ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第66話:あれも欲しい、これも欲しい

「貴方達が恋をしていることなど、私にかかれば簡単に見透かせてしまえるのです。その体験を私に聞かせてほしい、ただそれだけです」

 

 

 

 ──他人の人生は、極上のノンフィクション。

 予知夢によって他者の人生を見る事ができるトトにとっては、読書以外で己の興味関心を満たすことができる数少ない趣味である。 

 だが、彼女とて節操なく他者の人生を覗きたいというわけではない。

 彼女がノンフィクションに求める興味関心は──ただ一つ。

 

「私は時折外に出て、一通りの経験はしてきたつもりですが……普段引き籠っているが故に恋愛にだけはとんと縁が無く。他者の恋愛経験に、興味がしんしんなのですねっ!!」 

「こ、この人、人の恋愛を何だと思ってるんだ……」

 

 当事者たちからすれば気が気でない。

 

「古来より恋愛とは創作の題材になってきましたが……やはりどうしても類型化されてしまうものなのですね。創作である以上、今に至るまで世に残っている”良書”とは、ある程度パターン化されています。どろどろとした悲恋から現代の若者に人気なラブコメまで。実は基盤は似通っていて、後はそれをどう調理するか?」

「そう言われてみればそうかもしれませんが」

「勿論フィクションの恋愛も私は好きですよ? でも、ノンフィクションの恋愛にはまた別の良さがある……なんせ人間これだけ数が居るんですから、幾らでもバリエーションはあるわけで」

「はぁ……良い趣味してますね本当に」

「だから私は、他者の恋バナを啜るのが好きなのです。そこには、創作とはまた違う──リアリティならぬリアルがありますよね?」

「……何というか、怒りたいけど怒りづらいわね、貴女」

 

 正直此処でげんこつしてやっても良いのだが、罪状が分からないのと、相手がキャプテンなので手が出せないレモンであった。

 

「友達の彼女を好きになってしまった話、結局思いを伝えられなくてずるずるとそのまま立ち消えてしまった話、付き合ったけど全く価値観が合わず別れてしまった話はあまりにもバリエーションが多いですよね……物語的には映えなくとも、確かにそこには他者が恋愛に懸けた情動というものが感じられて……良いですよね?」

 

 恍惚とした笑みで語るトト。それを見て、イクサは──半ばドン引きであった。

 

(……もしかしなくても、ちょっとこの人()()かもしれない……無邪気に邪悪というか、何というか……)

 

 人の人生もまた、彼女にとっては娯楽の1つでしかないのかもしれない。

 悪気というものが感じられないのが却ってタチが悪い。

 己の興味関心、欲望に忠実な人間なのだろう。それ以外がまともそうなだけに──と思っていたが、一気に自信が無くなってくる。

 そもそも、大図書館の一室に籠っている館長が変人でない訳がなかったのかもしれない。

 ちなみに今学校の講義は全部オンラインです、とは彼女の弁。興味のある事以外で外には極力出たくはないらしい。

 実家が太いからなのだろうが、この少女も大概に好き勝手やっているようだった。

 加えて、図書の管理という仕事が彼女と明らかに噛み合っているので、全く苦にならないという。

 恐らくオシアスで最も人生をエンジョイしている類の人間かもしれない、とイクサは強く思ったのだった。

 

「プライベートな部分が気になってしまうのは人間のサガ、欲望というものでしょう。芸能人のスキャンダル記事、報道を見れば一目瞭然ですね」

「……そうかもしれないけどさぁ、どうなのかなあ……それって。キャプテンなのに己の欲望に忠実というかなんというか……」

 

 そこまで言ってデジーは──自分にも全部跳ね返ってきていることに気付いた。発明の為に他者を犠牲にしてきた自分よりも、よっぽどまともな感性をしている。

 おまけに自分も、盗聴で他者のプライベートを握った前科があるだけに、全くと言っていい程他人の事を言えない。

 

「ごめんなさい……ボクが言えることじゃなかったから、根掘り葉掘り聞いていーよ」

「デジーの目が死んだ!?」

「あの……さっさと本題に入る事は出来ないのかしら? 私達、今割と切実に──」

「この図書館の叡智を借りたいというのでしょう? 表の書庫だけではなく、()()()()も含めて」

 

 それらは、表の書庫に並べられていない古文書や、貴重な書籍。そこに、ギガオーライズのヒントがあるのではないか、とレモンは考えている。しかし、一般客には公開していないそれらを読みたいならばそれなりの対価を示せ、とトトは言いたいのだろう。

 その対価が金銭や珍しいポケモンだとかの方がまだマシであった。

 

「表の書庫はデータ管理されてますが、裏の書庫の本の位置を把握しているのは小さい頃から無限書庫で本を読み漁っていた私のみ。貴方達が目当ての本を()()の協力なしで探すなら、1年はかかるでしょう。だって、書物の数が多すぎて、まともに整理されていませんから」

「……達?」

「ええ。無限書庫の本を簡単に見つけることができる者が私以外にもう1人……いえ、もう1匹居るのです。でも、彼は私の言う事以外は聞きませんよ」

「それが例のぬしポケモンってわけですか」

 

 キャプテンの例に漏れず、この図書館にもぬしポケモンがいるらしい。長い間、世代交代を続けて図書館を守護してきたポケモンなのだという。

 

「私達の協力を得たいならば、この試練に打ち克つことです。幾ら私でもタダ働きはゴメンですからね」

 

 結局の所、自力で本を見つけるのは現実的ではないようだった。此処で彼女を満足させなければ、協力を得ることはできない。

 

「……良いでしょう、謹んで受けるわ。その挑戦」

「おっと御心配なく。私が目を付けているのは……1人だけですよ?」

 

 トトは、指をイクサに向ける。

 

「……試験を受けるのは貴方だけです、イクサさん」

「えっ、僕……!? 何で!?」

「単純に私が興味を持ったから……でしょうか」

 

 にこにこと微笑むトト。

 参ったな、恋バナなんてしたことないよ、と頭を掻くイクサ。

 

「何でイクサ君が……!?」

「ボクらじゃダメなの?」

「単純に私の好奇心を満たすのに一番丁度良さそうだったから、でしょうか?」

 

 釈然としない様子でレモンはイクサの方を見る。

 

(イクサ君……一体、何を話すのかしら?)

 

(転校生……どーせレモンさんの事を話すんだろうなあ)

 

(話す事なんて何にも考えてないんだけどなぁ!?)

 

 

 

【無限書庫の試練に打ち克ち、ぬしポケモンの協力を得よ!】

 

 

 

(試練じゃなくて拷問だよコレは!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──書斎の中に呼ばれて、恋バナをぶちまける。

 それだけの簡単な試練だと彼女は言った。

 トトが気に入れば試練は無事成功となるらしいが──

 

(何か増えてる)

 

 部屋に一人だけ残されたイクサは、いつの間にか審査員が増えていることに気付いた。

 小さな猿のようなポケモン達が、天井から降りてきている。

 

「ウッキキキ」

「オコココ」

 

【エイパム(オシアスの姿) おながポケモン タイプ:エスパー/悪】

 

 尻尾がマジックハンドのような手の形になっているポケモンだ。

 しかし、いずれもイクサの知るものとは体色が違う。銀色の体毛に真っ黒な顔面の体毛が目立つ。

「──審査員はこの私、そしてエイパム達です」

「はぁ……」

 

 まさかポケモン達まで同伴とは恐れ入った。正直話しづらい上に、彼女が満足いくかどうかは分からない。

 

「……えーと、トトさんって僕の事何処まで知ってるんですか?」

「貴方が別世界からやってきた異物……というところは知っていますよ? だから興味深いと思ったんですね」

「……全部筒抜けじゃないか……とんでもないな予知夢」

「貴方がこの世界に来た経緯は夢で追体験させてもらいましたから」

 

 トトの言葉に、デジーの時とはまた違った恐怖を覚える。彼女の場合、覗こうと思わなくとも、こうして他者の体験を経験できてしまうのだろうが。

 

「とはいえ、狙った経験を覗き見る事は出来ません。だからこうして直接話を聞いているのですけども」

「はぁ……」

「それでは早速ですけども……貴方の恋のお話を聞かせてくださいな♪」

「……」

 

 何処から話したものか、とイクサは考える。

 

「好きな人が居るんです」

 

 そう、前置きした。

 

「初めて会った時から、とてもきれいな人で……蓋を開けてみたら、思ってたよりも大胆で不敵で……でも、心には凄く重い傷を隠していて。助けてあげたい。支えてあげたいって思っちゃいました」

 

 好意を完全に自覚したのは──オーデータ・ロワイヤルの後、いつも揶揄ってくる彼女に何処まで本気なのかと問いかけ、唇を無理矢理奪った時だ。

 あれ以来、彼女の顔が脳裏から離れられない。彼女からの過激なアプローチはあれ以来受けていないが、気まずい空気が何となく横たわっているのである。

 

「正直、相手も僕に気があるんじゃないかとは思うんですけど……今の僕じゃあ、あの人には釣り合わない」

「あら、何ででしょう?」

「彼女はとても強いんです。強くて、高貴な身分だから……僕もそれに釣りあうくらいの強さを手に入れなきゃいけない。バトルだけじゃない。彼女を護れるくらいの強さを手にしなきゃいけない」

「……ふぅむ。身分違いの恋ですか……それでお悩みなんですね」

「あ、それは問題ないんです。……僕は必ず、それくらい強くなってみせるって決めてるんで」

 

(おや、意外と自信家なんですねぇ)

 

 きっとその時、初めて自分はレモンと釣りあうのだ、とイクサは考えていた。

 それくらい強くなって彼女を倒す。それが、最大の恩返しである、と。

 故に彼は強くなることに妥協はない。

 

「あの、トトさん。出来れば、このオシアスでポケモンを鍛えられるようなところがあれば教えていただけないでしょうか!?」

「あーもう、今はそういうのナシ! 貴方ひょっとして相当なバトル馬鹿ですね!? 恋バナを!! してください!!」

「すいませんでした……」

 

 全く以て否定はできない。さもなくば、スカッシュ・アカデミアの環境でとっくに悲鳴を上げているところである。

 ポケモンの戦闘本能に負けず劣らずの、戦いへの探求心を持つのがイクサという少年なのである。

 

(可愛らしい顔してる癖に、獰猛さは全く隠す気が無いですね、この子……さっきの話を聞いた限りでも、強くなりたいって結論に帰結してますし? 意外と脳筋なのかもしれません。まあいいや、話を恋バナに戻しましょう)

 

「付き合っていないけど、揶揄われたお返しにキス……可愛い顔してなかなか大胆なんですね? さっさと付き合えば良いのに」

「……自分でもどうかしてたと思います」

 

 何処か納得するようにトトは頷く。この少年は「思っていた通り」可愛い顔をして、存外に積極的な面があるようだった。

 

「……ただ、問題は此処からで」

「うん?」

「実は……もう1人、気になる女の子が……」

「おっと?」

「頻繁に迫ってきて正直理性がヤバくて……」

「おーっと? 雲行き怪しくなってきました?」

「茶化さないでください!?」

 

 デジーとは決闘以来、すっかり付き合いの長い友人のような関係性になってしまった。

 だが、それはそれとして彼女は、寝床に入り込んで来たり胸を押し付けてきたりと──過激なアプローチがあまりにも目立つ。

 特にメロディーレインでの戦い以降、イクサも彼女の献身的な心意気に脳を焼かれてしまったところがあり、邪険に出来ないのだ。

 

「僕は人間のクズです……心が2つある……」

「……え? 何? 貴方結局どっちが好きなんですか?」

「それが分からないから、こうして吐き出してるんです、同時に二人の女の子から迫られるなんて初めてで……」

「ふーむ……でも、思春期の男子特有の恋に揺れるココロ!! 実に、良い!!」

「何も良くないんですが!?」

 

 元の世界の倫理観的にはアウトだ、とイクサは考えていた。仮に付き合うにしても、どちらかに決めなければならない。二股など以ての外だ、と。

 

「僕は一体どっちを選べば……」

 

 

 

「四の五の言わずに二人とも娶れば良いのでは……?」

 

 

 

 とんでもない発言が飛んできてイクサは意識を失いそうになった。この少女は何てことを言うのだろうか。

 

「倫理観とか無いのかあんた!?」

「ああ、倫理観がどうとか言っちゃいます? オシアスでは昔からハーレムが許されていますからね……貴方が女性を二人とも養う甲斐性があるなら、それで丸っと全部解決では?」

 

 曰く。オシアスでは、昔から貴族や王族が多数の妾を侍らせてきた歴史があると言い、現代でも成り立っている場合があるという。 

 イクサが住んでいた世界でも、エジプトを始めとしたイスラーム圏では一夫多妻制が許されているケースがある。

 一方オシアスの婚姻制度の成り立ちは、また違ったものがあるのだが敢えて今は割愛する。

 重要なのは、この制度を踏まえてデジーが「2番目で良いよ?」と宣っていた点だ。イクサは頭を抱えた。オシアスではそれがOKなのだ、と。

 しかし、長らく一夫一妻制の倫理観と価値観に浸ってきたイクサにとっては、到底受け入れられるものではなく。

 

「解決してない!! 何にも解決してないです!! そんな甲斐性も経済力もありませんよ、僕に!!」

「人を愛することに貴賤はありませんからね、当人同士が幸せならばそれで全てOKです♪」

「OKじゃないよ!?」

「……貴方、意外と理性的なんですね?」

「今この場で一番理性が蒸発してるの貴女だと思うんですけどね!?」

「あら、どうでしょう?」

 

 トトは穏やかな笑みを携えたまま続けた。

 

「どちらか決められない。言い換えれば……()()()()()()()、ということでは?」

「……ッ」

「恥ずかしがることはありません。倫理観も価値観も世界や国が変われば、善悪が逆転するなんてよくあることですよ?」

「だとしても、不誠実な事は出来ませんよ」

「でも貴方……意外と内に秘めた欲望は強いと思いますけどね? 人以上に」

「ッ……欲望って」

 

 イクサは気色ばむ。そんなどろどろしたものを心に抱えているつもりはない。

 しかし。

 

「貴方が強くなる理由は何でしょう?」

「……その人を守りたいから……その人に恥ずかしくない、肩を並べられるようになりたい」

「それだけですか? 今度は恋愛でなくて良いんですよ? ありますよね──強い強い野望が」

 

 試すように──トトは言った。イクサは、その目に吸い込まれるようになりながらも、喉につっかえていた言葉を吐き出していく。

 

「──笑われるかもしれないけど、オシアスの迷宮に居る伝説のポケモンに……いずれ会いに行きたいんです」

()()()()()()()()()んですね……そのポケモンと会って、何がしたいんですか?」

「戦って──勝って──」

 

 その先にあるものは、強い独占欲だった。

 

 

 

「……()()()

 

 

 

 ぽつり、とイクサは呟いていた。その時、ぞわりと彼は背中から何かがはい出している気がした。

 手中に収めたい。自分のポケモンにしたい。

 何故ならば、彼の求めているポケモンは──レックウザは、彼にとっては憧れのポケモンだから。

 そのためには、もっと強くなりたい。そのためには、もっと強いポケモンが()()()。その先にある、もっと刺激のある戦いが()()()

 

「……!?」

 

 彼は寒気立った腕を自分で抑えた。

 ポケモンを「モノ」のように、あるいは「駒」のように考えている自分がイクサには見えた。

 

(ち、違う、そうじゃないだろ……!? ポケモンは仲間で、家族で……そりゃあ戦わせることもあるけど、それはこの世界では当たり前で……!?)

 

 しかし、否定できなかった。彼自身でも分からない程に心の奥底に沈殿した欲望は確かにそれを欲していた。

 この世界に居るポケモンは生き物のはずなのに──ゲームのユニットのように考えてしまっている自分が居る。

 そしてこの世界の常識は、自分の欲望を満たすにはあまりにも()()()()()()()。故にイクサはそれを今まで自覚することもなかった。

 

(僕は、ポケモンを戦う道具のように……自分の欲望を満たす為の道具のように考えてたっていうのか……!? 確かにゲームではそうだけど……!?)

 

「それに好きな人を守りたい、肩を並べたいって言ってたけど、守りたい相手は()()()()ですか? もっと言えば……()()()()()満足ですか? 欲しいんじゃないですか? 喉から手が出る程に」

「ッ……」

 

 どくん、どくん、と心臓が脈打つ。

 そして脳裏に浮かんだ光景にイクサは、自らの頭を殴り付けて掻き消す。

 

「違う……違う、これは……()()?」

 

 己の心の中に巣食うどす黒い何か。それにイクサは戸惑う。欲しい。欲しい。全部欲しい。

 それを自覚してしまったことで、

 

「戸惑ってるみたいですね、己の欲望に。己の本心に」

「ッ……!?」

「私が人の恋バナを聞く理由をもう1つ教えましょう。恋愛は……その人の欲望の形と強さが最も反映されるからです」

 

 貴方の欲望は私の想定していた以上でしたけどね、と彼女は続ける。

 

 

 

「そして……ポケモンは理性ではなく本能で動く生き物。ポケモンが強い人間は、良くも悪くも……我と欲望が強いものですよ?」

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