ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
※※※
──喫茶店に入った後、イクサは早速、ジャガーに問いかける。
「それで、キミョーなウワサっていうのは?」
「ああ、俺じゃなくってバイトの彼女に聞いた方が良いだろう。グウェン!」
「はーいっ」
「貴方の話じゃないのね……」
奥の方から、エプロンをかけた少女が現れる。
髪をカラフルに染めており、如何にも今時のギャルといった派手な少女だった。
「なぁーに? こんな美少女二人、どうやって捕まえてきたのテンチョ」
「グウェン。こっちのお客さんは男だよ。そこの彼にバトルで負けたんだ」
「うぇっ!? マジヤバ!? すっごく強いんじゃん、失礼したし!」
「もう良いです、慣れてるんで……」
話し言葉も、アンティークなカフェには合わないくらいラフだ。
そのくらいの方が緊張しなくて助かるが──聊か接客に向いているかどうかは怪しい。
現に注文を取る前に、グウェンは見慣れぬ観光客に興味津々と言った様子で詰め寄ってきた。
「ところでお客さん達、観光客なんだって? ねえ、フィーナちゃんの生歌聞きに来たんでしょ」
「フィーナ──ああ、音の聖女の名前でしたっけ」
「ええ。確かそのはずだけど」
「そうそう! 名前がもうカワイイっしょ!?」
ぶんぶん、とグウェンは首を縦に振った。どうやら聖女の大ファンらしい。
「今度ある音楽祭には絶対行った方が良いし! フィーナちゃんの生歌ライブ、マジで神ってるし! そこにメロエッタとの歌も絡めば完璧だし!」
「……ライブ?」
「そう! フィーナちゃん、定期的にライブしてるし! チケット取るの、チョー大変だし! CDやサブスクの売り上げもチョーすごいらしいし!」
イクサは眉を顰める。何だか思っていた聖女の実態とだいぶ異なる。
もっと、厳かな雰囲気の教会で聖歌を唄うような感じをイメージしていたが、実際はホールでライブをしているらしい。
あまり予習していなかったのか、レモンの方もなかなか怪訝な顔をしていた。観光やイベントの事は調べても、他所の国の芸能事情までは皆なかなか調べないものだ。
「”音の聖女”が現地ではアイドルのような扱いって聞いていたけど、まさか本当にアイドルと読むとは恐れ入ったわ」
「と言っても、フィーナちゃんの代からだよ。聖女とメロエッタをアイドル売りするようになったのは……」
ジャガーが店に飾ってあるCDのジャケットや、メロエッタのぬいぐるみを指差して言った。
「音の聖女が高い音楽技能を持っていることに目を付けた各種企業が、フィーナちゃんをアイドルに仕立て上げたってわけ。列島の文化である
(列島──つまり日本、だよな……日本的な何でもできるアイドルってことか)
つまりはメロエッタを使った音楽才能の発掘、そしてそれに伴う興行化をメロディーレインは推し進めているのだという。
音の聖女は、メロエッタに選ばれた者、即ち優れた音楽の才覚を持つ少女。逆説的に、メロエッタに選ばれた音の聖女は世界にすら通用する力を持つことを意味していた。
これを確信した各企業は、メロエッタ&音の聖女・フィーナを
「事実、フィーナちゃんは人が良いし、歌上手いし、ダンスもチョーすごいし! テレビに出てたら癒されるし!」
「テレビ番組にも出てるの!?」
「オシアスじゃあ、こっちの番組は見れないから知らないのも無理無いわね。私も今知ったわ」
確かに彼女の現状は、聖女というよりも日本のアイドルに近い、とイクサは考える。歌って踊れる、メディア出演もできる。何でもできるのだ。
どうやら調べてみると、ドラマ出演やバラエティー番組にも顔を出しているらしい。
「聖女」という文面から連想されるワードからは少し懸け離れた実情ではある。
(まあ純潔性が求められるのはどっちも同じか。聖女とは国にとっての御旗、それが現代ならこうなるってだけで)
「おかげで、この町を訪れる観光客は爆増ってわけ。メロエッタの奇跡の歌と、フィーナちゃんの癒しの歌が合わさって、最強に見えるのさ」
「まさに
「いやいや、完璧で救国のアイドルって巷では言われてるし! ……経済的な意味で」
「確かに救国かもしれないけど、それはどうなのさ」
「でも、今は音の聖女の事はどうだって良いのよ」
レモンはそこで無理矢理話を打ち切った。元々、彼らは音の聖女の話を聞きに来たのではないのである。
「奇妙なポケモンのウワサは、一体いつになったら出てくるのかしら?」
「ゴメン、脱線し過ぎたし……」
「そうだ! 教えてもらってもいいですか!?」
「良いけど──飲み物どーするし? お客さん」
「コーヒー2つ。アイスでお願いするわ」
「ケーキもお願いします!」
「オーケー、アイスコーヒーとケーキね。ちなみに、おススメはそこの”ラブカスストローのカップルジュース♡”だけど」
グウェンが指差したのは、バカでかい容器に注がれたイチゴのスムージーに、ハートのカップルストローが刺さった写真だった。
どう見てもバカップルが注文するようなメニューだ。ラブカス要素と言えば、ストローの真ん中のハートだけである。
「だからカップルじゃないんですってば、僕ら!!」
「あら、私は勘違いされても良いのだけど」
「レモンさん!?」
「冗談よ。一応私達、旅行中の学生なの。今は自由行動中で、後輩の面倒を見てるだけ」
「お姉さんすっごく美人だしー。後輩君は役得ってヤツ?」
「は、はは……」
イクサは力無く返事をするしかなかった。この陽の気が溢れるノリには付いて行けない。
そして、グウェンとジュナイパーがコーヒーとケーキを持ってきたところで、漸く本題が始まった。
「さて。お待ちかねのウワサ話ね。コレはうちのダチの話なんだけど……夜、この町の廃墟の近くで……楽器の音が聞こえたらしくって」
「楽器?」
こくり、とグウェンは頷く。
怪しがって近付いてみると、底知れない気配を感じたのだという。
思わず入って中を探してみたところ、突如──
「ぐわあああああああーって、すごい音がしてブッ飛ばされちまったみたいで」
「うわぁ!? いきなり大きな声出さないでくださいよ!」
「そんで、その時赤い光が2つ! 確かに闇夜に浮かんでた気がするって! 要は、メロディーレインの廃墟にはバケモノが居る……って事だし」
「成程。要するに、そんな不確か極まりないものをウワサだとかなんだとか言って釣っていたのね、このお店の店長さんは」
ギロリ、と鋭い視線をレモンは店主に向けた。つぅ、と彼の額に冷や汗が伝う。
「あー、ウソじゃないし! 他にも、このメロディーレインで夜に楽器の音を聞いたって人は山ほど居るし! 廃墟も調べる人が他に居ないだけで、絶対なんか居るし!」
「そりゃあ近寄りたくないでしょうよ、廃墟なんて……」
「やれやれ。あまり期待はしていなかったけど」
レモンはケーキを食べ終わると、イクサに目配せした。さっさと出るぞ、と言いたげであった。正直期待外れも良い所である。
「まあ、気が向いたら調べてみるわ。お勘定だけど、カードは使える?」
「勿論! キャッシュレスはしっかり対応してるんでね。……それで、どうだった?」
「半信半疑ですね……まあ所詮は噂ですし」
「ああ、そう……琴線には響かなかったみたいだね」
そんなやり取りをして、二人は店を去った。
そして──ふと、彼女は町を歩く中、イクサに問いかけた。
「さっきのウワサ、どう思う? イクサ君」
「うーん、廃墟にポケモンが住んでるのは分かりますけど、楽器の音ってのが気になりますね。だって、楽器のポケモンなんてあまりいないじゃないですか」
「そうね。私も、そこだけが気掛かりだわ」
イクサが考える限り、エレキギターモチーフのストリンダーや、コロトックくらいなものだ。
音で攻撃するポケモンは沢山いるが、楽器型のポケモンと言われるとなかなか思いつかない。それくらいには少ない。
「調べるんですか?」
「嫌よ。何で旅行中に荒事に首突っ込まなきゃいけないの。本来は、この町の人が解決するべき問題だわ」
「それもそうですよねえ……」
※※※
──少女は路地を駆けていく。
追手は未だに振り切れない。彼女の体力では、そろそろ走るのも限界だった。
(どうしよう、このままじゃ……逃げきれない……!!)
「助けてあげよっか?」
「へぇ!?」
何かが空から飛んできて、少女の華奢な身体を包む。
毛皮のような感触だった。しかし、万力のように強い力だった。
「いっくよっ!! ミミロップ、飛び跳ねてッ!!」
「へぇっ!? 待って、待ってくださ──ッ!」
「いっけぇぇぇーっ!!」
困惑した次の瞬間には、彼女の身体は思いっきり重力に逆らって跳ね上がっており──
「うっひゃあああああああああああ!?」
──気が付けば、何処かの建物の屋根上に居るのだった。
放心状態で見あげると、そこにはイタズラっ子のような顔を浮かべるデジー。
そして、もふもふとした毛皮が特徴的なミミロップが立っていた。
しかし此処まで大きなサイズの個体は見たことがなかったのか、少女は腰を抜かしてしまう。
「あ、あわわ……」
「やっほ、生きてるー?」
「し、死んだかと思いましたぁ……」
放心状態で少女は呟いた。顔面は蒼白。魂が口から抜けかけている。
「大丈夫、怪しいものじゃないよ。ボクはデジー、只の観光客だからねっ」
「只の観光客は、こんなに大きなミミロップは連れてません!」
「いや、この子は、お父さんが迷宮から連れ帰ってきたヤツで──いや、これ他所の地方の人には分からないか」
「?」
「とにかく、君が追っかけられてたから、助けてあげたんだよっ」
「……それは、ありがとうございます……」
少女の風貌は、如何にも地味な町娘といったものだった。
ベレー帽に眼鏡を掛けた、褐色肌の少女。目の色も、ベレー帽から見え隠れするオレンジブロンドは、美少女の片鱗を見せている。
きっと目立たないように敢えてこの格好をしているのだろうが、素材が良いから逆効果なんだろうなあ、とデジーは苦笑したところで──彼女に問うた。
「ところで、何で追われてたの?」
「……私の熱心のファンみたいなものなんです。今日は久しぶりのオフだったんですけど、勘づかれちゃったみたいで……」
「うわー、カワイソー……何? 背格好はボクと同じくらいだけど、女優さんだったりするの?」
「えーと、そんなところでしょうか……あれ?」
少女は何かに気付いたようにデジーの顔を見つめていた。
そして、デジーも彼女の顔を思わず見つめていた。
「ねえ、眼鏡取ってほしいんだけど、いいよね?」
「は、はいっ……」
ふと目が合った。
茶色の瞳。そして、鼻の位置、高さ、唇の厚さ。
その全てがまるで、鏡で映したかのように二人は同じだった。
肌の色も、偶然今デジーが日焼けしているからなのだが──瓜二つなのである。
「ボクがもう1人居る!?」
「貴女、私にそっくりです……っ!? もしかして生き別れの姉妹かもしれませんね!」
「君姉妹いるの?」
「居ないです……」
「ボクも1人っ子だよ」
一瞬で生き別れの姉妹という線は瓦解した。
「貴女の生まれは?」
「オシアス地方……だけど」
「オシアス? あの砂漠の……でもオシアスに親戚は居ませんね……」
「じゃあ肌の色は? ボク、元々白いんだけど日焼けしてて」
「そうですか……私は生まれつきこの色なので……」
「あー、そこだけ違うんだ。じゃあ、ボクが日焼けしたからそっくりってことだね」
世の中には3人自分とそっくりな人間が居ると言う。それが遭遇するというのは相当な確率の偶然ではあるが──デジーからすれば、この偶然に面白さを隠せなかった。
今回の旅行、これだけでお釣りが返ってくるレベルである。
「傑作だよ! 助けた女の子の顔がボクそっくりだなんて! もうこれだけで忘れられない旅行になりそうだ!」
「私も驚きました……っ! もしかして、これも何かの運命なのかもしれないですね!」
※※※
そっくりさん二人は、その後は人気のないカフェでお茶をしながら、会話を弾ませていた。
少女曰く「信頼できる場所」らしく、此処でならゆっくりできるらしかった。
先程の場所からミミロップの力を借りて離れたので、もう追手らしき姿は無い。
「デジーさんは普段、オシアスで学園に通っているのですね!」
「うん。結構大変だけど、楽しい所だよ。後、ボク天才だからっ、勉強なんてへっちゃらだもんね!」
「スカッシュ・アカデミア……話には聞いております! ポケモンに関するお仕事を目指す方々が通う名門校だと!」
(ははー……物は言いようだな……)
重機が闊歩しているくらい治安が悪い事、そして事が起これば必ず怪我人が出たり裏切り謀反争いが絶えない程民度がデンジャラスな事は敢えてデジーは黙ることにした。
世の中には知らない方が良い事が沢山あるのだ。
「今日は旅行に来てたんだ。仲間達と一緒にね」
「そうですか……お友達と一緒に旅行だなんて羨ましいです」
「ふぅん。やっぱりお仕事が忙しいの?」
「ええまあ……仕事以外でメロディーレインの外に出ていないのは何時ぶりでしょうか」
「大変だね。そしてやっと手に入った休日も、さっきみたいに……」
デジーは少し前の自分を見ているようだった。仕事に忙殺され、趣味のオンラインゲームすらまともに出来ない状態。
それをやりがいという言葉で励まし、鼓舞する。そんな日々。虚勢を張り、誰かを貶めることでしかストレスを発散できなかった頃を思い出す。
「でも、好きな仕事だったらついつい頑張れちゃうんだよねー……ボク、メカニックだからさ、ついつい没頭しちゃって辛いのとか忘れちゃうんだよね」
「好きな仕事……ばかりではありませんよ」
「え?」
「……私、数年前までは只歌うのが好きな町娘でした。普通に学校に通って、普通に友達と遊んで、そんな日々が続いていて」
「でも、そこからどうやって女優になったの?」
「女優、と言う言葉は不正確でしたね。その仕事は私にとって、ほんの一部分でしかないんです」
少女は目を伏せる。そして、デジーの手を引っ張り、女子トイレに連れ込んだ。
「な、なになに、いきなり何なの!?」
「……」
少女はキャスケット帽を外す。
オレンジブロンドの髪がふわりと露になった。
これだけならば自分にそっくりの少女が髪を下ろしただけだ。
しかし、更に彼女は前髪を掻き揚げてみせ、持っていたバレッタを使って後ろで束ねてみせる。
この旅行に来る前から幾度となく見た顔。
空港の写真にも映っていた「彼女」の姿が現れる。
メイクこそしていないが、髪型が一致したことで、バチン、とデジーの中で何かが繋がる。
「君──
髪を下ろした彼女は眼鏡を掛け、再びキャスケット帽を被った。
「改めまして、私はフィーナと申します。もうお察しの通り、私が当代の音の聖女なんです」
【メロディーレイン”当代・音の聖女”フィーナ】
「やっぱり女の子って髪型変えてメイクすると印象変わるんだ……」
「ふふっ。そうですね。貴女なら、メイクすればステージに立っても気付かれないかも」
席に着いた後、改めてデジーはフィーナの顔を、記憶にある音の聖女の写真と比べた。
よくよく考えてみると顔のパーツは一緒だ。メイクと髪型の所為で、印象が明るく派手に変わっていただけ。
イクサ達も誰一人として「音の聖女」を見て、デジーとそっくりなどとは言わなかった。
「ところで、マスター……少しの間だけ貸し切りにしてもらっても? その代わり、ケーキを二人分、良いものを頼めるかしら」
年老いた喫茶店のマスターはフィーナと古い顔なじみらしく「構いませんよ、平日の昼ですから」と店の外に出て「貸し切り」の札を掛けた。
「音の聖女について、何処までご存じですか?」
「えーと、遠い遠い昔……聖女はメロエッタと一緒にメロディーレインを救ったんだっけ。その後1年に1度、音楽祭で平和を願う舞と歌を奉納する」
「ええ。その逸話が一番有名ですね。他にも琴をかき鳴らして竜を鎮めた話、戦に向かう兵士を舞で鼓舞した話。笛を吹いて、敵軍を眠らせた話」
「色々あるんだ」
「そのいずれも、
「……そっか。だから歌の聖女じゃなくて、”音の聖女”なんだ」
「はい。奏でる音がメロエッタの琴線に触れれば、音の聖女として認められるんです。
成程ね、とデジーは納得する。
また聞きだけではどうしても分からない事が世の中にはあるらしい。
音の聖女とは、メロエッタが気に入った音楽の奏で手ならば誰でも選ばれ得る存在と考えられる。
恐らくポケモンなりの選定基準があるようだが、彼女のお眼鏡に適っているかどうかが重要なのではないか、とデジーは推測する。
「私は、歌と舞に長けた聖女……とされてますけど、ダンスは正直苦手です。後から覚えさせられたんです」
「そうなんだ!?」
「……仕事の関係上、覚えなければいけなかっただけなんです」
「待って。仕事ってまさか……」
「数年前から、メロディーレイン全体で音の聖女の優れた才能を世界に売り出そうという動きが強まったんです。急成長中の芸能プロダクションが都に具申したのがきっかけみたいで……」
「”歌の聖女”を芸能界に売り出したってこと!?」
こくり、とフィーナは頷く。
「今の音の聖女の仕事が何なのか分かりますか?」
「何なの……? ボク、芸能関係は疎くって……」
「定例ライブ、地方ドサ回り、CD収録、雑誌の取材、ドラマへの出演、しまいにはバラエティー番組まで!!」
「え、ええ!? 待ってよ、それって……超マルチタレントじゃん! 立派な芸能人だよ!」
「……憧れますか?」
「いや、正直大変そうだなーって思う。ボクがそういう仕事に興味ないってのもあるけど」
技術屋だった彼女にとっては、完全に知らない世界だった。ただただ過酷そうだ、と言う感想しか出て来ない。
「正直、音の聖女に憧れはありました。最初の頃は舞い上がっていたんですけど、思ったよりも仕事が過酷で……そのうち、まともに学校に通う時間も無くなって……レッスンと仕事をする毎日。はぁーあ」
ずぅん、とフィーナの顔はどんどん曇っていく。余程ストレスが溜まっていたのか、ぱくり、と一口でショートケーキを食べ終えてしまった。
大きなため息が聞こえてきた。肉体的にだけではなく、精神的にも大きく疲弊する仕事であることは間違いない。それが自分で選んだものではなく、メロエッタに選ばれたことで始まったものならば猶更だ。
「って、ごめんなさいっ! 初めて会った貴女に愚痴を聞かせちゃって……デジーさん?」
選ばれた仕事。その中でも彼女は確かにやりがいを感じている。
好きな事を仕事にするのは、想像以上に大変でやりたくない事もやらなければならないのはデジーも知っている。
だからこそ──目の前の顔がそっくりな彼女に、何かをしたくなったのかもしれない。
悪戯っ子のような笑みを浮かべて、デジーは提案した。
「ッ……ねえ! 服を取り換えっこしようよ!」
「え?」
「ボクが君の姿に化けて、君のファンたちを引き付ける! 君はその間、ゆっくりと町で遊んでくればいい!」
デジーが提案したのは、互いの顔がそっくりであることを利用した入れ替わりだった。
彼女の忙しさは今どうこうできるものではない。
しかし、彼女の休日を静かなものにすることならできる。
「良いんですか? 貴女、旅行に来たんじゃないんですか? 私のために……」
「だって、今此処に同じ顔が2つあるんだ。それを活かさない手って無くない?」
「でも……確実に貴女に迷惑をかけてしまいます」
「ふふっ、安心してっ! 時間は沢山あるんだ! 必ず君の休日が良いものになるように約束するっ!」
胸を叩いた彼女は力強く宣言し、フィーナの手を取った。
「ボクはスカッシュ・アカデミアが誇る天才で、”イタズラうさぎ”のデジー! 君の身代わりくらい、まっかせてよ!」