ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「レモンさんは秘密の抜け道だって言ってたけど……まさか学園の地下に迷路があるなんて……!」
レモンに貰ったメモを握り締め、イクサは地図の通りに迷路を進んでいく。
元々、地下道だったらしいのだが、かなり入り組んでおり、地図無しでは迷ってしまう。
(先ずはこの”手引き”に従って逃亡して頂戴。制服を脱ぎ捨てて、上にはこの
(レモンさん?)
(冗談よ)
地下通路、もっと言えば万が一の時の避難経路と言ったところか。そして、イクサが手渡されたのはメモ帳サイズの紙だった。
『・逃亡のすすめ(著・バジル)
(万が一、イクサが追っかけられた場合を考え、高速で作成しマシタ! オシアスの交通事情に精通した私だからこそできる事デスね! えっへん!)
迷路からは、地下鉄の駅付近まで抜けることが可能。その後、人混みに紛れて地下鉄の駅からプライシティ・セントラルステーションに移動、プライシティから西に進んだ城塞都市・クエスターシティに向かう。
その後、クエスターシティ郊外3番道路にある”ふるびたホテル”で合流せよ。
船・飛行機といった地方外脱出はありとあらゆる手段で阻止してくるはず。学生だけでなく、クラウングループの社員が潜んでいる可能性が高い。駅・港・空港周囲は特に警戒すべし!
絶対合流しまショウ! Good Luck!!』
こんな状況なので、最後の一文にイクサはうるっとした。味方は居る。自分は1人じゃない。
(──この分だと、既にバジル先輩はデジーと一緒に行動してそうだな……僕も急がないと)
地下通路を順路通りに駆けていくと、小さな鉄扉に辿り着いた。
そこを開けると──地下鉄の駅がある区画に侵入することが出来た。
周りに制服姿の人間が居ないか確認しながら、イクサはチケットを購入。そして改札をくぐりながらプライシティ最南行きの電車に乗り込んだ。
今此処で見つかったら、多分あの蛮族共の事だからバトルが始まるんだろうな、バトルサブウェイみたいに──と考えると少し笑いが漏れる。笑っている場合ではない。ないのだが、極限状態に置かれた人間は往々にして些細な事に救いを求めがちだ。
鉄道に揺られながら改めて自分の状況を俯瞰するが、結局生徒会の所為で6月以降1度たりともまともな学園生活を送れた試しがない。
おまけに学園に居られなくなる上に全校生徒から追いかけ回される羽目になるとは──
「はぁあ~~~~」
思わず大きなため息が出た。
正直、元の世界に一番帰りたいと思えた瞬間だった。
しかし帰るわけにはいかなかった。自分には6匹の手持ちが居るし、何よりレモンだって戦っているのだ。彼女を置いてはいけない。
(いや、此処はポジティブに考えよう、僕……師匠に昔教わったじゃないか)
──人間、悪い状況に陥った時は悪い方向に考えてしまいがちデスが……考えを逆転させれば、今置かれてる状況も然程悪くないかもデスよ?
(……学園から追われてるこの状況……裏を返せば授業には出席しなくて良いし──いや、普通に欠席扱いだからマズいんだけど──あのクッソ治安の悪い学園の中に居なくて良い、何より、生徒会長達の見えないところでポケモンを鍛える事が出来るとも言える)
無理矢理状況をポジティブに考えると、空元気が湧いてくる。
おまけに、電車は大きく、広々としていて快適だった。
だが、人が歩いて通りかかる度にイクサは気が気でなかった。
何か悪い事をしたわけでもないのに、逃亡生活というのはこうも心臓が縮み上がる思いをしなければならないのか、と思わせられた。
※※※
結局、電車を乗り継いでいき、どれ程経っただろうか。
クエスターシティの位置はイクサの世界のエジプトで言う沿岸部の都市・アレクサンドリア。
オシアスの長い歴史を象徴する町の一つであり、かつて武力でこの地方を平定した大王によって作られた町──というのはこの世界でも同じらしい。
文明の発展を邪魔する野生ポケモンも居なかったので、城塞を築き上げる妨げも無かったという。
そのため、クエスターシティでは今でも歴史的な建造物が多数、近代的な街並みの中に残っているという。
プライシティ程ごみごみはしていないが、非常に車通りが多い。辺りを見回せば、明るい砂色の高層マンションやビルが立ち並ぶ。
人を隠すなら人の中──と言う事なのだろう──と最初は思っていたのだが、該当のホテルを探していくと、だんだん町の方から外れていく。
”ふるびたホテル”と言えば「ポケットモンスターXY」にそんな感じのダンジョンがあったなあ、とか思いながら道路を道なりに進んでいく。
荒廃したホテルで、ポケモンのゲームではよくある廃墟系のダンジョンだ。砂漠地帯や荒れた土地のオシアスではこの手の廃墟が数少ない野生ポケモンの生息地であるらしい。
(となると、迷宮以外で初めて野生ポケモンを見るかもしれないって事か。それにしたっておかしい話だよな、砂漠にだって生態系はあるはずなのに、なーんでこんなに野生ポケモンが少ないんだろ)
オーレ地方のように極端に野生ポケモンが少ない地方もあるので、
そう考えながら、イクサは──漸く指定された場所に辿り着くのだった。徒歩で数時間。町中からは大分離れてしまった。
言わば都市道路の傍に建設されたそれは、まるで中世の城塞のような佇まいで──
(いーや、違うよね? 城塞じゃないよね? 城塞っつーか……
──イクサは踵を返した。
間違ってたかなー、何かの間違いかな、と思いながら住所をスマホで照らしながら確認。残念ながらあっている。
元はマスカットグループが建設したらしいが、どうやら流行りに乗り遅れた所為で廃業してしまったらしい。何やってるんだマスカットグループ。
(えー……本当に此処に入らないといけないの? 気まずいんだけど……まあ、こんな所誰も近寄らなさそうだけどさあ……)
いつの間にかパーモットが勝手にボールから飛び出していて廃ホテルを眺めていた。
そして──10秒後には、いつもの微笑みを絶やさないまま、すっと両手で目を覆い隠す。
(あっ、ダメだ!! センシティブなモノ判定されちゃった、パモ様にも!!)
とはいえ、他に行く場所などあるワケも無いので、イクサとパーモットは意を決して中に入っていく。
(しまった……そもそも廃墟なんだから、ホラースポットなんだった……)
中は案の定荒れ放題、ガラスは割れており、エレベーターも起動していない。そのため階段で上がらなければいけない。
お城のような建物が経年劣化で本当に廃城のダンジョンになるとは思わなかった。
あちこちに何かが散乱している上に、灯りが無いのでスマホロトムの力を借りなければならないのだ。
幸い野生ポケモンが少ないからか、今の所何処にもそのような気配はない。だが、”出るんじゃないか”という恐怖とは常に戦わないといけない。
イクサはこの手のホラーモノが苦手なのである。
すっかり及び腰になりながら、辺りを探索していく。横に居るパーモットは、全く物怖じしていないのが流石といったところだ。
「パモ様ぁ、よくこんなところ平気で歩けるね……」
「ぱもーぱもぱも」
(調べてみたらこのホテル、7つも怪談があるみたいなんだよな……ホラースポットに相応しいと言えば相応しいけど)
1つ。勝手に動き出す花瓶。
2つ。暗がりで光る赤い目。
3つ。鮮血が開いた部屋から漏れ出して来た。
4つ。通りがかると首を誰かに舐められた。
5つ。オシアスは暑いはずなのに、何故か異様にこの中が涼しい。
6つ。自分と全く同じ姿のドッペルゲンガーを見た。
7つ。以上の全ての怪奇に遭遇した者は死に至る──
(小学校の頃の七不思議を思い出すけど……イヤだなぁ……本当に……)
そう思いながら、進んでいたその時だった。
ふと、目の前に気配を感じた。
「何か、いる」
「ぱもぉ?」
イクサは脚を止め、身構えた。
追手か、それとも野生ポケモンか。
じりじりとした焦燥感に駆られながら恐る恐るスマホロトムの光を正面に照射すると──女性の顔が突如、浮かび上がった。
「何で私を捨てたの……?」
「ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイーッッッ!!」
女子のような甲高い悲鳴を上げて、錯乱しながらイクサはUターンしてダッシュ。全身からは嫌な汗が噴き出している。
しかし、進路には暗がりに赤い光が浮かんでいる。
「ヒッ!! 何だよぉ!?」
彼は確信した。
7つの怪談は実在したのだ、と。すぐに再びUターンするが、今度はべろり、と何かに首筋を舐められて腰を抜かしてしまう。
ぞわわわわ、と全身に鳥肌が立つ。思わず振り返り、スマホロトムの光を照射するが誰も居ない。
おまけに周囲は冷え込んでくる。足が凍えて、動かない。そして、後ろから、カツン、カツン、と音が聞こえてくる。
「ひっ」
思わずイクサは振り向いた。そこにあったのは──
「──~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
──顔が朽ち、骸となった自分の姿だった。
イクサは口から泡を噴き出し、そのまま倒れてしまうのだった。
パーモットが揺さぶるが、完全に白目を剥いて気絶してしまっており、そのまま彼が起き上がることはなかった。
※※※
目が醒めた時には──自分がベッドの上に寝かされていることに彼は気付いた。
天蓋付きの豪華なもので、如何にもそれらしい。
起き上がると、窓から光が差し込んでいることに気付く。
どうやらホテルの一室のようだった。
既に朝になっている。あれから自分はどうしたのだろう、と考えているうちに──明るい声が何処かから響いてくる。
「Good Morning! イクサーッ! お目覚めデスねーっ!」
少女は、臆面もなく自分に抱き着いてきた。
コートを羽織った怪しい英語混じりの金髪碧眼の美少女。勿論、誰なのかは言うまでもない。
「バ、バジル先輩……助けてくれたんですか?」
「Yes! 倒れてたから何事かと思ったデスよー!」
涙目でイクサはぎゅっ、と彼女を抱きしめる。「Why!?」と驚いたような声が返ってきた。
今回ばかりは本当に死ぬかと思った。思い出すとぼろぼろと涙がこぼれてくる。
「……本当、酷い目に遭いましたよ!! 何でこんなホテル、隠れ家に選んだんですか!! ネットで調べたら怪談が次々に出てくるし、いざ入ったら本当に怪談の通りに──ッ!」
「凄かったデショ? 本物だと思ったデスよねー?」
「……はい?」
イクサは怪訝な目でバジルを睨む。
彼女は得意げに鼻を擦った。
「実は去年くらいに、自分達が昔建てた廃ホテルに不良がたむろしてて困るって話をシャイン先輩から受けてデスね? ウソの怪談をでっちあげたんデスよ!」
「ウソの……怪談? でっ、でも!! 本当に出たんです!! 女の幽霊も!! 赤い目も、ドッペルゲンガーも!! 何なら首だって舐められたし!!」
「赤い目とドッペルゲンガーは、ゾロアデスよ? まだ進化してないからゾロアークみたいな大規模な幻影は使えないデスけどね?」
「こきゅ」
のそのそ、と彼女の足元に子狐のポケモン・ゾロアが近寄ってきて頬ずりした。
ゾロアの最大の特技はイリュージョン、つまり幻影を相手に見せることが出来る能力だ。
本来存在しないものをあるものと錯覚させることが出来るのである。
「……待ってください。じゃあ首を舐められたのは?」
「カクレオンデスけど」
「……もしかして廊下が寒かったのって」
「デリバードが冷気を流していたんデスね!」
「……あの? バジル先輩?」
イクサは彼女から離れ、思いっきり睨み付けてやった。彼女は悪びれる様子も無く「いやー、効果は覿面デシタよ! 私自らが仕掛け人になれば、たちまち誰も寄り付かなくなってデスね?」と言ってのける。
「先輩、怒らないんで答えてほしいんですけど、僕に仕掛けましたね?」
「あはははは、侵入者が来た時に備えて予行演習したくってデスね? 久々デスし? 後、最初の女の幽霊って私デスね!! 迫真の演技だったデショ? 何で私を捨てたの……? って!!」
「先輩?」
圧に敗け、2秒後にはバジルは土下座していた。
「Sorry……しょ、正直気絶して、泣き出す程とは思わなかったのデスよ……でも、ほら、万が一の時に怖がってくれなきゃ侵入者を追い出せないじゃないデスか!!」
「僕が来たって分かってやったんですよね? 心臓止まると思ったんですよ真面目に」
「ハイ……スイマセンデシタ……」
「次やったら絶交ですよ先輩」
「ハイ……」
正直、尋常ではない怖がり方だったな、とバジルは思い返す。
ポケモン達と連携した迫真の演技で逃げ出した輩は沢山居たが、泡を吹いて気絶したのは彼が初めてだ。
「えーと、イクサってホラー映画とかって」
「苦手ですよ!! 悪かったですね!! こういう廃墟とかクッソ怖いんですよ!!」
「私は好きなんデスけどねー」
「げぇーっ、病院で感性診てもらったら良いんじゃないですか」
「辛辣デスねー……」
「今度からは一層バジル先輩には厳しくしようと決めたんで」
一応気絶させた責任を取って、バジルがこの部屋に彼を運んだのだと言う。
部屋の中は意外と綺麗に掃除されていた。壁は荒れ放題で、ところどころ捲れており、やはりホラー映画のダンジョンみたく不気味さを醸し出していたが、あの一連の怪奇が全てバジル女史の演出だったと気付いた今、すっかりイクサの中の恐怖は冷めきっていた。
※※※
──バジルに連れられ、1階のエントランスに降りる。
陽の光が入っていると、また夜とは違う印象を受けた。かつて栄華を誇ったが、敢え無く滅びてしまった寂しさを感じさせた。
「おっはよーっ、転校生ーっ!! よく眠れたー?」
降りてきた途端に、元気のいい声が飛んでくる。
デジーだ。そして、その隣には相変わらず寡黙なゼラの姿もあった。手には巨大なレールガンが握られている。
「良かった……二人も……此処に」
ゼラがふっ、と笑みを浮かべた。後輩であるイクサが無事だったことに、少なからず安堵を覚えたようだった。
「全員集まったようね」
「──レモンさんっ」
そして、最後にやってきたのは──レモンだった。
制服のブレザーを脱いだ彼女は、バジルから借りたのか、黒い外套を身に纏っている。
彼女の姿を見たイクサは感極まってしまい、思わず彼女の名を叫んでしまった。
こうしてここに、推薦組5人が再び揃ったのである。
「無事だったんですね!?」
「それはこっちのセリフよ。よく此処まで来てくれたわ。だけど……」
レモンはイクサに頭を下げた。
「……ごめんなさい。貴方を結局守れなかった」
「そ、そんな! 頭を上げてください」
「……敗けたのよ。私はアトムに」
レモンは──これまで起こったことを、改めて全員に話す。
生徒会の狙いは学園の全権限の掌握。そしてアトム本人の目的は自分である事。
既にシトラスグループはクラウングループによって買収されてしまっていること。
そして、持っていたポケモンも全て奪われてしまった事を。
「ポケモンまで……!? 許せません!!」
「アトムの奴、去年の学園最強大会でレモンに敗けたのが余程堪えたみたいデスね……それが回り回って歪んだ愛情に変化した」
「うへぇ……気持ち悪ぅ……」
デジーは舌を出しながら軽蔑するように言った。
「とはいえ、あんな奴に捕まってる場合じゃないし、学園だってこのままにしておくわけにはいかない。何とかして、アトムを止めなきゃいけない」
「当ったり前です!! 酷すぎますよ、こんなの……!!」
「……でも、どうするの? オーデータポケモン、全部奪われちゃったんだよね、レモン先輩。しかも、レモン先輩でも勝てなかった」
「ええ。ハッキリ言って現時点では勝ちの目が何も無いのよ。頼れるのは貴方達しか居ない」
レモンは心底悔しそうに言った。
「もう、今の私は寮長でも風紀委員長でもない。権力も、ポケモンも何も無いわ。それでも──」
「何でそんな事を言うんですか」
「ッ……」
「僕は権力があるから、寮長だから、風紀委員長だからレモンさんを守るって言ったんじゃありません」
彼女の手を掴み──イクサは改めて宣言する。
「──どんなに自分がボロボロでも誰かの為に戦える、誰かの為に頑張れてしまう、強く優しいレモンさんだから守るって言ったんです。取り返しましょう、奪われたものを全部ッ!!」
「……そうね。我ながら愚かな問いかけをするところだったわ」
「それで、今後僕達はどうするんですか? 当面は……この廃ホテルが拠点になりそうですけど」
「いずれはクエスターシティからも出るつもりよ。だけど、その前に行かなきゃいけない場所があるの」
「と言うのは?」
「私達は先ず追手から逃げなければならない。でも、それ以上にやらないといけない事がある。逃げながら、やることはきっちりやるの」
全員を見渡した彼女は当面の目標と言わんばかりに告げた。
「──