ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第56話:フルスコア・レコード

 周囲のポケモンも人間が倒れ、呻いている。外傷はないが、皆苦しんでいるようだった。

 この事象がウタノウズメによって起こされたことは言うまでも無かった。

 オーデータポケモンの力は、元となったそれを上回り、更に変質してしまっている。

 そして、その特性によってステータスも上昇している上に、1匹1匹が特殊能力を持つため、非常に油断ならない。

 無論、目の前にいる機械の歌姫も例外ではない。

 

「……気を付けてイクサ君。外に居た二人からの報告がないってことは手練れよ、コイツ」

「外に居た二人? それはコイツ等の事か?」

 

 エントランスに押し入ってきたメタグロスが、何かを雑に放り投げた。

 それは、傷だらけで気を失ったゼラとバジルだった。二人は血相を変える。相当手酷くやられたようだった。

 

「Sorry……イクサ、こいつらヤバいデス……」

「無念……」

「ゼラ先輩、バジル先輩!?」

「ッ……二人をやったのね。あっという間に……!!」

「お前達も直にこうなる。やれやれ、ウタノウズメがもう少し早く完成していれば不甲斐ない部下共を向かわせることも無かったのに。俺は一刻も早く、計画を完成させたいのに!!」

 

 何かを思い返すように言ったフォルテは心底厭そうに言った。

 

「それにしても、本当に不甲斐ない部下共だった。うん……あまりにも不甲斐ないので、マイクロバスは()()()()()()()()、郊外に捨ててきてやったよ。実に破壊的だろう!! 今頃、スクラップになったバスの中でおねんねしているだろうよ」

「……こいつ……仮にも部下相手に」

「俺が破壊(創生)する新時代に、足を引っ張る奴らは要らん。ノイズは邪魔だ。編曲は静かに限るよ」

「御託はもう良い──パモ様、行くよ!!」

「ハタタカガチ!! 速攻で片付けなさい!!」

 

 自身の身体を電気に変化させ、真っ先にフォルテに飛び掛かるハタタカガチ。

 しかし、常に歌い続けているウタノウズメを前にして、攻撃が出来なくなってしまう。

 続けてその後ろから”マッハパンチ”を繰り出そうとするパーモットだったが、こちらも音が耳に入るなり、気力を失ったように立ち止まってしまうのだった。

 

「ッ……どうしたの!? ハタタカガチ!?」

「パモ様、パモ様!? しっかりして!!」

「既にお前達は、ウタノウズメの特殊能力に掛かっている。ウタノウズメは、この世全ての音、歌を記録し、それを引き出す事が出来る──それらの波長を組み合わせれば、こうしてポケモンの戦意を奪うくらい容易い。人間には、効き目が出るまで少々時間が掛かるがね──ッ!!」

 

 イクサは次のボールを取り出そうとする。

 しかし、手が動かない。これ以上動けない。次のポケモンが出せない。気力が奪われ、手を床についてしまう。

 隣のレモンも、既に立てなくなっていた。

 フォルテ以外のこの場の全員が、ウタノウズメを前に攻撃することも立ち向かう気力すらも持てない。

 あのハタタカガチでさえも、戦意を失ってしまっている。

 それほどまでに絶対的で服従的な力なのだ。

 

「さあて、お前達にはたっぷりジャマされたからな……しっかりとお仕置きしておこう」

「や、やめろ──ッ!!」

 

(動け、動け指……ッ!! パモ様……頼むッ……!!)

 

「ウタノウズメ──”サイコキネシス”!!」

 

 ハタタカガチの身体が持ち上がった。

 そして、その巨体はレモン目掛けて一気にぶん投げられた。

 パーモットも、イクサも、それを止めることは叶わず。

 彼女の華奢な身体を、電球蛇が押し潰した。更にそこに──追撃と言わんばかりに念動弾が幾つも撃ちこまれる。

 爆発。そして、辺りのものを吹き飛ばした。

 

 

 

「──ッ!!」

 

 

 

 避ける力など無かった。

 ハタタカガチはこの一撃で機能停止し、レモンも気を失ったまま下敷きになっている。

 

「さあ、次はどいつだ? 聖女様の居場所を言うなら、さっさと帰ってやってもいいのだが」

「それ以上、近付くな」

「……!!」

 

 かき鳴らされる失望と絶望のメロディの中。

 激昂した少年と、パーモットがフォルテを睨み付けていた。

 レモンが傷つけられたことは、彼の中で彼が思っていた以上の地雷だった。

 目は血走っていた。唇は既に渇いており、喉は焼けつくようだ。

 

「それ以上……近付くなと言った」

「──ぱもーぱもももっ!!」

「ほう? この楽章を聴いても尚、立とうとするか。だが──無駄だ」

 

 周囲の壊れた椅子やテーブルが持ち上がり──イクサとパーモットに降りかかる。

 

 

 

 ゴシャッ!!

 

 

 

 頭部からそれを受けたイクサは倒れ込み、パーモットも昏倒してしまう。

 少年は薄れゆく意識の中、自分の頭から生温いものが溢れていることに気付いた。

 手で触れると、真っ赤に染まっていた。

 

「く、くそぉっ……!!」

「やめろぉ、フォルテェ!! ガキ共ァ無関係だァ!! 手ェ出すなァ!!」

「無関係なわけがないだろう、オクターヴ。お前がこいつらを見込んで護衛に回したのは知っている。俺の編曲を邪魔する者は、誰であろうが許さない」

 

 念動弾がオクターヴに向かって放たれる。

 何度か、ずどん、ずどん、と大砲でも撃ちこんだような音が響くと──彼は動かなくなり、そのまま地面に倒れ伏せた。

 

「……他愛もない。だが、この程度ではまだ俺の書いた破壊的旋律には及ばない。さあ、可愛いウズメよ。聖女が見つかるまで、破壊の限りを尽くそうではないか!!」

 

 

 

「──やめなさい!!」

 

 

 

 飛び出して来たのは──アイドル姿の聖女だった。

 彼女は、周囲を見回し思わず口を手で押さえる。イクサも、レモンも、オクターヴも、そしてポケモン達も、皆為す術なく倒れていた。

 イクサに至っては周囲に赤い沼が広がっている。

 

(皆──ッ!! ウソでしょ──!?)

 

 しかし、動揺を此処で見せはしない。戦って勝てる相手ではない。ならば、被害をこれ以上減らすことに尽力するまで。

 失望の音は鳴りやんだ。聖女は一歩、また一歩とフォルテに近付いていく。

 

「……貴方に協力します。どうか、この方たちは助けてください」

「良い子だ。実に良い子だ!! さあ、来い」

「ダメだ、行っちゃダメだ……ッ!!」

 

 薄っすら意識が残っていたイクサは、手を伸ばす。だが、頭部に受けたダメージは大きく、そのまま彼は意識を手放してしまうのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「やっほ、転校生っ」

「……まーた、寝床に潜り込んできたのか、このいたずらウサギは」

「えっへへへ」

 

 ──これはいつ頃の事だっただろうか。

 丁度、旅行の直前だったかもしれない。

 

「良いじゃん、役得を享受しなよ。元はと言えばボクの所為で屋根なし生活なんだし、責任を感じているのですっ」

「僕を決闘で寮から追い出したのは生徒会からの指示で、君の判断じゃないだろ?」

「まあ、そうだけど……」

 

 ぶぅ、とデジーは頬を膨らませる。色仕掛けではなかなか靡かないのだ、この男は。

 

「そも、あの会長が何で僕を寮から追い出したのか未だに分からない。ゲームの為って言ってたけど何にも関係無かったじゃないか」

「そうだねえ、会長はウソ吐きでペテン師だから、()()()()()()とか信用しない方が良いよ。案外、レモン先輩のお気に入りである君に痛い目見せてあげたかっただけかもだよ? 」

「……そんなバカな」

「さーて、そんなわけだから早くがっこー行こう!」

「……あのなぁ、今は夏休みじゃないか、もう少し寝てたって良いだろ」

「ありゃりゃ、寝ぼけていても転校生は騙されなかったか」

「僕は寝るからね。変な事しないでよ」

「……」

「もう今更追い出したりしないから……一緒に寝たいならご自由にどうぞ。……ふぁーあ……」

「添い寝オーケー貰っちゃったーっ!」

「うるさいよ……寝るなら静かに……」

 

 イクサが完全に寝入ったのを見て──彼女も横たわった。その間、ずっと大好きな彼の顔を見つめていた。

 そのうち、きっとこの顔はいつか、あの完璧な寮長のものになるんだろうな、と思うと切ない気持ちが込み上げて来る。

 

(分かってるよ。分かってる。転校生がレモン先輩のこと好きなことくらい)

 

 その気持ちが曲げようもないことも、スタートの時点でとっくに負けていたこともデジーは察していた。

 

(君の事を本気で獲りに行きたい。それは本当だ。でも、同じくらい──きっとレモン先輩の事も大好きなんだ、ボク。だから、あの人が悲しむ顔は見たくない……どうしたら良いのかな)

 

 面と向かって本人には言えないけどね、と彼女は苦笑する。一度捨てられた身である自分を拾ってくれた彼女には、今となっては感謝してもしきれない。

 そして、浜辺で見たあの切ない顔を今でもデジーは忘れられない。やった事の重さを改めて思い知らされた。

 故にデジーは決めた。贖罪ではない。これはきっと──覚悟だ。

 

(もしも二人が傷つけられるようなことがあったら、ボクは迷いなく身体を張れるよ。そのときは……)

 

 

 

「……ボクの事を、ちゃんと見ていてほしいな」

 

 

 

 きっと彼には聞こえていない。だが、それで良かった。デジーは微笑みながら、イクサの頬を突っついた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……あっ、ぐぅっ……痛っ……!!」

「起きたかしら」

「──ッ!」

 

 空は明るかった。目を覚ました頃には、既に次の日の朝になっていた。

 薄暗い病室の中、先に目が醒めたであろうレモンが反対側のベッドから話しかけてくる。 

 朧げな頭で何があったかを思い出す。敵の黒幕・フォルテが来襲し、為す術無く倒されたのだ。

 そして、白い天井を見ながら大方何があったのかを察する。自分達は病院に担ぎ込まれ、そのまま病室で一夜を明かしたのだと。

 

「……レモンさん、怪我は……」

「心配しないで。貴方も知ってるでしょう? 多少のケガはポケモンの力で何とかなるのよ、この世界は」

「……でも、ハタタカガチに押し潰されて……」

「貴方の方こそ頭から血をびゅーびゅーだして大変な事になってたみたいよ」

 

 頭の包帯が全てを物語っていた。当たり所が悪ければ死んでいたらしいので、寒気がした。

 

「……ごめんなさい、レモンさん。聖女様が……」

「私こそ、ハタタカガチでも対応できない敵が現れるのは予想外だったもの。お互い様よ」

 

 あの歌を聞いた途端、戦意も気力も全て奪われて無防備になってしまった。あの技の対抗法を練らない限り、まともに勝負すらならない。

 しかし、遠巻きにでも聞こえてきたので、きっと耳栓程度では無効化できないだろう、とイクサは考える。耳からだけではない。体全部を震動として揺さぶっているのだ。

 

「それにしても、オーデータポケモンがメロディーレインに居るなんて……」

「フルスコア・レコード……だったかしら。オシアスに伝わるウワサの1つで、ありとあらゆる音を出せるレコードプレーヤー。実在したなんてね」

「……何ですかそれ。一体どんな原理で……」

「さあね。聞いた話によると、読み取るのはレコード盤ではなく、この星に刻まれた音楽の記憶……らしいわよ」

 

 猶更意味が分からなかった。

 だが、そのオーパーツ自体が森羅万象の記憶を読み取ることが出来る時点で、恐ろしい代物であることは確かだった。

 そういえば、とイクサは思い出す。原初よりありとあらゆる事象や感情、音、光、情念が世界に記憶されているという概念──「アカシック・レコード」を。

 この「フルスコア・レコード」は、その概念を前提としたオーパーツなのだろう、と考える。

 

(つまるところ逆説的にアカシック・レコード概念を証明するオーパーツってことか……!)

 

「それよりも、事態はもっと面倒くさい事になっているの」

「面倒くさい事? 聖女様が連れ去られた時点で、既に大変なことになってると思うんですけど」

「そうデス!! 良い話と悪い話、どっちから聞きたいデス!?」

「バジル先輩……元気そうですね……」

 

 レモンの隣のベッドから声が聞こえてくる。どうやらバジルとゼラも此処に担がれてきたらしい。彼女達はどうも比較的軽傷で済んだらしく、すっかり元気に喋れるようだった。

 それほどまでに、この世界の医療技術は高い。メディカルマシンや、ポケモンによる回復技で軽い傷ならばすぐに再生するからだ。

 

「……良い話から聞きます」

「えーと、郊外に捨てられてたマイクロバスが見つかって、その中から例の運転手とシャープさんが発見されたデス。バス諸共落とされたけど、命に別状はないようデスよ!」

「じゃあ、敵の事も聞けるってことですよね。何か分かったんですか?」

「ええ。どうやら彼らは、フォルテが今まで稼いだ金で組織した一種の音楽宗教団体。信者は世界中に散らばっていて、貢がせたお金でデカい事企んでるみたいデスよ」

「デカい事……それが、メロディーレインの崩壊か」

「Yes! その詳細までは知らされなかったみたいデスけどね……聖女様の”悪魔の歌声”を利用するつもりなのは確かデス」

 

 所詮、あの運転手もシャープも使い捨ての駒でしかなかったのだろうと考えると切ないものがある。実働部隊とはえてしてそういうものなのだ。

 

「シャープさんは元々とあるオーケストラの一員だったらしいんデスけど、実力不足で追い出されてしまって……それから、フォルテの信者になってしまったみたいデス」

「そんな感じの人が沢山居るんでしょうね、構成員に。よくある話と言えば、よくある話だけど」

「……で、悪い報せって何なんですか?」

「……それが──」

 

 

 

「──皆さん、おはようございます……ッ!」

 

 

 

 病室が開いた。

 そこに立っていたのは──昨日攫われたはずの聖女、そして絆創膏を顔に貼ったオクターヴだった。

 イクサは目を見開く。確かにあの時、フィーナは目の前でフォルテに自ら付いていったはずだ。これ以上自分達を傷つけさせないために。

 

「え……フィーナ、だよね!? 何で此処に居るの!? 待って、じゃああの時攫われたのは──」

「おーっと、坊主ゥ。お前はまだ聞いていないんだったなァ。他の面子はすぐ目ェ覚ましたから話したんだがァ」

「実は空き部屋に居る時──デジーさんが様子を見に行って戻ってくるなり……」

 

 

 

 ──デジーさん、こんな時パソコンを触ってどうしたんですか!?

 

 ──ちょっと考えがあってね。

 

 ──考えとは……?

 

 ──ごめんね、フィーナ。

 

 ──ど、どうしたんですか、改まって……。

 

 ──悪く思わないでね。レパルダス”でんじは”!!

 

 

 

 こうして抵抗する間もなく身体を麻痺させられてしまったフィーナは、その場から一歩も動けなくなってしまったという。

 その後、身包み全部引ん剝かれて、着替えさせられてしまい、デジーはエントランスへ走っていったらしい。

 

「おいおいウソだろ……!? じゃあ、昨日攫われたのはデジーの方なのか!?」

 

 イクサは思わずベッドを拳で打った。しかし、肩を動かしただけで痛む。

 まだ、身体には念動力を込めた投擲を受けたダメージが残っており、動かせば激しく響く。

 

「あっだだだだぁ!?」

「無理は禁物よ。相当手酷くやられたんだから、私達……」

「それだけじゃないのデスよ……デジーったら、自分の居場所を知らせる為に発信機を自分に仕掛けてたみたいデス……!!」

「ええ。おかげさまで、敵の居場所も分かったの。メロディーレイン北部の沿岸! 敵は海辺に潜んでいたの!」

「じゃあすぐにでも──行かないと──ッ!!」

「その身体でどうするの!? しかも、あのオーデータポケモンへの対抗策もまだ見つかってないのよ!?」

 

 レモンが叫んだ。

 しかし、イクサは居ても立ってもいられなかった。 

 確かに対処法なんて用意などしていない。しかし、このまま引き下がることもできない。

 

「……彼女は本気です。フィーナの身代わりになっただけじゃない。発信機を付けて敵の居場所を知らせることで、”本気で”僕らを勝たせに来てるんです」

「──ッ!」

「今思えば、彼女は……いつだって本気だったんです。イタズラも、バトルも、フィーナを守るって言ってたのも……」

 

 確実に彼の中では、デジーを見直しつつあった。

 あの少女は「やる」と決めたら確実に「やりぬく」。どんな手を使ってでも、ある物を全部、持っているスキルを全部使い、最善手を導き出しに行く。

 自分に迫ってきたのも漸く──「本気」だったのだ、とイクサは気付かされる。

 

(全くもう……言わなきゃ分からないよ……ッ!! 君はいつも肝心なことをひた隠しにするんだから……!!)

 

「だから──彼女の行動を自己犠牲になんてさせません」

「……全くもう。貴方は怪我が酷かったから、置いていくつもりだったのよ」

 

 彼女はベッドから降り──イクサに近付いてくる。インナーの上に上着を羽織り、彼女はイクサの手を取った。

 

 

 

「取り返しに行くわよ。私達の可愛い”いたずらウサギ”をね」

「……はいっ!」

 

 

 

 その様を見て、バジルもゼラに「先輩ーっ! もう起きてるんデスよね!?」と叫んだ。

 むくり、と巨体が起き上がり、こくりと頷いた。

 

 

 

「待ってくださいっ!!」

 

 

 

 叫んだのは──フィーナだった。

 

「……皆さん、本当に行くんですか? 行っちゃダメです……! そのオーデータポケモンってのに皆やられたんですよね……!?」

「それでも、仲間が捕まっているのに行かない理由は無いよ」

「それに、放っておいたら、この町そのものが危なそうだからね。正直、あのオーデータポケモンがこの町の警察の手でどうにかなるとは私には思えないのだけど」

「可愛い後輩が身体を張って敵の居場所を教えてくれたのデス! 無駄にはできまセン!」

「……今度は4人で束になって戦えば良い」

「……ッ」

 

 彼女は理解できないと言わんばかりに歯噛みした。そして、病室の扉を塞ぐように手を広げる。

 

「……今度こそ、皆さん死んでしまいます……!!」

「かもね」

「かもね、って……!!」

「でも、仲間が命を張ってる時に、僕達が戦わなくてどうするのかな。特に──僕は戦うのが役目みたいなもんだしね」

「──何で戦えるんですか!? 皆、怪我をしてるのに……!! 死んじゃうかも、しれないのに……!! 私、分からないです……身代わりになったデジーさんの事も、皆さんの事も!」

 

 フィーナは──泣いていた。

 これ以上、自分の周りで誰かが傷つくのは見たくない。

 付き合いは短かったが、彼らとの交流は忙しい生活の中のオアシスだった。

 だからこそ、失いたくない。

 

「僕は──戦えなくなるような傷を負って、戦えなくなった時があった」

 

 胸を親指で指しながらイクサは言った。

 

「そりゃ戦わなきゃいけない時なんて無い方が良いに決まってるけど……それでも、誰かがやらないといけない時がある」

 

 イクサの瞼に映るのは、イワツノヅチがサンダー寮を襲って来た時、精神がボロボロのまま立ち向かったレモンの姿だった。

 

「──その時に動かなくて後悔したくない」

「ッ……」

「後、旅行が終わったら、またデジーとバトルの約束を取り付けてるからね。居ないと困る」

「……フィーナちゃァん。通してやりなァ」

「……」

 

 観念したように彼女は自らの手を下ろす。そして──ぽつりと呟いた。

 

 

 

「何で私は……歌うことしかできないのかな……」

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