ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
──キャプテン。
それは「ポケットモンスター サン・ムーン」以降に登場する役職だ。
いずれも、ぬしポケモンやキング・クイーンポケモンといった大型の特殊個体のポケモンの世話係を務めている。
南国のアローラ地方、列島の西部に位置するサイゴク地方、そして北部に位置するシンオウ地方にも過去にはキャプテンが存在したという。
そして、このオシアス地方にも”ぬしポケモン”が存在し、その監視・管理を行う一族の当代が──”キャプテン”の称号を賜っている。
そのうちの1人は、クエスターシティの大図書館に居を構えており、代々そこでぬしポケモン共々暮らしているのだという。
「古の知識を有するキャプテン達ならば、ギガオーライズについて何か知っているかもしれない。バフがあったとはいえ、私達はグローリオのベトベトン相手に3対1で劣勢を強いられたわ。ギガオーライズというシステムの解明は、勝利条件の1つよ」
「シトラストレーナーズはオーカードを生産してるんですよね。何か分かった事は──」
「無かったのよ、それが。恐らくカードじゃなくてオージュエルに何かしらの細工を施してるんでしょうね。だけど、オージュエル自体がブラックボックスで……期待した結果は得られなかったわ」
「つまり、クラウングループはオージュエルの謎の1つを紐解いた可能性が高いってことデショウか?」
「そうなるわね。ただ、ギガオーライズは……既存のオーライズとは大きく異なる部分も多いの」
レモン曰く、オーライズとはオシアス磁気によって鋼のカードに記録されたポケモンの力を、オージュエルによって拡散、ポケモンに纏わせる技術だという。
そもそもオシアス磁気とは、迷宮で発見された、ポケモンに磁石の如く強く吸着──あるいは反発するエネルギーを指す。オージュエルにオーカードを翳すことで、オーカードに付着したオシアス磁気が反発して拡散。近くにいるポケモンに纏わりつかせて形態変化させるのがオーライズの基本である。オーカードは、狙ったポケモン──つまり自分のポケモン──に対してオーライズが出来るように調整された製品であり、これが完成する前は別のポケモンを誤ってオーライズさせることも多々あったという。
こうして、オシアス磁気を鎧のように固めて身に纏うことで、ポケモンはオーカードに記録された技や特性を行使することができるようになるのだ。
従って、オーライズとはオシアス磁気の性質を利用したものであり、オーラジャミングは一度付着したオシアス磁気を分解・拡散させることで相手のオーライズを解除する技だ。
一方、ポケモンは自らと同じ種族のポケモンのオーラは受け付けず、反発してしまうという性質も持っている。原理は不明だが、オーライズは違うポケモン同士だからこそ可能である、という今までの言説を補強する要因であった。
「でも、ギガオーライズはその常識を覆すわ。そもそも同じ種族のポケモンのオーラでオーライズしているし、オーラジャミングで解除することが出来なかった」
「つまり……逆説的に、ギガオーライズは
「ええ」
この仮説を補強する要因として、オーライズとギガオーライズの際にポケモンに起きる現象が挙げられる。
オーカードから放たれたオシアス磁気が吸着したポケモンは、オーカードに刻み込まれたプログラムによって、それを鎧のように身に纏うようになっている。
これは、オーカードが磁気の量および、各部位に吸着する磁気を制御しているからである。
「ギガオーライズはポケモンの身体を完全に変異させていたわ。まるで、ポケモンを更に一段階先のステージへと進化させるかのようにね」
ベトベトンは、身体を肥大化させた怪物と化した。
また、オオミカボシは体から星雲を噴き出しており、鎧を纏うというよりは、ポケモンそのものの力を変異させるといった方が正しいのかもしれない。
(勝手にそういうもんだと納得してたけど、よくよく考えたら分からないよな。ただのオーライズはテラスタルに近いけど、ギガオーライズは──メガシンカに近い)
思考停止で「そういうものだ」と受け入れてしまうのは良くない癖だな、とイクサは自省する。
ポケモンは不思議な生き物なので、今更何が起こっても驚かない心づもりでいたが、こうしてみるとギガオーライズについて不可解な点はあまりにも多い。同じ「オーライズ」でも両者には大きな差異がある。
イクサの知る”メガシンカ”は、カロス地方やホウエン地方で確認されている現象で、メガストーンとキーストーンを使い、トレーナーとの絆の力でポケモンに秘められた真の力を解放するというものだ。
その際、種族値は合計100も上昇し、更に強力な特性を手に入れるポケモンや、タイプが変化するポケモンもいる。
「メガシンカとギガオーライズは何か関係があるんでしょうか?」
「両者の相関性は低いとは言えないわね。一方で、あの”オオワザ”はアローラ地方のZワザに近い」
Zワザは、南国のアローラ地方で確認されている現象でZリングとZクリスタルが反応することで、ポケモンの技を著しく強化して放つことができるというものだ。
メガシンカが限られたポケモンのみ確認されているのに対し、Zワザはオーライズのように全てのポケモンが使うことができる。
こうしてみると、ギガオーライズはメガシンカとZワザの合わせ技のようだ、とイクサは考える。レモンから聞いたオオミカボシの”クロックワーク・リバース”も、ベトベトンの”ロットオブハザード”も、Zワザかそれ以上に極悪な効果だ。
(種族値が変わってるかどうかは謎だな……ダイマックスみたいに、単にオオワザが撃てるようになるだけなのかもしれないし、本当にステータスが強化されているのかもしれない。ただ、オーライズの強みであるタイプ・特性変更を捨てても、オオワザだけでも十二分にお釣りが来るレベルではある)
現にイクサ達は”ロットオブハザード”の前に全滅の危機に遭ったし、レモンは”クロックワーク・リバース”をどうにかする手段が現状思いつかないと言い切っている。
「……タイプを変えられない代わりに、とても強いZワザを撃てるようになったメガシンカ……厄介デスね」
「オシアスにはメガストーンとキーストーンが採掘されないわ。メガシンカは強力無比だけど、一般流通しない程稀少性が高いの。それと同等の力を、オシアスで流通しているオージュエルで引き起こせるなら……非常に恐ろしい事になる」
「グローリオは言ってましたよね。オージュエルを改造したって」
「その改造の詳細が分かれば良いのだけど……彼らがどうやってその領域へ至ったのか掴む必要があるわ」
「……故にキャプテンを頼る、か」
ゼラの問いにレモンは頷いて答えた。まだ自分達が調べていない領域の知識に、答えはあるかもしれないとレモンは考えたのである。
「彼らはオシアスきっての賢人揃い。何か知っていることがあるかもしれないっていうか、もうお手上げなのよ……」
「じゃあ、頼ってみましょう! 善は急げです!」
「オシアスに居るキャプテンは3人。いずれもオシアスに伝統と所縁のある一族の末裔だわ。1人は、このクエスターシティの”無限書庫”の司書よ」
「無限書庫……ですか。残りの2人は?」
「2人目は、クエスターシティから南東に下ったソルタウンの”太陽の遺跡”を守っている学芸員よ。そして最後は──」
「3人目はオシアスの南の町。サースドタウンの町長の娘だね」
割って入って答えたのはデジーだった。
「詳しいのか?」
「詳しいも何も……サースドタウンはボクの故郷だからね」
「じゃあ、キャプテンにも顔が利くかもしれない!」
「……だと良いけどねー」
何処か諦観したような様子で、デジーは言った。
「仲が悪かったりするのか?」
「似たようなもんだよ……ボクの幼馴染ってか、ライバルだからね……」
何処か不満げに彼女は唇を尖らせる。
「知り合いなら話が早いわ」
「でも、サースドタウンは遠いよ。後回しが良いでしょ」
「かと言って、全員で団子になって無限書庫に行くのは得策じゃないですよね」
イクサの言葉にバジルが頷いてサムズアップした。
「OK! ソルタウンは、クエスターシティから近いから、私とゼラ先輩でささっと行ってくるデスよ!」
「……任せろ」
「助かるわ。じゃあ、私達は無限書庫に向かいましょう」
こうして、イクサ達はクエスターシティの無限書庫に。バジルとゼラはソルタウンに向かうことになる。
やるべき事は決まった。後は──出発の準備をするだけだ。
当然、このまま街に出ては、皆すぐに捕まってしまうのは確実である。
「──やるべき事は、変装よね」
「Yes! 変装グッズはばっちり持ってきてるデスよ!」
「……そうね。やるべき事をやりましょう」
そう言って──レモンは鋏を何処からともなく取り出す。一瞬だけギョッとしたイクサだったが、すぐさま彼女は長い黒髪を手で握って纏めると──
「必ず。奪われたものを全部取り戻すの」
──ばっさりと切ってしまった。
断髪は、過去の自分との別れの証。これまでの御令嬢としての自分に別れを告げる為の儀式だった。
「変装をするのに、長い髪は邪魔……そうよね? バジル」
「……ハイ」
(覚悟が決まってるんだ……レモンさんは)
「この事態は、私の弱さが招いた事。だけど……それでも私は今、アトムに捕まるわけには行かない。会社の命運も、学園の未来もかかっている」
彼女は、切った髪を床に投げ捨て、宣言する。
「……足手纏いになるのは承知だけど、私も戦う」
「勿論ですっ! ポケモンが無くとも、レモンさんが居れば……助かる場面は多いと思いますから!」
「だ、だけど、私……本当に何も出来ないわよ?」
「レモン先輩だけに背負わせないよっ!」
どうやってでも自分を手放すつもりがないらしい後輩二人に、彼女は若干困惑したように眉を顰めた。
「貴方達、本当に乗り気なのね……正直びっくりよ。貴方達、私が思ってた以上にアウトロー適性があるわ」
「当たり前じゃないですか。それに僕は当事者ですから」
「ボクも、会長に仕返ししなきゃ気が済まないもんねっ!」
「俺はとっくにあんたの弾丸になると決めている」
「だから──レモンさんも僕を信じて下さい」
一歩前に進み出たイクサは、彼女の手を握り締める。
「必ず強くなって……アトム会長を倒してみせます!」
「……頼もしいわね」
レモンは安心したように微笑む。最初から何も心配することはなかったのかもしれない。
「それじゃあ早速、メイクアップの時間デース!」
変装道具をバジルが取り出す。これから行動する上で必要な衣服は全て彼女が用意しているようだった。
※※※
(それにしても本当に大丈夫なの? レモン先輩自らが出歩くなんて)
(相手はキャプテン。由緒正しきオシアスの守護者。直接出向いて協力を要請するのが筋というものよ)
(……本当に大丈夫なのぉ? すぐに見つかったりしないよね?)
(変装はバジルの監修だから完璧だわ。あの子はすっごく心配そうにしてたけど)
(聞いてるよー? だってレモン先輩、隠密行動ヘッタクソらしいじゃん)
(ちょっと。幾ら私でも傷つくのよ)
残念ながら事実であった。レモンには変装に限らず衣服選びのセンスというものが致命的に欠けていた。
いつもは使用人に選ばせている所為で、その辺りの感性が育たなかったのだろうとバジルが指摘すると、図星だったのか少し落ち込んでしまっていた。
さて、やはりというべきか、町の中には既にブレザー姿の少年や少女たちが散見される。
それを見かける度にイクサは「ひゅっ」と喉の奥から変な声が出てきそうになるのだった。
(落ち着きなさいな。そう簡単にバレるもんじゃないわ。私達今、完全に性別が真逆よ)
(はぁ……)
(こういうのは堂々としていた方が却ってバレないものよ。貴方もしゃんとしなさい)
気が気でない理由はバレるかどうかだけではない。
バジルはどうやら、変装用の衣装を寮から持ち出しており、その中にはイクサの体型にぴったりとフィットする女性用の衣服も多数あったのだ。
つまり、危惧していた女装である。白いワンピースに、ウイッグ、そしてメイクをすれば完全にイクサは年頃の女の子にしか見えない。
(複雑だ……)
一方、バジルとデジーは、男装コーデ。特に平たい族のレモンは全くと言っていい程違和感がない。
髪を切った上に金髪のウイッグを被り、そして帽子を被ってしまえば美少年の完成である。これを素直に喜んでいいのか悩むレモンだったが、鏡で見ても自分の顔と分からないくらい変わっているので一先ずは自分を納得させるのだった。
「ねー、
「ちょっと。不用意に喋るのはやめなさ──やめろ」
「えー、兄妹なのに喋らない方が変だよ」
ストリート少年コーデのデジーがにしし、と笑みを浮かべてみせる。
「ねー?
同意を求めるデジーが振り返ってイクサの方を見た途端、神経全部が凍り付いた。
「え、えと、何でしょうか……?」
「君ィ、可愛いねえ……俺達とお茶しない? うへへ」
そのイクサが、青いブレザーの少年達に詰問されているのが見える。
周囲を見渡しても、他に生徒達の姿は居ない。人混みに紛れて、此処にやってきたのだろう。
どっからどう見てもスカッシュ・アカデミアの生徒達であった。
(やっば!! もうバレたの!?)
(お、落ち着きなさい! あれはナンパよ!)
(はぁー!? こいつらボク達探すのほっぽりだしてナンパしてんのぉ!? バッカじゃないのぉ!?)
イクサの顔からは血の気が引いていた。逃亡生活初日にして、早速身バレの危機。
同性から下心を向けられているのは、ノーマルな性的嗜好のイクサにとっては恐怖以外の何物でもなかった。
あまりにも女装が嵌り過ぎて、鏡を見て「可愛いなあ……」と感じた後に身の毛がよだつ思いをしたイクサだったが、当然他の男から見ても魅力的に見えてしまうようだった。
既に顔と背中からは別の汗が流れ落ちている。バレるかバレないか以上に、自分の貞操の危機を改めて感じる。
しかしそんな彼にも救世主が現れる。
「わ……悪いな。そいつは……俺の連れでね」
すっ、と自然に割り込むのは──レモンだった。声を限りなく低くし、イクサの肩を抱き寄せる。
美男美女カップルを見た生徒達は諦めたようにすごすごと去っていくのだった。
「何だよ彼氏持ちかよ……」
「勝てねーぜあんなの……」
正直レモンの演技は拙いも良い所だったが、ビジュアルで完全に誤魔化せてしまっていた。
追手──というよりナンパが完全に人混みの中に消えていくのを見届けると、イクサは小声でレモンにお礼を言った。
「すいません、助けられちゃいました」
「ねえ、あんまりにも完成度が高いってのも困りものね……」
「そうですね……」
レモンは自分の胸に手を当てる。サラシで押し潰す必要がないくらい膨らみが無いのだ。デジーでさえ胸を押し潰しているというのに。
一方のイクサも、自分が改めて女顔なのだと突きつけられて気分が落ち込む。ナンパされるどころか、露骨に性欲を向けられるほどとは彼自身も思っていなかったのだ。
危機は脱したが、色々と大事なものを失った二人だった。
そんな彼らを一歩引いた場所からデジーは見守り──溜息。性別は逆転しているが、美男美女カップルでお似合いなのである。
お似合いなのは良いのだが、別の意味で人の目を引いてしまっている。
(映えるなあ、この2人……どう変装しても目立っちゃうよ……後でバジル先輩に相談しようっと)
※※※
──無限書庫は、超巨大な文化センターも兼ねた建物。
1500年前に建造され、何度か改築を繰り返している伝統的な場所らしい。
建物の壁にはヒエログリフに似た文字が刻まれており、形状も独特だ。
内部の蔵書は800万冊以上。表にあるものだけではなく、裏の倉庫に保管されているものも含めると正確な本の数は不明らしい。
レモンは早速、受付の女の人に「キャプテンに会いたいのだけど」と話しかける。
それを聞いた彼女は首を傾げると「生憎キャプテンは毎日書庫の奥に引き籠っていまして……」と困り顔。
「どうします?」
「……名前を出すしかないみたい」
「流石に性急では……?」
どうやら、一般客がそう簡単にお目にかかることができる身分ではないようだった。困ったな、と顔を見合わせるイクサとレモン。
此処で正体を明かす事も出来るのだが、この図書館にも学生たちやクラウングループの社員が紛れ込んでいないとは限らない。
しかし、このまま手ぶらで帰るわけにもいかないので、レモンが進み出て自分の正体を明かそうとしたその時だった。
「お待ちくださいな」
優しくふんわりとした声が響き渡る。
眼鏡を掛けた三つ編みの女性がバックヤードから現れた。
その髪にはハート型の髪飾りが多数結わえ付けられている。
滅多に姿を現すことが無い彼女に受付の女性は驚き、声を失う。
「
「……その方たちは、私の客人ですよ。丁重にもてなしてくださいね」
まるで、イクサ達が此処に来るのが最初から分かっていたかのように、少女は微笑みながら恭しく礼をするのだった。背格好はバジルと同じくらい。顔つきは少し大人びているように見える。
「ようこそ。今此処で名前を呼ぶのはマズいのでしょうか? 一先ず私の書斎に案内しますね」
【”無限書庫のキャプテン”トト】
「ああご心配なく。私は……貴方達の味方ですよ」
(優しそうな人だ……穏やかな、如何にも司書って感じの人だ)
そんな彼女にイクサは安心感を覚える。どうやら物分かりもよさそうだ。
しかし、普段引き籠っているはずの彼女が、何故イクサ達の事を察知したのか、そして協力的な態度を取ってくれるのかが分からない。
「あのー、トトさん。何で僕達が来るって分かったんですか?」
「予知夢、でしょうか? 貴方達が……オシアスに来たる悪意に対抗する者だというところまで、しっかりと見せてもらいました」
「……噂通りね。予言・予知の力は本物だったみたい」
「そうそう、私の前では変装を解いて貰っても構いませんよ、イクサさん、デジーさん、そして──シトラスの御令嬢・レモンさん」
穏やかに笑みを浮かべながらトトは言ってのける。
「僕達の名前まで!?」
「それも予知夢なの!? すっごい!」
「無限書庫のキャプテンは、エスパータイプのぬしポケモンに選ばれた一族。代々予知に関する力を受け継いでいると聞いていたけれど」
「当代の私も能力は健在といったところでしょうか。ただ、私自身は、予知能力を除けば──しがない本の虫。ただのいち読者でしかありません」
ご覧ください、と言わんばかりにキャプテンの少女はバックヤードにも敷き詰められた本棚を紹介するように手を広げてみせる。
壁にもぎっしりと本が詰め込まれている。
バックヤードも本だらけだ。どうやら、未だに整理されていない蔵書が大量に置かれているらしい。
その様に圧倒されるイクサ達は言葉を失う。
「凄いのは無限書庫と”ぬしポケモン”であって、私ではないのです。だから、どうか気負わずに接してくださいね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
気さくにトトは微笑んだ。この荒れたオシアスのキャプテンと聞いて、どんな癖の強い人物かと内心イクサは不安だったのである。
「……びっくりだわ。表の図書館はレポートの為に通ってたけど、本当に何処に行っても本が溢れているのね」
「無限書庫は人の手に負えないということです。ずっと昔からありますからね」
「此処まで来ると、倉庫から知らない本が出てくるって事も──」
「しょっちゅうですね。ワクワクしませんか? 人間が何度生まれ変わっても読み切れない量の本が無限書庫には詰め込まれているのですよ」
「ボク、目が回りそうだよー……」
そうこうしているうちに、トトの書斎に辿り着く。鍵を開けると、本棚に囲まれた部屋が視界に入った。
「この部屋は、私のお気に入りの本を厳選して置いてるんですよ。良い読書の後は特に予知夢の質が良くなりますから」
トトは安楽椅子に座り込む。イクサ達に「適当にかけてください」と言って、肘置きに腕を置いた。
「無限書庫の管理人である貴女に、頼みがあります」
「敬語なんて使わなくて良いですよ、レモンさん。貴女達の物語は確かに夢で見せて貰いました」
「ッ……何処まで存じているのかしら」
「貴方達が丸っとクラウングループに嵌められたこと。そして、彼らに対抗するためにギガオーライズを調べているってところでしょうか?」
「凄いなこの人の予知……何もかも透けているじゃん」
「勿論、貴方達がこのまま負けるのは展開として面白くない。オシアスに迫る悪意も見逃せません。謹んでご協力させてもらいます──ただし、条件付きで」
「……その条件とは?」
トトの眼鏡が部屋の電球に照らされ、白く光った。
「……この私に……とびっきりの
(うん? 常識人だと思ってたけど雲行きが怪しくなってきたぞ?)
イクサ君のイメージCVは村瀬歩さんなので……女装すると、完全に女子と見間違われることに。