ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第63話:最悪の”課外授業”

 次の瞬間、ハタタカガチの目が光る。

 オオミカボシの身体の動きが大きく鈍った。

 ”へびにらみ”による麻痺だ。電気タイプでなければ防ぐことができないその魔眼を前に、歯車の星見盤は大きく速度を失うのだった。

 

「ああ、この期に及んでまだ足掻きますか、レモンさん!!」

「足掻く? 追い込まれているのは貴方の方よ、アトム」

「──貴女の周りにはもう、何も無いッ!! 頼れる相棒もッ!! ラズとシャインもッ!!」

「ッ……!!」

「仮に勝っても、失ったものは何も帰ってきません!! これ以上戦っても辛いだけですよレモンさん!! 私に屈し、私のモノになりなさァい!!」

 

 ラスターカノンが生徒会室を焼き払う。

 辺り構わず、周囲の風紀委員も生徒会役員達も薙ぎ払う勢いだ。

 そんな中、レモンは──仁王立ちのまま、動揺の色一つ見せずに微笑んで見せる。

 

「ほう、大した自信……一体何が貴女をそこまで奮い立たせるのです!?」

「貴方こそ分かってないのね? ……親友も、後輩も……可愛い騎士(ナイト)君も居るわよ。何より今此処に、ハタタカガチもね!!」

「ッ……!!」

 

 紫電が舞い踊り、鞭のようにハタタカガチがオオミカボシに尻尾を叩きつける。

 その度に”10まんボルト”並みの電力が叩き込まれ、地面から溢れ出る赤熱のエネルギーは自らを電光化させることで全て躱してみせる。

 此処まで両者オーライズ無し。有利なのは決定打が存在するオオミカボシのはずだった。

 しかし、レモンが覚醒した事により、既にハタタカガチは本来のスペック以上の力を出すことが出来ており、速度も火力も、この時点でのオーデータポケモン最強と言えた。

 

「ただ、机の上で仕事してたんじゃあないわよ!! 貴方のしたり顔をブッ潰す為に──きっちりと特訓はしたんだから。オーデータポケモンのスペックに胡坐を掻いている貴方と一緒にしてもらったら困る!!」

「成程成程──追いつきますか、オオミカボシに!! やはりレモンさん、貴女は私が唯一認める、至上の星!! 貴女は私の傍で輝くのが相応しいッ!!」

「お断りするわ。騎士(ナイト)は間に合ってるの……あんたの隣なんて真っ平ゴメンよ」

 

(何とでも。力づくでも貴女をモノにしてみましょう!! 全てのオーデータポケモンと学園の全てを掌握した暁には……貴女を妃として迎え入れる事で、私の絶対王権は完成するのですッ!!)

 

「ポケモンは愚か、人間すら自分の踏み台としか思っていないようなあんたに、王の資格なんて無い!! 人の上に立つ資格なんて無い!!」

 

 電撃を纏った刺突が、オオミカボシを穿つ、穿つ、穿つ、穿つ。

 プラズマ部分を打ち消し、硬い歯車を砕き、そしてその全てを跳ね返す。

 並みのポケモンならば、この猛攻だけで既に何度も瀕死に追い込まれている勢いだ。

 だがしかし、それでも──オオミカボシは倒れない。不気味に歯車を回しながら、ハタタカガチに迫る。

 瞬間移動能力こそ失われたものの、それでも対等にハタタカガチと渡り合えている。

 

「此処はスカッシュ・アカデミア、勝者は全てを手にし、敗者は全てを失う場所ですよ。貴女とて例外ではありません」

「──じゃあ全てを失うのはあんたの方ね、アトム!!」

「貴女が全てを失った暁には……私が拾い上げ、全てを与えましょう。未来のクラウングループCEOの隣に立つ権利をね」

 

 アトムのオージュエルが光り輝く。

 それを受けて、オオミカボシの身体が鎧に纏われていく。

 

 

 

「──ギガオーライズ」

 

 

 

 忙しなく歯車が回り、オオミカボシの背後にある星見盤から星雲が溢れて漏れ出す。

 ギガオーライズ。それは、強化されたオージュエルによって、自らの力の限界を超克したオーライズを指す。

 通常のオーライズのように他のポケモンの力を借りない代わりに、既存の技を超えた強力なオオワザを使用することが出来る。

 グローリオのベトベトンは毒の効かないポケモンをも毒にする腐食のオオワザで猛威を振るっていたが、オーデータポケモンのオオワザは通常のポケモンのそれよりも遥かに常識を度外視したものであることは想像に難くない。

 レモンは、このタイミングでオーライズを切り、勝負を決めに掛かる。

 

「──それならこちらも──オーライズ”ウインディ”!!」

 

 オオミカボシのタイプは鋼タイプであることは確実。ならば、炎タイプのウインディで燃やせば良い。

 今更”だいちのちから”など当たりはしない。この一撃で全てを灰燼へと還す。

 

 

 

「Oワザ──”かえんほうしゃ”!!」

 

 

 

 ぐにゃり、とうねったハタタカガチは灼熱の炎をオオミカボシに吹きかける。

 高温のあまり青くなったそれが、歯車の化身に襲い掛かる。しかし。

 

 

 

「オオワザ──”クロックワーク・リバース”」

 

 

 

【オオミカボシの クロックワーク・リバース】

 

 

 

 思わず身構えるレモン。 

 しかし、何も起こらないまま、炎がオオミカボシを包み込む。 

 歯車の化身は業火に焼かれ、そのまま燃え落ちた──ように見えた。

 

「ッ……な、なにが起こったの……!?」

 

 ──そこに立っていたのは、戦闘開始時のほぼ無傷のオオミカボシだった。ギガオーライズこそ解除はされているが麻痺状態も完治している。

 一方のハタタカガチは──極度にエネルギーを使い果たしたかのように疲弊していく。

 

「簡単ですよ。こっちは少しだけ時計の針を戻し、そちらは時計の針を()()()()()()だけの事」

「意味が分からないわ!! 時間を操ったとでも言うの!?」

「んん、もっと簡単に説明しましょう。これでオオミカボシの体力は全回復。逆に貴女のハタタカガチは、時計の針が進んだことで極度の疲労状態に陥り──ステータスが大幅ダウンした」

「時計の針が進んで疲労状態……まさか、エネルギーを強制的に消費させたってこと……!?」

「その通り!! どんなポケモンも、戦闘の進行に伴うエネルギー消費には勝てませんからね!!」

 

 それが意味するのは、体力が削られた状態で、攻撃も、防御も、特攻も、特防も、素早さも──全てが半減した状態で、全快のオオミカボシと戦わなければならないということだ。

 こと、交代が存在しない決闘というルールに於いてこのオオワザは凶悪無比であった。下がってしまったステータスを元に戻す手段が存在しないのである。

 

(……どのようなポケモンであっても、時間の概念には敵わない。加えて、オオワザに特性が通用しない事も検証済みです。オオミカボシは──無敵なのですよ、レモンさん)

 

「……バカな。時間に干渉する技なんて聞いたことがない!!」

「それがオオミカボシなら可能なんです。それに──時間を巻き戻したことで、オージュエルのクールタイムも──この通り」

 

 余裕の笑みを浮かべたアトム。

 オージュエルは光り輝いていた。通常、一度使用した後はしばらくクールタイムを必要とし、それを無視して使った場合は砕けてしまうオージュエル。

 しかし、アトムのオージュエルはバトル開始時と遜色ない輝きを放っている。つまり、またオーライズが可能であることを意味していた。

 

「じょ、冗談じゃない、これじゃあ幾ら攻撃しても──」

「ええ。またオーライズしてオオワザを使えば元通り。更に、ハタタカガチは弱っていく。あれだけ全力で動いたんです。体内に貯蔵されていたオシアス磁気もそろそろ限界では?」

「う、動いてハタタカガチ!! 捉えられる──」

「残念ですが、これでお終いです」

 

 地面が赫熱していく。

 さっきまでは避けられた攻撃も、もう避けられなかった。

 

 

 

「”だいちのちから”」

 

 

 

 ハタタカガチはあっさりと撥ね飛ばされ、そのまま力無く倒れ込む。

 せめてもの抵抗か、電気を迸らせて反撃を試みるが、その甲斐なく気絶してしまうのだった。

 

「ハタタカガチ……ッ!!」

「約束ですよ、レモンさん。決闘は私の勝利です。さあ、ハタタカガチのボールを渡して貰いましょう。勿論、風紀委員長としての権限もね」

「……そうね。私の負けよ、アトム」

 

 下卑た笑みを浮かべたアトムは、オオミカボシに目配せした。

 彼女の手元からハタタカガチのボールが浮かび上がり、アトムの手に渡る。

 そして、倒れ込んだ電球蛇にボールの光線を当てる。

 こうして、三大寮最後のオーデータポケモンも、アトムの手中に収められたのだった。

 

「どんな気分ですか? レモンさん。家の宝であるオーデータ・ポケモンを奪われ、風紀委員長としての席も権限も奪われた気分は?」

 

 彼女は目を伏せる。

 完敗だった。

 反則的とも言えるオオミカボシの能力。

 時間を巻き戻し、自身を全快させて相手を徹底的に弱体化させるオオワザ。

 ハタタカガチでなければ、他に勝てる人間もポケモンも居ないのではないかと思わされるような試合だった。

 

「さあて、レモンさん。オーデータポケモンを失った貴女は最早、シトラスの後継者となる資格を失うでしょう」

「……そんな決まり、何処にも無いのだけど」

「いいえ? もうじきにクラウングループが……貴女の家の会社を買収しにかかるでしょう。権威を失った貴女に守れるものはもう何もありません」

「──なっ!?」

 

 レモンの額に汗が流れる。

 シトラスグループが買収──という俄かに信じられない言葉に彼女の顔面は蒼白と化す。

 だが現にクラウングループは既にシトラスグループに買収を持ちかけている最中なのだ、とアトムは語る。

 

「バカな。うちの会社がそう簡単に乗っ取れると思ってるの?」

「この決闘の敗北は……貴女が思っていた以上に高くつきますよ? この決闘は生中継されています。当然、両会社の株主たちにも……ね」

「……まさかあんた」

「ええ。貴女には両親が居ません。今は叔父が社長を継いでいるそうですが、それでも実質的会社のリーダーは貴女。会社の精神的支柱であり、経営にも片足突っ込んでいる。その貴女が私に倒されたということは、シトラスグループの権威の失墜を意味する」

 

 財力も、企業の規模も、国際企業であるクラウングループが上。

 それに加えて権威と武力の象徴であるハタタカガチも破られ、アトムの手に渡った。

 そして継承者であるレモンは今、クラウングループの御曹司であるアトムを前に完全敗北を喫した。

 株主たちがどちらに付くかは明白だった。そうなればシトラスグループが辿る道は1つしかない。

 加えて今のレモンは、生徒会長襲撃犯を匿った疑いも掛けられているのだ。

 

「……シトラスグループは自動的に我々の子会社となる。貴女の守りたかったものはもう、何一つとして無いのですよ、レモンさん」

「……」

「さあ、そうと決まれば私の元に来なさい、レモンさん。全てを失った貴女に、私が全てを与えましょう。全て真っ新から始めるのです」

 

 パチン、とアトムは指を鳴らす。見回すと──風紀委員達がじりじりと近付いてくるのが分かった。

 

「……貴方達まで一体どうしたのよ!?」

「分かりません!! か、身体が勝手に動いて──!!」

「すいません委員長!! 自分達から早く逃げて!!」

「体が独りでに動きますぅ!!」

「……まさか、今の決闘の間に”さいみんじゅつ”を──!!」

 

 レモンは両脇を見やる。ミカルゲとシンボラーが部屋の隅で不気味なオーラを放っている。

 それぞれ、生徒会幹部が従えているポケモンだ。

 余程催眠が強力なのか、風紀委員達は意識こそあるものの、既に身体が独りでに動いてしまう状態に陥っているようだった。

 

「あらら、ゴメン遊ばせ!! これでもう、貴女の私兵は私達のもの」

「ふぁあ、眠いからさっさと終わらせたいんだよねえ。捕まってくれないかなあ、会長のお嫁さん」

「ッ……悪いけど、このまま無抵抗で捕まる私じゃない」

 

 ボールを取り出そうとしたレモン。

 しかし、残るボールも──オオミカボシの目が光ると共に、アトムの手元へ吸い寄せられてしまう。

 

「ちょっと! 何するのよ、私のポケモンを返しなさい! その子達は決闘の賭けとは関係ないでしょう!?」

「いけませんねぇ、決闘が終わったのにポケモンで抵抗してくれては……」

「話が違うわ! ハタタカガチと私の権限を奪うって話だったはず──」

「ええ、その通り。だから()()()()()()()()ですよ。決闘が終わった後に、他のポケモンで抵抗しようとした者は──ボールを全て没収する……なんてのはどうでしょう」

「ッ……そんな」

 

 かたかた、と揺れるレモンのモンスターボール達。

 しかし、既にオオミカボシの念動力によってボールの開閉機能自体が封じられてしまっていた。

 レモンにはもう打つ手がない。

 

「貴女には自由意志で私に屈服してほしいですからね、レモンさん。貴女には催眠をかけないでおいてあげますよ。その前に、可愛い部下たちに組み伏せられると思いますが」

「……舐めるんじゃ、ないわよッ!!」

 

 飛び掛かってくる部下たちに──「ごめんなさい」と一言告げると、腕を掴み、地面に投げていく。

 幾ら彼らが束になっても、レモンを抑えることができない。

 何故なら彼らに護身術を教えたのは他でもない彼女なのだから。

 人の塊を飛び越えて──彼女は生徒会室を飛び出した。

 

「逃げるんですかァ、レモンさん!! 何処にも逃げ場はありませんよ!!」

 

 彼女は屋上へ続く階段を駆け上がる。

 下の階には生徒会の面々でいっぱいだ。どの道逃げられない。

 生徒会役員達と、そのポケモンも後から追ってくる。

 そして彼女は迷うことなく──屋上の柵を飛び越えた。

 

「なッ──よしなさい!! バカな真似は──ッ!!」

 

(バカな真似? 私が無策で飛び出したとでも思ってるの?)

 

 彼女は──背面飛びでそのまま飛び降りる。

 シンボラーが彼女を捕まえに向かうが──その前に何かが高速でレモンを掻っ攫っていく。 

 そして、目にも留まらぬ速度で、そのまま何処かへと飛んで消えていくのだった。 

 レモンが飛び降りたことに動揺したアトムは、オオミカボシを嗾ける事すら出来なかった。

 そして、何処かへ飛んで行った彼女を見送りながらアトムは──面白そうに笑みを浮かべる。

 

「……成程。ゼラですか。確かに彼ならば躊躇なく彼女に協力するでしょう」

「追いますか? 会長」

「……今は良いでしょう。風紀委員長としての権限も手に入ったのです。追うべき相手も分かっている」

 

 罪状は──生徒会長である自分を襲撃した転校生を匿った共犯──と言ったところだろうか。

 そこにゼラも加わっただけの事だ。後はついでに、探偵部の2名も指名手配すれば問題ないだろう。

 

「──報告しますッ!! 風紀委員管轄の地下監獄に立ち入って調べたところ、もぬけの殻!! 転校生に逃げられました!!」

「……それくらいならやるでしょうね、彼女なら」

 

 騒乱に乗じて逃がしたのだろう、とアトムは考える。

 となれば、逃亡者は合計で5名。

 どの道学園都市には居られないので、オシアスの何処かに潜伏しているはずだ、と考える。

 だが、幾らオシアスが広いと言えど、全校生徒という物量に勝てるはずがない。よしんば彼らを振り切ったとしても、彼らが此処から巻き返す術は何処にも無い。

 イクサは学園を追われれば根無し草。レモンは手持ちも全て奪った後。強いて言うならばゼラ、バジル、デジーの3人が不安要素だが、戦況を大きくひっくり返す要因にはなり得ないとアトムは考える。

 折角、この学園の全てを掌握したのだ。アトムは、じっくりと楽しむことにした。

 

(まあ良い、私には時間が幾らでもあるのです。そして……力も、権威も)

 

 

 

「それでは、()()()()を始めましょう!! テーマは──”犯人探し”! 逃亡者達を捕まえた者に、生徒会長であるこの私から褒美を与えましょう!!」

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