ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
「──ウッソでしょ、この数は捌ききれないってぇぇぇーっ!?」
ダンバルの群れが追いかけてくる。
メロエッタも、歌による鎮圧を試みるが全くと言っていい程効果が無い。
往来はすぐさま、ダンバルの群れに覆われていく。
「もしかして歌が効かない!?」
「るるるるー……」
「──こうなったら、戦うしかない──けど、あんまりポケモン出すと周りに被害出ちゃうし──、よし君達だ!! ホルード!! レパルダス!!」
【ホルード あなほりポケモン タイプ:ノーマル/地面】
【レパルダス れいこくポケモン タイプ:悪】
デジーが繰り出したのは、太ましく屈強な兎のポケモン・ホルード。
そして、しなやかな猫のようなポケモン・レパルダス。
彼女が育成しただけあって、その実力はミミロップにも決して引けを取らない。
「レパルダス、”あくのはどう”! ホルード、”10まんばりき”!!」
同時攻撃で一気に鉄の塊たちを落とすことに成功するデジー。
しかし、後から次々にダンバル達は湧き上がってくる。
更に、その群れを掻き分けてくるのは、ダンバルが組み上がった鉄の怪物だった。
それも2匹。
「ガゴゴゴゴォォォン!!」
【メタング(ダンバルの進化形) てつつめポケモン タイプ:鋼/エスパー】
「メタングが2匹……!?」
このダンバルと言うポケモンの進化は野生下では独特で、足りない力を補う為に二匹が組み合わさって進化するとされている。
そのためか、このメタングは、二匹のダンバルが組み合わさり巨大化したような姿をしているのだ。
そして、このダンバル達は全て、このメタング2匹の旗下なのか、彼らを護るように旋回しているのが見える。
(邪魔だ! このままじゃ攻撃が通らない!)
現に、レパルダスやホルードが攻撃しにかかっても、ダンバル達に阻まれてしまい、反撃とばかりにメタングの”アイアンヘッド”を受けて怯んでしまうのだった。
可愛い子分たちがやられたことで、ミミロップもメタングに反撃しようとするもの1匹の”サイコキネシス”で身体を浮かされてしまい、そこをもう1匹の”アイアンヘッド”をぶつけられてしまう。
そうしてデジーの手持ちを打ちのめしたメタングは鉄の脚を伸ばし、デジーを狙い、両腕で掴んだ。
「しまっ……!?」
「ガゴゴゴゴゴゴン!!」
捕まった。
そして同時に、彼らの狙いがメロエッタや自分のポケモン等ではなく、最初から自分だったことにデジーは気付いた。
逃れようにも”サイコキネシス”で身体を固められてしまっており、逃げ出せない。
(ヤバい、捕まった……! ”かえんほうしゃ”なんて町中で使いたくないんだけど、ニドキングを出すしか……!)
「FURUITATEYO、ISAMASIKISENSHI♪」
──デジーがニドキングのボールに手を掛けた時だった。
何処からともなくメロエッタの歌が聞こえてくる。
歌による鎮圧は効かないのは、さっきも確かめた通り。
現にメタングたちは容赦なくデジーの手持ち達に襲い掛かるのを止めない。
だが、旋律がさっきまでとは違う。
【メロエッタの いにしえのうた!】
何処か懐かしさを思わせる曲調だった。
闘気が湧き上がり、鼓舞するようだった。
膝を突いていたホルード、ミミロップ、レパルダスも徐々に力を取り戻していく。
「何、これ、さっきまでの歌とは違う──!?」
「SONOTIWOKAKEYOHURUITATEYO WAREHAMAI ODORISASAGEYOU♪」
メタング、そしてダンバル達の動きが急に狂いだした。
さっきまで統率が完璧に取れていたのに、ダンバル同士がぶつかったり、メタングがダンバルを自ら払い除け始めたのだ。更に、中には地面に墜落していくダンバル達まで現れる。
「な、何、何が起こってるの……!?」
隊列を乱すダンバル達。
そして、それを見届ける中、メロエッタはステップを踏んでいき、その姿を変貌させていく。
嫋やかで穏やかな旋律は、激しく、そして勇ましいものへと変わっていく。
それに合わせて、メロエッタの五線譜の髪は頭に巻き付いていき、その色も鮮やかな橙へと変色していった。
「らららッ!!」
【メロエッタ(ステップフォルム) せんりつポケモン タイプ:ノーマル/格闘】
たたっ、と音の精は激しく足を踏み鳴らす。
そして、一気にダンバルの群れに突っ込んでいく。
己が傷を受ける事も厭わない捨て身のファイトだった。
ダンバルを蹴り飛ばし、更にその勢いで跳躍して司令塔であるメタングに必殺の一撃を叩き込む。
鋼鉄の身体は凹んでしまい、バチバチと火花を散らしながら揺れて地面へと激突し、デジーの身体を離す。
間一髪のところで彼女は解放されたのだった。
更に勢いに乗じて、ホルード、レパルダス、そしてミミロップの3匹もダンバル達を倒していく。
その様があまりにも劇的で、デジーは言葉を失った。
「メロエッタの姿が変わったと同時に、戦況が一気に変わった……まさか──これが、昔兵士を鼓舞した歌と舞──!?」
「みーみみっ!」
「あっ、そうだ! ホルード”10まんばりき”! レパルダス”あくのはどう”!」
ミミロップに呼びかけられたことで、デジーは我に返り指示を出す。
姉御であるミミロップの通る道は、ホルードとレパルダスが切り開く。
ダンバルの群れは一気に蹴散らされ、そうして開いた隙にミミロップが切り込む。
「これでお終いだ! ミミロップ、
「きゅるるるるーっ!!」
鉄の拳を、耳で受け止めて払い除けると、ミミロップは渾身の踵落としをメタングの身体に叩きこむ。
そして、横のメロエッタも再び宙で一回転するとトドメの一撃をメタングに見舞うのだった。
これにより、完全に司令塔である二匹は勝ち目無しと踏んだのか、浮かび上がると足を折りたたみ、円盤のように飛び去ってしまう。
ダンバルの群れもまた、それに続いていくのだった。
「にゃーにゃーっ!!」
「ほるぅ……ッ!!」
「きゅるるるる!!」
だが、それでも尚、闘志が収まらないのか、レパルダスとホルード、ミミロップはメタングたちを追いかけようとする。血が騒いで止まらないと言わんばかりだった。
「待って!! 3匹共!!」
呼び止めたのは当然、デジーだった。
敵の規模が分からない以上、深追いはあまりにも危険すぎる。
しかし、それでもトレーナーの言う事を無視し、3匹はダンバル達の群れを追おうとする。
「ど、どうしちゃったのさぁ!」
ホルードもレパルダスも、そしてミミロップも普段はデジーの言う事をよく聞く従順なポケモンだ。
それが完全に興奮しきってしまっているのである。主の言う事も聞くことができないほどに。
「SIZUMARINASAI TATAKAIHAOWARIMASITA♪」
だが、3匹を止めたのは周囲に響き渡る優しい旋律だった。
そして、メロエッタの姿もいつの間にか元の姿に戻っていた。
興奮していた3匹は落ち着きを取り戻し、主人の下へ戻ってくる。
「らららー♪」
【メロエッタ(ボイスフォルム) せんりつポケモン タイプ:ノーマル/エスパー】
その様に、デジーは言葉を失った。
奇跡の歌は本物だったのだ。
人々やポケモンを時に鼓舞し、時に癒す歌声。
これがメロディーレインを古の時代から護ってきたポケモンの力なのだ、と。
(すごい……これが、メロエッタの力なんだ……!)
「るらららー♪」
「うん、ありがとう。助けてくれて……」
「おーい、デジーっ!!」
胸が飛び跳ねた。
後ろを振り向くと走ってくるのは、イクサとレモン、そして──他でもない聖女・フィーナだった。
「メロエッタ! 貴女も居たのですか!?」
「るーららー♪」
「デジーさん、ダンバルの群れが貴女を襲っていると聞いて……」
「メロエッタが助けてくれたから大丈夫だよっ」
「大丈夫じゃないわよ」
キャスケット帽を外して、怪訝な目で睨み付けるのは──保護者のレモンだった。
「貴女、これはどういうことか、説明してもらおうかしら」
「え、えーと、これは……人助けと言いますか、何と言いますか……」
「ごめんなさいデジーさん、この人たちには一瞬でバレました」
「ウッソでしょ!? あ、えーと、流石レモン先輩っ!! 転校生っ!! ボクの事を、ちゃーんと理解してるんだねっ!!」
「反省なさい」
「マジで心臓に悪かったんだから!! 悪い奴が君と入れ替わったんじゃないかって!! 相手が聖女様って知って、二度びっくりしたよ!!」
「はい……ごめんなさい……」
「あの、デジーさんは私を助けようとしてくれて、こうなったんです。どうかその辺で……」
「ダメよ、この子付け上がるもの」
「むぅうう……! それよりも! 正直ヤバいかもだよ、二人共」
話を遮り、デジーは叫ぶ。
「──メタングの率いるダンバルの群れは……ボク……いや、
「ッ……!?」
二人は顔を見合わせ、フィーナは顔の前に手を合わせた。
自分を狙っていたという事実が彼女の不安をより大きくしていく。
「野生のポケモンの大量発生ではない、と言いたいわけね」
「そもそも、あの数の徒党を組むほど野生で生息していないよな、ダンバルって」
これが全てであった。メタングもダンバルも稀少なポケモン。これだけの数が発生したのではなく、何者かに繁殖されたと考えるのが自然だ。つまり、犯人は人間と言う事になる。今は誰が犯人なのかは全く手掛かりがないのであるが──
「デジーさん、ありがとうございました。私、バトルは強くないから……」
「いやぁー、そりゃあボク天才だし? ……って言いたいところだけど、メロエッタが居なかったらどうなっていたことやら」
「るるるるー♪」
「……メロエッタ」
メロエッタを前にして複雑そうな顔を浮かべるフィーナ。
結局自分が襲われた時、彼女を護れるのはメロエッタだけだったのだ、と思い知らされる。
フィーナはポケモントレーナーではない。メロディーレインが平和な事もあり、自分の身をポケモンで守る必要が無いのだ。本来は。
「結局、貴女の言ったとおりだったわ、メロエッタ」
「るるるるー?」
「……デジーさん、ごめんなさい。私と入れ替わったがばかりに」
「もう良いよう。無事に済んだしねっ!」
「……でもそれはそれとして、バレないって言ったのに直ぐバレた件については後で
「ご、ゴメンナサイ……」
笑顔で圧を掛けられ、デジーは委縮した。普段優しい人ほど怒らせてはいけない典型だ。
これまでのデジーとフィーナの話を総括していき、イクサは確認するように問うた。
「……成程。整理すると、こうなるわけだ。聖女様は休日を楽しもうとしていたところに、おかしくなったファンに追いかけられて、そこをデジーに助けられた」
「そうっ、元は人助けだったんだよっ!」
「どうだか」
訝しむようにレモンが言った。何処まで面白半分だったのやら、である。
「フィーナと入れ替わったデジーは、ファンを引き付けていたところにメロエッタに助けられる。ところがそこにダンバルの群れがやってきて交戦。メロエッタの支援もあって危機を脱した……これで合ってる?」
「うん。大方合ってるかな」
「そして聖女様」
「フィーナで良いですよ。聖女だなんて呼ばれると、むず痒いです」
「んじゃ、フィーナさん。ファンに追っかけられるのはこれが初めて?」
「ええ……そう言えばそうですね。あそこまで熱狂的に追いかけられるのは初めてで、怖くて……」
彼女曰く、普段ファンたちがあそこまで暴走することは無いのだという。町で見かけても、気さくに挨拶をしてくれるだけに留まるらしい。稀にサインをせがまれることはあるが、歌まで求められることはないらしい。
これがスカッシュ・アカデミアならば、平時から重機で追いかけられているところである。
「じゃあ、デジーが言ってたように
「ええ。顔がよく似てるデジーが狙われた以上、最早他人事じゃないもの」
「あれ? 転校生、ボクの事も守ってくれるの?」
「当たり前だろ。君が攫われたら困るよ」
「んんんッ……」
さらっと言っちゃってくれるなあ、とデジーは顔を赤らめた。
同時に、レモンに向けてくれるような特別な感情をもっと自分にも向けてほしいと、やきもきする。
(まあ、そんなの贅沢中の贅沢なのは分かってるけど……)
「疑問はそれだけじゃないわ。入れ替わった件と言い、ずっと気になっていたのだけど」
レモンは、フィーナの顔を指差した後に、デジーの顔も指差す。
珍しく彼女は声を荒げた。
「何で貴女たち、こんなに似てるの!? 生き別れの双子ってレベルじゃないの!」
「ボクも聞きたいよ……姉妹は居ないはずなんだけど」
「世の中には似ている方が3人は居ると言いますので……」
「写真じゃメイクで気付かなかったけど、よく見たらパーツが似てるわ……何でこんな事になるのかしら」
「不思議な事もあるもんだなあ」
「それで、このそっくりさんたちはこれからどうする? このままだと、人がまた集まってくるわよ」
「ああ、それならもう心配要りません」
フィーナが言った矢先だった。ぶろろろろ、とエンジンの排気音を立てて黒塗りのスポーティな乗用車が近くに止まる。
後部座席に座っているのは大柄な初老の男性だった。まるで軍人のような木の幹の如き体躯、そしてサングラスが夕陽に照らされている。更に、セミのようなポケモン──テッカニンがブブブと羽音を立てながら男の肩に止まっていた。
運転席からはスタイルの良い秘書のような恰好をした妙齢の女性が降りてくる。女性の方はすぐにフィーナの方へ走ってくるのが見えた。
「フィーナ! 大丈夫!? ケガはない!?」
「あ、シャープさん! 私は無事ですっ」
そして、男の方も遅れて車を出る。そして、フィーナを見るなり血相を変え──
「ブルァァァァァァァァーッ!!」
──周りが震えるような野太い咆哮を上げるのだった。そして、男のあまりの剣幕にイクサは驚いて腰を抜かしてしまう。
(な、何だこのオジサン……)
(すごい迫力だったわね……)
「フィーナちゃんんんッ!! 大丈夫だったァ? 怪我とかなァァァい? おじさんビックリしてェ心臓麻痺しちゃうかと思ったんだぞォう」
「だ、大丈夫です……」
「ちょっとプロデューサー、皆さんビックリしてますから」
「っとォ、おじさん取り乱しちまったァ……フィーナちゃんが襲われたと聞いてェい、何があったかと気が気じゃなかったんだよゥ」
独特の抑揚で語る男は、イクサ達の方を向く。
そして、直角のお辞儀で彼らに向かって自らの名刺を渡した。
「おっと申し遅れましたァ、こちら名刺です、よろしくお願いしまあぁぁぁぁぁすゥゥゥ!」
「うっわうるさ」
「わたくしぃ、メロディーレインプロダクションンンンのォ、オクタァァァァァヴゥ──異国の旅人の方々、以後お見知りおきをォう」
【メロディーレインプロダクション”プロデューサー”オクターヴ】
「そして私が、フィーナのマネージャーのシャープと申します」
【メロディーレインプロダクション”フィーナ専属マネージャー”シャープ】
眼鏡を掛けた仕事の出来そうな女性は、つつましやかに礼をすると名刺を手渡す。
どうやらこの二人は、フィーナが所属している事務所の人間だったらしい。
そしてこのノリもいつものことなのか、すっかりフィーナは慣れっこのようだった。
一方のイクサ達は、オクターヴの声の迫力と、シャープの態度の落差に風邪を引いてしまいそうになった。
(本当に事務所の人だったのかよ……)
「あの、私は特に何もされてないんです。ただ、そこの私にそっくりな彼女が──襲われて」
「なーるほどォ。身代わりってワ・ケ・か。ンン、ナーイースゥゥゥー……結果的にフィーナちゃんを守り抜くとはァ……ガーキの癖になかなか見所あるなァ、褒めて遣わすぞゥオーイエ」
ずい、とデジーに詰め寄るオクターヴ。彼女は冷や汗をかきながらフィーナに問いかける。圧が、強い。
「ねえ、この人って……いっつもこんなテンションなの?」
「オクターヴさんは悪い人じゃないの、顔も声も怖いけど……」
プロデューサーと言われなければ、マフィアのボスか何かと勘違いしていたところである。
「ところで聞いたけどよゥ、お前らスカッとアカデミアの学生なんだってェい? 折り入って頼みがあるんだよォう」
「スカッとじゃないです、スカッシュです……」
「るっせェい、玉付いてんなら細けェ事気にすんじゃねェよゥ」
「皆さん、車に乗ってください。詳しい話は事務所でしましょう」
「しっかし許せねェぜ賊共ォ、聖女様に何かあったらァ──テッカニンの必殺テッカニンブレードが火ィ吹くから、
「ブブブブ!?」
(必殺テッカニンブレードって何……?)
(ブレードなんて無いでしょ、テッカニンに……ポケモンも困惑してんじゃん……)
こうして、イクサ達3人は車に乗せられ──芸能事務所「メロディーレインプロダクション」に向かう事になったのだった。
車に揺られる中、イクサはまだ事件の事を知らない二人の先輩の顔を思い出す。
(あ、そうだ。バジル先輩とゼラ先輩にも連絡入れとこう……)