ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
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「──こ、こんなの、どうすれば──」
フィーナを守るように抱きよせるシャープ。窓の外から様子を確認するイクサとレモン。
幾らメタグロスやメタングと言えど、バスを吊り上げたまま最高速度で移動することはできないらしい。
バスを落とさないように慎重にビル街の間を飛行しているようだった。
「言語学の授業でポケモンの鳴き声についてはやったわね? 外にいる奴等の名前、分かるかしら」
「こいつらの鳴き声は死ぬほど聞きましたよ。ダンバル、メタング、メタグロスです」
「流石ね、その通りよ」
(こいつらの鳴き声は間違えないよ……ッ!!
「二人とも危険です! 此処は助けが来るまで大人しく──」
「──してられるほど、大人しい学生生活は送っていないわ。ハタタカガチ!!」
「──頼んだよ、イワツノヅチ!!」
窓ガラスを思いっきり開けたイクサとレモンは、そこからモンスターボールを投げる。
宙を舞ったボールからは、紫電の如き勢いで電球蛇がメタグロスに絡みついた。
そして、もう1つのボールからはバラバラの球体のパーツと化したイワツノヅチが現れた。
(イワツノヅチはバラバラの球状パーツが電磁波で繋がれたポケモン……その性質を利用すれば──!!)
元となったイワークの身体が団子状の胴体パーツが数珠型に連なっているように、イワツノヅチも同様の身体構造を持つ。
しかし、イワークとイワツノヅチの違いは、自由自在にその身体をバラバラに切り離し、更に頭部や胴体パーツがそれぞれのパーツを磁石のように「引き寄せる」事が出来る点だ。
頭部だけを切り離し、離れた場所にある胴体を引っ張ってくることは容易い上に、各パーツに流れる電気エネルギーのオン・オフを切り替えることで電磁石のように、磁力を自在に操ることも可能だ。
オシアス磁気のエネルギー活用法は、オーデータポケモンによって異なるが、イワツノヅチのオシアス磁気の活用法は最もスタンダード。自分の身体を同タイプのダイノーズ以上の超強力な電磁石に変えることが出来ることだ。
先ず、イワツノヅチの身体が分離し、バスの表面に磁力で吸着する。
そして今度は頭部パーツのみが電力エネルギーを切ることで地面に落下。
最後に地上で頭部が、バスに付着した胴体部分を引き寄せ始める。本体である頭部の磁力は極めて強力。更に、
バスは、メタグロス諸共ゆっくりとその場で静止したかと思えば、ぐいぐいと地上に引っ張られ始めた。最初こそメタグロスのサイコパワーと拮抗していたものの、ハタタカガチが電撃でちょっかいをかけているためメタグロスも集中することができない。
「エスパー技は集中力が求められるわ。砂のお城を作るのは大変だけど、崩すのは簡単よね」
「バスが、地上に近付いている──!!」
「後はもう簡単だわ。ハタタカガチ、邪魔な奴等をサクッと片付けなさい」
「ビリリリリュリュリューッ!!」
バスの上を霹靂閃電の如く這いずり回り、全くメタグロスに影も踏ませないハタタカガチ。
鉄足が捉えても、そこにもうハタタカガチは居ない。
それどころか、浮遊する二匹のメタングを”へびにらみ”で麻痺させると、尻尾で叩き落として地面に撃墜。
周囲を守るダンバルの群れも”ほうでん”で片付けていく。
そうこうしている間に、イワツノヅチはその膂力と磁力でバスが落ちても問題ない高さまで引き付け、遂には地面に引きずり下ろそうとしたその時だった。
「全く──やってくれたわね……それ以上、ポケモンを動かすんじゃあないわッ!!」
叫んだのは──シャープだった。
窓の外の動向を見守っていたイクサとレモンは、思わず振り向いた。
そこには、立ち上がってフィーナの身体を腕で押さえつけ、アイスピックを彼女の喉に今にも突き刺さんとしているシャープがいた。
「シャ、シャープ、さん……!? どうして……!?」
フィーナは信頼していたマネージャーがいきなり豹変したことに困惑が隠せない。
先程までの優しいマネージャーの姿は無かった。神経質そうな目で、邪魔者二人を睨み付けると、シャープは忌々しそうに言った。
「ッ……どういう、こと……!?」
「身内に犯人がいるかもしれないって思ってたけど……貴女だったんですね、シャープさん」
「大人しく全員連れ去られていれば良かったものを。シトラスの御令嬢のポケモンが此処までとは思わなかったわ──そのバケモノ染みたポケモン達を止めなさい。早くッ!! フィーナの喉がどうなっても良いのかしらッ!?」
「な、何で、シャープさん……!? どうしたの……ッ!? 何でこんな──」
「フィーナ、黙りなさい。それ以上は──二度と歌えなくなっちゃうから」
アイスピックがつぷり、と音を立てて彼女の褐色の肌に刺さった。
全身に鳥肌が立ったイクサは──叫ぶ。
「やめろッ!! 彼女を離せッ!!」
「シャープさん、どうして……!? どうしてなの……!?」
「悪いわね、フィーナ。この子達が想像以上に強かったのがいけなかったのよ。だって、何がハタタカガチよ、何がイワツノヅチよ、オシアスにはバケモノが居るのは知ってたけど、何で只の一介の学生が、そんな奴らを従えてるのよ!!」
「……」
普段ならそのセリフに痛烈な皮肉を返してやるレモンだが、今回は生憎そんな事を言っている場合ではなかった。
「らるるる……?」
当然、この暴挙にメロエッタが黙っているはずがない。
だが同時に、馴染みのあるシャープが豹変したことで少なからず動揺し、怯えを隠せないようだった。
「ごめんなさい、メロエッタ。でも、邪魔はしないでもらうよ。フィーナが歌えなくなっても良いの?」
「らるるる……ッ!」
「シャープさん、教えて貰えるかしら。単独犯じゃないわよね。何を考えてるの? 貴女のバックには誰が居るの? ……生半可な覚悟でナメた真似してくれたわけじゃないでしょうね」
怒りを滲ませながらレモンが問いかける。イクサも続けて畳みかけるように問うた。出来る限り時間を稼ぐためだ。
「答えて下さいよ、シャープさん。マネージャーとしてフィーナさんを見てきた貴女が何故このような凶行に……ッ!!」
「あんた達が知る必要は無いの。良い? どのみち、このメロディーレインはもう直に滅びる」
「シャープさん、何を言ってるの……!? メロディーレインが滅びる……!?」
「そう。滅びるのよ。何もかも全部、ね」
「……らるる……ッ!」
町が滅びると聞いて、これ以上メロエッタは座視できなかった。
自分が選んだ聖女の危機とあらば黙ってはいられない。相手は人間、念動力で制圧することが出来る。
非常に心が痛んではいたが、目を光らせ、”サイコキネシス”で彼女の腕からアイスピックを取り上げようとしたその時だった。
「──マニューラ、
何かがメロエッタを横切った。そして、マイクロバスの天井を蹴った。
あまりの速さに、イクサ達も対応することが出来なかった。
その鋭い鉤爪はたったの一突きでメロエッタの喉を貫く。
「──え?」
フィーナは、何が起こったのか分からなかった。
だらん、と四肢が力を失い垂れ落ちていた。
そのまま、華奢な身体は窓に向かって放り投げられ、硝子が砕け散る音と共に外へと消えていく。
「──メロエッタ!!」
叫び、イクサが窓の外へ行こうとするのを、レモンが肩を掴んで止める。
「レモンさん、でも──ッ!!」
彼女は首を横に振った。今自分達は人質を取られているのだ、と言いたそうだった。他でもないレモンが一番切羽詰まった顔をしており、動揺を必死に押し殺している。
「堪えて。堪えるのよ、イクサ君」
「あらぁ、流石御令嬢ね。自分達の立場を理解しているみたい」
「そんなメロエ──ッ!! むぐ──ッ!! んんん──ッ!!」
一連の光景を前に頭が真っ白になっていたが、漸く何が起こったか理解したフィーナが叫ぼうとする。
しかし、シャープが口を抑え込んで黙らせてしまった。
「──ダメよフィーナ。大人しくしていなきゃ、貴女もああなるってわけ」
(落ち着け、落ち着くんだ僕……ッ!! マニューラは一体誰が……!?)
下手人であるイタチのような生物は、かぎづめポケモンのマニューラだ。
集団で狩りを行い、鋭い鉤爪と足の速さで相手を追い詰める。ゲームでも高い素早さと攻撃力の高さがウリである。
「俺のマニューラ、良い仕事しただろォ。なぁ!?」
声が運転席の方から聞こえてきた。
「ッ……まさか」
イクサは戦慄した。レモンも全てを理解したようだった。
運転手の男の下に、血濡れた鉤爪を舐めるイタチのようなポケモンが付き従う。
「……あんたもグルだったのか……!!」
「おお、そうだぜぇ。シャープさん1人でこんなデカい作戦をやらせるわけねえだろが。万が一の時の暴力装置が俺ってわけよ」
帽子を取った彼の頭には大きな刀傷が見えた。捲った腕にはタトゥー、伸ばした舌にはピアスが空けられている。
明らかにカタギには見えない。さっき、バスが動いていた時に驚いていたのは──演技だったのである。
「……ガキ共。最初っからお前らにも、そしてメロエッタにも好き勝手させるつもりはねぇんだよ」
「彼を運転手に手配したのは私ってわけ。勿論、偽の戸籍、偽の書類を用意した」
「つまるところ、何から何まで手痛くやられたってわけね……」
「フィーナのスケジュールを黒幕にリークしていたのも……シャープさんだったんだね」
「ええ。パレードの日は確実に警備が厳重になるし、人が多く集まり過ぎる。それなら、貴方達が一番油断するタイミングを狙って、メタグロス達で強襲した方が良いって考えたの」
シャープは答え合わせと言わんばかりに、にぃと口角を上げた。
既に、フィーナの目からはぼろぼろと涙がこぼれている。目の前でメロエッタが深手を負わされたこと、そして自らも喉元に凶器を突きつけられている恐怖で顔は引き攣ってしまっていた。
「そんなわけで……大人しくポケモンを引っ込めなさい。聖女様の喉まで潰されても良いの?」
シャープがアイスピックをフィーナの喉にじりじりと近付けていく。
「……良いな? 早くしろ。妙な真似したら分かってるな?」
「さもなきゃ、フィーナの喉も潰れるわよ。ボールにポケモンを戻して、窓の外からまとめて全部捨てなさい」
「イクサ君。分かっているわね? クライアントの保護が最優先よ」
「分かってますよ……ッ!!」
じりじりと窓に近付くイクサ。
「ッ……ー!! ーッ!! ~~~~~ッ!!」
首を振るフィーナ。従ってはいけない、と言わんばかりだった。
しかし、口が腕で塞がれてしまっている。
レモンはイクサに向かって目配せした。彼も頷き、窓に向かって空のボールを向けた。
「イワツノヅチ、戻って」
イクサの指示の通りにイワツノヅチは球体の身体を全て浮かび上がらせて、ボールへ格納されていく。
「よし、良い子だ。次はそこの女もだ。ボールを全部戻せ。その後に二人共、窓ガラスからボールを全部投げ捨てて貰う」
「ッ……」
「ハタタカガチ──戻ってきなさい」
しゅるる、と音を立ててハタタカガチが窓際まで迫る。電球大蛇の頭部が見えたその時だった。
「──
霹靂閃電がマイクロバスの中に走った。
時が止まったかのようだった。
当然、噛んだ部位からは人にとってはスタンガンに等しい威力の電流が流れる訳で──」
「ぎゃあっ!?」
彼女は痛みとショックで凶器を手放す。
ころころとアイスピックが地面を転がった。
そして、此処までコンマ1秒。賊に対応する時間など一切与えなかった。
「身体の自由が──きかない……何が起こったの……!?」
ハタタカガチの体内に溜め込まれたオシアス磁気の使い道は”電気変換”。自らを構成する物質全てをプラズマに変えることができるのが、ハタタカガチの最大の特徴だ。
電気と化すことは即ち、光と同化すると同義。人間がそれに対応することが出来る訳が無い。
シャープは流れ込む電気の奔流に悶絶し、フィーナを手放してしまう。再び彼女を拘束しようにも全身の筋肉が収縮してしまっており、動くことが出来ない。
何より電球蛇がちろちろと舌を出しながらバスの後部からこちらを睨んでいる。妙な事をすれば、黒焦げにされるのはシャープの方だ。
そして、イクサは待ち構えていたようにボールを放り投げてパーモットを繰り出した。
「しまっ──ガキ共──ッ! マニューラ、つじぎり──」
「パモ様、”マッハパンチ”!!」
マニューラの顔面に一瞬で音速の拳が到達する。氷・悪タイプのマニューラに格闘技は効果抜群の4倍ダメージが入るので一撃でノックアウトされてしまう。
更に近付いた運転手の男に対しても、強烈な回し蹴りを見舞い、昏倒させるのだった。
「ぱもーッ!! ぱもももっ!!」
きゅっ、と構えを取るパーモット。レモンに叩きこまれた格闘術は伊達ではない。
技を使わずとも、人間二人を制圧するくらいは容易かった。
「あ、あんた達……正気!? 人質が居るのに……!? 失敗したらどうするつもりだったの!?」
「失敗なんてしないわ。私、人質取って立て籠もる奴の相手はお手の物よ。ナメた真似をするヤツは、大体この子の力で黙らせてきたわ」
相手が人質を取っているならば、人質に手を出される前に高速で犯人を制圧すれば良い。
何度もレモンは学園でそのような手合いを叩きのめしてきたし、また自らもハタタカガチと一緒に訓練をして来た。
こと身体の一部、ないし全身を電光に変えるハタタカガチの特殊能力は、レモンにとっても強力な飛び道具として役に立った。
全身を電光へと変える能力は、相手からすれば無法そのもの。ハタタカガチが噛みつけば凶器を持っている腕を人質から遠ざけられる上に、電気を流し込まれて無力化されてしまう。
これは、万が一レモン本人が人質に取られた場合でも問題なく機能するように常日頃から訓練させられてきた結果でもある。
勿論、イクサもそんな彼女とハタタカガチを信頼しきっており、シャープが無力化されたタイミングでパーモットを繰り出し、もう片方の男も無力化しにかかったのである。
「よくやったわ、イクサ君。脱出するわよ」
「はい、メロエッタを助けないと……!」
こうして形勢は逆転した。イクサがフィーナを抱き寄せ、彼女の手を引っ張りながら通路側へ退避する。
「ッ……イクサさんっ!! メロエッタが!! メロエッタが──!!」
「分かってる、早く此処から脱出しよう。必ず助けてみせるから」
「クソッ、ガキ共……!! 聖女を渡せ──へぶぅッ!! ま、前が見えな、へぶぅっ!!」
「ぱもぉーぱもぱも」
パーモットがいつもの微笑みを浮かべたまま、起き上がった運転手の男にパンチを叩き込み、今度こそノックアウトさせた。
後に残るのは麻痺して動けないシャープ、そしてバスを浮かび上がらせているメタグロス達だ。
中の異常を感知したのか、窓ガラスを突き破ってダンバル達が入り込んできた。
もうここに長居することはできない。そして、いつまた暴れ出すか分からない賊を拘束している余裕はない。
「ハタタカガチ、そいつらは捨て置きなさい。今はフィーナとメロエッタの救出が最優先よ」
急いで出入り口まで強行突破する二人だったが、新手のメタングが塞いでしまっており、出られない。鉄の怪物は腕を伸ばして、前に出たレモンの身体を掴もうとする。
無論、そうなればハタタカガチがメタングを電気で焼きにかかるわけだが──
ズドン!!
──雷が落ちたような音が響き渡る。
メタングが煙を上げながら落下していく。
出入り口が開いた先には、飛行中のクワガノン、そしてゼラの姿があった。
「ゼラ先輩!! 良かった、助けに来てくれたんだ!!」
しかし、更にダンバルの群れが接近してくる。このままでは安全に降りる事が出来ない。
「デリバード、”ふぶき”でカチコチにしちゃうデース!!」
だが、浮かぶダンバルの群れも一瞬で凍結し、地面へと落ちていく。
そこに居るのは、デリバード、そしてハーネスと紐で括りつけられたバジルだった。
「バジル先輩まで!?」
「上々ね! これだけ揃ってるなら安全に降りられそうだわ!」
その隙にレモンはボールを空に向かって投げる。
現れたのは、青い鱗に身を包んだ巨大な龍の如きポケモンだった。
「ギャラドス、頼むわよ! このまま逃げるわ!!」
レモンはすぐさまバスの乗り降り口から飛び降り、龍のポケモン──ギャラドスに跨る。
彼女の手持ちの1匹で、空中を移動する時に使っているのだ。
「イクサ君ッ!! フィーナと一緒にッ!!」
「はいっ!! しっかり掴まって!!」
「ッ……!!」
フィーナを抱きかかえるイクサ。背中にはパーモットが飛びついており、後ろを警戒し続けている。
怯えた顔を浮かべていたフィーナだったが、彼に抱きかかえられ、頷いた。
そのまま地面を蹴り、ギャラドスへ飛び乗る。
「レモンッ!! 良かった、無事だったんデスね!! 後はシャープさんが──」
「ダメよ!!
「WTF!? ウソでしょ!?」
「それに、メロエッタが攻撃されて、バスから下に落とされて……ッ! きっと大怪我してる……バジル先輩、ゼラ先輩、探すのを手伝ってください!」
「メロエッタが……メロエッタが……! 私は良い、メロエッタを助けてください……ッ」
譫言のように呟き続けるフィーナ。そんな彼女の背中を「大丈夫。必ず助けるから」と言って落ち着かせようとするイクサ。しかし、あの時飛び散った鮮血の量は尋常ではなかった。
更に、窓を突き破って高所から落とされたのだ。流石に危ないのではないかと考える。
「俺が探しに行く。メタグロスを空中で相手するのは危険だ、離れるぞ」
「お願いします」
「デリバード”おいかぜ”デース!! あいつらから逃げるデスよ!!」
敵はこれ以上追ってこなかった。中の二人が無力化された時点で作戦は継続不能とメタグロスが判断したのだろう。
一方、次から次へとダンバル、そしてメタングの群れが現れ、マイクロバスを護衛するように取り囲んでいくので、こちらからも追撃することはできなかった。
イクサとレモンはフィーナを地上へ退避させ、バジルとゼラがメロエッタを探しに行くのだった。
「メロエッタ……メロエッタ……どうか無事で……」