腐敗した指揮官が兵士を凶暴化させている
こうしてロシア国民を恐怖に陥れる一部の元兵士たちだが、戦場では彼ら自身ですら搾取の対象となっている。
米シンクタンクの欧州政策分析センター(CEPA)によると、一部の部隊では指揮官が、兵士の休暇申請や危険任務の回避に価格を設定しているという。
生き延びるための選択肢には、すべて値札が付く。シベリア出身のある兵士は、休暇を申請したところ、100万ルーブル(約190万円)を恐喝されたと語った。支払いを拒否すれば暴行を受けるか、武器なしで前線へ送られるなどの報復が待ち受ける。
逃げ出すことも許されない。独立系メディアのユーロマイダン・プレスによると、脱走兵への処罰は凄惨を極める。
穴に投げ込まれて食事を絶たれ、生き延びるために互いに殺し合うよう迫られる。車両に縛られて地面を引きずられた者、見せしめとして生き埋めにされた者もいるという。まかり間違ってウクライナに投降を試みれば、味方のドローンに発見され、ロシア軍自身の砲撃で命を落とす。
このように軍規は腐敗しきっており、瞬く間に兵士の精神を蝕む。
元エンジニアのダニル・アヒポフ氏(24)は、手榴弾の信管で自らの手を吹き飛ばしてフランスへ逃れた。「全員が悪い指揮官だった。人として扱われることはなかった。何人死んでも気にしなかった」とワシントン・ポスト紙に語る。
彼の突撃部隊では、15人中わずか3人しか生還しないのが常だったという。帰還した元兵士について彼はこう述べる。「彼らはPTSDを抱えている。非常に攻撃的になり、限界を超えて行動するようになる」。
軍内部で受けた虐待により、穏やかだった兵士の振る舞いは次第に歪んでゆく。こうした兵士たちが、ロシアの国内へと帰還してゆく。
帰国すると銀行口座は空っぽだった
兵士は戦場のみならず、帰国してなお食い物にされる。
英BBCによるとモスクワの空港では、複数の警官がタクシー運転手に帰還兵の情報を流しているという。運転手は適正な料金を提示して兵士を乗せ、目的地に着くと最大15倍の金額を要求する。
抵抗すれば脅迫し、薬物で眠らせて銀行カードから金を抜き取るケースもあった。被害総額は少なくとも150万ルーブル(約290万円)に上る。戦場で命懸けで稼いだカネが、帰国後に一瞬で奪われてゆく。
採用プロセスにも問題がある。
CEPAによると、「建設大隊勤務」「後方での警備」などと偽り、地方出身者を前線に直送する悪質なリクルーターが横行している。モスクワ行政の名を騙り広告を出稿するなどの手口で、旅費を出すと持ちかけて若者を誘い出す。
徴兵事務所に連れ込まれた時点で、被害者に逃げ場はない。中央ロシアの村から誘拐同然に連れ出されたという男性は、帰国後に銀行口座が空になっていることに気づいた、とCEPAに証言している。誘拐犯が口座にアクセスし、軍から支給された手当をすべて引き出していたのだ。