ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第69話:舞

 ──マイヅルという少女は、生徒会副会長というだけあって、アトムの次に警戒していた相手である。

 ゴーストタイプの使い手であり、昨年の学園最強戦でもレモンに敗れこそしたものの、多いに苦戦させた。

 使うポケモンに突出して生命強度の高い種族(≒種族値が高い、特性が優秀)ポケモンこそいないが、最たるは舞うような妖しげな動きと、相手をかく乱して封じ込める変化技の数々だ。

 そして最も恐ろしいのは、手荒な手段を取るのに一切の躊躇が無い事である。これはあの世紀末学園に所属しているならば、当たり前のスキルで、レモンと同類とも言えるが──マイヅルの恐ろしい所は、ゴーストポケモンの技で相手の精神に平気な顔で干渉する点だ。

 相手の手を取り、絶対支配の舞踏会へと誘う。その様から人は彼女を──

 

†エスプリット・ダンサー†……だとか†魂葬の舞姫†だとか……そんな異名で呼ばれているわ」

「確かにそれは事実だけど、もしかして少しバカにしてるのかしら? 自分の立場が分かっていないようですわね?」

「あら失礼。貴女の上司に難癖付けられてポケモン丸ごと盗られたもんだから、少々トサカに来てるのよ」

「ポケモンが使えないのなら黙っていなさいな!!」

「ぷっふ……エスプリットだって……舞姫だって……うぷぷ……ダンスの練習でギックリ腰になったのにさぁ。同級生達には旅行って言ってたけど実際は入院してただけで……」

「はぁぁぁーっ!? デジー貴女一体何処からその情報仕入れたんですの!?」

 

(早速秒で醜態を曝されてる……)

 

 改めて、このデジーという少女を敵に回さなくて良かった、とイクサは切に感じる。生徒会でこき使われていた時に、いつかバラしてやろう、と弱みを蒐集していたのだろう。

 

「うっさい! こっちはお前達の所為で酷い目に遭ったんだから、これくらい仕返ししても良いよね!? 授業以外全部働き詰めにさせられてたの忘れてないもんね!」

「マイヅル貴女……腰が悪いなら無理しない方が良いわよ」

「おばあちゃんを心配するような目で見ないで下さるッ!?」

「姦しいなあ……僕達敵に見つかってるはずなんだけどなあ……」

 

 イクサは諦観しながら、どうやって乗り切るかを既に考えていた。幸い、他に味方は居ないようである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 尚、その頃、無限書庫の前では──

 

 

 

「お姉様ぁぁぁぁーっ!! 誇らしきお姉様の命令ならば、この卑しきキャンベル、謹んでいつまでもお待ちしますぅぅぅーっ!! わぉおおおーん!!」

「ママー、あのお姉さん何でガーディの真似っ子してるの?」

「しッ!! 見ちゃいけません!!」

 

 

 

 ──駄犬が電柱に首輪で繋がれ、お座りの姿勢で待機していた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「それにしてもどうやって入ったのですか? バックヤードの裏書庫に部外者は入って来られないはずですが……」

 

 怪訝な顔でトトが問う。

 しかし、彼女はそれを言葉ではなく自らが連れているポケモンで返答した。

 辺りを凍てつかせる冷気を放つ冥府の番人。

 かつてはマスカット家の家宝だった水晶髑髏のヨノワール。オーデータポケモン・イテツムクロだ。

 その髑髏のような下半身からは常に瘴気が溢れ出ており、更にその両腕には魂魄がお手玉のように浮かび上がっている。

 それを見たレモンは、すぐさま何が起こったのかを判断した。

 

「レモン。シャインから、この子の力についてはよーく聞いているでしょう?」

「──生気を引っこ抜いたのね。イテツムクロの力で」

「ッな!? 生気!? それ、大丈夫なんですか!?」

「大丈夫じゃないに決まってるでしょ。ふっつーに気絶するわよ」

 

 周囲に居る者の魂に干渉し、生気を奪うことで動けなくさせる力。下手をすれば、そのまま命を奪う事すら出来る冥王の権能。

 マスカット家は、イテツムクロの能力を危険視し、代々制御してきたのである。しかし、シャインの手から離れた今、それを抑えるものは誰も居ない。

 

「心配しなくても、奪った生気はちゃあんと後で返しますわよ。それに、命に関わることはしませんもの」

「生気の奪取って……ウタノウズメの失望の歌……みたいに時間が経てば元に戻るんですか?」

「もっとタチが悪いわ。イテツムクロが相手の魂や生気を奪ったが最後、あいつが自分の意思でそれを手放すまでは元に戻らないわ」

「今や、この子は私の可愛い手駒。私の支配下に置かれたも同然だもの。フッフフフフ」

 

 不気味に赤い光を揺らめかせるイテツムクロ。

 かつては、青い光を放っていた瞳は、今は狂気的に炎のような光を放ち続けている。

 

「……そんな恐ろしい能力をよりによって、関係のない人たちに向けたのか」

「うん?」

 

 

 

 

【イワツノヅチの アイアンヘッド!!】

 

 

 

 イテツムクロの顔面に、鉄球蛇の顔面が叩きつけられ、吹き飛ばされる。

 残像が残るレベルの速度だった。

 

(──速ッ!?)

 

 怯んだマイヅルは振り向く。効果抜群の一撃。イテツムクロは、全身から冷気を噴き出しながら砕けた部分を再生させていく。

 既に目の前には、ばらばらの身体を組み上げるイワツノヅチの姿があった。

 

「ごろろろろろろろ……ピピピピピ……!!」

「ギュオオオオン……ピピピピピ……!!」

 

 睨み合う両者。

 既にバトルは始まっている。

 

「怒っていますわね? 怒髪冠を衝くといったところかしら? オーデータポケモンはトレーナーの感情に左右されて強くなりますもの」

「……ポケモンはパートナーだ。だけど、()()()()()()()()だ。そんな事、貴女程の人なら分かってるよね」

 

 声に怒気を孕ませながら、イクサはマイヅルに向かって食ってかかる。

 背筋から二の腕にかけて野生ポケモンに蹂躙された思い出が侵食していく。

 人知の力を超えたポケモンを誰かを傷つける為に簡単に振るえる彼女に、嫌悪感が燃える。

 

「狙うなら……僕らだけを狙いなよ。僕が、レモンさんの騎士(ナイト)だ」

「どうしてこの私が、貴方達から身の振り方を指図されなければなりませんの?」

 

 理解が出来ないと言わんばかりにマイヅルは言った。

 

「強い者は全てを手に入れ、弱い物は全てを失う。それがこの世の摂理ですわ。持たざる者は、持たざる者同士で、せいぜい傷の舐め合いをしていれば良い!!」

「だからと言って、好き勝手にして良いわけないだろ!?」

「……私がアトムに付き従う理由が何故かお分かりかしら?」

 

 マイヅルの顔は──険しくなっていく。

 

「強者は全てが手に入る。その思想に……共感しているからですわ。強ければ……何でも手に入る。富・名声・ポケモンも……何でも……ッ!! しかし、弱者は全てを失いますわッ!!」

「……ッ」

 

 その勢いにイクサは気圧されそうになる。その言葉には、何処か凄みがあった。彼女自身が、そんな思想に共感せねばならなかったほどに歪んだ何かを感じ取らせる。

 

「欲しい物があるなら遠慮してはいけない。良い子ぶっている貴方に……私は負けませんわ。勿論……デジー!! 貴女にも!!」

「ッ……べーだ!! 散々利用するだけして、そっちがボクを捨てたくせに!!」

「貴女が弱かったから、に決まっているでしょう?」

「……間違ってる。やっぱり間違ってるよ」

 

 イクサは呟く。彼女の言う考えにはどうしても共感できない。

 

 

 

「……欲しい物があるなら何をしても良いだなんて認めない……! お前達と同じになるなら、僕は一生、ギガオーライズなんて使えなくて良い!!」

 

 

 

 イワツノヅチが咆哮し、再びイテツムクロに飛び掛かる。

 一瞬で姿を消して避けるイテツムクロだったが、今度は体をバラバラにしたイワツノヅチがビット機のように迫っていく。

 それを撃ち落とすべく影の弾幕を放つイテツムクロだが、悉く避けられてしまう。

 

「ッ……追いつかれる……!! しかもシャドーボールが当たらない!?」

「”がんせきふうじ”!!」

 

 イテツムクロの周囲を岩が容赦なく取り囲み、封じ込めた。

 脱出した冥界の番人だったが、既に氷の身体には岩が纏わりついており、本来の素早さを失ってしまっている。

 トトは目の色を変えた。戦いはヒートアップしている。このままでは書庫にある本が危ない。

 

「……本当は書庫で戦うなんて御法度なんですがね……これっきりにしてくださいよ──バリヤード、防壁展開です!! 書庫を守りなさい!!」

 

 現れたのは大きな指と手を持つパントマイマーのようなポケモンだ。それが、本棚の周囲に透明な障壁を張っていく。

 

「バリヤードの壁はそうそう壊れはしない上に衝撃を吸収します。皆さん、どうせやるなら思う存分、暴れなさいっ!」

 

 トトは怒っていた。

 裏書庫に侵入されたこと、そしてスタッフたちに手を出されたことだ。

 

(……戦ってるのはイクサさん達も同じですけど……生気を引っこ抜かれたうちのスタッフの為に怒ってくれたのに免じて許しましょう)

 

 マイヅルの口ぶりからして来館者にも被害が出ている可能性が高い。どちらに彼女が付くかは明白だった。

 だが、エテボースでは氷・ゴーストタイプのイテツムクロは相性が悪すぎる。

 今彼女に出来るのは、学生たちが思いっきり喧嘩できる空間を即興で作り出すことだった。

 彼女自身、真っ向勝負はあまり得意ではない。しかし、彼らを支援し、本棚を守ることならばできる。

 エテボースの念動力によってバリヤードの壁は更に強く補強されていく。

 

「ッ……しかし、イワークならば特殊防御力が著しく低いはず!! イテツムクロ、シャドーボールですわ!!」

「んじゃあ、一生そこで不幸とダンスってなよ、副会長さん?」

 

 ずぅん、とイテツムクロの身体が鉛のように重くなる。

 その身体には──”こうこうのしっぽ”が括りつけられていた。

 ミミロップの”すりかえ”だ。

 

(──二体掛かりでイテツムクロを封じ込めた……!)

 

「ッ……相も変わらず小賢しい……!! 貴女の事は前から気に食わなかったけど、敵に回ってくれたおかげで漸く容赦なく叩きのめせますわ!!」

「ぴょーんぴょんっ、忘れないでくれる? ボクも一応、元・生徒会のメンバーなんだよ、ギックリ腰のマイヅル先輩♡」

 

 デジーが得意げに言った。彼女は後ろ手にモンスターボールを構えていた。今の間にミミロップを”すりかえ”の射程圏内まで近付けさせていたのである。

 だが、あまりにも簡単に不覚を取られたイテツムクロにレモンは違和感を覚える。

 シャインと戦った時のイテツムクロは、もっと恐ろしく、速く、そして堅牢だった。

 特性:オーライジングで、本来上昇しているはずの防御と特防の分が消えているのもあるが──それにしても能力が控えめな気がする。

 

(やっぱりおかしい。幾ら何でもイテツムクロが弱すぎる気がする……目の色も変だし、素早さも遅すぎる。何かされたわね?)

 

(参りましたわね。来観者とスタッフの生気を人質に……ってのも、私のポリシーに反しますし? かと言って、もうイテツムクロは使い物にならない。言う事を聞くのは良いですが……)

 

「調整不足ですわ。技術班に文句を言ってやらなきゃ……」

 

 仕方ありません、と呟き──彼女はイテツムクロをボールの中に引っ込めた。

 そして次に繰り出すのは、紫色の羽毛に覆われたカナリアのようなポケモンだった。

 優美な雰囲気に加え、扇子のように開かれた翼。舞妓のようにひらひらと舞い踊る鳥のポケモンが立っていた。

 

【オドリドリ(まいまいスタイル) ポケモン タイプ:ゴースト/飛行】

 

「やはり、この子の方が私の性に合いますわ。Shall we dance(よろしくってよ)?」

「オドリドリ……!?」

 

 イクサの中では、種族値はあまりパッとしない印象のポケモンだ。特攻と素早さは高いが、100を超えておらず、それ以外の数値も平均的。

 最大の特徴は、吸うミツによってフォルムが変わり、それに応じて自身のタイプと専用技”めざめるダンス”のタイプも変化する点である。

 また、特性:おどりこは、相手がダンス系の技を使った時にそれを繰り返して使うというもの。

 だが総じて癖が強いポケモンという印象だ。ステータスが高くないのが足を引っ張っている。

 

「……ピチチチチ」

「気を付けなさい、イクサ君。ポケモントレーナーってのは……長年一緒に連れ添ったポケモンで戦ってる時が一番脅威よ」

「分かってますけど……!?」

「オドリドリはマイヅルのエース。最近戦ってなかったけど、相当の強者よ」

「そりゃあもう、電気使いの貴女にこの子を出すのは自殺行為ですもの」

 

 何を仕掛けて来るのか分からない。イクサとデジーが気を引き締めて攻撃を仕掛けようとする中、マイヅルは更にもう1個ボールを放り投げる。

 中からは要石に繋ぎ止められた霊瘴のポケモンが現れた。

 

「ぬしポケモンはこの子に任せますわ。ミカルゲ!!」

「ッ……ああ、こっちにも攻撃してくるんですね……!!」

「余計な手出しはしないでもらいたいですわね」

 

 マイヅルは冷たい目でトトを睨む。

 隙あらば”やどりぎのタネ”を仕掛けるつもりだったのがバレバレだった。

 しかし──

 

「侮らないで貰いたい。片手間で抑え込まれるような育て方はしていませんので! きずなリンク──ッ!!」

 

 エテボースの姿が一気に変わる。

 そして、さっきと同様、周囲に種という種を撒き散らし、ミカルゲを、そしてオドリドリを宿り木で拘束していく──

 

「オオワザ”アサシングリードヴァイン”!!」

 

 ──オドリドリ、そしてミカルゲの身体が巨大な宿り木によって絡みつかれた。

 元が要石のミカルゲは動きが封じられてしまい、オドリドリも完全に宿り木の中。動けそうにない。

 狙いはレモンが”危険”というミカルゲだ。弱点を突く為に、ミミロップをレパルダスにオーライズさせたデジーも、攻撃に加わる。

 

「今だ!! イワツノヅチ、”ストーンエッジ”!!」

「仕掛けるよ!! ──Oワザ、”あくのはどう”!!」

 

 岩の刃が、そして悪意に満ちた波動が拘束されたオドリドリを狙う──

 

 

 

「まだまだ、ダンスは始まったばかりですわよ。()()()()()()()

 

 

 

 ──はずだった。

 岩の刃も、波動も、全て蔓を傷つけただけに終わる。

 そこにオドリドリの姿は無かった。

 気が付けば、イクサ達の背後に──舞鳥は立っていた。

 

(一瞬で抜け出したのか!?)

 

(いつの間に!? あの蔓を──!?)

 

「霊とは実体を持たぬ者。それが起こす超常現象に驚いているようでは、私の舞に付いて来られるわけがありませんわよね!」

 

 花魁の如き艶やかな飾り羽を身に着け、華々しく舞うオドリドリ。

 ギガオーライズを遂げたそれは、一度舞うだけで強烈な風圧を起こし、イクサ達を吹き飛ばす。

 当然、主人たちを守るべく、イワツノヅチ、ミミロップ、そしてエテボースが飛び掛かるが──

 

「……オオワザ、”さんぜんせかいのまい”ですわ!」

 

 

 

【オドリドリの さんぜんせかいのまい!!】

 

 

 

 ──周囲を妖しい風が包み込む。

 そして、次々に黒い影の手がエテボースを、そしてイワツノヅチを掴む。

 動けなくなった彼らに向かい──無数の黒い羽根が雨のように降り注いだ。

 エスパータイプが弱点のエテボースは一瞬で体力を削り取られ、特防が低いイワツノヅチも必殺の一撃を受けて倒れてしまう。

 美しく、そして艶やかな見た目に反し、その威力は想像を絶する勢いだ。

 イクサ達も、すっかり生気を奪われてしまい、膝を突いてしまう。

 

「何だ、この舞……!? 一瞬でイワツノヅチがやられた……!!」

「霊瘴だわ……!! ゴーストポケモンの放つ、良くない()よ!!」

「じゃあ、あの風全部がダメージ判定って事ォ!? ミミロップ、気張ってぇ!」

 

 後に残るのは、ゴースト技が効かないミミロップだけだが──更にオドリドリは、強烈な竜巻を踊って巻き起こす。

 その舞は、先程よりもより苛烈なものへと化しており。

 

「”ぼうふう”!!」

 

 吹き飛ばされたミミロップは天井に叩きつけられ、落ちて来る。

 

 

 

「オホホ、マイヅルとオドリドリの舞踏会。楽しんでいただけたかしら?」

 

 

 

 オオワザ、そしてそこから繋がる”ぼうふう”の連携。

 3匹のポケモンは一瞬で意識を刈り取られたのだった。

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