ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第60話:終幕

 ※※※

 

 

 

「俺の10年は……何だったんだぁ、オクターヴ」

「……」

「目が醒めたようだ……何がいけなかったんだ……何処で間違えた、俺は……」

 

 

 

 連行される中、譫言のようにフォルテは言っていた。

 そんな彼の肩を叩き──オクターヴは頷く。

 

「お前さんなら、編曲くらい牢獄ン中でも出来るだろィ。大丈夫だァ、音が合ってるかどうかは俺が足げく通って確かめてやるよゥ」

「……頼む」

 

 フルスコア・レコードによって、情状酌量の余地はあるかもしれない。

 だが、それだけだ。フォルテの重罪は避けられないだろう。だがそれでも──オクターヴは、親友に多くを語らず見送った。

 

 

 

「……あばよゥ、ダチ公ォ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──結論から言えば、後に残るのは巨大な女神像と、へしゃげてもう二度と動かないレコードプレイヤーだけだった。

 そして、ずっとカクレオンに拘束されていたフォルテはあっさりと捕まり、その他彼の信者たちもあっさりと逮捕されていったという。

 しばし事後処理に時間こそかかったものの、メロディーレインは復興と共に音楽祭の準備を進めていった。そして──

 

 

 

「──皆さんっ! 今日は来てくださり、本当に、本当にっ、ありがとうございますっ!」

「ららるー♪」

「今日、こうして音楽祭を開くことが出来たのは、他でもない皆さんのおかげですっ! メロディーレインの永遠の平和を祈り──精一杯の歌を捧げようと思います!」

「らららー♪」

 

 

 

 ──来るべき本番の日がやってきたのである。

 毎年会場を変える音楽祭だが、今年は海辺に出来た新しいドームでの公演となった。

 有名なオーケストラ団体や、楽器の使い手、歌手が自らの演奏や歌を披露していく中、最後は聖女であるフィーナとメロエッタのデュオで締められる。

 ボイスフォルムとステップフォルムを使い分けながら、華麗に舞い踊り、歌うメロエッタ。

 それに合わせて、思いっきり笑顔で歌うフィーナ。

 その間、彼女はずっとずっと楽しそうで──全てが終わった時には、惜しみない拍手が送られたのだった。

 

「うっ、ぐすっ、ひぐっ、ふぃーなぁぁぁーッ!! 良かったよぉぉぉ、うっうっ」

「すっかり限界オタクになってるな、デジー……」

「そりゃああれだけ守ってたんデスから当然と言えば当然デスね」

「無事に終わったわね、音楽祭。一時は町の危機だったってのがウソみたいよ」

「終わりよければ、総て良し、デース!」

「ん」

「ぱもーぱもぱも」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──イクサ達の帰国の日がやってきた。

 空港には、フィーナとオクターヴが見送りにやってきていた。勿論、メロエッタも一緒だ。

 

「……あの後、メロエッタに自分の力の事……今まで守ってもらっていたことを教えて貰ったんです」

「ららるー♪」

「だが、フィーナちゃんの歌声はァ……使い方を間違えなけりゃあ、良い力になるゥ。俺ァ……柄にもなくビビってたのかもしれねェなァ」

「私、もう少しアイドルを続けようと思います。自分の力を自分でコントロールできるようになるまでは」

「うん……応援してるよ、フィーナ」

 

 彼女は──あれから少しだけ前向きになれたらしい。

 自分の力を知り、そしてメロエッタの真意も知ることが出来た今、漸く彼女は”聖女”として1つの地点に辿り着けた。

 

「フルスコア・レコードはウチの国で管理させて貰って良いのかィ、嬢ちゃん」

「ええ、オーパーツには悪いけど……下手したら独りでに直ってるような代物だもの。金輪際、人の手に触れないようにしてもらって頂戴」

「任されたぜィ。フォルテみてえなヤツが二度と出ねえように……な」

 

 あれだけ破壊したのに、まだ復活する余地があるのがオーパーツ、ないしオーデータ・ポケモンの恐ろしい所である。結局の所、今回もあくまでも機能停止に追い込んだに過ぎないのだろう。改めて、オーデータの底知れなさを感じたイクサだった。

 

(フィーナさんとメロエッタの歌声、町の皆のコーラス、あれがあって初めてまともに戦える相手だった……今思っても1対1で勝てるような奴じゃなかったよ、本当に……)

 

「……もう行ってしまわれるのですね」

「いやー、ボク達学園に……寮に帰らなきゃだからさっ」

「スカッシュ・アカデミア……なかなか楽しそうな場所です。いつか私も行ってみたいものですね」

「あー……オススメはしないかな。ね、転校生」

「……そうだねぇ」

「えーっ!? 何でそんな事言うんですか、酷いですっ!!」

「聖女様はそのままで居てっ! ね!?」

「ハハハ、違いねェなァ! お前さん達も頑張れやァ!!」

 

 聖女様には少々、スカッシュ・アカデミアの治安は刺激が強すぎる。 

 もし会うならば、またこの国を訪れた時になるだろう。

 そっくりさん二人は手を握り締める。いつかの再会を誓って。

 

「忘れられない旅行になったわね……」

「そりゃあ、忘れられないでしょうよ、レモンさん」

「まあ、何だかんだ言っても楽しかったから良かったじゃないデスか!」

「旅先で入院するのはこれっきりにしてほしいなあ……」

「ヘッ、お前らなら大歓迎だぜィ。またいつでも、音楽の国に来てくれやァ」

「……はいっ」

「ららるー♪」

 

 くるくると舞いながら、歌うメロエッタ。

 5人を送り出す為に祝福をするかのようだった。

 空港は、彼女の歌に包まれ──何処か幸せな空気に包まれている。

 彼らは搭乗口に乗り込み、またあの騒がしい学園へと戻っていくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ところでさー」

 

 

 

 隣の席に座っていたデジーが、ひそひそとイクサに話しかけてくる。

 今回の功労者なので、席の配置は彼女の希望に合わせてやったのだ。

 それでも起きている間はずっとレモンが目を光らせていたのだが、疲れもあったのか寝てしまったようだった。

 それを好機と見たデジーは、イクサの腕を掴んでぐいぐいといつも通り胸に押し付けながら切り出した。

 顔はすっかりいつものイタズラっ子のようになっていた。

 

「何だよデジー」

「ぱもぉ」

「……転校生、ボクにチューしたでしょ?」

「!?」

 

 イクサはぎょっとしてデジーの顔を見やる。覚えていたのか、と言わんばかりに目を向けると、彼女は笑みを浮かべた。

 

「覚えてないとか思ってた? 残念、ぼんやりだけど意識はあったんだよね、あの時」

「……レモンさんには黙っててくれると助かるんだけど」

「えー、別にボクは知られても良いけど? レモン先輩が嫉妬するところ見たーい♪」

「良い性格してるよ、本当に……」

「でしょー、褒め言葉ー♪」

 

 ──彼女はイクサの耳元で囁いた。

 

 

 

「……ありがと、また助けてくれて」

 

 

 

 振り向いた時には切なそうな笑みだった。虚勢を張っていたようだった。やはり、捕まっていた間は少なからず彼女も怖かったようだった。

 

「正直……だーれも助けに来ないんじゃないかって思ってさ。それも覚悟してたのに……」

「……デジー」

「なーんてねっ! 天才ウサギのボクに、怖い物なんて──」

「ダメだよ、怖いのを誤魔化したら」

「ッ……ごめん」

 

 ぎゅう、とデジーはイクサの手を握る。無意識だった。すっかり彼の隣が安心できる場所になりつつあった。彼女は──楽譜を手に取った時のことを思い出す。

 自分が自分ではなくなってしまうような感覚。そして、内から湧き出る止まらない破壊衝動。その全てに彼女は恐怖を覚えていた。

 

「……あの楽譜を握った途端、止まらなくなってさ……ボクが皆も、メロディーレインも全部壊しちゃうんじゃないかって……」

「でも、そうはならなかった……だろ?」

「……そうだねっ」

 

 デジーはもう一度、屈託のない笑みで返す。メロディーレインの崩壊は防がれた。仲間も全員無事だ。結果的には──全てが丸く収まったのである。

 

「でも、レモン先輩を口説いてるのに、ボクにまで手を出しちゃうのはどうかと思うなあボク」

「他に手が無かったんだよ、人聞きの悪いこと言わないでくれよ」

「えー? でも、ボクは二番目でも良いけどねー?」

 

 小悪魔が誘惑するような態度で「2番目でも良いよ」と囁くデジー。何処までが本気なのか、これに関してはイクサは分からなかった。

 きっと、本気にしてはいけないのだろうと思う。切に。彼女を相手にしていると、しょっちゅう理性が危なくなるのだ。

 

「……揶揄うなら、この話はもうやめだぞ。レモンさんを起こしてくる」

「あーあー、ゴメンってば! レモン先輩起こすのだけはやめて!」

 

 立ち上がろうとするイクサを、引っ張って止めるデジー。涙目になりながら、彼女は一番伝えたかったことを彼に言う事にしたのだった。このままでは、レモンを起こされて、折角の二人きりの時間自体が終わってしまう。

 

 

 

「……ね、転校生。転校生がまた困ったことがあったら、何でもボクに言ってよ。ボクが何とかしてあげるっ」

 

 

 

 だが、次に飛び出たその言葉は、きっと本気だったのだろうと思う。

 以前なら──その言葉にも「本当?」と疑い混じりで返していたところだ。

 だが、今なら断言できる。彼女はつまらない嘘は吐かない。

 

「ああ、その時はよろしく頼むよ。でも、今回みたいな無茶はしないでよ、心臓に悪い」

「……へーえ、やっぱりボクのこと大事に思ってくれるんだぁ♪」

「そうだよ。だから、簡単に身を投げてほしくないって思ってる」

「ッ……」

「君はもう、僕らの仲間なんだから……ってデジー?」

 

 ぷしゅー、と湯気が出たように彼女の頬は沸騰する。デジーの顔が真っ赤だったのは、きっと日焼けの所為だけではない。イクサの顔を直視することが出来ない。

 

 

 

「……う、うん。気を付ける」

 

 

 

 ぷい、と顔を逸らしながら彼女は答えた。そうして、そっぽを向いてしまう。不意打ちには何処までも弱いウサギさんなのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──寮のメンテナンスが明け、また普段通りの夏休みが戻ってきた。

 二週間も経てば皆、あの一夏の旅行が嘘だったように思えてくる。

 

「それで? 風紀委員長室を避暑地にするのはやめなさいな」

「聞いてよ、レモン先輩ーっ! 転校生ったら酷いんだよ! タギングルに”でんきだま”持たせて、ボクのミミロップにぶん投げてきたの!」

「ぶきようすりかえしてくるヤツには酷いだの何だの言われたくないし、結局君の勝ちだったじゃないか」

 

 丁度いつものバトルを終えて帰ってきた二人に、怪訝そうな目を向けた。夏休みの風紀委員長室は、すっかり推薦組の溜まり場になりつつあった。きっとバジルは今日も今日とて事件を探し回っているのだろう。

 

「ああそれ、イクサ君に”でんきだま”渡したの私」

「ひっどーいっ!! 戦犯だ! 戦犯が居るよ!」

「悔しいなら電気タイプのポケモンの一匹でも育てなさいな」

「あのー、二人ともそれくらいで……」

「ねえ、転校生ボコボコにしたいんだけど、何か良い感じの電気ポケモン居ない、レモン先輩?」

「貴女の手持ちならロトムがオススメよ、電子レンジが必要だけど」

「乗った! さっすがレモン先輩っ、電気タイプのエキスパート!」

「褒め過ぎよ」

 

(あっ、変なところで結束しちゃった!!)

 

 ぎらり、とレモンとデジーが揃って好戦的な視線をイクサに向けてくる。この二人もこの二人で、あの戦いの後また仲良くなったような気がする。

 今までならば言い争っていたような場面で、このように互いが譲歩し、協力するようになったのだ。

 そして時折、両方共イクサを──獲物を前にした猛獣のような目で見てくるのである。

 

(転校生には、もっと強くなってボクの玩具になってもらうもんね……!!)

 

(貴女には、もっと強くなってもらわないと困るのよ、いずれ私と決闘するんでしょ?)

 

(一緒に転校生を育成しようよ、レモン先輩。恋もバトルも、共闘すべき時は共闘しなきゃ)

 

(ええ。やるなら徹底的にやりましょう)

 

「あの、仲良くなるのは良いんですけど……何か怖いですよ?」

 

 バトルマニアの女子二人から、すっと距離を取る。

 しかし、すぐさまデジーがイクサの腕に飛びつくのだった。

 

「って、デジー!?」

「逃がさないもんっ! にっししし」

「……ちょっと。風紀が乱れてるわよ」

「えっへへ、ご飯を食べに行くから転校生はもう少し借りていくよ、レモン先輩っ。それとも……一緒に食べる?」

「……仕方ないわね」

「皆さーん!! これを見てくだサーイ!!」

 

 そう言ってる間に、どたどたと音を立ててバジルが走ってくる。思わぬ乱入者に顔を膨らませるデジーだったが、タブレットロトムに映った映像を見て目を丸くする。丁度メロディーレインの特集をしているのだ。

 

「あっ、すごい! フィーナ、頑張ってるかな……」

 

 

 

 ※※※

 

 

  

 ──皆さん、お元気ですか。私は相変わらず歌を唄っています。少しだけ、能力の制御も出来るようになってきました。

 

 

 ──復興作業が進み、メロディーレインは徐々に元の姿に戻りつつあります。これで済んだのはきっと、デジーさんのおかげです。本当にありがとうございます。

 

 

 

 ──アイドルの活動も、少しずつ楽しくなってきました。メロエッタとも、あれからずっと二人三脚でやっています。

 

 

 

 ──そんな私は最近、新しい挑戦をすることになりました。と言うのも──

 

 

 

『いんやァー、次の流行りは巨大ロボットに乗るアイドルかなってェ……これはバズっちゃうんじゃねえのってオジサン思っちゃったワァケよ……』

 

 

 

 ──信じ難いと思いますが重機の上で歌って踊ることになりました……助けてください……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「な……何コレ……」

 

 

 

 そこに映されていたのは──リペイントされた例の巨大重機(メロディーバ)であった。

 そして、その頭頂部で歌うフィーナとメロエッタの姿が大々的に放映されている。

 どうやらあの後、処理に困ったメロディーバを改造し、アイドルのお立ち台として新たなメロディーレインのシンボルとしたらしい。どうしてこうなった。

 イクサとデジーは顔を見合わせる。

 

「……ねえ、転校生。メロディーレインに戻って即刻これやめさせる?」

「いや、もう無理でしょコレ……バズっちゃった後だよ、今更路線変更できないよ、ガードレール突き破った後だよ」

「何でロボットに乗るの? 何でアイドルとロボットなのかしら。私、理解が追い付かないのだけど……」

「これ、どうするデス? フィーナ、絶対に困惑してるデスよ……」

 

 折角綺麗に終わったと思ったのに、また新たな問題が浮上してしまっている。

 アイドルの道のりは険しい、何処までも。正直、此処に来てイクサ達にはどうすることもできない。

 

「ま、まあ、元気そうにやってるから、いっか!! アイドル頑張ってるみたいで僕も安心したよ!! これでメロディーレインは安泰だね!!」

「そうだね!! ご飯を食べに行こう!! うん……お腹空いたし!!」

「新しい事に挑戦するのは良いことデスね!! 私も折角だし、新しい趣味に挑戦してみまショウ! そ、そう……人間チャレンジが大事デスよね……うん」

「ええ、そうね……そういうことにしておきましょう」

 

 ──音の聖女・フィーナ。

 彼女は、歴代で最も人々から愛された聖女として、そして完璧で究極の歌姫としてメロディーレインの歴史に刻まれることになる。

 だが、それはそれとして本人の意思に反し、重機の上でポケモンと歌って踊るアイドルとして一躍バズの波にも乗ることになる。永遠に人々の記憶には刻まれたので良し。良しということにする。

 

 

 

(改めて、ポケモン型重機ってものを生み出したスカッシュ・アカデミアって罪深いんじゃ……)

 

 

 

 技術者として、切に感じるデジーであった。アカデミアの闇は今日も深い。

 

 

 

 ──第肆章「幻奏異聞・メロディーレイン」(完)

 

 

 

 ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?

 

▶はい

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