ポケモン廃人、知らん学園に入学した。【完結】 作:タク@DMP
──絶体絶命も良い所だった。
ハタタカガチは瀕死で倒れており、パモットとミミロップは残り少ない時間で体力が消える。
そんな中、目の前のマッドなサイエンティストはベトベトンをあろうことか”げんきのかたまり”で復活させてしまったのである。
”げんきのかけら”は、体力を半分にして復活させる道具。対して、”げんきのかたまり”は体力を全快にして復活させるのだ。
状況は最悪そのものである。
「おい、そんなのアリなのか!? 瀕死になっただろ!!」
「いーっひひひひーっ!! アリですとも!! 実は、
「……自分達がやられた時に回復アイテムを使う時間を確保するために、ポケモン瀕死→失格判定までのラグを敢えて長くとっていたのね」
「そんな事、ルールで言ってなかったじゃないか!」
「ええ言ってませんでしたからぁぁあ、いーっひっひっひっひっひぃ!! だから、フィールドで
「何がたまたまだーッ!! どうせ最初っから用意してたんでしょーっ!? げんきのかたまりなんてーッ!!」
デジーが憤慨したが、もう遅い。パモットがハタタカガチに駆け寄り揺らしているが、もう起き上がれそうにない。
「ぱも、ぱもももっ……!!」
「これで終わりなのか──!?」
ドローンが迫る音が聞こえてくる。
「さあ、ボールにハタタカガチに戻しなさぁぁあああい!!」
「……ぱもももも……ッ!!」
ギロリ、とパモットがベトベトンを睨み付ける。
その目を見て──イクサは確信した。まだ、パモットは諦めていない。
ならば自分も諦めない。レモンの方を見た。彼女も頷く。
まだ、誰も諦めてない。
イクサはパモットに呼びかけた。
「パモ様。僕はレモンさんを守りたい。君も──同じだろう!?」
「……ぱもっ!」
「僕も諦めてない!! ……1つだけ手があるんだ。今の君ならきっと──ッ!!」
やる気満々といった様子でパモットは頷いた。
「良いかい? 今度は……僕達がレモンさんに繋いで勝利するんだ!! 君なら出来る!! 信じてる!!」
「ぱもももっ!!」
その小さな手を握った時だった。
バチバチバチッ、とパモットの身体に紫電が迸る。
そして、その身体が白く輝いていく──
「っ!? な、何ですかぁぁああああ!? まさかっ!?」
「オシアスでは、ポケモンと人間の絆が奇跡を起こすと信じられてきた。パーモットはこの地方では、トレーナーの絆によって進化するとされているわ」
驚愕の表情を浮かべるグローリオ。そんな彼にレモンは勝利を確信した笑みを浮かべる。
「貴方の負けよ、グローリオ。大量の電力、イクサ君との絆。それが合わさった時──」
【おや? パモットの様子が──】
「ひぃいいいいーっ!? いけないッ!! いけませぇぇん!! ベトベトン、そのネズミに向かってどくづきッ!!」
「──させないっ!! ミミロップ、”インファイト”で食い止めるんだッ!! 何が何でも、転校生を動かすんだッ!!」
飛び掛かってきたベトベトン。
しかし、最後の力を振り絞って飛び出したミミロップがベトベトンの毒手を真っ向から打ち払う。
それで力尽きてしまうミミロップだったが、一瞬の隙を生みだしたのである。
空からドローンが迫ってくるまで、残り僅か数秒──
「パモ様──」
──光が晴れる。
「ぱもーぱもももっ!!」
【パーモット(パモットの進化形) てあてポケモン タイプ:電気/格闘】
そこに居たのはパモットではなかった。
一回り大きくなり、より強く、より迅速に、そして──より優しく進化したのだ。
「ゲームの勝利の鍵は裏切りなんかじゃない。
「ぱもーぱもももっ!!」
パモットが向かった先は、ミミロップを弾き飛ばして迫りくるベトベトンではない。その逆、倒れたハタタカガチだ。
「パモ様──”さいきのいのり”!!」
「ぱもーぱもももっ!!」
飛び出したパーモットは、最後の力で倒れたハタタカガチに触る。
空中ドローンがやってくる、凡そ3秒前の事だった。
電気ショックがハタタカガチの身体を駆け巡り、どくん、と再び生命の奔流を駆け巡らせる。
「”さいきのいのり”ィ!? まさか貴様ァぁあああ!! 最初から
【ハタタカガチは げんきをとりもどした!】
【パーモットは たおれた!!】
「──ハタタカガチは
たった1度しか使えない代わりに、瀕死になったポケモンを復活させる”さいきのいのり”。
ハタタカガチの目に光が灯り、再び電気が迸る。
同時に、毒で力尽きたパーモットはその場に倒れ伏す。
しかし──その表情は何処か満ち足りたものだった。
近寄ってきたドローンが失格にしたのはレモンではなく、パーモットとミミロップが瀕死となったイクサとデジーだった。
「レモンさん!! 後は頼みます!!」
「ええ。勿論よ」
「ひ、ひぃいいいいい!? 来るなあああああ!? 何でぇ、蘇るんだぁぁぁああ!?」
一度倒れたことで、ドーピングアイテムの効果はリセットされてしまった。
そして、オーライズは一度発動すれば、少なくともその戦闘中は再発動できないクールタイムが存在する。
となれば、たとえ体力に差があろうともどちらが勝つかは明白で。
「──
一瞬でベトベトンに肉薄したハタタカガチは、尻尾を思いっきり流体に突き刺すと──そこから高圧電流を思いっきり流し込む。
スペシャルガードに頼っていないヘドロの身体など、この電球蛇からすれば電気のよく通る塩水も同然だった。
確かに生徒会幹部は寮長クラスだが、それでも結局レモンには遠く及ばない。使っているのが霹靂神の使いたる電球蛇ならば猶更である。
長い間感電は続き──今度こそ、ベトベトンは沈黙したのである。
そして、しばらくして試合終了のブザーが鳴り響く。
『ゲーム終了ーっ!! 各寮残り人数はファイヤー寮が2人、サンダー寮が6人、フリーザー寮が3人──従って、オーデータ・ロワイヤル優勝は──サンダー寮だにゃーんっ!!』
「……終わったのね」
レモンは呟いた。
勝利したにも関わらず、その顔は暗かった。
ラズとシャインは裏切りに遭い、オーデータポケモンを奪われた。
決して喜べるだけの状況ではない。
だが、そんな彼女に──イクサが駆け寄る。
「レモンさんっ! 僕達……勝ったんですよね!?」
「勝ったよ勝った! ハタタカガチもレモン先輩のモノだ!」
曇っていた彼女の顔は、後輩二人を見て柔らかくなる。緊張が解けたのか、そのまま彼女は座り込んでしまった。
「……ありがとう。二人が居なかったら勝てなかったわ」
「それにしても、レモン先輩。パーモットの進化も込みで対策を立ててたの!?」
「ええ。ついでに言うと、ポケモンの瀕死から失格までの判定に時間がある事にくらい気付いてたわよ」
「恐ろしい人だよ……全くもう……」
「そもそも……パーモットは進化時に”さいきのいのり”を覚える。それを僕が知ってる前提の作戦じゃないですか……パモ様が進化する確証も無かったし」
「あら、私貴方の事を信じてるのよ。だって、私の
(は、はは、僕……ポケモン廃人で良かったぁ……)
悪戯っ子のように微笑むレモン。一生この人には敵わないなあ、とイクサは思わされるのだった。
手を振って走ってくるバジル、そしてゼラ。
此処に、オーデータ・ロワイヤルはサンダー寮の完全勝利で幕を閉じたのである。
※※※
──結局、その後怪我人多数で閉会式は中止(恐らくそこまで生徒会は想定済み)。
そしてこのゲームで起きた大怪我についてはアトムは一切言及無し。
後日、レモンの下にはオーデータポケモン・ドグウリューが送られたが──彼女はそれをさっさとシトラス家のラボに送ってしまうのだった。
とてもではないが自分で使う気にはなれなかった。その代わり、彼女は自ら生徒会に乗り込み、アトムに直談判する。
その傍には多数の風紀委員の姿もあった。
「裏切り、騒乱を誘発する危険なルール変更。学園の秩序を著しく乱す行為だと思わないかしら」
「勝ったのに随分な物言いですね、レモン君。私を糾弾するのですか?」
「バカ言いなさい! 結局貴方達が合法的にオーデータポケモンをせしめるためのゲームだったくせに!」
「──勝てば全てを手に入れる。負ければ全てを喪う。それが、この学園のルールです」
「……ッ」
「それを合意の上でゲームに参加したはずです。裏切りも、彼らが普段から寮生のコントロールを怠っていたがばかりに起きた事。分かりますね? あくまでもゲームはゲーム。その後起こる禍根だとか何だに運営は関与しません」
風紀委員たちは色めきだつ。それをレモンは手で制した。
ラズもシャインも、あの後寮に戻っていない。実家に帰ってしまったらしい。
両家のトップは当然激怒。裏切った生徒の親の一部──つまり彼らの部下──には重い処分を言い渡した上に、しばらく二人を寮に戻すつもりはないのだという。
(二人共……大丈夫かしら。あれから連絡も取れてない……)
現在、2つの寮は荒れに荒れている。裏切りを先導したメンバー達とそれに触発された多くの生徒による「反寮長派」と、寮長を慕う「親寮長派」だ。
サンダー寮は直接レモンが反抗勢力と接触しなかったこと、そして彼女がゲーム内での叛逆行為を「あくまでもゲームなので不問」としたのでむしろ寮内の結束は強まる結果になった。
だが、もしも彼女が謀反した寮生と交戦していた場合、こうはならなかった可能性が高い。つくづく理想的にゲームが進んだのだ、とレモンは嘆息する。
「それで納得できないなら、決闘で私を捻じ伏せれば良いでしょう、レモン君」
「……いいえ、遠慮するわ」
「おや、逃げるのですか? 貴女程の人が」
「生憎忙しいのよ。それに守らないといけないものがある」
これ以上話しても無駄だ、と判断した彼女は踵を返す。
風紀委員達も言いたいことは沢山あったが、そのまま彼女に付き従うのだった。
此処でアトムと決闘しても、幾重に罠が張られているであろうことは想像に難くない。
去り際にレモンは吐き捨てた。彼の目論見は破られたのだ、と。
「忘れないで。今は私の手元に2つのオーデータポケモンがあるのよ」
「それは結構……せいぜい有効活用してください」
「……負け惜しみね」
「ああ、それとですね──」
「何かしら。私もう帰りたいのだけど」
「いえいえ重要な事です。貴方にとっても、ね」
レモンは足を止めた。アトムはしたり顔を浮かべたまま告げる。
「寮長が不在なようなので、私の方からファイヤー寮とフリーザー寮に
「……はぁっ!? 何を勝手な事を言ってるの!?」
「スカッシュ・アカデミア校則26条第二項……寮長及び委員長が不在の場合、各寮に生徒会から派遣したメンバーを代理とする……とね」
レモンは最早、何も言い返す気力が無かった。
事実を事実として受け止めた後、その場を部下たちと共に去るしかなかった。
(一体、この学園はこれからどうなってしまうの──!?)
※※※
「そんなバカな!! あのゲームで、ラズを倒したのは僕だ!! 僕がその席に座るはず──」
「ごめんねぇ悪いんだけどさぁ……うちの会長がそう決めたんだよね、ふぁああ」
【3年トレーナー科”生徒会会計”ツクバネ】
体育委員会の委員長席に座るのは、羽毛の安眠枕を持った眠そうな少年だった。
「うーん、君達のこの間のゲームを見てるとぉ、何かアレだよね。アレ。えーと……そう! 躾も頭も何もかも足りてないよ君達。前寮長がどうとかじゃなくて──全体的にダメ!!」
「貴様、この僕を、ファイヤー寮を愚弄するのか!?」
「君達の手でリーダーを葬っておいて、それはないよねえ。というわけで、シンボラー……”さいみんじゅつ”」
「なッ……ヘ、ヘルガ──」
ラズを”おにび”で火傷させたヘルガーを繰り出そうとする元・側近の少年。
しかしポケモンを出す前に、地上絵のハチドリ如き奇妙な姿をしたポケモン・シンボラーが一瞬で彼を昏睡させてしまう。
【シンボラー とりもどきポケモン タイプ:エスパー/飛行】
「……ふぁああ、眠い眠い……代理なんて面倒くさいし……そうだ」
ツクバネは──歪んだ笑みを浮かべてみせる。
「──面倒な仕事を君にやって貰おう……!! 良かったじゃない、寮長と同じ仕事ができるよ!」
※※※
「寮長不在ならば、秘書であるこの私がその席に座れるはずです!!」
「……貴女、まだ懲りていないんですの? 貴女の叛逆行為でマスカットグループの社長は激怒、貴方のお父上は役員から下ろされたのではなくって? 貴女、これ以上好き勝手すると勘当されますわよ?」
【3年ビジネス科”生徒会副会長”マイヅル】
文化委員長の席に座るのは、グレーの髪が美しい令嬢のような少女だった。
その机の上には豪奢なパフェが乗っており、目の前の元・秘書の少女の言うことなど耳を貸す様子も無い。
だがそのパフェは、秘書の少女が手で払い除けて、中身諸共床にぶちまけられた。
「あの男に代わって……この私がトップになれば、いずれは……ッ!!」
「……貴女、私が思っていた以上に愚かだったようですわね」
「ッ!?」
「……ミカルゲ、やっておしまいなさいな」
【ミカルゲ ふういんポケモン タイプ:ゴースト/悪】
秘書の少女の背後に立つのは、要石に封じられた災禍。
対応しようとしたが既に後の祭り。強力な”さいみんじゅつ”が襲い掛かる。
暗示が掛かった途端、彼女は床に倒れ伏せてしまう。
「あーあ、パフェが台無しですの。これ、貴女が代わりに食べるんですわよね? ん?」
秘書の少女の顔を落ちたパフェに押し付けると──マイヅルは穏やかに微笑んだ。
「次に起きた時、貴女の舞台はセンターではなく、私の掌の上。
※※※
──その後。風紀委員長室に戻ったレモンは、一連の事後処理を推薦組4人に話していた。
「そうですか。生徒会から寮長代理が……」
「先ずは各寮の騒乱、分裂を鎮圧してるみたい」
「どっちにしても大変なことになっちゃったデスね」
「……むぅ」
このゲームで起きたことは、オーデータポケモンを失った事、そして謀反による二大寮長の失墜。
それに伴うファイヤー寮とフリーザー寮の分裂だ。
夏休み中にも関わらず、寮の治安は悪化しているのだという。
しかし、それも生徒会から代理がやってきたことで鎮圧されつつあるらしいが──
「でも、その代理って──オーデータポケモンを持ってるんですよね」
「ええそうよ。裏切者からバンデットが奪ったアマツツバサとイテツムクロは、実質彼らの手持ちね」
「それって、寮のパワーバランスは今までと変わってないデスよね?」
「もっと悪いよ。これで2つの寮は実質的に生徒会の植民地と化したも同然だから」
デジーが肩を竦めた。成程、植民地とは言い得て妙だった。
「おいおい……ゲーム感覚で寮を乗っ取るなよ……!!」
イクサは嫌な汗を背中に流す。
内乱を勃発させ、首長を暗殺させ、そのどさくさに紛れて寮を乗っ取る。
これこそが生徒会の考えていたシナリオだったのだ、と。
もしもサンダー寮でも叛逆が起きていた場合、今此処に座っているのはレモンではなく、あのグローリオだった可能性が高い。
「後、例のオーデータ・ポケモンのドグウリューはうちで解析中よ。何を考えてアトムが私にあのポケモンを寄越したのか知らないけど」
「単に戦力を増強させたってわけじゃなさそうデスね」
結果、敵から貰った武器をそのまま使えるはずもなく。現在もドグウリューはレモンの手元には無い状態だ。
(生徒会は何が目的なんだ……? 考えても僕には結論を出せないけど……)
イクサは、足元に居るパーモットに目を向けた。彼と視線がカチ合い、互いに頷く。
(今度は生徒会に負けないくらい、僕達強くならないと! そうだろ、パモ様!)
こうして一連の報告は終わった。
そして改まった様子でレモンは告げる。
「さて、と。貴方達のおかげで、今私はこうしてこの席に座ることが出来てる」
「そりゃあゲームに勝利し、裏切りも阻止できマシタから!」
「いいえ、それだけじゃないわ」
レモンは全員の顔を眺める。
「──貴方達が、私を信じてついてきてくれたから。本当にありがとう」
「ッ……レモンさん」
「にしーっ。褒められちゃった」
「当然デス! なんてったって、私はレモンのBest Friendデスからね!」
「そういうことにしといてあげるわ」
「デース!?」
「ウソよ。親友に決まってるじゃない」
「デスよねー! えっへへへへ」
普段は表情を変えないゼラも、この時ばかりは──何処か穏やかな面持ちだった。
波乱の”オーデータ・ロワイヤル”は終わりを告げる。
禍根と多くの問題を残しながらも、それでもまだ、この学園の悪意に立ち向かえる人間は残っている。
それがレモンにとっての希望だった。
「さあて、私は仕事があるから……貴方達は遊びにでも行ってきなさい。折角の夏休みでしょう」
「えー、先輩は遊ばないの? 一緒に来ようよ!」
「もうじき、1週間だけ寮と学園でメンテナンスがあるの。その時に旅行でも行くわよ」
「やったーっ! ボク楽しみにしてるーっ!」
「レモンは太っ腹デスねー!」
「……あんた達ね、それ私が誘う前提じゃない……」
(おいおい……乗っかる気満々じゃないか、バジル先輩もデジーも……面の皮が厚いなあ……)
「色々あったんデスから、レモンは少しくらい肩の力を抜くべきなんデスよ!」
「それを誘ってもらう側が言うことじゃないでしょ、バジル先輩……折角良い雰囲気だったのに」
「まあ良いわ。期待してて頂戴。一先ずは此処で解散」
「やったー!! 皆で旅行デース!!」
ステップを踏みながら風紀委員長室を出て行くバジルとデジー。そして、彼女達に付き従うように続くゼラ。
それにイクサもついていこうとするが──
「ちょっと待ってイクサ君。髪にゴミが付いてるわ」
「えっマジですか」
「みっともないから取ってあげるわ。風紀委員長命令よ、早く来なさい」
「ええ……どんなところに権限使ってるんですか」
近付くイクサ。
レモンは席に座ったまま、彼がやってくるのを待っているようだった。
「ゴミって何処ですか? 僕分からないんですけど」
「動かないで。口も閉じてて」
正面に立った彼に向かい──彼女は「良い子よ」と囁く。
そして彼の髪ではなく、頬に手を差し伸べた。ひんやりとした感触が伝わってきた途端に、イクサの体温は上がった。
ふわり、と柔らかい感触が一瞬、イクサの唇に押し付けられた。
名残惜しそうに彼女は顔を離すと──「ごめんなさい、何もついてなかったわ」と相も変わらず揶揄うような笑みを浮かべていた。
イクサは顔を真っ赤にしていき「レモンさん!? だから冗談でやって良い事と悪い事が……!?」と反駁する。
パーモットはその光景を見て、ずっと目を手で覆って隠していた。
「……あら。これくらいじゃあご褒美にならない?」
「そういうわけじゃないですけど……」
「……そっ。なら良かった」
何が良かった、なのかイクサには分からなかった。思わせぶりな態度を取らされ続け、焦らされ続けた彼は怒ったように声を荒げる。
「ああもう、何処まで本気なんですか!!」
イクサの顔も大概沸騰しているが、レモンの顔もほんのりと紅が乗っている。
恥ずかしいならやらなきゃいいのに、と呆れながらイクサは冷静ではない頭で彼女の手を取り──
「んっ……!?」
お返し、とばかりに口づけしてみせる。
さっきよりも長い長いベーゼ。ソフトタッチではあったが──二人にとっては、永遠に続くような時間だった。
唇が離れた時、レモンの青い瞳は見たことが無いくらいに潤んでいた。そして、彼の顔が直視できないのか、すぐに視線を逸らしてしまう。そんな彼女に、イクサ自身も動揺が隠せないまま言い放つ。
「そ、その、女友達みたいに扱われたら困ります……僕も男なんですよ。分かってるんですよね!」
レモンは耳まで赤くなっていた。返事は無かったが、こくり、と頷きだけが返ってくる。そのまま気まずくなってしまい、二人は互いに目を逸らす。
「わ、分かりましたよねっ! じゃあ僕、行きますからっ……!」
「ええ……悪かったわ……」
誤魔化すように叫び、その場を去るイクサとパーモット。
未だに高鳴る胸を抑えるレモン。
後に残ったのはとても鮮烈な唇の感触と、熱だけだった。
「……ああもう。私ったら、こんな時に何やってるのかしら……っ」
バッカじゃないの、と彼女は頭を掻きむしる。慕情は大きく積もっていくばかり。
彼の前では冷静ではいられなくなってしまう。
顔が熱いのはきっと、オシアスの気候の所為ではなかった。
──第三章「ポケモン廃人、バトルロワイヤルに出る。」(完)
ここまでのぼうけんを レポートにきろくしますか?
▶はい
いいえ
※※※
「
アトムは言い放つ。
地下の巨大倉庫には、恐竜の如き装飾品が象られ、幾つもの眼球が埋め込まれた
「……なんせこっちには、50機……ドグウリューが居ますから……ッ!!」
【ドグウリュー オーデータポケモン タイプ:地面/ドラゴン】
──眠ったように静止したまま、その場を埋め尽くしていた。
これにて、第三章完です!!
一先ず、この作品の大きな山場の一つは超えられたかと思います。アニメで言えば1クール目の終わりといったところですね。
生徒会長・アトムの黒い思惑、イクサの恋の行方、そして残された数々の謎は──来学期に一先ずお預けとなります。
さて、次章の予定はアンケートによって決まります。これを投降した0時までを予定しています。振るってご参加ください!
では、次章で会いましょう。ではでは!