がある。
3人で車に揺られて約2時間。着いたのは、ドーム状の化石博物館だった。
早速キャプテンに会いたいという旨を受付の人に話すが──
「キャプテンは、気さくな人だからきっと取り合ってくれるだろうけど、今日は朝から大渓谷の方に向かいましたよ。良ければ観光ついでに見て行ったらどうかしら」
「良いんですか?」
「大渓谷は誰でも入れる場所ですよ。広いけど順路もあるしね」
結局、係員の指示に従い、イクサ達は外へ。
広大な砂漠が広がる大渓谷にて、キャプテンの捜索が始まったのである。
既に発掘作業の途中なのか、遠巻きには重機やテント、ブルーシートの姿が見える。
また、あちこちには採掘された大きな化石が、そのまま岩や地層から露出したまま展示されており、解説までご丁寧に書かれている。
『ホエルコの 祖先の 化石』
「こういうのって復元できたりしないのかなぁー」
「復元できる化石とそうじゃない化石、違いは果たして何なのかしらね」
「……観光しに来たんじゃないんですよ。さっさと先に行きましょう」
「むっ。転校生、さっきからカンジ悪いよっ!」
「……時間食ってる場合じゃないんだ。今だって、追手が来てるかもしれないのに」
「そうだけどぉ……」
空気はぎくしゃくとしたままだった。イクサは思い詰めたような顔をしたまま、どんどん先へ行ってしまう。それを追いかけるレモンたち。
しばらくすると、開けた場所に出る。渓谷の中腹に来たらしく、周囲は切り立った崖で挟まれていた。
どうやら、此処は大昔海溝だったらしく、まだ海棲ポケモンだった頃のドロンチの化石が出土することがあるらしい。
圧倒的に雄大な景色を前に息を呑みながらも、イクサは進んでいく。だが、景色に感動する余裕などイクサには無かった。
レモンも、デジーもだんだん声をかけづらくなってきたのか、皆黙りこくってしまう。
そんな中──勝手に中からパーモットが飛び出して来た。
「ッ……どうしたのさ」
「ぱもーぱもぱもっ」
「外の景色が見たくなったのかもね」
「ずっと学園の中だったから……見る物全部新鮮なのかもしれないわ」
「ぱもぉ」
「……」
イクサは押し黙る。
パーモットは「元気を出して」と暗に言っているようだった。
更に、マリル、キルリア、カルボウ、タギングル、とイクサの手持ちが皆出てくる。
「……勝手に出てきたらボールの意味が無いじゃないか。昨晩もそうだけどさ」
とことこ、とちびっ子達が走りながら渓谷を眺める。
ポケモン達にも何か感じられる物があるのかもしれない。
デジーも釣られるようにミミロップを繰り出した。
その光景を見てレモンは嘆息する。
「……こんなにポケモン出して、目立たないかしら」
「付けられてる感じは今の所無いからね。こんな時くらい羽根を伸ばそうよ。ポケモン達も、ボールの中だとずっと窮屈だからね」
「そうだけど」
スマホロトムを弄るデジー。どうやら、周囲を偵察させている2機の彼女特製小型ドローンロトムは、追手を感知していないようだった。
とてとて、とキルリアに付いていくカルボウ。しかし、石ころに蹴躓いたのか、ぱたりと倒れて泣き出してしまう。
それを呆れた顔で抱き起こすマリルとキルリア。どうやら、まだまだ泣き虫のようだった。
一方、タギングルはまたミミロップの尻を触って岩壁に蹴っ飛ばされていた。あいつはもう知らん。
(あーもう、案の定フリーダム……!! これじゃあ、僕1人でウジウジ悩んでるのがバカみたいじゃないかぁ……)
此処で怒れないから甘いんだろうな、とイクサは常々思う。
だが、彼らがこうして自由に動き回れるのは──果たしていつぶりだろうか。
この瞬間を逃したら、次はいつになるだろうか。そう思うと、口を挟むこともボールへ引っ込めることも出来ないのだった。
よちよち歩きのカルボウを支えながら一緒に渓谷に埋まった骨を眺めるキルリアとマリル。
懲りずにミミロップに近付き、そっぽを向かれているタギングル。
そして──隣に居てくれるパーモットを見て──イクサは嘆息した。
「ぱもぉ」
「……僕って本当に甘いんだな……」
「えー、何で?」
「何でもだよ」
「もう、そういうのがカンジ悪いんだよっ!」
「ポケモンとの思い出は大事にした方が良いわよ。永遠に離れ離れになった後だと──遅いわ」
至って穏やかにレモンは言った。誰よりもその言葉が重い。
「……それは、そうかもですけど」
「少し安心したわ。ポケモン達を労わる余裕はまだ残ってるのね。今朝の貴方の様子を見たら、さっさとポケモンを引っ込めてしまうんじゃないかって思ったのよ」
「……分かんないんですよ」
ぽつり、とイクサは漏らした。
「生徒会の人たちみたいに、甘えも全部捨てて非情になりきって、欲望のままに生きれば良いのか。今まで通りで良いのか」
「貴方が解放するのを躊躇するくらいの本性を……トトさんに見せつけられたのね?」
「……はい」
イクサは頷く。
彼が今まで理性と善性で雁字搦めにしてきたものを、ギガオーライズを使う時、解き放たなければならない。
だが、彼の中に眠る本性は、彼自身も躊躇する程どす黒い欲望の塊。
「僕の中には……龍が居るらしいんです。空虚な欲望が、龍の形になってる。それを見せられた時、僕は抵抗も何も出来ないまま、飲み込まれた」
「それって、トトさんが言ってた本性ってヤツだよね?」
「……あれは僕に御せるものじゃない」
「成程ね。理性と本能にギャップがある人間程、ギガオーライズを使う枷になる、か」
だったらギガオーライズなど使わなくて良い。
最初はそう思っていた。
しかし──現実は甘くなかった。
結果は、散々たる敗北。
そして、イワツノヅチを奪われ、デジーも傷つけられる、最悪の結果に終わった。
今までの自分では、生徒会には勝てない。
だが、それでも最後の一線は超えられない。
「最初はもう全部本能に任せてしまえば、それで良いって思ってた。だけど、こうして皆と一緒に居たら……ポケモン達の姿を見たら、決意が鈍っちゃって。皆……
それでも脳裏に移るのは、圧倒的な力を振るうギガオーライズと、それに蹂躙されていくポケモン達だ。
今のままの自分では勝てない、と突きつけられた。
ポケモンだけではなく自分も変わらなければならないと言われたようだった。
「……今のままの僕じゃ、きっと……ギガオーライズは使いこなせないのにさ」
「……それでずっと悩んでたの?」
「うん」
「やれやれ、まだギガオーライズを手にしてすらいないのに、随分と気が早いことね」
無自覚に「勝つのは当然だ」と考えられるところが、良くも悪くもイクサらしい、とレモンは考える。ある種の傲慢さが為せるマインドか。
「ギガオーライズが無いなら、どの道勝ち目がないじゃないですか」
「その上でボク達の心配をしてるわけ?」
「……今のままじゃ勝てない。変わらなきゃいけないって分かってるのに。君達に嫌われるのも、傷つけるのも、怖いと思ってしまってる」
イクサの目に黒い炎が一瞬灯る。
欲しい。欲しい。全て、手に入れてしまいたい。
今この場に居る少女たちも、ギガオーライズも、オーデータも手に入れてしまいたい。
そんな黒い欲望が湧き上がる度に胸が締め付けられるようだった。
黒い龍を見てしまった後ではもう、イクサは自分自身の倫理観も善性も信じられなくなっていた。
「何かと思えば……そんな事で悩んでたの?」
だが、そんな中──気丈に言ってのけたのはデジーだった。
「転校生ってほんっと、お人好し!! まだ手に入れてない力でボク達を傷つけるんじゃないかって思ってる!! だけど!! ……そんなの、余計なお世話。余計な心配だよ」
「2人は見てないから分からないだけだ!! 僕は君達を──ッ!?」
ぐいっ、とデジーはイクサの襟をつかんだ。その顔は、久々に見たような鬼気迫るものだった。
幼い少女のそれとは思えない程に怒りの混じった、喉を食い破りそうな剣幕だった。
「
「そ、それは……」
「──君を脅して、叩きのめして、寮生活を奪った……狡賢い”いたずらウサギ”だよねッ!!」
「ッ……」
「遠慮して、強くなるのに歯止めを掛けようとしてるの? ライバルの……ボクの前で? 今更何で、
「ボクは、君も大事で……」
「悪いけど、ボクは簡単に君に傷つけられてなんかやらないから」
ぎりっ、とデジーは唇を噛み締める。拳も震えている。
自分の責だ、と彼女は重々承知していた。メロディーレインでは、彼に散々心配を掛けてしまい、無限書庫ではマイヅルの攻撃を前に一方的に倒れてしまった。
屈辱だ。だが──レモンだけでなく、自分まで「守られる対象」として見られていることに、デジーは我慢がならなかった。
原因は己の力不足だ。彼が1人で背負い込んでしまったのは、自分が弱いからだ、と突きつけられた。
だから悔しかった。
「困った事があったら何でもボクに言ってって……何とかしてあげるって、言ったじゃんか……!」
「……ごめん」
「確かに優しいのは転校生の美徳だよ。だけど……一番嬉しかったのは、ボクを対等に見てくれたこと。女とか、天才とか、そういうレッテルじゃなくて、ボクを対等な1人のライバルとして見てくれたことだよ」
「ッ……デジー」
「ボクに今更遠慮なんてしないでよ……何で、抱え込むのかなぁ……何で、ボクに言ってくれないのかなぁ……ッ」
忘れていた。
彼女は簡単に、誰かの所有物になるようなタマではない、と。
自分自身の力を見くびられるのが、誰よりも嫌いなくらいプライドが高い少女だ、と。
「……無限書庫で言ったはずよ。貴方の本性がどんなにクソ野郎だったとしても、今更私の
レモンがふわり、と笑みを浮かべてみせる。
「イクサ君なりに悪ぶってたつもりなんでしょうけど、やめた方が良いわよ。貴方、自分を誤魔化すのは……得意じゃないでしょう」
「うぐっ……じゃあ、僕はどうすれば……」
「……貴方がどうなっても私は味方よ。それだけは忘れないで。貴方が……同じ事を言ってくれたはずよ」
「……それは」
「追い詰められて、ヤケになるのだけは……やめて頂戴。きっと良い落としどころがあるはずだわ」
(……無理だ。二人は見てないから、感じてないから簡単に言えるんだ)
アレが、ギガオーライズの時に出て来るのかと思うとイクサはゾッとする。いや、恐らくは出てくるはずだ、という無根拠な確信がイクサの中にあった。
「ぱもぉ……?」
パーモットが、不安そうに此方を見ている。
他のポケモン達も皆、イクサの方を見ていた。
「……ごめん、もう少しちゃんと……考えるよ」
「……ボクもごめん。なんかカッとしちゃって……」
「……」
微妙な空気が辺りに漂う。
そんな中、ぴくり、とパーモットの耳が動いた。
「ぱもぉ……?」
崖の上を見あげる。
影だ。何かが動いている。
人ではない似たような獣の影が。
「……どうしたの、パモ様」
「……ぱもぉ」
「きりりぃ?」
相手の感情を察知できるキルリアが身体をこわばらせた。
ミミロップが、無防備なレモンを守るように前に立つ。
「何かいる!! ドローンのカメラ……人じゃない!! 野生ポケモンだ!!」
「ッ……ポケモン!?」
レモンは目を見開いた。
オシアスの野生ポケモンの生息圏は非常に少ない。
このような乾いた砂漠地帯なら猶更だ。しかし、此処は例外的に、湖から近い場所である。
(となれば考えられるのは……
間もなくそれらは、砂嵐と共に──崖から飛び降り、突き出た岩の足場に乗って現れる。
盗賊のように、イクサ達を瞬く間に取り囲んでしまった。
「ギャギギャ……ッ!!」
すぐさまその中の2匹が、鋭利な爪を振り上げて飛び掛かるが──パーモット、そしてミミロップが先んじてそれを打ち返し、互いに睨み合う形になる。
イクサ達を取り囲むのは、灰色の毛皮に黒く染まった四肢、二足歩行のずんぐりとした猫のようなポケモンだった。
その左目には、いずれの個体も傷跡のような黒い模様が刻まれている。
「ザングース……だけど、姿が違う……!!」
【ザングース(オシアスのすがた) ネコイタチポケモン タイプ:地面/悪】
【毒に免疫を持ち、スコルピの甲殻も噛み砕く牙が自慢。生息数は少なく、あまり群れない。】