高額報酬の甘い罠

なぜ帰還兵の犯罪がこれほど深刻化しているのか。背景には、プーチン政権が自ら生み出した構造的問題がある。

独立系メディア・メドゥーザによると、暴力犯による受刑者17万人以上がウクライナの戦場へ送られている。うち1130人以上が帰還後に再び罪を犯した。戦場で「更生」するどころか、凶暴性を増して社会に舞い戻っている。

ロシアは2024年、戦時中に軍へ入隊すれば刑事責任を免除するとの条項を刑法に追加した。2025年半ばまでに350人の受刑者がこの制度を利用して戦場へ向かった。うち118人は窃盗や詐欺、強盗で訴追中だった人物だ。41人は殺人や性的暴行などを犯した重大事犯者だった。

ワシントン・ポスト紙によると、2024年のロシア国内の暴力犯罪は61万7301件に達し、2014年以降で最多を記録した。2017年比で実に41%の増加だ。

本来刑務所で更生を期待されたり、あるいは一生をかけて刑務所で罪を償うべきだった者たちが、戦場へ向かうと宣言するだけで無条件に刑務所から解き放たれる。退役後、戻る先はロシアの一般社会だ。更生の終わっていない者たちが、ロシアの街角を堂々と闊歩する。

2022年の侵攻初期におけるウクライナ駐留ロシア軍
2022年の侵攻初期におけるウクライナ駐留ロシア軍(写真=Mil.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

111箇所を刺した殺人犯が1年足らずで恩赦に

もう一つの問題は、高額ボーナスがもたらす「生活水準の罠」だ。

米シンクタンクのジェームズタウン財団は、ロシア政府は兵士に莫大な契約金を支払っていると言及。その上で、退役後に同等の収入を得られる職はほぼ存在しないと指摘する。一度上がった生活水準を維持しようと、犯罪に手を染める構図が生まれている。市民の不安をかき立てており、退役軍人たちは敬意を払われるどころか、市民たちの間には敵意すら芽生えているという。

シベリアのアチンスクでは今年2月、ある事件が発生した。元夫が元妻の新しいパートナーを殺害し、雪の公園を逃げる元妻を追いかけて首を刺したのだ。ワシントン・ポスト紙によると、生々しい凶行の様子が一部始終、防犯カメラに記録されていたという。

男は逮捕・起訴されたものの、刑務所から戦争への参加を申請。地元住民はまた街に戻ってくる恐怖から、請願活動を始めた。遠くない将来、男が「やり残したことを終わらせに」戻ってくる恐怖を、署名サイトは訴えている。

さらに凄惨な事例がある。2020年1月、ケメロヴォで23歳の女子学生が元恋人に殺害された。荷物を取りに来た彼女を、男は何時間にもわたって暴行・拷問した末、電気コードで絞殺。遺体には111箇所もの傷が残されていた。

男には17年の刑が言い渡された。だが、戦争への参加意志を表明したことで、わずか1年足らずで刑務所を出た。2023年にはプーチン大統領から恩赦を受け、退役している。

被害者の母親はワシントン・ポスト紙に「彼は残忍な殺人犯です」と語り、こう続けた。

「親族を殺した犯罪者と同じ地域に住む恐怖は、悪夢そのものです」

殺人犯が野に放たれるとはまるで悪夢のようだが、ロシア社会が目を逸らしたい現実そのものである。