ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第52話:いにしえのうた

 ※※※

 

 

 

「──成程、事情は把握したのデスよ!」

 

 

 

 その夜。

 レモンは、ホテルの部屋にゼラとバジルの二人を呼びつけた。

 音の聖女・フィーナの身の回りで起きた奇妙な事件と、その護衛──そして聖女の持つ”悪魔の歌声”についてだ。

 当然これを聞いて張り切ったのは自称・探偵のバジルであった。事件ならば黙っていられる理由は無い。

 

「事件解決なら、天☆才名探偵のバジルちゃんとカクレオンにお任せデース!」

「げろげろ」

「ええ、頼りにしているわ天☆災迷探偵さん」

「あれ!? なんか、ビミョーにバカにされてる気がするデス!?」

「ゼラは当日、身代わりになったデジーの護衛を頼むことになると思うわ。遠方からの敵にも、ゼラなら気付けるはずよ」

「ん」

「後は明日のフィーナの予定を此処に置いておくわ。それに私達もついていくことになると思う」

「りょーかい、デスっ!」

 

 二人は快くフィーナの護衛の件を了承した。

 

「それにしても悪魔の歌声、か……彼女が1人で唄えば、それを聞いた者が皆、狂わされてしまうというわけデスか……」

「俄かに信じ難い」

「犯人はフィーナを攫おうとしている。歌声を悪用しようとしているってわけよ」

「それで、レモンは犯人がメロディーレインプロダクションに居るって考えているんデスね」

「ええ。此処で気になるのは、犯行に使われたメタングとダンバルの出所よ。デジーに町の監視カメラを見て貰ったんだけど」

 

 ──ダメだこりゃ、空の上に逃げられてる。ダンバルは勿論、メタングは時速100kmで動けるし随伴のダンバルもそれに追随できる。追うのは容易じゃないかなー。

 

「と言ってたのよ」

「立つメタング跡を濁さず、デスか」

「とはいえ、メロディーレインは広いわ。空に逃げて撒いた後、町の何処かに潜伏している可能性もあると思ってね。そこで、例のウワサよ」

「ウワサ?」

「そうよ。今日、胡散臭いカフェの店主から胡散臭い噂話を聞いたのよ」

「……あのー、レモン。それってもしかして、ジュナイパーとギャルなバイトがウェイトレスをやってるお店デス?」

「……もしかして貴女達も行ったの?」

「ん」

 

 ゼラが頷く。

 どうやら、町でレモンと全く同じ誘いを受けてバトルに勝利し、噂を聞いたらしい。

 

「そして気になった私は、すぐさま例の廃墟へと案内してもらったのデスよ!」

「俺も付いていった」

「相変わらず行動力の化身ね……ということは、廃墟の中にメタングやメタグロスが居たりとか──」

「──それが……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「あいたたたた……咆哮だけでフッ飛ばされちゃったデース……!!」

「……ッ」

「でも、こんなバケモノが町の中に居たら大変デース!! もう一度、突撃デース!」

 

 再び突入するバジルとゼラ。

 そうして、廃墟の中に居たのは──真っ白な腹。

 見上げる程に巨大な身体。そして、耳鳴りがするほどに大きな──イビキであった。

 ライトを点けると、正体はすぐ明らかになった。

 

 

 

「あ、あれ……? 確かに怪物デスけど、思ってたのと違うデース……?」

「んごぉ……?」

 

 

 

【カビゴン いねむりポケモン タイプ:ノーマル】

 

 

 

 ぼりぼりと腹を掻いた巨大なポケモンは侵入者が入ってきたのを認めたが──気にする素振りも見せずに寝返りを打つ。

 どすーん、と廃墟が揺れたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「地下に腐った食べ物が沢山ありマシタ。そしてこの近辺には、進化前のゴンベが生息していマス。恐らく人間の食べ物をかっぱらって、此処を隠れ家にしていたのデス」

「呆れた……じゃあ、進化して身体が大きくなって廃墟から出られなくなってただけじゃない……」

「出ようと思えば廃墟を壊して出られただろうが、そうなると大惨事だ」

「またしても、バジルちゃんのおかげで事件解決☆デスね!」

「もう、そういうことで良いわよ……割と冗談抜きでお手柄だったわ」

 

 レモンは頭を掻きむしった。何かの手掛かりになると思いきや全くそんな事は無かったのである。とはいえ、巨大なカビゴンを放置できるわけもないので、無駄足というわけではなかったのも事実であるが。

 

「それで……お騒がせなカビゴンは?」

「バッチリ捕獲したのデス! 今はボックスに送ってるデスよ!」

「人の飯の味を覚えた以上は野生に戻せんからな」

「……ご苦労様だわ。じゃあ、廃墟の噂は無視してもよさそうね」

 

 結局、噂は只のウワサでしかなかった。捜査は振出しに戻ってしまったのである。

 とはいえ二人のおかげでハズレを調べる時間が減ったので、その点ではありがたかったのであるが。

 

「ところで、イクサとデジーはどうしてるデス?」

「デジーは自室で何やら作業をしていたわ。あの子、旅行先にも工具を持ち込んでたみたいなのよ」

「フゥン、何か作ってるんデショウか?」

「さあ、教えてくれなかったわ」

「そして、イクサはどうしたのデス?」

「……ご飯を食べた後、外に出たわ。落ち着かないみたいよ。あの子、自分に出来る事はバトルだからって言って……」

「特訓……というわけか。あいつらしいと言えばらしいな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──町の郊外。

 誰も居ないだだっ広い野原の上にイクサはポケモン達を放り投げる。

 

(……明後日、何が起こっても良いようにポケモン達の調整をしなきゃ。パモ様だけであの数の軍勢が抑えられるとは思えないし……ダンバルとメタングの弱点を突けるのは炎、悪、ゴースト、地面……見事に皆居ない……)

 

 幸い、技マシンを使えばマリルは”じならし”が使えるし、パーモットの技は普通に通る。

 しかし、防御力が高いメタングは一撃で倒せない可能性も高い。 

 現にデジーのポケモンでさえ彼らにかなり苦戦を強いられたらしい。

 

(となるとやはり、イワツノヅチの圧倒的耐久力の出番かもしれないけど、こいつデカ過ぎて町中で使うのは憚るんだよな……)

 

「──マリル、”アクアテール”!! キルリア、”かげぶんしん”!!」

 

 2匹を戦わせながら、技のキレを確かめていく。

 マリルの攻撃精度の高さは、夏休み前から格段に上がったように思える。

 レモンとの特訓の甲斐あってか、アクアテールの命中率は向上、破壊力も増した。

 現に今も、もう少しで分身したキルリアの本体に攻撃を当てることができそうだった。

 一方、キルリアも”かげぶんしん”の数が増加し、反撃の特殊技の威力も上がっている。

 

(もう少しだ。もう少しでタギングルやイワツノヅチに並ぶくらいのレベルに上がると思う。流石に進化はさせたいんだけど、ゲームみたいにアッという間ってわけにはいかないみたいだ……)

 

 この世界の経験値配分とかレベルとかどうなってるのかなあ、とイクサは頭を抱えた。

 ポケモンの育成はゲームのようにはいかないのである。特にオーデータ・ロワイヤルはパーモットに経験値が集中してしまったので、他の手持ちが育成できなかったのが痛手だった。

 マリルもキルリアも、ステータス的には進化してからが本番のポケモンだ。万全を期すに越したことはない。

 向こうの方では、レモンに習った拳法の所作をパーモットがずっと練習している。基礎練習を怠らない、とても真面目な性格だ。

 

(……折角の旅行なんだ。楽しく終わりたいに決まってるじゃないか)

 

 イクサは、2匹に休むように伝え、原っぱに倒れ込んだ。

 メロディーレイン周辺は空気が綺麗なのか、星がよく見えた。

 

(この世界に来てからどれくらい経っただろう。レックウザを見つけるのも……レモンさんに挑めるくらい強くなるのも……まだまだ、先になりそうだ)

 

 そればかりか、次から次へと事件が舞い込んで来る。

 

「りーりり?」

「……りーるぅ」

「……ごめん。ちょっと疲れちゃったんだ。今日色々あったから」

「りーるるぅ」

 

 マリルとキルリアが近寄ってくる。思いつめているような顔をしている主人を励ますかのようだった。

 

「……どうやら僕、自分が思ってた以上にこの旅行が楽しみだったみたいだ」

「りる?」

「……こっちに来てから最初の頃は正直不安だったんだよね。でも……今は君達も居るし、友達も居るし……皆が居てくれる。そんな皆と行ける旅行が楽しみだったんだ」

 

 彼らが居なければ、きっと何処かで心が折れていた。きっと何処かで躓いたまま立てなかった。

 ポケモンの知識があれば、戦えるだろうと慢心し、見事に最初から希望を打ち砕かれた自分の傍に居てくれた”彼ら”に報いたいのである。

 

「音楽祭にケチは付けさせない。勿論、デジーもフィーナも守ってみせる。その為には僕一人の力だけじゃ……無理だよね」

 

 キルリアとマリルを抱き寄せる。

 パーモットも、ぴょん、と跳んで彼の腹の上にのしかかってきた。

 

「ぱもぉ」

「……これが終わったら、ちゃんと楽しい旅行にするからさ……頑張ろう」

「りーるぅ!」

「きーりりり」

 

 

 

「~♪ ~~~♪ ~~♪」

 

 

 その時だった。

 何処からか歌声が聞こえてくる。

 それに釣られ、マリルとキルリア、そしてパーモットもそちらの方へ向かっていく。

 急いでイクサも追いかけてみて、足を止めた。

 コロボーシに、ヒメグマ、ヤミカラス。

 更に後ろにはそれらの保護者と思しきコロトック、ガチグマ、ドンカラスといった巨大なポケモンも揃っていた。

 近くの森に棲んでいる野生ポケモン達が集まっていた。

 そして、彼らの前には──楽しそうに歌うメロエッタの姿があった。

 

(森のアイドル、ってわけか……)

 

 しばらくメロエッタが歌うと──華麗にステップを踏み出す。

 そして、その姿は月光に照らされながら、舞踏家の如きものへと変わっていく。

 

(あれが……メロエッタのフォルムチェンジ……!)

 

「らららー♪」

 

 夜の密やかなショーはその後もつつがなく続いた。

 観客の中にイクサの手持ちが入ってきても、森のポケモン達は気にする素振りも見せずに、一緒になって盛り上がる。

 更に、イワツノヅチ、ハルクジラ、タギングルの3匹も勝手にボールの中から飛び出し、メロエッタの舞踏に見入るのだった。

 

「るるるるー、るるるるるー♪」

 

 華麗に満月の中ムーンサルトを決めたメロエッタは、軸足で回転してみせ──最後に恭しく礼をしてみせる。

 

「らららー♪」

 

 喜ぶポケモン達を前に手を振るメロエッタ。

 そして、ショーが終わるとポケモン達は皆、それぞれの場所へと戻っていく。

 この辺りのポケモンは皆穏やかな性質なのか、イクサを見ても一瞥するだけで襲い掛かってくる様子もない。

 

「ぐまぁ」

「ぷまー」

 

 あのガチグマも、ふがふがとイクサの匂いを嗅いだ後、そのままヒメグマを背中に乗せて森の中へ入っていった。

 珍しい客でも見るような目つきだった。

 

(大人しい……迷宮の中のポケモンとは大違いだ……)

 

「ららるー?」

 

 ふわり、とメロエッタがイクサに向かって降りてくる。

 

「……音の都の守り神……か。ずっと昔からこうやって、人間とポケモンを楽しませてきたんだね」

「ぱもーぱもももっ」

「ららるー♪」

「……凄いな、メロエッタは。僕も思わず聞き入っちゃったよ」

「るるるー♪」

 

 くるくる、と嬉しそうに回ってみせると彼女は微笑んでみせる。

 しかし、月光に照らされたその顔は、何処か寂しげだった。

 

「……どうしたの?」

「……FINAMOJIYUNIUTAEREBAIINONI

 

 歌いだすメロエッタ。

 その声には、魔力が込められており、イクサの脳裏には──仕事が忙しく一人でなかなか歌う事が出来ないフィーナの苦々しそうな顔が過った。

 

(もしかして、歌に情景を乗せているのか……!?)

 

FINANIHAHONTOUNOKOTOHAIENAI KIZUTUKETESIMAU

 

 しかし、彼女の秘密は彼女に打ち明けることはできない。メロエッタも、周囲の人間も。

 心根が優しい彼女に言えば、間違いなく傷つけてしまうし、彼女は二度と歌えなくなってしまう。

 歌うのが誰よりも好きな彼女には、それはあまりにも残酷な仕打ちだった。

 誰よりも最初に、彼女の歌声に惚れ込んだのは──メロエッタだから。

 

WATASHIHAMINNANOTAMENIFINANOJIYUWOUBATTESIMATTA

 

 だが同時に──メロエッタは、町の人々の為に彼女の自由を奪った事、そして自らだけがその自由を享受できていることを少なからず後ろ暗く感じているようだった。

 

「……そっか。メロエッタは優しいんだね」

「らるる……」

「凄い力だ。君の言葉は分からないけど、君の考えていることは伝わってきた」

「……るぅ」

「フィーナの為にも、先ずは音楽祭を成功させよう、メロエッタ。彼女の力の事はとても難しいことだと思うけど……何とか向き合っていくしかないよね」

 

 この隠し事がずっと続くとは思えない、とイクサは考える。

 こと、思春期の少女の心はデリケートだからだ。何かの拍子にフィーナが身の丈に合わないアイドル活動に嫌気が差してしまったり、続けられなくなってしまうことも考えられる。

 そうやって事務所の管理を離れた彼女がどうなるのかは、分からない。

 

(彼女の心持ち次第としか言えないけど)

 

「隠していることが──必ずしも正しいとは言えない。でも、不用意に明かすのが正しいとも言えない、か……」

 

 そのためにも、先ずは自分達が何としても彼女に迫る魔の手を掴み、白昼の下に引きずり出さねばならない。

 

 

 

「メロエッタ、僕は戦うくらいしか力になれないけど……精一杯、君の聖女様を守らせてよ」

「ららるー♪」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──以上が、聖女のスケジュールです」

「ご苦労」

 

 

 

 黒服の男から受け取った資料を眺めるのは──毛皮のソファに腰掛ける高慢そうな男だった。

 頬が痩せこけ、黒い髪にはところどころ白い毛が混じっている。

 足元には、四つの高鉄の脚を携えた鋼鉄のポケモンが足を折りたたんで休眠している。

 見た者は皆、彼を神経質だと感じることだろう。しかし、口元には享楽的な狂気が入り混じった笑みが浮かべられている。

 

「聖女にそっくりなダミーか。よもやそんな雑音(ノイズ)がこの町に入り込んで来るとはなァ」

「しかし、計画はつつがなく進むかと……」

「ああ。スカッとだかスカッシュだか知らねえが、ガキ共なんぞに今更何ができる」

「何やら、非常に強力なポケモンを連れているトレーナーも居るようで……」

「ああ、シトラス・トレーナーズの令嬢か。確か──ハタタカガチって言ったなあ。良いねえ、ノッてきた。ううん、良い譜面だ」

 

 何かを夢想すると、男はピアノに向かう。そして鍵盤に思いっきり指を叩きつけた。

 

「──んんん、素晴らしい。そうまでして、皆あの”悪魔”を守りたいのかね。クックック、守りたいだろうねえ!! 歌う爆弾が居るようなものなんだからねえ!!」

 

 ジャジャジャーン、と鍵盤が低く唸るような音を立てた。

 

「……しかし、それならば俺にも考えがある。より甘美な音を立てられる譜面と言うヤツだ。要となる”フルスコア・レコード”の調整は?」

「最終段階に入っております」

「完璧だ。オシアスで手に入れた骨董品が此処まで来るとは……丁度、向こうから来たガキも居るんだ、見せてやりたいもんだよ」

 

 激しく、しかし陰鬱な曲が部屋を満たしていく。これから奏でる崩壊の序曲。捧げるのは──メロディーレインという町そのものに対して。

 

 

 

「──”音楽の破壊神”の復活にはこれ以上ないコンサートッ!! 音楽の都は……他でもない音楽によって滅びるッ!」

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