ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
「……いやー、大聖堂は綺麗デシタね、ゼラ先輩っ!」
「──む」
音楽祭が近いからか、広場には夜店が出店されており、ゼラとバジルはベンチでさっきまで見ていた古い大聖堂を語る。
度々結婚式場になることもあるらしく、女子からすれば憧れの的であった。
「それにしても、あの大聖堂の奥で、ウェディングベールを掛けて……いつかは私も結婚式を……いやーっ、我ながら気が早いデース!」
「……」
「ちょっと、その目は”どーせお前には無理だろ”とかゼラ先輩も考えてるんデショ!? ゼラ先輩!?」
「……む。すまん、聞いていなかった」
「もっと悪いデース!!」
むしろ逆であった。
バジルの言葉で、ゼラの頭に浮かんだのは──ベールを掛け、ウェディングドレスに身を包んだバジルの姿。
普段は賑やかな彼女が、何処か慎ましい顔で聖堂の奥に立ち、ブーケを抱えている。
そんな姿を想像しただけで、ゼラの顔は真っ赤になっていく。目の前に座っている本人に悟られまいとするので精一杯だった。
故に、彼女の話など1ミリも聞こえていなかったのである。純情。
「だーかーらーっ! あの大聖堂で結婚式するのに憧れるって話デスよ!」
「──ッ!!」
ゼラの頭にレールガン落ちる。
その顔が急速的に蒼褪めていく。
しかし、それは一般人から見れば微々たる変化なので、誰も気付かないのだった。
(結婚式? 一体誰と? 既に結婚を考えている相手が居るのか? 大聖堂と結婚式と言うワードでコイツの花嫁姿を考えていた俺は、ひょっとしてひょっとしなくてもとんでもなく痛々しい勘違い野郎ではないのか? そりゃあそうだ、俺はコイツが好きだが、コイツは別に俺が好きなわけではないだろう、コイツが好きな相手など幾らでも居るだろうし、ああもしもそうだったらレールガンを口の中にブチ込んで自害する覚悟──)
一瞬で駆け巡る思考。頭の中が真っ白になっていく。
あくまでも結婚式に憧れているだけなので、これ自体が痛々しい勘違いなのだが、恋は盲目なのであった。
「ゼラ先輩っ? どうしたのデース?」
「……結婚する相手でも居るのか」
「ヤーだなぁ、いないデスよ、そんなの──! 憧れるってだけデース! 強いて言うなら、私の恋人は事件と謎、デスねー!」
(──救われた)
一瞬で彼の頭は正常に戻った。この最強のスナイパーは、目の前の迷探偵の事になると一瞬でクソボケになるのだった。
「さーてゼラ先輩、次は何処に行くデスか?」
「……」
「何で満ち足りた顔をしてるデース!?」
「……何でもない。お前の行く場所ならどこでも付いて行く」
「えー、ゼラ先輩は行きたい場所とか無いのデスか?」
「……」
そう聞かれて、ゼラは沈黙。
頭の中が真っ白になってしまう。
今この状況ですらデートに等しいのに。
(俺は……弱いッ……!)
「ゼラ先輩? もしもーし? ゼラ先輩?」
こうなるともう、バジルの声も聞こえない。
傍から見ると、腕を組んで仏頂面で座っているだけのように見えるが、内心非常にテンパっているのだった。
「ねえ、お兄さん、お姉さんっ、ポケモントレーナー!?」
その時だった。
バジルのスカートを引っ張るのは、幼い少女だった。
しかし、涙が目の縁から零れており、今にも泣き出してしまいそうだった。
椅子から降りて目線を合わせたバジルは少女に問いかける。
「……どうしたのデス? 何かあったのデスか? 名探偵の私にお任せくだサイ!」
「私のニャルマーが、高い所に登っちゃって、降りられなくなっちゃったの」
「それは大変デース! この私と、お兄さんがバッチリ解決してあげるデス!」
「任せろ」
「本当!? 実は──」
少女に連れられてきた場所は、さっきまで見学していた大聖堂。
その高い屋根のてっぺんにあるロザリオに、ニャルマーと思しきポケモンが掴まって降りられなくなっている。
「──って、高過ぎデース!! どうやってあんなところまで登っちゃったのデース!?」
「デリバードを使えば良いだろう。急いで準備をしろ」
「分かってるデスけど!」
「安心しろ、クワガノンも行かせる」
「流石に手際が良いデース……」
すっかり仕事人モードになったゼラは、双眼鏡でロザリオのてっぺんを眺める。
既にクワガノンはいつでも飛行が出来るような状態だ。
一見、ニャルマーが先に前足を離しさえしなければ助けられるような状態だった。
だがゼラは、建物の横側から迫ってくる飛翔体を認める。その正体を確認した後、すぐさま双眼鏡をバジルに手渡し叫んだ。
「──いかんッ!!」
「ど、どうしたデス!?」
「
「デース!?」
双眼鏡をゼラからひったくったバジルも、接近してくる猛禽類のようなポケモンを確認する。
ムクホークは非常に好戦的な鳥ポケモンとして知られている。
地上、空中、水面問わず見つけた小型のポケモンを、強靭な足で捕まえて捕食する典型的な猛禽型ポケモンだ。
ロザリオに掴まって動けないニャルマーを見れば当然、狙いに行くわけで──
「ゼラ先輩ッ! ムクホークをお願いしマス! デリバード、”おいかぜ”で加速して、ニャルマーを助けてくだサイ!」
「狙撃は任せた──クワガノン!!」
デリバードが風を纏いニャルマー目掛けて飛び出す。しかし、このままでは当然ムクホークがニャルマーを掻っ攫うのが先だ。
しかし、そこでゼラがムクホークの妨害をするべく狙撃に入る。
「”フラッシュ”弾頭だ、クワガノン」
「キッシャーッ!!」
「対象はムクホーク──ッ!!」
(お前に恨みは無い。悪く思うなよ。直接撃ち落とさないだけマシと思え)
ゼラの指先に誘導されるがままに、照準をムクホークに合わせるクワガノン。
その大顎の先には、光り輝く閃光がチャージされていき──
「──ロック・オン!!」
──ズドンッ!!
ゼラの合図と共に撃ち放たれる。
そして閃光弾は飛翔するムクホークの正面で爆ぜ、大きく光り輝く。
急に視界が真っ白になったため、パニックになったムクホークはバランスを崩し、そのまま屋根にぶつかり、墜落していくのが見えた。
しかし、そこは流石、強靭な猛禽型ポケモン。空中で体勢を立て直し、何処かへ逃げていくのが見えた。
(──問題は此処からッ!)
一方、突然の強い光に驚いたのはニャルマーも同じだ。
ずるっ、と前脚を離してしまい、落下していくのが見える。
急な斜面の屋根に落ちたニャルマーはごろごろと受け身を取ったものの、その先に足場は無い。
それを見た女の子は泣きながら絶叫する。
「いやーっっっ!! ニャルマーがーっっっ!!」
「問題Nothing!! ”おいかぜ”を使ったデリバードは、速いの、デェェェース!!」
転落するニャルマーをデリバードが袋のような尻尾でクッションにして受け止めた。
凄まじい速さであった。
それはもうムクホーク以上の勢いでの上昇だった。
”おいかぜ”は一気にポケモンの速度を加速させる技だからである。
間一髪ではあったが、こうして救出劇は幕を閉じたのだった。
「もーう、あんなところに登っちゃダメだからねっ、ニャルマー!」
「にゃんにゃみ」
「お兄さん、お姉さん、ありがとうっ!! トレーナーさんって、やっぱりすごいんだっ!!」
「いやー、それほどでもあるデスよー、えへへへへ」
ニャルマーを抱きしめる少女の前で調子に乗って鼻を高くするバジル。そして、隣で相変わらず無表情でクワガノンをボールに戻すゼラの背中を叩いた。
「ゼラ先輩も、流石だったデス! やっぱりこういう時は頼れマスね!」
「……ん」
こくり、とゼラは頷く。
頼れると言われて悪い気はしないどころか、彼にとっては最大限のご褒美。
だがそこにブチ込まれるのは、更に特大級の爆弾であった。
「ねー、ところで、お姉さんとお兄さんって、コイビト同士なのー?」
「ッ!?」
「いやいや、違うデスよーっ! 私達、仲間達と旅行で来てるだけデスからー!」
流石のバジルも顔を赤くする。
ゼラは──挙動不審気味に肩を震わせた。
「でも、さっきの二人、あうんのこきゅー? ってヤツだった! お似合いだと思うっ!」
「……お似合い」
「もー、そんな事言ったらゼラ先輩が困っちゃうじゃないデスか! ね? ゼラ先輩」
「……」
「ゼラ先輩!? ちょっと、何とか言ってくだサイ! 困ってマスよね!? ね!?」
「……」
否定しないゼラに、バジルは助け船を求めるかのように同意を促す。
しかし「お似合い」と言われて舞い上がってしまったゼラは、すっかり放心状態になってしまうのだった。
女の子が手を振って「じゃーねー、コイビトのお兄さんとお姉さーん!」とお礼を言いながら去っていく中、バジルはぷりぷりと怒りながら彼の服を引っ張る。
「もーうっ、ゼラせんぱーいっ!!」
「……ん」
「ゼラ先輩の所為で勘違いされちゃったデス!」
「……嫌だったか」
「え? えと、イヤってわけじゃあ……ないデスけど」
「なら別に勘違いされても良いだろう」
「ちょっと、ゼラ先輩! 今日ちょっと、おかしいデスよ!」
おかしい、という言葉をゼラは否定できなかった。
すっかり舞い上がってしまっていた。今日は夢のような出来事ばかりだ。
尚、この間ずっと彼は無表情のまま。バジルにとっては何が何だか分からなかった。
(イクサ。この恩は必ずや返す──)
※※※
「うおおおおおーッ!! フィーナ様ーッ!! 貴女様の歌が好きだーッ!! うおおおおおーッ!!」
ファンたちとの追いかけっこが続き、早数時間。既に日は暮れようとしていた。
振り切ってもまた別のファンが出てくるのである。迷宮に潜っている時の野生ポケモンのようだった。
強いて言うならばアカデミアのように、ポケモンや重機を持ち出してくる輩が居ないだけマシといったところか。
「ボ、ボクの方が疲れちゃった……」
「みぃー……きゅるる」
袋小路に追い込まれ、息を切らせるデジー。
最初は追いかけられる有名人気分を味わってみたいと考えていた彼女だったが、すぐに考えを改める。
何というか、このファンたち、
オフだと言っても、声を聴かせてくれと言って憚らない。
まるで麻薬の中毒患者のように、歌をせがんでくるのである。
更に、如何にもアイドルオタクな男達だけならばまだしも、層は様々だ。追いかけてくる人には若い女性の姿もあった。
老若男女問わず、皆が彼女の歌を求めているようにすら思える。
なんせ店の中に逃げ込んでも客に勘付かれ、追いかけ回されるのだ。
既に彼女の「今日のファッション」がネット上に出回っているとしか思えない──と考えて検索したら本当に出回っていて、デジーはドン引いた。
「歌を、歌をお聞かせください、聖女様ーッ!!」
「貴女の歌が、私達の救いなんですーっ!!」
(違う──気持ちの悪いアイドルオタクとかそういうのじゃない! いや、きっしょいのは確かだけど!! にしたって……
しかし、既にデジーの方が体力の限界だった。
ミミロップもすっかり跳び、走り疲れてしまったようである。
虚ろな目をしたファンたちが、近寄ってくる中、次の手を彼女が考えようとしたその時だった。
「ルルララー♪」
ハミングのような声が何処からか聞こえてくる。
そして、華麗なステップを踏んだそれは、空中で一度宙返りしたかと思えば、光り輝き──デジーの前に舞い降りた。
「……ッ!? 君は」
「るるるるー♪」
恭しく礼をしたのは、小柄な妖精のようなポケモンだった。
その髪は五線譜が刻まれ、右耳は音符の形状をしたインカムのようになっている。
幾度となくメディアで目にして来たそのポケモンを目の当たりにして、デジーは名前を呟いた。
「メロエッタだ……!」
にこり、と微笑んだメロエッタは、すぐさま得意のソプラノで祈るような歌を唄い出す。
ポケモンの言葉はデジーには分からない。しかし、とても心を穏やかにして癒していくような歌声だった。
その場に居たファンたちも皆、うっとりとそれに聞き入ってしまう。
「メロエッタ様の歌が……沁みる……」
「何をやってたんだ俺達……」
「心が洗われていく……」
「私達、休日中の聖女様に向かってなんてことを……」
「るるるるー♪」
「すごい……」
恭しく礼をするメロエッタは、そのままデジーの手を引いた。
──メロエッタは普段、町の何処かでずっと歌を練習しているんです。本当は私の傍に居たかったみたいだけど、あの子が居ると目立っちゃうって言って断っちゃいました。
そんな事をフィーナが言っていたのを思い出す。自分をこの境遇に引き込んだ手前、メロエッタに対して複雑な気持ちを抱いているのだろう。
そのまま、あっさりと立ち去っていくファンたちを横目に、デジーはメロエッタに問いかける。
「ねえ。ボクがフィーナじゃないって気付いてるよね……多分」
「るるるるるー」
メロエッタは頷いてみせる。全部お見通しのようだ。
「……だよねぇ。助けてくれてありがとう」
「るーらららー♪」
歌うような声が返ってきた。
とても天真爛漫で純粋だ、とデジーは感じる。
永い間、町の人々に好かれてきたことが分かる。
かく言うデジーも、先の歌声を聞いて緊張状態が解けてしまったほどだ。
「みーみーっ!」
「ミミロップも、君の歌を聞いて、癒されたみたいだ。ポケモンも人も癒す奇跡の歌──体感させてもらったよっ」
手を叩いて賞賛するミミロップ。伝説通り、ポケモンが聞いてもメロエッタの歌は非常に癒されるものらしい。
だが同時に気掛かりだったのは、明らかに正気とは思えなかったあのファンたちの様子だ。
(……尋常じゃなかった。一体何だったんだろう……)
メロエッタの歌を聞いた途端、魔法が解けたかのように人々が正気に戻って帰っていったのが思い出される。
だが、それをこの場で考えても結論は出なかった。
「バババババババ……ッ」
「バババ──」
「バババババババ」
その時だった。
周囲から金属音が聞こえてくる。
そして、メロエッタが血相を変えてデジーを護るように前に出た。
「……な、何、この音……!?」
「るー……!」
空が一気に暗くなる。
デジーは思わず見あげて、体中の血が引いていくのを感じた。
目だ。無数の目がこちらを覗いている。
鉄球に、爪が付いた胴体のくっついた外観だが、ぽっかりと開いた空洞からは赤い光を放つ目がこちらを確かに見ているのだ。
そして1匹や2匹ではない。何十匹もの数の金属生命体が空に浮いていた。
「あのポケモン達は、確か──ッ!?」
【ダンバル てっきゅうポケモン タイプ:鋼/エスパー】
※※※
「すごく、スースーする……っ」
うさ耳カチューシャに、へそ出しファッション。
その上にダボダボの薄手のコート。ついでに申し訳程度のサングラス。
お腹が出ているのが、フィーナにとっては落ち着かなかった。
だが、不思議と町行く人には気付かれない。
というのも、フィーナは内外共に奥ゆかしい性格として知られており、まさかこんなバニーを思わせるようなカチューシャに、お腹を出すような派手なファッションをしているはずがない、と皆思っているのだ。
(何というか……うさ耳とサングラスのマジックってヤツなのでしょうか……よくこんなの付けて往来を歩けますね、デジーさん)
だが、普段しない恰好で誰にも気づかれないままショッピングをするのは新鮮な気分だった。
もうすぐ夕方。久々のお一人様を満喫することが出来て、すっかりフィーナは満足している。
一通り買いたいものも買い終わり、後は何処かでゆっくりと音楽でも聴きながら過ごそうかと考えながらベンチに座っていたその時だった。
「ちっちっ、ちちちっ」
「ぴぃー、ぴぃー」
彼女の姿を見て、小鳥のポケモン達が降りてくる。
ムックルやポッポ、ヤヤコマ──フィーナが町で歌っていると傍に近付いてくるポケモン達だ。
「……ごめんなさい、今日は歌えないんです。明日からレッスンで、喉を休めないといけないから」
せがむように、ぴちぴちと鳴く小鳥たちをフィーナは窘める。
だが、間もなくポケモン達は皆、何かに勘付いたかのように飛び去ってしまった。
「あーっ!! デジー、居たーッ!!」
「探したのよ、全くもう。いきなりどっかに行っちゃって」
「えっ」
フィーナを見つけるなり駆け寄ってくる約二名。
女顔の少年と、その横に立つワンピース姿の黒髪の少女だ。
一瞬正体がバレたのかと心臓が飛び跳ねたフィーナだったが、出発前にデジーに、スマホロトムで写真を見せられた中の人物に彼らの顔があったことをフィーナは思い出す。
(確かあの人たちが──)
──あ、多分この人たちは君を見たら声をかけてくると思う。ボクの旅行の連れなんだよね。
──はぁ、イクサさんと、レモンさんと、バジルさんと、ゼラさん、ですか。
──うんっ。レモン先輩は、クールだけどすっごく可愛くって、バジル先輩は……変。自分の事を探偵だって思い込んでる異常者だよ。
──ええ……?
──ゼラ先輩は、顔が怖いけど……優しいよ! そして……イクサは……。
──どうしたんですか?
──えっへへへ……何でもなーい。
──変なデジーさん。
──とにかく、もし出会ったらボクのフリして乗り切って、すぐに離れたら良いよ! ……バレたら大目玉喰らうのはボクだし。
──そんなぁ!? 確かに演技は苦手じゃないですけど……。
──大丈夫っ! このイクサってヤツの事は”転校生”って呼んで、他の3人の事は名前に先輩って付けておけばバレないバレないっ! 適当にあしらってすぐに逃げたら追っかけて来ないってぇ!
「やれやれ、貴女が居ないからイクサ君とデート状態だったのよ」
「へ、へーえ、そうなんだぁ……」
(こ、此処は何とか乗り切るしかない。デジーさん、単独行動好きっぽいし、それで納得させよう!)
そう決意しながら、彼女は──デジーの言動、クセを思い出しながら、きゃぴっと「演技」してみせる。
「う、うんっ、ごめんレモン先輩っ! ちょっと良さそうなファッションの店があったからさーっ! 気になっちゃって!」
「……あら、そうなの」
「まだまだいっぱい回りたいところあるんだよねーっ! 折角だし、二人っきりを楽しんでいきなよ!」
「それはありがたいけども」
「んじゃあ、ボクはこれで──まだ行きたいところ沢山あるしっ! じゃあねーっ!」
「待って。君、本当にデジーなの?」
「え”ッ」
呼び止めたのはイクサだった。
──デジーは、1つ彼女に伝え忘れた事がった。
このイクサと言う少年が、恐ろしく推理力と洞察力、観察力に長けていることを。
そして、隣に居るレモンも、他の追随を許さない程に頭がキレることを。
何よりも、一度気になったことがあると、重箱の隅をつつくように聞きまわしてくることを。
「先ず、その紙袋の中、音楽雑誌だよね。クラシックの」
「そ、それが、どうかしたの? ほら、折角音楽の都に来たんだし色々買ってみたくなっちゃって!」
「デジーは音楽に全くと言っていい程興味が無いよ。強いて言うならゲーム音楽かな」
「え”ッ……!!」
(し、知らない! そんな事っ! ゲーム音楽って何!? あの子の趣味、私と真逆じゃないですか!)
買った物で墓穴を掘ってしまったことにフィーナは気付く。
そもそも、そんな事でいちいち突っ込んで来るこの少年も大概何処かおかしいのではないか、と考えつつも次の言い訳を考える。しかし。
「それと──いつの間に
「……あー」
「そうね。顔は毎日日差しが当たるから褐色に焼けるのは当然。だけどあの子、お腹を出した服を着るのは気分だから……顔と同じくらい焼けてないのよ」
「あ、あ、いや、これは」
フィーナは、頭の中でデジーの顔を殴っていた。
何がバレないだ、一瞬でバレたではないか! と。
無論、デジーはお腹の日焼け跡を失念していたことは言うまでもない。
今度は追撃と言わんばかりにレモンが耳元で囁く。
「……それに貴女、私とイクサ君がデート状態って言ったのに、全く嫉妬するようなそぶりを見せなかったじゃない。本当にあの子だったらミミロップ出してるわよ今頃」
(ま、まさか、あの時の反応って──)
明らかにイクサに言及している時、挙動不審だったデジーを思い出す。あれはつまるところ、この少年に好意を抱いている乙女の反応だったのだ、とフィーナは確信した。
しかし、何もかもが遅きに失した。
(デジーさんの、アホーッ!! この人が好きなら好きって言ってくださーい!!)
「そう言えば、腰のボールの数が少ないわね。自慢のミミロップは何処に居るのかしら?」
「あ、あああ……」
相手が悪かったと言わざるを得ない。有事の時以外はボンクラな名探偵と、無口な狙撃手が相手だとしても、きっと追及は逃れられなかっただろう。
何もかもデジーの見通しが甘かったと言わざるを得ない。
しかし、今フィーナが相手にしているのはスカッシュ・アカデミア随一の頭脳なのである。
「君は誰? 事と次第によっては……」
「そうね。正直に言えば悪いようにはしないわ」
(終わった……私の静かな休日……!!)
真っ白になった頭で、詰め寄ってくる二人になんて返そうか考えるフィーナ。
最早白旗を上げて洗いざらい全て話すしか方法は無い。
そう考えていた時だった。
「おい、大変だ!! あっちで、聖女様がダンバルの群れに追っかけられてたぞ!!」
「ウソだろ!? ダンバルなんてこの辺に居ねえじゃねえか!!」
「それがすっげぇ数居たんだよ!! 十匹とかそういう量じゃねえ!!」
誰かがそう叫んで走っていくのが見えた。
イクサとレモンは何が起こったのか分からない、と言わんばかりに顔を見合わせる。
「ダンバルの群れ!? 野生じゃ滅多に出て来ないレアなポケモンのはず、ですよね」
(ゲームでも限られた場所にしか生息してないし……この辺りで生息してるって話も聞いてないぞ?)
イクサの記憶では、ダンバルは初登場の「ルビー・サファイア」ではイベント入手のみ。
それ以降でも生息域が非常に限られていたり、出現率が低かったりする貴重なポケモンなのだ。
そのポケモンが何十匹も出現しているのは、はっきり言って異常事態だ。
「何か厄介な事が起こってるみたいね。しかも聖女様が追いかけられているって、どういう──!?」
「あのっ!!」
フィーナは意を決してベンチから立ち上がった。聖女が追いかけられている──つまり、今危機に瀕しているのはデジーなのだ。
「正直に全てを話しますっ!! 貴方達のお仲間が……