ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】   作:タク@DMP

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第四章ではなく、第肆章。テーマは「夏はポケモン!」です。それっぽさをお楽しみください。要するに夏の劇場版のノリです。この説明多分前作の時もしたけど、一応初見の方向けに。


第肆章:幻奏異聞・メロディーレイン
第47話:夏はポケモンと聞かなくなって久しい


 ──或る国に、斯様な伝説がある。 

 口ずさめば、ありとあらゆる命を癒す歌声。

 踏めば、ありとあらゆる命を魅了する舞踏。

 それは、民の希望であり護国の要でもあった。

 度々訪れたその国の危機に、()()()は立ち上がったという。

 

「城壁を超えて、猛獣の大群がやってきますッ!!」

「全員暴走している!! この国はもう終わりか──」

「──私がやります」

「そんな! 巫女様1人では到底抑え切れません!」

「1人ではありませんよ。私にはこの子が居ますから」

 

 少女は何処か哀しそうに微笑む。

 その傍らに立っていたのは、五線譜のような髪をたなびかせた妖精だった。

 決死の覚悟で二人は共に前線に立つ。

 間もなく城壁を乗り越え、あるいは砕いて侵入した、崩国の獣たちはたちまちにその足を止め、その旋律に聞き入るのだった。

 巫女の歌声が、音の精の歌声と絡み合い、楽器が無くとも重厚な旋律を奏でていく。

 

「お、おお、おお!! 獣たちが止まっていきます!!」

「救われた……彼らは救国の使徒だったのだ……!」

 

 このようにして、王国を襲った危機は止められた。この伝説は今に至るまで語り継がれることになる。

 

 

 

「──歌は……人間と獣を繋ぐ架け橋です。永遠に歌い継ぎましょう、音の精よ。これから平和の時代を作る為に」

 

 

 

 そして、音の精はメロエッタと呼ばれるようになり、その傍らに立つ巫女を「音の聖女」と呼ぶようになるのだった。

 

 

 

 

──第肆章「幻奏異聞・メロディーレイン」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 歌が聞こえるような気がした。

 ありとあらゆる全てを癒すような旋律だった。

 あまりにも鮮烈で、頭の中に焼きついてしまうような、そんな歌を聞いたような気がした──

 

「──おき──せいっ」

「……?」

「もーう起きないなあ転校生──寝坊助なんだから」

「……ん、あ」

 

 鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離で、二人は顔を突き合わせていた。

 ぱちぱち、と目を瞬かせると少女は小ばかにしたように「涎垂れてる、だらしないんだー」と笑う。褐色肌の少女がこちらを見つめていた。

 

「……誰」

「あーっ、誰って何さ! ボクだよ、ボク」

「……?」

 

 オレンジブロンドの髪と、ウサ耳カチューシャが目に入る。それで目の前に居るのが誰なのか漸く分かった。

 

「転校生の寝顔って、ほんとに女の子みたいでカワイイ──キス、しちゃおっかと思ったんだよ?」

「……どわぁ!? デジー!?」

 

 寝ぼけた頭では、日に焼けたデジーを知らない誰かと勘違いしてしまうのも無理は無かった。彼女が急速に日焼けしたのは此処最近。バジルと外出した時に日焼け止めを塗り忘れてしまったらしい。

 

「ねえ、そんなに驚くことなくない?」

「ごめん……日焼けしてる君の顔にまだ慣れてなくって」

「ふぅーん、それじゃあ慣れるまで、付きっ切りで居てあげようか?」

「遠慮するよ」

「ひどーい!!」

 

 体を起こす。そして思わず窓を見た。

 既に()()()は空港に着陸していたのである。

 デジーは呆れたように彼の手を取る。辺りを見ると、近くに座っていた見慣れた先輩たちの姿は無い。他の客と一緒にどうやら降りてしまったようだった。

 彼らを待たせるのは悪い。すぐに席を立つ。その動きで膝に乗せていた相棒・パーモットも起きてしまったようだった。

 

「ぱもぉ?」

「あっ、パモ様もおはようっ! 起きて起きてっ! もう、両方共寝坊助すぎーっ!」

「ぱもーぱももももっ♪」

 

 イクサは抱きかかえていたパーモットを床に下ろしてやる。飛行機から空が見たかったらしく、ボールから出していたのだ。

 そのうち、主人共々寝てしまっていたらしく、今に至るのだった。

 空港のロビーに行くと、寝坊気味な後輩を待っていたのか、3人共揃って立っていた。

 大して時間は経っていないのだが、楽しみで待ちきれなかったのかバジルが叫ぶ。

 

「遅いデスよ、イクサ! 全然出てこないから心配したのデス!」

「ごめんなさい、僕寝てたみたいで……」

「ぱもももも……」

「そーだよ、起こすのに苦労しちゃったもん」

 

 これだから転校生は手が掛かるよね、とデジーは大袈裟に疲れたようなしぐさをしてみせる。実際問題要らない世話をかけてしまったので反論できないのだった。相棒共々「面目ない」と髪を掻く。すっかり主人とポケモンは似通ってしまったようだった。

 

「あら、飛行機旅はそれなりに快適だったみたいで良かったじゃない」

「ぱもーぱもももっ」

「パモ様もごきげんね」

「ぱもっ」

 

 旅行の主催者であるレモンは、パーモットの頭を撫でてやる。帽子にサングラス、そしてワンピース。今日の彼女は旅行者スタイルだ。

 

(やっぱりレモンさんは何を着てても似合うなあ……)

 

「あら、イクサ君。私の顔に何かついてる?」

「い、いえっ、何も!」

 

 ぶんぶん、と彼は顔を横に振った。

 オーデータ・ロワイヤルが終わった後、風紀委員長室で勢い余ってキスしてしまって以来、彼女に対して気まずい思いを抱いていた。

 本人はあくまでも平然と振る舞っているのが本当に「ずるいなあ」と感じる。

 さて、こうも美少女(と女顔の少年(イクサ))が集まっていると良からぬことを企てる輩も居る訳で。

 

「おい見たかよ、可愛い女の子が()()も集まってるぜ」

「声掛けようや声……」

「ああ。来て早々とんだ収穫だぜ」

「──ッ! おい待て、あそこ──!」

 

 ナンパしようとしていた観光客たちは、自分達を刺すような視線に気づく。

 身長190cm超え、サングラスを掛けた褐色の巨漢が射貫くようにこちらを睨んでいた。

 

(用心棒!?)

(傭兵!?)

(殺し屋!?)

(や、やべぇ! 目ェ付けられてやがる!!)

 

 凄まじい殺気に、ナンパたちは震えあがり「ごめんなさいでしたーッ!!」と叫んで逃げてしまうのだった。

 

「あら、何だったのかしらアレ」

「観光の時間が無くなっちゃうデース! ほら、ゼラ先輩もーっ!」

「……ああ」

 

 悪い虫を追い払った巨漢──ゼラは、のそりと身体を動かす。

 そしていつも通り無愛想そうにバジルに忠告する。

 

「……異国だ。くれぐれも気を付けろ」

「大丈夫デスよー、ゼラ先輩がいるし何があっても平気デース!」

「……むぅ」

 

 密かに好意を抱いている少女には、その気遣いは全く伝わらなかったようであった。結局自分がついていないとダメそうだ、と彼は気を引き締めて彼女に付き従う。

 

「さーて、うーんと観光するぞーっ!」

「はしゃぎ過ぎないようにして頂戴」

「迷惑はかけないよーっ」

「心配しかないのよ」

「ははは……レモンさん、すっかり引率者が板についてるなあ」

「慣れたものよ。なんせ目を離したら何をしでかすか分からないイタズラ兎と、迷探偵が居るもの」

「やらかさないデース!!」

「そーだよ、信頼無さ過ぎー! 同じ推薦組なのにーっ!」

「あら。違うわ、()()()()()()()()

「むがーっ! それは逆の意味デース!」

「そーだそーだ!」

 

 憤慨する探偵部二人。全くと言っていい程説得力が無かった。こういう子供っぽいところなんだろうなあ、とイクサは考える。

 

(……それにしても──)

 

 女子たちの姦しい絡みを他所に、イクサは空港のロビーに飾られた大きな写真を見あげた。

 そこには、可愛らしい服に身を包み、髪を派手にセットアップした少女と、そこに並んで歌う、五線譜の髪と音符を身に纏った妖精──即ちポケモンの姿があった。

 

 

 

「メロエッタ……か」

 

 

 

 そのポケモンの名をイクサは思わず口に出した。

 

 

 

(早く、会ってみたいな……ん?)

 

 

 

 イクサの目は、メロエッタと共に歌う、写真の中の少女に向いていた。

 

 

 

(この子の顔、誰かに似てるような……)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──事の始まりは一週間ほど前に遡る。

 オーデータ・ロワイヤルを無事に勝ち抜いたイクサ達は、寮長であるレモンの誘いもあって一週間の慰安旅行に出向くことになった。

 と言うのも、夏休み中、学園設備と寮がメンテナンスで閉鎖されるため、学生たちは学園から補助金をもらって宿で泊まるか実家に帰るらしい。

 あるいはイクサ達のように旅行に行く者も居るのだという。

 そして、寮への居住権を未だに失ったままのイクサは、流石にメンテナンス中も野宿をするわけにはいかなかった。なんせ彼が野宿に使っている水道管やその他設備も対象となるからである。

 それもあってか、レモンは推薦組5人全員で旅行に行くことを提案したのである。

 行先はカロス地方だとかパルデア地方だとか色々候補はあったが、レモンにはかねてより行きたいと決めていた場所があるようだった。

 

「貴方達、音の精には興味ないかしら?」

「音の精!?」

「なになーにーっ!? 何のポケモン!?」

「その名は──メロエッタ。人々やポケモンの心を安らげる素晴らしい歌声を持つポケモンよ」

「!」

 

(メロエッタって……あのメロエッタ!? 幻のポケモンじゃないか!?)

 

 幻のポケモンとは、イクサの住んでいた世界では映画の主役を張ったり、特典でしか手に入らないポケモン達だ。

 ゲーム中でも劇中でも非常に稀少性が高いポケモンとされることが多い。

 しかし、この世界に於いては稀少ではあるものの在り方は種によって様々らしい。

 

「──音楽都市”メロディーレイン”。人とポケモンが音楽によって調和したという伝説を持つ町よ」

「へぇ……! 人とポケモンが!」

「そして、その音楽を奏でてきたのが──歌姫である”音の聖女”、そして音の精・メロエッタ。この1人と1匹は、1年に一度の音楽祭で、歌と舞を捧げるの」

「あの、レモンさん、もしかして──」

「そうよ。その音楽祭が丁度、この一週間に被っているってわけ。伴って様々なイベントがあるみたいだし、メロディーレインは景観の良さもあって観光地としても有名。治安も良いし、これ以上ない場所だと思うけど?」

 

 少なくとも、重機が闊歩する普段の学園よりは百倍マシであることは間違いない。

 

「是非! 僕、メロエッタの音楽祭を見てみたいです! 幻のポケモンなんてお目に掛かれる機会早々ないし! 是非共!」

「ふぅーん。ま、楽しそうじゃない? 観光しちゃおーっ!」

「……異論はない」

「じゃあ決定デスねーっ!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──メロディーレインは煉瓦造りの家が立ち並ぶ古式ゆかしい町だ。

 そして、町の真ん中を大きな河が分断しており、人々は橋やボート、船で行き来をしている。

 町中にはそこかしこに、バンバドロ、パルスワン、ニャルマー、アチャモが積み重なって乗った銅像が建てられている。

 聞いた話によると、年老いて飼い主から捨てられたバンバドロが、同じ境遇のポケモンと団結し、音楽隊へ入る事を目指してメロディーレインに向かい、最後は機転を利かせて家に入った泥棒を撃退して幸せに暮らす……と言った逸話が伝わっているのだとか何とか。

 

(いや、うん、どっかで聞いたような話だな……本当に……)

 

 地理的にも確かに「そこ」と一致するので、似たような話があってもおかしくないのだろう。きっと。

 

「一先ずは自由行動ね。お昼までには指定の場所に戻ること。良いわね? ただ、慣れない場所だからくれぐれも気を付──」

「OK! それでは由緒ある大聖堂を見に行ってきマース!!」

「早ッ!?」

 

 早速一目散に何処かへ駆け出したバジル。 

 それを追うのはゼラだ。

 

「俺が行く」

「……ゼラ、ごめんなさい、バジルのバカの事を頼むわ」

「本当せわしない人だなあ……マッハの勢いですっ飛んでいっちゃったーっ!」

 

(すごいな、見事に想定通りの行動をしてる……でも、今回はこれで良いんだ。ゼラ先輩、頑張れ!)

 

 イクサは旅行前のゼラと交わしたやり取りを思い出す。一見、ゼラにバジルの世話を押し付けてしまったかのような構図だが、むしろゼラからすればこれ以上ない好機なのである。

 と言うのも──

 

 ──え? バジル先輩とお近づきになりたい? 旅行の機会に?

 

 ──ああ。何か良い手は無いか。

 

 ──あの人絶対どっかではしゃいで飛び出すから、その時に目付役って体で近付けばいいんじゃないですかね。

 

 ──採用だ。

 

 あれから度々バジル絡みの恋愛相談をゼラにされるイクサ。

 そのアドバイスの多くは本人のコミュ障と不器用さ、そしてバジルのクソボケっぷりが原因で不発となった。

 しかし今回は、こうして何とかスタートラインに立たせることが出来たのである。イクサ、渾身のガッツポーズ。

 

「何か嬉しそうねイクサ君」

「どーかしたの?」

「いえ!! 何でもないです!! ……それよりも僕達は何処に行きますか?」

「そうね。旧市街……なんてどうかしら? 散策には持ってこいみたいよ」

「良いですね! どんな店があるんですか!?」

 

 観光ブックを広げるレモン。それを覗き込むイクサ。いつの間にか距離が縮んでいる二人に、デジーは頬を膨らませる。

 

(むー、なーんか良い空気になってるんだよなぁ、この二人! かと思えば、気まずそうな空気になる時もあるし、全然分かんない! 何かあったとしか思えない!)

 

 とはいえ、元より音楽にあまり興味が無いデジーは、今回の旅行もほぼメロエッタ目当てで来たようなものだ。

 クラシックにも、煉瓦の街並みにもあまりそそるものが無い。何処までいってもデジーは技術屋で現代っ子なのである。勿論、旅行が楽しみでなかったわけではない。こうして全員で出かける機会は彼女も得難い物だと思う。ただ、興味の軸が少しずれているだけだ。

 かと言ってこのままだと、好意を抱いているイクサをレモンに独り占めされっぱなしになってしまう。

 

(うーん、でもなぁ、レモン先輩が居る横で露骨なアプローチは……ん?)

 

 二人が観光ブックに夢中になっている中。()()を見かけたのはデジーだけだった。

 街路の奥の方に、自分くらいの背丈の女の子が、ポケモンを連れた男達に追いかけられ──そして逃げ込んだのが遠巻きに見えた。

 一瞬だったのでよく見えなかったが、男達は特に変わった格好をしているわけではない。しかし、大の大人が女の子を追いかけているのはどう考えても事案そのものだった。

 

(何アレ。もしかして事件性あったりする?)

 

 そう考えた途端、彼女はもう待ってはいられなかった。すぐさまその場をパッと飛び出す。

 これは元々レモンの為の慰安旅行。こんな時くらい、彼女には荒事を気にせず観光を楽しんでもらいたい、とデジーは考える。

 勿論、この世界に来てから激動続きだった、愛する少年にもだ。

 

(……んもう! 今日の所は二人で楽しみなよ!)

 

「……この通りを抜けて──」

「あれ? デジー、居なくないですかレモンさん。折角3人で回ろうと思ってたのに」

「ん。さっきまでそこに居たじゃない。もしかして構って貰えないから拗ねちゃったのかしら」

「まさかぁ……有り得そうなのが困るなあ」

「仕方ないわね。また後でスマホロトムで電話を入れましょう。折角だから、3人で回りたかったのに」

「まあ、デジーなら大丈夫だと思いますけどね。それに此処、すっごく治安が良いんでしょう?」

「ええ。穏やかな町よ、メロディーレインは」

「そうですね……じゃあ、軽く散策をして、何処か喫茶店でも探してそこで電話かけましょう」

「賛成よ。良い店が見つかるまで回ってみるのもオツじゃない」

「じゃあ早速──」

 

 

 

「そこのお二人さん、もしかして喫茶店をお探しかい?」

 

 

 

 突然かかった声に二人は振り向いた。

 やってきたのは、気さくそうな男だった。色付きのエプロンをかけており、カフェの店員のような恰好をしている。

 

「聞いてたんですか……?」

「いやね、最近、丁度そこでカフェを開いたんだけどさ。なかなかお客さんが来なくってね。安くしとくよ」

「……へぇ、なかなか趣味の良い店してるじゃない。でも、店は良いの?」

「バイトに店番やらせてるから大丈夫──おっと、言い忘れてた。俺はジャガーって言うんだ。店主だよ」

「行ってみますか?」

 

 建物はアンティークな雰囲気が漂っている。この店に限ったことではないが、オシアスにはなかなか無いタイプの外観だ。新鮮味がある。

 足を運ぼう、と思ったその時だった。店主のジャガーは、すぅっと近付いてイクサに耳打ちする。

 

「──ところで、そこの少年。もしも俺に勝って、()()()()()に良い所見せられたなら、もう少しサービスしとくけど……どう?」

「……いやいや僕達付き合ってるわけじゃ……!」

 

 一気に顔を赤らめて挙動不審になるイクサに、店主の男は追撃する。

 

「おっと、サービスと言っても飲み物のサービスじゃない。最近、このメロディーレインにキミョーなポケモンの噂があってね」

「へ? それってメロエッタの事じゃあないですよね」

「違う違う! うちの住民がメロエッタ様を見間違えるわけないでしょーが!」

 

 イクサから離れた店主の男はボールを握り締めると、彼に突きつけた。

 

「とにかく、腕利きのトレーナーになら、そのポケモンのウワサ、教えても良いかなーって思うんだけど。どう?」

「ウワサ? イクサ君、何の話かしら」

「バトルに勝ったら、珍しいポケモンのウワサを教えてくれるみたいです!」

「やれやれ眉唾ね。怪しい情報を掴まされるのがオチよ、イクサく──」

「レモンさん、ダメですか……?」

「ッ……」

 

 子犬が懇願するような顔だった。

 本気で噂が気になっているようだった。

 彼は根っからのポケモンバカ、そしてバトルバカである。

 バトルが出来る上に、珍しいポケモンの情報まで手に入る。イクサにとってはこれ以上ない好条件だ。

 そしてレモンも、イクサがあまり見せない顔に一瞬で負けてしまうのだった。

 

「……キチッと勝ってきなさい」

「はいっ!!」

 

 握っていた手綱を離す。後はバトル大好き狂犬が飛び出すだけ。

 

「──よーし、丁度この辺りが広いからね。ストリートバトルには持ってこいだ!」

「宜しくお願いします!」

 

 キミョーなポケモンのウワサを懸け、二人は同時にボールを投げる。

 イクサが繰り出したのは当然パーモットだ。一方、ジャガーが繰り出したのは、狩人の如き外套に身を包んだフクロウ型鳥人のポケモンだった。

 

「ジュナイパー! たっぷりおもてなししよう」

「くるっぽー」

 

【ジュナイパー やばねポケモン タイプ:草/ゴースト】

 

 羽根を矢に変えて放つことができ、遠距離攻撃を得意とするポケモンだ。

 おまけに電気タイプを半減にする草タイプと、格闘タイプを無効にするゴーストタイプが付いているため、パーモットにとっては攻撃面で不利な相手と言える。

 しかしそれでも、イクサとパーモットの滾る闘志は消えることがない。

 

「旅行一発目の勝負……しっかりと勝っていくよ、パモ様!」

「ぱもももっ!」

 

 

 

 ──ポケットモンスター。縮めてポケモン。

 

 

 

「かげぬいだ! これで逃げられないよ!」

 

 

 

 ──この星の不思議な不思議な生き物。

 

 

 

「……はぁ。イクサ君のバトル好きにも困ったものね」

 

 

 

 ──人とポケモンは互いに助け合い、競い合い、時にぶつかり合いながらも共に生きてきた。

 

 

 

「ッ……速い!? 避けられたのか!?」

「うちのパモ様は、鍛え方が違うんですよ!」

 

 

 

 ──そして、この少年・イクサは、ある日突然この世界に飛ばされた転移者である。

 

 

 

「面白い! それならこちらも近接戦だ! ”リーフブレード”!」

「背後に回り込んで”ほっぺすりすり”!」

 

 

 

 ──彼は、学園の騒乱に立ち向かうため、そして自分の持っていた伝説のポケモンのカードの謎を解き明かす為、相棒のパーモット・パモ様と共に、次なる戦いに向けて修練に明け暮れているのだった。

 

 

 

「ジュナイパーは防御の方が低かったはず……”れいとうパンチ”だ!!」

 

 

 

 ──そんな彼も、夏休みの旅行先として訪れた音楽の町にて、仲間達と共に束の間の休息を楽しもうとしていた。

 

 

 

「あっちゃぁ、強いな君とパーモット!?」

 

 勝負は間もなく決した。

 麻痺して自由に動けなくなったジュナイパーは、パーモットの”れいとうパンチ”の連打を受けて沈黙したのである。

 その戦いぶりを見ていたレモンは満足そうに笑う。まだまだ伸びしろがあるが、此処最近の成長性は目覚ましいと言える。

 

「……めきめきと強くなってるわね、イクサ君とパモ様」

「いやあ、レモンさんに鍛えて貰ってから見違えるようですよ」

「ええ……君達本当に付き合ってないの……?」

 

 倒れたジュナイパーをボールに戻したジャガーは、怪訝そうに小さな声で言うのだった。

 

 

 

「じゃあ約束通り教えてあげるよ。とびっきりの……ウワサってヤツをね」




※メロディーレイン…ツバキの花の品種の1つ。
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