ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第55話:破壊の歌姫

「どうして……こんなことに」

 

 

 

 ──数十分後。

 メロエッタは町の住民によって発見され、すぐにポケモンセンターに運ばれた。

 しかし、喉は”じごくづき”によって潰されていた。それだけならば、メディカルマシンで回復すれば良かったのだが──

 

「メロエッタは……喉を特殊な毒でやられてしまっている。しばらくは歌う事が出来ない」

 

 マニューラの爪に、ポケモンの肉体を侵す化学性の毒が塗られていたらしい。

 それが全身に回ってしまっており、しばらくは入院していなければいけないこと、そして仮に起き上がれても歌うことはできないと判断されたのだった。

 そして間もなく、フィーナが襲撃されたこと、メロエッタが傷つけられたこと、何よりシャープが裏切ったことを受けて、オクターヴがポケモンセンターに駆け付けたのだった。

 表に居ると目立ってしまうので、彼女は奥の空き部屋に護衛達と一緒に居た。ゼラとバジルはポケモンセンターの外で見張りを続けているので席を外しており、居るのはレモンとイクサ、デジーの3人だけだったが。

 

「フィーナちゃんんんんんッ!! 無事でェ、無事で良かったァ!! 賊は!? 賊共はァ!?」

「オクターヴさん……」

「敵は取り逃しました。フィーナの安全を最優先にしたので」

「メロエッタはァ? メロエッタは──」

「……しばらく、歌えないと」

「音楽祭には──間に合わないかァ、仕方ねェ。しっかしシャープの奴ゥ──許せねェぜィ、どうして……ッ!!」

 

 オクターヴはぎりっ、と歯を噛み締める。

 

「分かりません。ただ、彼女のスケジュールを把握して黒幕にリークしていたと考えるのが自然でしょうね。むしろ、此処までの手際の良さは彼女が犯人でなければ納得できない」

「今思えば、昨日車から出てきた時、フィーナとボクを間違えなかったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ってところかな。フィーナは戦えるポケモンを持ってないしね」

 

 まさか此処まで派手にやるとは思わなかったけどね、とデジーは続ける。

 

「フィーナちゃん……今日の所は……」

「ごめんなさい。今は出歩きたくないんです」

 

(そりゃそうだよな……あんな目にも遭えば)

 

 彼女は目を伏せた。ずっとポケモンセンターに居るわけにもいかないのであるが。

 

「オクターヴさん。1つ良いでしょうか?」

「何だァ、シトラスの嬢ちゃん」

「……フォルテという人について知ってることを教えてもらっても?」

 

 レモンの問いに、オクターヴは眉を上げた。

 

「──フォルテェ? 何で今更あいつが……」

「ええ。調べていて気になったから、テレビ局の人たちに聞いてたんです。かつて音楽の破壊神と呼ばれ、今失踪している人物。でも、なかなか評判の悪い人物だったらしいですね」

「……評判が悪い、か。あいつは俺のダチだァ。いや、ダチだった……だなァ。だが今更あいつが何だってんだァ?」

「実はシャープにも同じ事を聞いていたんです。でも、彼女だけは彼について悪い事を何も言わなかったの。そればかりか、貴方に疑念を向けるようなことばかり遠回しに言ってきて──何かあるな、と思ったんです」

 

 イクサも、シャープがフォルテについては悪く言っていなかったことを思い出す。そして、まるでオクターヴに疑念が向くような口ぶりさえあった。

 どうやらレモンに対しても同じように話していたらしい。

 

「シャープが裏切った今、フォルテさんと彼女が何らかの繋がりがあってもおかしくないと判断しました」

「うぅむ……良いだろう。あいつの話をしよう。お前の言う通りィ、あいつは俺のダチ公だァ。長らく一緒に仕事をしてきたァ」

 

 だが、長い栄光は緩やかに終わったという。フォルテの作る前衛的楽曲は大衆から受け入れられなくなった。つまり、流行りが終わってしまったのだ。

 一方オクターヴには作詞の仕事が沢山舞い込むようになっていった。

 結局、フォルテも大衆に迎合するような音楽を作ることで、人気を持ち直していったという。

 

「奴はそのうち、音楽を聴く側の連中を批判するようになったァ。創作者としては下の下だがァ……友人としては見ていられなかったァ……」

 

 そして、いつからかフォルテは狂気に憑りつかれたように編曲を始めた。

 その曲が上手く作れないのを、他の業界人に八つ当たりしたり、他の仕事を放りだしたり、人が変わってしまったようだった、とオクターヴは語る。

 そのことを指摘して、改善するように言ったオクターヴだったが、彼は聞く耳を持たなかったという。

 

「決定的だったのはァ……()()()がおかしかったことだァ。あいつは歌詞をつけてくれと俺にせがんできたがァ……あの曲は、あいつが作ってきた中でも一際悍ましくゥ……歌詞なんて到底付けられなかったァ」

「悍ましい、曲……ですか?」

 

 フィーナの問いに、オクターヴは頷いた。

 

「確かに若い頃のあいつはもっとトガって前衛的だったが、それとは違う。あいつが作った曲とは思えなかったァ……」

「どんな曲だったんですか……?」

「──そうだなァ。嬢ちゃんの言う通り、全ての崩壊を願うかのような曲だったァ……」

 

 それが、二人を決裂させる最大の要因となった。オクターヴは最早フォルテはまともではないと判断して彼と縁を切った。そして、程なくしてフォルテはメロディーレインから姿を晦ませたという。

 

「断った時ィ、あいつはこう言ってたァ……」

 

 

 

 ──なぁぁぁぜ、理解出来んオクタァァァヴ!! 無難な大衆音楽に毒されたこの町を破壊したいと思わんのか!?

 

 ──こんなモンに歌詞は付けられねェ。昔のお前の曲の方がまだマシだァ、ダチ公。

 

 ──もう良い!! お前には頼まん!! 俺は一人で、俺の音楽でこの町を破壊してみせるぞ!!

 

 

 

「破壊だの何だのは、あいつがよく口にしていた事、まともに取り合わなかった……だが奴は、本当にメロディーレインの崩壊を目論んでるのかァ……?」

「オクターヴさん、フォルテさんがおかしくなった切っ掛けについて、何か心当たりはありませんか?」

 

 イクサの質問に、捻りだすようにオクターヴは答えた。

 

「……んん、そうだなァ。強いて言うなら──オシアスに出張して帰ってきた辺りからだァ。あいつも気分転換がしたい、と付いていったんだァ。ただ、その間あいつが何してたのかは俺もよく知らねェが……帰る頃には骨董品を沢山買い込んでたなァ……」

「オシアスから帰ってきた後──!? もしかして、その骨董品に変なモノが混じっていたとか!?」

 

 デジーが机を叩いて立ち上がる。レモンも同意するように頷く。

 可能性は高い。オシアスは、迷宮からの盗品が売られている時があるからである。

 当然何も精査されていないので、怪しいものが紛れていてもおかしくない。呪われていたりゴーストポケモンが憑りついていたりすることもある。

 

(あるいは、考えたくはないけどオシアス磁気を大量に含んでいたりとか……)

 

 一度頭の中で浮上させると、それが一番有力な説になりつつあった。オシアス磁気を大量に含んだ発掘品は──妙な力を得ることがある。それが更に強まってポケモンとなったのが、オーデータポケモンだ。

 

「フォルテはァ……自分が買った骨董品でおかしくなったてンのかィ!? ──じゃあ、やはり黒幕はフォルテで……メロディーレインを破壊するためにフィーナの歌声を……?」

 

 そこが何とも言えなかった。

 結局の所、フォルテには動機こそあるが、それが聖女とどう関係するのか分からない。

 だが、フィーナを除く全員は既に勘付きつつあった。フォルテは、フィーナの”悪魔の歌声”について知っており、彼の計略はそれに関係するものではないか、と。

 何故ならメロエッタが居なければ彼女の歌の力は制御が利かない。そして、そのメロエッタは今、歌う事が出来ない。

 

「……何で? 何で私を狙うの……? 私の歌に何があるの……?」

「何だって良い。フィーナちゃん──残念だがァ、音楽祭は延期だァ。メロエッタが居ないなら延期にするしかねェ」

「ッ……そんな」

「音楽祭ってのは、メロエッタありきでやるもんだ……ッ! あいつが居なきゃ意味がねえ。そして、メロエッタが回復するまでは全ての仕事を中止するゥ」

「で、でもッ……オクターヴさん、何でそんな──!! 今まであんなにお仕事入れてたのに──」

「中止は中止だァッ!」

 

 声を荒げるオクターヴ。

 

「分かってくれィ……全部、フィーナちゃんの為なんだァ」

 

 と言うものの、実際は”悪魔の歌声”が暴走してはいけないからである。

 その連絡を各所にするためか、オクターヴはスマホロトムを持って外へ出ていくのだった。

 そして、今後の方針を話し合うためからか、彼は顎でレモンにも来るように指示する。

 無言で頷くとレモンは彼についていくのだった。

 後に残ったのは、イクサとデジー、そしてフィーナだけだった。

 

「何でこうなるの……? 私もう、分からない。シャープさんも、私を裏切って……オクターヴさんも何考えてるか分かんない……」

 

 無理も無かった。フィーナは、彼から自分の歌声の事を伏せられている。

 それに加えて、信用していたマネージャーから裏切られたことで、周りが信じられなくなっていた。

 

「──それでも、メロエッタは君に歌ってほしいと思ってるよ」

「──ッ!」

 

 言ったのはイクサだった。

 

「メロエッタは君を助けようとしていたのは見ただろう?」

「ッ……そうだよ。ポケモンはウソを吐かないもん」

「それに、あの子が歌を通して教えてくれたんだ。メロエッタは君の歌に惚れ込んで、聖女に選んだんだよ」

「メロエッタが……?」

「今は我慢して耐えなきゃいけない時かもしれないけど……悪い奴の為に、君がやりたいことを諦めたらダメだ」

「そうだよッ! 悪いのは、君を裏切ったシャープや、黒幕じゃないか! ボク達が絶対にボコボコにしてやるんだからッ!」

「……でも、私……イクサさんみたいに強くないです……そうやって無条件にポケモンを信じたり、戦ったりできるほど、強くない」

 

 マイクロバス内の戦闘を彼女は思い出す。

 戦い慣れているイクサの、普段からは考えられない的確な連携と戦闘は、戦いとは無縁だった彼女からすればあまりにも鮮烈だった。

 

「だって私、この期に及んで……メロエッタに選ばれなかったら今でも普通の町娘で居られたのにって思ってる……こんなに自分勝手で、ワガママなのに、聖女だなんて……笑っちゃいますよね」

「フィーナさん……」

「ただの、歌が好きな町娘のままで居たかったのに……それくらい、メロエッタの事がイヤになってしまう時があって……でも、メロエッタには……ずっと歌っていてほしくて……ッ!!」

 

 複雑な思いを吐露するフィーナ。聖女は憧れだった。メロエッタに選ばれた時、彼女は迷わずその手を取った。しかし、現実は思っていたよりも厳しく過酷だった。

 そんな時、フィーナは自分を慕ってくれるメロエッタを心底恨み、その度に自己嫌悪した。自分を聖女として祭り上げる全てを嫌悪した。

 だが、それでもメロエッタが傷つけられた時、少なからず動揺したのは──歌う時、いつも傍に居たから。既にフィーナも心の底でメロエッタをパートナーとして認めていたからだった。

 

「だって私も……メロエッタの歌に惚れ込んだ1人だから……あの子の純真さに助けられたから……私が辛い時歌って励ましてくれたから……でも、分からない……もう私、自分の気持ちも分からないんです……」

「相手の事が100%好きである必要は無いし、それに罪悪感を抱える必要なんてないよ」

「……え?」

「正直僕だって、レモン先輩が滅茶苦茶だって思う事はあるし……ゼラ先輩にはじれったく思う時もあるし……バジル先輩は何かもう色々()()だし……」

()()で片付けちゃった……」

「デジーの事も──ハッキリ言って最初の頃嫌いだったよ。彼女とは色々あって最初険悪だったから」

「えっ、そうだったんですか……!?」

「うん……ボク、君が思ってるほど強くないし、良い子でもないよ。君の手前カッコつけてたけど、悪い事沢山やってるし……ボクも転校生がキライだったし」

  

 やったことを考えれば当然だった。レモンとイクサの秘密を握って脅迫し、決闘では初見殺しのオーラジャミングを使い、彼を寮から追い出したのだから。

 だがデジーもまた、イクサの事を、権力者であるレモンに庇護されて良い気になっていると思っていた。

 

「でも、今はそうじゃない。良い所も沢山あるし……ぶつかり合って一緒に過ごしてみて良い所も沢山あるって分かったからさ」

「そーだねぇー……今思うと、滅茶苦茶だよ、ボク達」

「ああ。そうだよ。しょっちゅうバトルしてゲームする仲になるなんてね」

「……不思議な関係ですね」

 

 「でしょ?」と笑うデジー。二度の決闘を経て、共闘を経て──今ではすっかり、二人はある種信頼する仲になっていた。

 

「君は──メロエッタに……イヤだって思った事、伝えた? 自分の気持ちを伝えた?」

「……」

 

 伝えてない、とフィーナは思い返す。

 アイドル活動で疲れてしまったことも、思ったように歌えていないことも、デジーに吐き出したのが初めてだった。

 メロエッタ相手には“選んで貰った”という思いが先行するあまり、そして彼女自身の心根が優しい事もあり、ネガティブな言葉を直接吐露することはなかった。

 

「メロエッタが元気になってからでも良い。自分の気持ちはちゃんとあの子にぶつけてあげるべきだよ」

「……嫌われたり、しないでしょうか」

「たった何度か会っただけの僕でも分かるよ。彼女は……君の事を大事に思ってる。命を張って君を助けようとしたしね」

 

(僕らは彼女の秘密を知ってるけど……やっぱり、いざ打ち明けるなら、メロエッタからが良い。まあ、打ち明けるかどうかはメロエッタに任せるけどね)

 

「君のやりたいことを、君の気持ちを──よく見つめ直した上でメロエッタに伝えてみれば良い。メロエッタもきっと、考えてることを伝えてくれるはずさ」

「……良いんでしょうか」

「ま、聖女を今まで何人も見てきたベテランだしねー」

「……分かりました。私、伝えてみます。メロエッタが元気になったら……」

 

 

 

YUMEUTUTULALALA MABOROSHINIKIYULALALA

 

 

 

 その時だった。

 何処からともなく、メロエッタの旋律が聞こえてくる。 

 思わずフィーナは立ち上がった。聞こえるはずがない。

 喉が潰されているメロエッタは今、歌えるはずがないのである。

 すぐさまレモンとオクターヴが部屋に入り込んだ。

 

「おい、聞こえたかァ!?」

「……エントランスの方からよ。行ってみましょう」

「えと私も──」

「ダメ! 嫌な予感がする──君はボクと一緒に待機!」

「はい……」

 

 フィーナをデジーに任せ、イクサはエントランスへ向かう。

 

(何だ、この旋律……メロエッタの物に似ているけど、何処か違う……!?)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

YUMEUTUTULALALA MABOROSHINIKIYULALALA

 

 

 

 ──エントランスに躍り出たイクサは、そこで足を止めた。

 周囲には人やポケモンが既にバタバタと倒れている。

 そして、中央では──メロエッタ──に()()()()()()()が歌い続けている。

 

「な、何だあのポケモン……!? メロエッタにそっくりだけど……!?」

「この旋律……聞いていると頭が痛くなってくるわ……!」

「──ッ!!」

 

 そして、歌姫の近くには──毛皮のコートに身を包んだ痩せた男が立っていた。

 その男を見たオクターヴは、血相を変えた。

 

「……フォルテェ……!! テメェ、何やってやがるッ……!!」

「──おお? 久しいじゃねぇかよ、オクターヴ……!!」

 

(この人がフォルテ!?)

 

 狂気的に光る赤い目をオクターヴに向けると、凶悪な笑みを浮かべてみせる。

 そして、その傍には歌姫のポケモンがふわりと浮いて傅いた。

 

 

 

「部下共が不甲斐ないので、俺自らが破壊的に登場してやったわけだ。聖女は何処だ? 此処に居るって聞いてたんだがな」

 

【”音楽の破壊神”フォルテ】

 

 

 

 フォルテと呼ばれた男は辺りを見回す。フィーナは奥の部屋だ。此処を幾ら探しても見つかりはしない。

 

「言う訳ねェだろがァ!! そのメロエッタのパチモンは何だァ、言ってみろィ!! 言わなきゃァ──テッカニンブレード喰らわせんぞォ!!」

「相変わらず単細胞だなァ、オクターヴ。だが……お前にゃ最初から何も期待してねぇよ」

「──レモンさん。あれって」

「ええ。間違いないわ」

 

 メロエッタに酷似したそれは、全身が金属のパーツと、それを繋ぐプラズマで構成されていた。

 音符のインカムはレコード針のように機械的だ。

 そして歌うための口に相応する器官は存在せず、その代わり目に当たる部分がスピーカーのように窪み、穴だらけになっている。

 

「あのメロエッタもどき……オーデータポケモンよ……ッ!!」

「おお、お嬢さん!! こいつの価値がよーく分かるようだな!!」

 

 目を輝かせたフォルテは恭しく礼をすると、自慢の娘を紹介するように──仰々しく演技がかった仕草で、機械の神に口上を捧げる。

 

 

 

「曲名は”ウタノウズメ”……!! 新時代を飾る、破壊の楽譜(フルスコア)よ!!」

 

【ウタノウズメ オーデータポケモン タイプ:???/???】

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